26話 (sideアル)
イオと別れて、商会を後にした俺たちは、休憩を兼ねて途中のカフェに寄ることにした。
うちの領地の中でも人気のケーキを出すお店だ。個室利用もできるタイプのお店なので、二人になりたいカップルだけではなく、商談などにも利用されるらしい。本邸だとどうしても他の使用人の目が気になってしまうので、ギルと俺もここで新しい魔道具について語りあったこともある。
運よく空いている部屋にすぐに入れた俺は、ミハイルにも同席を求めた。
「アルフレッド様はいつもギルバートと同席されているのですよね。それでは、本日はギルバートの代わりということでご相伴にあずからせていただきます」
本来は護衛の人は一緒には座らないものらしいとは知っている。ギルも、他の人が一緒にいるときは基本的には同席はしない。こういう感じは、日本で生活した時間と同じだけこちらで過ごしている今となっても違和感がある。ギルはいつも自然に一緒に座ってくれるから気にしたことはないが、他の人だとそうはいかない。
「今日は俺は話に付き合ってもらう立場だから気にしないでね。遠慮せずになんでも頼んで」
「ありがとうございます」
そこまで話してからふと気づいた。
「しまった!俺、お財布もってない!」
いつもギルに任せてしまっているので、うっかりしていた!どうしよう!
「朝、ギルバートから預かっておりますよ。アルフレッド様は家に後日請求というスタイルを好まれないということもお聞きしています」
慌てる俺を見て、軽く微笑みを浮かべながらミハイルが言った。…恥ずかしい…。
「うう…。ありがとう…」
ギルがいないと本当にダメな自分を見せつけられている気分だ。
やがて、頼んだ飲み物とケーキを持って店主が現れた。
「アルフレッド様、本日はご来店ありがとうございます」
俺に挨拶をしてくれたあとで、ふと視線をミハイルに止めると不思議そうな顔をした。
「今日はギルバートさんとご一緒ではないのですね…?」
…また聞かれた…。
「今日はギルは他の用事を頼んでるんだ」
同じように答えると、店主はにっこりと微笑んだ。
「さようでございますか。では、お帰りの際にお土産に何かお包みいたしましょうか?」
そう聞かれて、さっきワインをもらったことを思い出す。
「ああ、そうだね。じゃあ、ワインの供になるような焼き菓子がなにかある?」
「いくつかございますよ。干しぶどうは使わないものがよろしいですね」
「うん、お願い。あとは任せるよ」
そう伝えると、店主は頷きながら笑みを深め「承知しました」と答えて退出していった。
「ギルバートは干しぶどうが嫌いでしたか」
ミハイルが意外そうに聞いてきたので、首を縦に振る。
「そうなんだ。昔からあの噛み締めたときの感触とかが苦手らしいよ」
「ああ、なるほど」
そして、一口お茶を飲んで口を潤した俺は、意を決して本題に入る。
「あのね。ちょっと聞きたいんだけど…あの…一般的な男同士の関係の距離感というか…」
「距離感…ですか…?」
うまく説明できない俺が言い淀むと、ミハイルが不思議そうに聞き返してきた。
「うん…。あの、男同士で手をつないだりとか、…ハグしたりとか…は、普通…?だよね…?」
一瞬きょとんとした顔をしたミハイルは、パッと顔を明るくして大きく頷いてくれた。
「ああ、そういったお話でしたか。そうですね、男同士だから…といっておかしなことはありませんし、普通のことだと思いますよ」
突然おかしな質問をした俺にもミハイルは明るく答えてくれた。その対応と、答えの内容に俺の気持ちも軽くなり、俺も今日初めてちゃんと笑えた気がする。
「良かった!ありがとう!」
「いいえ。お聞きになりたいのはそれだけですか?」
優しく微笑んだミハイルに促されて、俺は安心して話ができるようになった。
「えっと…!例えば、冒険に行ったときなんかに一緒の部屋に泊まったり、野営するときはくっついて寝たりとか…そういうこともあるよね…?」
「そうですね。ギルドマスターとクラウスさんなんかは何人かのチームで冒険に出ても、わりとそうですよ。私が以前同行した際もそうでしたね」
何かを思い出したように苦笑するミハイルさんを見て、ちょっと同情した。俺たちは、師匠と一緒に泊まりの冒険に出たことはないので知らなかったけど、あの圧のある二人と同室や近距離で寝るのはなかなか暑苦しそうだ…。
「あの二人は、昨日も肩を並べてお酒を飲んでたし、お互いに自然に触れる感じが仲良しだよね」
昨日の様子を思い出して、お茶を飲みつつほっこりした気持ちになった。そうだ。あの二人も年齢も立場も違うけど、とても仲良しでよく一緒にいるし、肩を組んだりお互いに叩き合ったりしながらお酒を酌み交わしている。
お互いに遠慮のない関係なのが見ているだけでよくわかる。
ミハイルも大いに頷いている。
「あ、じゃああの二人なんかは、一緒にお風呂に入って洗いあったりもするのかな…」
先日、ギルから一般人と一緒に温泉に浸かることをダメだと言われたことが蘇り、ふと口からこぼれた。あの二人となら知らない人でもないので、ギルもダメだと言わないかもしれない。
「そ…うかもしれませんね…?えっと、アルフレッド様は一緒にお風呂に入ったりしたいのですか…?ギルバートは嫌だと…?」
「そうなんだよね…。ギルがダメだって言うんだよ。俺は一緒に入った方が気持ちいいと思うんだけどな…」
「ごふっ…!」
ミハイルが飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。慌ててハンカチを差し出しかけると、それを手で断りながらミハイルが上を向いた。
「そのあたりは…まあ…人によるでしょうから…」
「そっかぁ…。今度師匠に聞いてみようかなぁ…」
「しかし、ギルバートがそういったことを嫌がるとは意外な…」
今日の帰りに師匠に会えるかなぁと考えていた俺は、ミハイルの話がちゃんと聞こえなかったので聞き返す。
「ん?ごめんちゃんと聞いてなかった。ギルがどうかした?」
「いえ。なんでもありません」
ミハイルが首を横に振るので、それ以上は聞かないことにした。




