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21話

「実際は『神の前で、真実の愛を示す』が正しいのですよ」


 告げられた言葉に、どういうことかわからないという顔をしている二人に、鳥の首を左右に揺らしながらも続きを教えてくれた。


「先ほど、私はアルフレッド君に願われれば姿を現す、と言いましたが、今までも時々周辺にいたりもしました。アルフレッド君は『いつか』会いたい、と思っていても『今』会いたいとは願っていなかったので、姿を現さなかったのです。

 それに、前世のときと同じく、実はアルフレッド君の周りにはいろんな生き物に姿を変えた神が時折やってきています。前世の時のように、直接かかわることはしませんが、皆君を見守っているのですよ」


「え…」


 驚きに目を瞬かせるアルフレッドを見て、鳥の目が細くなったように見えた。


「結果的に、あなたは『神の前』にいることが、普通の人よりもはるかに多いということですね。そして、『真実の愛』とは、恋愛に分類されるものに限りません。とはいえ、なかなか一切の曇りなく純粋に他者を思うことなど、そうそうできるものではありませんが、あなたはそれができてしまうのです」


「つまり、アルが純粋に他者を思って発した願いは『真実の愛』に相当するので、周囲にいる神様がその都度加護を与えてくださっている…ということですか?」


 事態が呑み込めていないアルフレッドに代わり、ギルバートが要約する。


「そのとおりです。なので、先ほどの話に戻りますが、もし本当にアルフレッド君が望むなら、当初の『転生特典』は取り消すこともできますが、結局いろんな神がしょっちゅう加護を与えてしまうので、あんまり結果は変わらないでしょうね」


 先ほどまで言い淀んでいたのは何だったのか、というほどあっさりと言い切られたその言葉にアルフレッドは「ほえ~」と息を抜くしかできなかった。


「あ!じゃ、じゃあ!」


 息を抜いていたアルフレッドが、急に思いついたように声を上げると、一羽と一人の視線がアルフレッドに注がれる。


「ギルがいつの間にかもらっている、治癒の力ですが!あれ!エリザベトのように願うだけで発揮するようにもできますよね!ね!」


 必死にぴょんぴょん飛び跳ねそうな勢いで質問をするアルフレッドだが、目の前の神様鳥は首をかしげてギルバートを見た。


「できないだろ。だって、俺がその力を受け入れようと思わないからな」


 ふんっと鼻で笑うように、ギルバートがとんでもなく不遜ともいえる返答をした。


「だ、そうですよ」


 笑うように神様鳥からも返答があったので、アルフレッドは「なんでぇ?!!」と泣きそうな声を出した。


「いや、というかお前それそもそも、純粋に他者を思ってないだろ。他者の気持ちを慮ることのない不純なわがままだろ」


 呆れたように言うギルバートに「うっ」と一瞬詰まったアルフレッドだが、尚も必死に食い下がる。


「いや!だって、ほら!ギルが毎回誰かの傷を、な…なめ…ないとダメだなんて!ギルに負担がかかるでしょ?!」


「別に。そもそも俺の力は、たぶんアルにしか効かないぞ?」


「ひぇ!?!」


 涙目になるアルフレッドと、飄々と言い返すギルバートに神様鳥はくっくと喉を鳴らした。


「この治癒の加護については、アルフレッド君の願いではなく、ギルバート君の願いがもとになっているので、ギルバート君の言うとおりだと思いますよ」


「ぅえ!?!」


「ああ、アルの周囲に神様がたくさんいらっしゃるということは、私も神様の前にいることが多いということですね」


「そういうことです」


 アルフレッドをからかうように話をするうちに、ギルバートと神様鳥の心が通じたように話が噛み合っていく。


「つまりは、ギルバート君が、アルフレッド君を思う気持ちは神も認めた、純粋な『真実の愛』ということですね」


「だ、そうだ」


「ぅええ~?」


 息の合った一人と一羽の会話に、アルフレッドは顔を赤くして、言葉にならない声を出すことしかできないでいる。


「では、あまり長居もできないので、これで質問も無いようでしたら、今日のところはこの辺りで…」


 神様鳥が別れを切り出しかけたところで、アルフレッドが必死に両手を振って、待ってほしいと伝えた。


「あの!あの!さっきのお話だと、人以外の生き物はある程度俺の望みの通りに動いてくれるんですよね?!」


「ええ、それが対象の本能に逆らわないものであれば」


「じゃあ!今日追い払った魔獣は、おとなしく巣穴に帰っているし、もう人の近くには来ないし、他の魔獣が縄張りに入らないように見回ってくれますよね!?」


 あまりに必死なその様子に、神様鳥の首も右に左にと忙しく動く。


「そうですね。今日の魔獣はあなたが望む通りの行動をしますし、あの魔獣が自ら進んで人を襲うことはないですよ」


 神様鳥の返答を聞くと、アルフレッドは「ありがとうございます!ありがとうございます!」と涙目でお礼を言った。


「それでは、今度こそ…。また、何かあればぜひ呼んでくださいね」


 と挨拶をした神様鳥は大きく翼をはためかせて、飛び上がると、二人の頭上を軽く回ってから大空へと消えていった。


「あの鳥…。俺たちが初めて会ったときに助けてくれた鳥だよな…」


「そ…!そうだね!そういえば、あの時助けてくれたのもあの神様なのか聞き損ねちゃった!も、もう一回お呼びしちゃおうかな!?」


 ギルバートの問いかけに、しどろもどろになりながらアルフレッドが答える。


「いや、もう今日は迷惑だろ」


「そ、そうだよね?!どうしよう!明日!明日かな!」


 会話をするうちにわずかに開いていた距離を詰めるように、一歩ギルバートが動くと、アルフレッドがビクリと体をこわばらせる。

 その様子を見たギルバートが小さくため息をついたので、その音にもアルフレッドが小さく体を揺らした。


「そんなに怯えるな。悪いことをしている気持ちになる」


 ギルバートの寂しそうな声に、アルフレッドが勢いよく首を横に振る。


「お、怯えてるわけじゃ…!」


「じゃあ、俺が近づくのは嫌か…?」


 その質問には、首を縦にも横にも振れず、目を泳がせた。


「なら、どこまで近づいても良い…?」


「う…!」


 続く質問に、アルフレッドが涙を浮かべると、ギルバートはふっと苦笑を漏らし、一歩遠ざかるように動いた。


「ま…!待って、嫌じゃない!嫌じゃないんだけど…!」

 

 涙目のまま言葉を途切れさせたアルフレッドに、立ち止まったギルバードが顔だけ少し近づけるようにして、アルフレッドが逃げないことを確かめてからつぶやいた。


「緊張する…?」


 そのささやくような声と、とろりとした光が戻ってきた視線に、アルフレッドの顔が耳まで赤くなった。

 こくりとアルフレッドが頷くと、ギルバートは姿勢を戻して、顔も離れる。その時には、もういつも通りの微笑みに戻っていた。

 アルフレッドはほっと小さく息を吐くと、もじもじと首を俯けながら、目線だけ上にあげてぽつりとこぼした。


「いつも通りのギルがいい…」


 思わず出たというようなその言葉に、アルフレッド自身が驚いたように口を押える。

 ギルバートも軽く目を見開くと、すぐに喉を鳴らして笑いながら、すっと手を伸ばしてアルフレッドの頭をいつものようにポンポンとなでた。


 ギルバートのその表情としぐさに、完全に力を抜いたアルフレッドもいつものように自ら甘えるように頭を押し付ける。


「いつも通りってことは、今日も抱きしめて寝て良いってことだな?」


「ひぅ…!」


 ポンポンと頭をなでられながら言われたその言葉に、再び顔を赤くしたアルフレッドの全力の主張により、今日は魔獣の脅威も去ったということで、ギルドへの報告をしたのちに、ベイカー家の本屋敷に戻ることとなった。


 本邸ではさすがに一緒に眠るわけにはいかないと考えたアルフレッドの粘り勝ちだ。


「そういえば」


「どうしたの?」


 なんとかいつも通りを装いながら、寝支度を済ませたアルフレッドがベッドに入り、退出するギルバートにおやすみの挨拶をしたところ、ギルバートが思い出したように立ち止まった。


「アルの望んだ通りに振舞うのが俺のいつも通りだろ?」


 忘れようとしていた問題を思い出させるような突然の質問に、アルフレッドは顔が熱くなるのを自覚しながらもなんとか「そうだね…?」と返した。

 それを聞いたギルバートはにっこりと微笑むと


「遠慮しなくていいってアルが言ったんだからな」


 と爽やかに言い切ってから、音がしそうな勢いで全身を真っ赤に染めたアルフレッドに「おやすみ」と告げて部屋を後にした。


「言ったけど…!言ったけどぉ…!」


 とベッドの上でゴロゴロと転がりながら、アルフレッドはこれからの旅での出来事を想像してはボヒュンと顔を赤くし、また別のことを想像しては顔を青くし、と眠れぬ夜を過ごしたのだった。

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