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2話

 新郎新婦の視線が混じり、今まさにお互いの手を取ろうとしていたその瞬間――――


「ちょっと待ったーーー!!!」


 厳かな空気も、民衆のざわめきもものともしない凛とした声が響く。

 薄暗い室内を真っ直ぐに駆け抜けるその姿は、外の光に眩み見えない。


 しかし、その声の主が誰なのか。そして、誰のもとへ走っているのか。この場にいる者は()()その答えを知っていた。



 そして、その想い人の元にたどり着いた声の主は、新郎に向けて伸ばされたままだった花嫁の手を奪うように握り、その細い体を自分の胸に閉じ込めるように抱きしめた。

 あふれる気持ちを抑えるようにキツく閉じられたその瞳が、鮮やかな緑であることもこの場の全員が知っている。

 花嫁を閉じ込めたその肩はふるふると震え、外の光を受けキラキラと輝くプラチナブロンドを揺らめかせている。


 開いたままの扉からはざわめく声が聞こえ続けており、何人かの勇気ある人々が、恐る恐るといった顔でそっと中を覗き込んでいる。

 教会の中にいた人々はというと、相変わらず静かなまま落ち着きはらって――幾人かは興奮して高ぶる感情を隠して――ことの成り行きを見守っていた。


 しばらく自身を落ち着けることに専念しているように見えた乱入者は、ゆるゆると顔を上げ、花嫁の顔をその緑の瞳で見つめる。

 次に周囲の参列者、司祭、そして最後に新郎…と順に視線を送り、今度は花嫁の肩を抱くようにして、新郎と司祭に向き合う。


「この婚姻、お待ちください…!」


 決して大声を張り上げたというわけでもないのに、凛とした声が広い教会に再び響き渡る。


「クリス…!」


 ドレスと同じ純白の手袋を付けた手で、愛しい男の胸にすがり付くようにしたエリザベトがその名を呼ぶ。


 クリスと呼ばれた男は、宥めるようにエリザベトに微笑みかけたあと、司祭と新郎側に向けて改めて口を開く。


「この婚姻が、11年前から結ばれた両家の意向に基づくものと存じております!

 エリザベト様とアルフレッド様が、この11年を穏やかに友好的に、協力して過ごされてきたこともよくよく存じております!」


 そこで一旦言葉を切ったクリスは、肩を抱いていた手でエリザベトの両手を包み直し、今度は参列者に顔を向け演説するかのように声をわずかに張り上げる。


「しかし、この国には遥か昔から「真実の愛」の伝説がございます!

 この国の神は何よりも「真実の愛」を交わすものを慈しみ、その加護を与えあそばす!

 つまり、この国において最も尊ぶべき縁は「真実の愛」なのです!」


 皆に語りかけるその口調は、誠実さと同時にある種の威厳を内包し、まるでこの場の全員を自分の味方に付けようと呼びかけているようだった。


「この11年、エリザベト様とアルフレッド様が育んで来られた縁は、神の望む「真実の愛」とは異なるものです!」


 相変わらず参列者が静かに見守るなか、再び息を吸ったクリスは勢いよく言い切る。


「エリザベト様と「真実の愛」を育んでいるのは、この私!クリストフ・ウェルスであると宣言します!」


 言い切ったクリス改めクリストフと視線を絡ませたエリザベトは、幸せを全て受け止めるような麗しい微笑みを浮かべたのち、引き締め直した視線を周囲に向ける。 


「わたくし、エリザベト・レスターもここで誓います!

 わたくしが心から「真実の愛」を捧げるのは、クリストフ・ウェルス様です!」


 両手を握り合ったまま二人が宣言を終える。周囲のものは固唾を飲んでいる。

 そんな静まり返った空気のなか、周囲をまるで気にしないのほほんとした声がポツリとこぼれた。


「エリザベト、昔から「真実の愛」の聖女に憧れてたもんね。これで、聖女になれるよ。良かったね!」


 その声にハッとした周囲の視線が、これまで存在が消えていたもう一人の主役…新郎に集まった。


 その瞬間。全員が目を離したクリストフとエリザベトから、まばゆい光が溢れ出していた。

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