過去話7(sideアル)
自分で動くことはまだ出来ない赤子のおれだったが、しばらくすると周りが徐々にはっきりと見えだした。
それと同時に、周りの話に耳を傾けることで色々わかってくる。
やっぱりこのお家は、伯爵家というそれなりのお家で、おれはその家の長男らしい。
兄弟に憧れのあったおれは、チートな相棒が実のお兄ちゃんというのもいいなーなどとチラッと思ったのだが、それは違うらしい。
そして、おれがある程度大きくなると代わる代わるに色んな親戚やら父母の友人やらが挨拶に来た。そこでわかったのだけど、この世界では同性で結婚するのも普通のことで、後継ぎとして養子を迎えるのも普通のことなんだそうだ。これは、とてもあの神様たちらしい世界だよね!
こうして、いろんな人に紹介されたおれだけど、その中に金髪碧眼の男の子はいなかった。
これは、本当に自分から探しに行かなければならないらしい。
神様の加護…生まれた時からはもらえないのか…とちょっとがっかりしたのは内緒だ。
まあ、何はともあれ探さねばならないとわかったからには、あちこち動き回るに限る!と決めたおれは、最初の誤解を深めないためにもとにかく周りの人皆にニコニコと愛想を振りまき、近くに人がくれば挨拶を欠かさないことにした。まあ、まだちゃんとした言葉にはならないけどね!
そうして、歩けるようになるとすぐに家の中のあちこちや庭も歩き回り、使用人の子や出入りする人に相棒らしき人がいないか見て回るようにしたが、やはりそれらしき人は見つからない。
少しずつこの世界のことも観察していると、一般的に明かりを灯したりお湯を沸かしたり、火をつけたりするのも魔道具を使っているらしい。
こういった道具を魔道具と呼び、この魔道具の研究や魔力操作の研究をしている人を魔道士と呼んでいるんだとか。わくわくする響きですよね…魔導士…。
直接魔力を放出して魔法を実現することはとても難しいので、魔力を通す素材で作られた図形や文字を通じて望む結果を出すのが魔道具。
魔力が多い人は直接魔道具に魔力を注いで使えるけど、魔力の多くない人のために魔力を貯める魔石もある。
人間はみんな意識しなくても表面に魔力を帯びているらしくて、子供のおれでもただスイッチに触れるだけで魔道具を使うことができたのでちょっと楽しくなってポチポチ触っていたら魔石の魔力が切れちゃったときはあわてた。ごめんなさい。
なんだか、魔力って電気みたい…と思ったけど、この世界では電気という概念は広がっていないのでちょっと不思議。
魔力の多さは人それぞれだけど、基本的には貴族の方が多く持っているらしく、魔力の多い人はいろんな魔道具を使うことができる。けど、それぞれやっぱり使う道具の得意不得意はあるらしくて、攻撃系の強い人が騎士隊に入ったり、記録や契約が得意な人は事務的な仕事についたり…と分かれていくんだって。
おれはどんな魔法が得意なんだろう?
きっと、まだ見ぬ相棒はどんな魔道具も使いこなせたり、いろんな魔道具を開発しちゃったりできるかもしれない!
早く会いたいな。
そうこうしているうちに、5歳になってしまったおれは、外出する父母やセバスさんにねだってくっついて行っては相棒探しを続けていた。
出かけるたびに、迷子の子や怪我をした動物を見つけるのも日課のようになっており、すでに父母やセバスさんも驚かなくなってしまった。
おかげで、王都の街でも領地の街でも顔見知りが増えた。
あ、おれが生まれたのは王都の家で、領地のお家は別にありました。
王都の家も大きかったけど、領地のお家はもっと大きかったです。
今日は、両親とセバスさんのフルメンバーにくっついて王都の街に出かけていたおれは、キョロキョロと店の中や路地まで見て回る。
あ、ちゃんと教育を受けているので、父上母上と呼ぶことにも慣れましたよ。
そして、また一本路地を覗いたとき、奥の方から争うような人の声が聞こえた気がしたおれは、迷わず道の奥へと向かった。
おれが勝手に飛び出すのもいつものことなので、多分後ろにはセバスさんか護衛の人が付いてきているだろう。子供のおれには何も出来ないが、強い大人の人を連れて行けば大丈夫!
こっちの世界に来てからおれは、周りの人に頼ることを覚えたのだ!
振り回しているという意見は認める!
子供の足でも少し走った程度のところで曲がり角があった。おそらくこのすぐ先で声がしている。
何も考えないままに、曲がり角を曲がったおれはその光景に驚いて思わず足を止めてしまった。
そこには、おれより少し年上の男の子と、その子の腕を掴んで引きずって行こうとしている大人の男の姿があった。
すぐにも助けなくてはいけないのに固まってしまったのは、その男の子の容姿がおれが想像していた相棒の姿そのものだったからだ。
輝くような金髪に、腕を掴む男をしっかりと睨みつける鮮やかな青い瞳。
男はこちらに背を向けているので、おれには気づいていないが、男の子はチラッとこちらを見た。
目が合ったことにドキッとしてしまって、まだ何も言えないおれに男の子は首を小さく横に振ることで応えた。
あ、自分がこの状況なのに、おれに逃げろと言ってくれている。
直感でそう理解したおれは、無意識に前に走り出していた。
そのままの勢いで叫ぶ。
「うえにきをつけろ!とりにおそわれるぞ!」
元18歳なので、言語知識はあっても現5歳!たどたどしいのは許してくれ!
おれの叫びに、目の前の二人が同時に上を見上げた。
今だ!とおれはそのまま走って、男の横をすり抜け男の子の腕を掴む。
「こっち!」
「えっ!?」
驚きながらも無事に男の子はおれに付いて来ようとする。
「あ!待て!」
上に気を取られていた男が、おれたちの動きに気づいて、再び手を伸ばそうとしてきたその時―――
「ギャオ!ギャオ」
「アルフレッド様!」
上空から滑空して来て男を襲う鳥と、飛び込んできたセバスさんの叫びが同時に響いた。
「わっ!なんだ!やめろ!」
「ギャオ!ギャオ!」
男は頭を突付かれたり、羽根で叩かれたりしながら必死で鳥を追い払おうとしているが、カラスほどの大きさの鳥はあざ笑うように声をあげながら軽く男の腕をかわしている。
「大丈夫ですか?!」
一旦男は鳥に任せることにしたらしいセバスさんが、おれと男の子を男から引き離して庇うように位置を変える。
「申し訳ありません。路地に物が多く、隙間を通り抜けるのに時間がかかりました」
あ、そっか。おれは5歳だから体が小さくて通り抜けられた道も、しっかり鍛えてあるセバスさんには狭かったのか。申し訳ないことをしちゃった。
けど今はそれどころじゃない!
ついにおれは見つけたのだ!
いまだ状況に付いてこれず、オロオロと男と鳥とおれたちとを見比べている男の子。
このタイミングで鳥が助けに入ってくるとは、神様の加護に守られてるとしか思えない。
「ぼくはアルフレッド!きみのなまえは?!あ、ケガはない?」
心配してくれているセバスさんを無視するようで申し訳ないが、もうおれは目の前の男の子のことしか見えていなかった。
おれの相棒。君だ!




