過去話6(sideアル)
「あの…。この世界にも神様たちは視察に来られるんですよね…?その時に、もしかの偶然でお二人に会える…なんてこともあったりしますか…?」
これ以上甘えてしまわないようにと思いつつも、最後に一つだけ思い切り甘えた質問をぶつけてしまった。
恐る恐る二人を見返すと、驚いたように二人で顔を見合わせたあと、二人とも満面の笑みで頷いてくれた。
「貴方がそれを望んでくれるなら」
良かった!
ほんのわずかな出会いでも、とても優しくしてくれた二人にこれ以上ない情が湧いてしまった俺は、本当にまた会えるということが嬉しかった。
両親に会えないことは納得したのに、なんだか薄情だな…と反省もするが、会えるなら会いたいのが人情だ。あ、大丈夫です。お二人の間を邪魔する情ではありません。
二人にもまた会える。と安心したら今度は、次の世界がどんどん楽しみになってきてしまった。
多分、その気持ちが顔に表れていたのだろう。
「名残惜しくはありますが、予定も決まりましたのでさっそく転生出来ますよ?」
クスクスと笑いながら教えてくれる。
名残惜しくはあるものの、また会える。
ここは、勢いで行ってしまおう。
「お願いします!」
「ええ。それでは、新しい人生を思いっきり楽しんでくださいね」
「もっと自分のことを優先しなさい。我儘もどんどん出すといい」
二人が優しく声をかけながら手を振ってくれる。
少しずつ、俺の体が光り始めた。これが転生か!
「ありがとうございました!お二人のお陰で、充実した人生が送れそうです!またぜひ会いに来てくださいね!」
俺も思いっきり手をふり返す。
「ええ。いつでも!」
頷いてくれる二人が、少しずつ見えにくくなってきた。
「あ!相棒になってくれる人は、出来れば2つくらい上のお兄さんが良いです!」
お兄さんなら、きっと多少甘えても許してくれるだろう。なんて思いながら最後に思い切って我儘をのせる。
「年上ですかー!いいですね!頑張って見つけてくださいねー!」
もうお互いに姿が見えなくなりかけているので、思いっきり大きな声で返してくれた。
「えっ!?自分で見つけないとダメなの!?」
間抜けな質問に対する答えは聞こえないまま、まばゆい光に包まれて意識が途切れた俺が次に気が付いた時には、温かく柔らかい布に包まれて横になっていたのだった。
「あーうー」
うん。テンプレ。
布に包まれて手も足も出ないが、視界がぼやけているので多分生まれたばかり。
良かった。生まれ落ちる瞬間は自我が無かったようだ。実は、産道を通るのはちょっと恐怖だったりしたのだ。
「あらあらアルフレッド。目が覚めたのね〜」
柔らかい女性の声がして、布の中から俺を抱き上げてくれた。
多分、この人がお母さんだろう。
「奥様。おしめを確認いたしますね」
別の女性の声がした。おおっ。奥様ということは、人を雇う立場のお家に生まれたのか。
あ、覚悟はしていたものの、おしめ事情や食事事情はちょっと元18歳男子には複雑なので、ちょっと割愛。
とりあえず、わかるといいなーと心配していた言語も、少なくとも聞き取りは問題ないようで安心した。
まあ、なんやかんやあっておそらく夕方。
「奥様。旦那様がお戻りです」
「あら、セバス。ありがとう。アルフレッドを連れてお迎えに行くわね」
今度は男性の声がした。セバスと呼ばれている。もしや…セバスと言えば…執事か…?
「では、奥様もまだ本調子ではございませんし、アルフレッド様は僭越ながらわたくしがお連れいたしましょう」
そう言いながら、人影が近づいてきて俺をそっと抱き上げた。
「アルフレッド様。執事のセバスでございますよ。お父上のお迎えに参りましょうね」
執事だったー!!
「あきゃきゃー!!!」
あ、声に出た。
「あらあら。アルフレッドご機嫌ねぇ。乳母や侍女に抱かれるよりも、セバスの方が良いのかしら?」
うふふと母が笑いながら言う。なんか語弊のありそうな言い回しだが、それよりも気になるのは、乳母に侍女って言った?
執事もいるし、メイドだけでなく侍女がいるということは、それなりのお家かもしれないな…。おれ、立派な子になれるかな…。
ドキドキしながらおとなしく運ばれるおれ。玄関まで揺られることしばらく。
周りの様子は見えないが、やっぱりそれなりの距離があったということは、家もなかなかの広さがあるのだろう。
「帰ったぞ!良い子にしてたかい?アルフレッド」
新しく男性の声がした。これが父親か。そういえば、さっきセバスさんがお父上って言ってたな…。
成長したら、父上って呼ぶのか…。日本人の感覚があるとちょっと照れるな…。
「ほーら。パパのところにおいで〜」
パパなの?!
「ふーぅぅー」
あ、ため息になっちゃった。
と、同時に伸びてきていた影がピタっと止まる。どうやら、父が抱っこしようとして固まったらしい。
ごめんパパ。
「あらあら。やっぱりアルフレッドはセバスが一番良いのねぇ〜」
母がのんびりと朗らかに笑いながら言う。やっぱりなんか語弊がありそうだ。
「なんだと?!いくらセバスでも、アルフレッドは渡さんぞ!」
いや、パパ。誤解です。




