過去話5(sideアル)
イチャイチャする二人から目を逸らしつつ、しばらく考えて結論を出した俺が軽く咳払いをすると、二人ともこちらを見てくれた。
あ、繋いだ手は離さないんですね。わかりました。
「せっかくなので、魔法とか冒険とかにやっぱり憧れがあります」
なるべく視線を上に上げながら、俺は冷静に言えた。
元の両親に未練がないと言えば嘘になる。
でも、会えそうで会えないのも辛いし、会えたところで逆に両親を苦しませるかもしれない。それに、記憶をなくして日本で生き直すほど国へのこだわりはない。
ならば、せっかくなので異世界転生を体験してみたいと思ったのだ。チートまで望まないが、神様の加護がもらえるなら多少は異世界でも無難に生きれるだろうと楽観的な方に思い切ることにしたのだ。
「よろしいのですか?まだもう少し悩んでも良いのですよ?」
心配そうに聞いてくるお兄さん神様に、ニコッと笑い返しながら言い切る。
「悩めば悩むほどわからなくなるので!この際勢いで決めます!」
その答えに目を細めながら、頷いたお兄さん神様が右手を上に向けるとホワリと光が灯り、その中に中世ヨーロッパのような風景が映りだした。
ちなみに左手がどうなっているかは見てませんよー。
「それでは、こちらの国へお送りしましょうか。ここは、神の加護が認識されており、特別な力を与えられた者が時々現れる国なので、貴方にも加護を与えても問題なく過ごしてもらえます」
そこまで言うと、光の中の風景がパッと切り替わった。
「このように、魔法を日常に取り入れて生活している国でもあり、魔獣を倒す冒険者がいる世界でもあります」
女のひとがランプに手を触れると、パッと光が灯った。次の場面では、黒い犬くらいの大きさの生き物と剣を構えた人が向き合っている。
人の姿は、ヨーロッパの人のような顔立ちだが、髪の色はもっと色々あってそれこそよくあるアニメの世界のようだった。
「ここの国へ転生されるということであれば、貴方も魔法は使えるようになります。加護の希望があれば、できる限りお聞きしますよ」
なんと。加護の内容は俺が選んで良いのか!
「俺の希望…何でも叶えてもらうこと…出来るんですか…?」
ビックリして、あれこれ考えながら思わずつぶやいてしまった。
「そうですね。ある程度の制限はありますが、貴方なら大丈夫でしょう」
ちょっとびっくりした顔をしたあとに少し考えて、ニッコリ微笑んでくれたお兄さん神様を見てちょっと恥ずかしくなった。
いけないいけない。調子に乗って、欲張らないようにしなきゃ。
やっぱり魔法の力を上げてもらうか…冒険のための剣術の力をもらうか…
うんうん唸った俺は、ニコニコとこちらを見ている二人をチラッと見返すと、ふと思い立った。
「あの…。それなら…俺だけの頼りになる相棒が欲しい…なんていうのも叶えられますか…?」
おずおずと声を上げた俺に、今度は驚くこともなくニコニコしたまま頷いてくれる。
「大丈夫ですよ。貴方がそれを望むなら」
その答えを聞いて嬉しくなった俺は、つい勢いに乗って色々話してしまう。
「一緒に遊んだり勉強したり、悩んだり喜んだりを分け合えるような、そんな関係の相手が実は欲しかったんだなって気付いたんです。なので、できれば一緒に成長できる幼馴染みたいな関係が作れる…できれば、同じように色々感じれる人が良いなって…」
さっき見た場面では、鮮やかな髪色のヨーロッパの人のような姿をした人が多かった。モフモフ動物の相棒にも憧れはあるが、せっかくなのでキラッキラの王子様みたいな人だと、なんだか楽しくなりそうだ。
俺自身にチートをもらっても、うまく使いこなせる自信はない。
それならむしろ、チートな相棒がいれば、相手が危険なこともないし、一緒に冒険にも行ってくれたりするかもしれない。
「あ、あの…。俺に付き合わされて相手の人生が悪くなるとかは嫌なので、俺の相棒になって色んな力を付けられることで、元の運命より良かったと感じてもらえる人を選ぶことは可能ですか…?」
相変わらずニコニコしたままお兄さん神様が肯定してくれる。
「大丈夫ですよ。一方的に運命を押し付けることは出来ません。相手がその未来を信じる気持ちがあれば、成立します」
良かった!無理やり悪い運命に巻き込まないで済むなら、一緒に頑張ろう!
例え相手がチートでも、俺の運命に巻き込む以上は出来る限り守らなければ!
「あの。俺も最低限は魔法や剣を使えるようになりますか…?」
ちょっと欲張り過ぎかな…?と思いながらも聞いてみた。最低限でも相手のお荷物になりたくはない。
「ええもちろん。最低限と言わず、新しい魔法を作ったり、様々な武術を覚えることも出来ますよ。ただし、この辺りはそれなりに行動もしなくては叶いませんが…。お友達と一緒に色々頑張るのもいいですよね」
なるほど。俺自身にチートはなくても、すごい相棒に一緒に教えて貰えればそれなりには身につけられるということか。
相棒の恩恵という形で、神様の加護を乗せてもらえるなんて…ありがたすぎる話だと心から感謝を感じる。
しかし、まだニコニコ微笑んでいる二人を見ると、うっかりアレもこれもと甘えたくなってしまいそうな自分から情けなくなる。
これ以上甘えてしまって、嫌な気分にさせても申し訳ないので、最後に一つだけ聞いてしまおう。




