過去話4(sideアル)
しばらく二人の神様に甘えさせてもらって、やっと落ち着いた俺が恥ずかしさを隠すように姿勢を正すと、同じくやっと涙の止まったお兄さん神様に顔を覗き込まれた。
「大丈夫ですか…?」
心底心配しながら、という気持ちが伝わる表情で見つめてくるお兄さん神様。
その後ろから、眉間にシワを寄せた表情が怖いけど、とても優しい目で同じく見つめてくるおじさん神様。
二人を真っすぐ見つめ返すのがちょっと恥ずかしいながらも、その気持ちが嬉しくて自然に微笑みながら「大丈夫です」と返事をした。
そんな俺を見て、ほっとしたように二人とも微笑み返してくれる。
「では、ここからがやっと本題なのですが」
あ、まだ本題があったのか。色々すっきりしてうっかり成仏しそうな気持ちになっていた俺は、ちょっと縮こまる。
「なぜ、貴方をこちらにお呼びしたのか。をお伝えしなくてはいけませんからね」
俺の気持ちを見透かしたようにクスクスと笑うお兄さん神様。お兄さん神様も笑ってくれるようになって良かったな、と思いながらおじさん神様を見ると、同じように安心した表情でお兄さん神様を見つめていた。
「さて、改めて本題ですが。先程もお話したように、貴方は神が関わったせいで人生を変えられてしまいました」
おそらく、敢えてストレートな表現を使いながら、俺の様子をうかがうように話すお兄さん神様に、俺は大丈夫というように頷き返した。
「貴方が心配しているような、償わねばならない罪などありません。むしろ、その命は他の者の運命を救うために使われてしまったのです」
言い聞かせるようにゆっくりと、表情を確認しながら語られたその言葉をすんなりと受け入れた俺は、やはり力強く頷き返した。
うん。俺に罪はない。変な遠慮も謙遜もなく、お兄さん神様のその言葉をしっかりと受け止める。
「神によって歪めてしまった人生と、更に他者のために使われたその命への代償として、貴方には直ぐに次の生へと転生する権利と、その際の選択権が与えられます」
これは、あれか?
「異世界転生…?」
思わず口から出た言葉に二人は微笑み返してくれた。
「そうですね。それも選択肢の一つです」
おぉ…。これぞテンプレ…!と再びテンションの上がりかけた単純な俺は、ふと疑問が湧いてきたので、尋ねてみた。
「それは、俺が俺として生き返ることは出来ないって話なんですよね?」
その質問を聞いた二人はとても痛ましそうな顔をしたので、俺は慌てて続ける。
「いや、ちょっと聞いてみただけで、無理なことはわかってますから!」
まだ痛ましそうに俺を見ながら、今度はおじさん神様が口を開いた。
「直ぐに転生できるからな。今の地球に生まれ直すこと自体はできるんだが…」
少し気まずそうに話を途切れさせた後を繋ぐように、お兄さん神様が無理やりというように明るい声を出した。
「他にも色んな世界へ行くことが出来ますよ!例えば、ファンタジーのような魔法がある国、妖精や精霊がいる国、魔王や魔物がいて、勇者がいる国など!そういった国を選ぶ際には、もちろん貴方にも魔法を使ったり、魔物と戦う力を与えたりすることが出来るんです!」
勢いよくそこまで言い切ったお兄さん神様は、息をつくとちょっとしょげたように話を続ける。
「しかし、貴方に力を与えるに当たって、今と同じ地球というわけには行かないのです。この世界では、神の加護が認識されていないので、加護を直接与えるわけにいきません。そのため、代償としての力を受け取ってもらうためには、神の加護が認識されている世界に貴方を送る必要があるのです。」
どこまでもこちらの都合ですみません…と絞り出すようにつぶやくお兄さん神様の背をなでながら、おじさん神様が後をつないだ。
「どちらにしても、かわいそうだが今の地球に戻って、今の家族に会いに行く…というのは難しいだろう。どこの国に産まれるかは多少調整できるが、そこから新しい家族と前の家族との板挟みになるのも、君達を苦しめてしまいかねないと思うのだ」
「もちろん。板挟みが辛いけれど、同じ日本に生まれたいということならば、記憶を消しての転生も可能ですが…」
なるほど。二人の言うこともよくわかる。
おそらく、もし記憶があるままで日本に生まれると、俺はきっと元の両親を探す。
転勤の多い生活が続いていれば、生まれ直した俺が自分で探しに動けるようになる年齢のころには、もうどこにいるかわからなくなってしまうだろう。
でも、元の両親に未練がないと言えば嘘になる。
二人の神様は考え込む俺を黙って見守ってくれている。
あ、寄り添って手を繋いでいるのとかは見てないですよ。いや、隙あらばキスとかはやめてください。




