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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
ファイナル・チャプター 高等部
98/105

M83 あと1人



 急にポツポツと話始めたアリスの昔語りにあたしとマリは耳を傾ける。




 『何を急に語り出しとんじゃ。』と思わなくもないけど、そんな思いも簡単に吹き飛ぶくらいには興味がある。


 なにしろ3人目の転生者の思い出話だ。特に彼女は平民として生きてきている。コッチに来てからどんな生活をしてきたのか。




「6歳で転生してきてさぁ、暫くは訳が解らなかったなぁ。何しろ全然知らない人ばかりだしパニックだったし。」




 だよねぇ。




「でもさ国名聞いて驚いたわ。『嘘でしょ!? そんな事ってある!?』って思ったよ。でも図書館に行って調べてみて転生した事を確信したよ。まあ、だからと言って直ぐに素直に受け容れられた訳じゃ無かったけどね。」




 そらそうだ。




「でもね・・・。」


 アリスの顔にドーンと音が出そうな程の影が差す。


「転生とかどうでも良かったのよ。その後に気付いた事実に比べれば。」




「可哀想・・・。」


 マリの双眸に涙が浮かんでる。


 もうアリスが何を言うのか察しているんだろう。っつーかあたしも察してるんだけど。いや、ってゆーかマリも当事者の1人でしょうが。同情している場合か。




 アリスはあたし達の表情を見て力無く笑った。




「ははは・・・。もう私が何を言うか2人には解ってるみたいね・・・。」


 ハァ・・・と溜息を吐くとアリスは言った。


「そうよ。私が黄昏の魔女ver.のヒロインだと言う事実よ。」


「・・・それは・・・えっと・・・ご、ご愁傷様・・・ね。」


 マリの視線を受けてあたしはアリスにそう言った。




「絶望したわよ。何でリ・ドゥイング=フェイトのヒロインじゃ無くて黄昏の魔女のヒロインの方になっちゃうのよって。何が悲しくて全く惹かれない攻略対象達のヒロインにならなくちゃなんないのよって! 私もマリーベル様になりたかった!!」


 話していくうちに怒りが募ったのか最後の方は声の圧が凄まじかった。




「ホントはさ・・・。」


 再び元気を失ったアリスがポツポツと喋り出す。




 おい、大丈夫かコイツ。感情が安定してないぞ。




「・・・編入試験なんて受けたくなかったんよ。」


「おう・・・。」


「・・・でもさ、考えて見ればゲームでは1と2に別れていてもさ、現実では1も2も関係無くて同じ世界ってわけじゃない?って事はさ・・・。」


 アリスの双眸に強烈な光が輝き始める。


「私の太陽スクライド=ベルク=ローデリッサ様も居るかも知れないって思ったのよ。で、ローデリッサ家って言うのが在るのか調べてみたら・・・在ったのよ!!」


「お・・・おう。」


「そ・・・それは良かったですね。」


 アリスは大発見みたいに言うけどあたし達からすると『そりゃ在るでしょうよ。』って感じだ。


「で、スクライド様が居るかと思って調べたら・・・居たのよ!!」


「う・・・うん。」


「そ・・・それは良かったね。」


 アリスは大発見みたいに言うけどあたし達からすると『そりゃ居るでしょうよ。』って感じだ。




「もう俄然生きる気力が湧いてきてさ、勉強を超頑張った。教会の週末学校に行って、お粗末な図書館にも通って、とにかく社会学を頑張ったわ。」


「ああ、やっぱ社会が鬼門だったのね。あたしもマリに教えて貰ったわ。」


「いいなぁ・・・私もマリちゃんに教わりたい・・・。」


 アリスが羨ましそうな視線でマリの頭を撫でた。


 マリは顔を赤らめながら戸惑った様に首を竦めている。




 だから撫でんなや。


 あたしはさり気なくアリスの手を払いながら言った。




「それで編入試験を受けて今日合格したって訳ね?」


「そう。」


 アリスは払われた手を振りながらニヤニヤ笑って頷く。




 あたしは気になった事を訊く。


「あのさ、平民の人達の生活ってどんな感じなの?」


「ん?」


「マリは13歳まで屋敷の外に出して貰えなかったし、あたしは13歳に前世の記憶を手に入れたけどその反動で未だそれ以前の記憶を完全には取り戻せていなくて、実は平民の人達の生活って把握してないんだよね。」


「ああ、そうなのね。」


 アリスは頷いた後に話し始めた。


「私はごくごく一般的な家に生まれたわ。周囲の人達と比べても『裕福なわけでも無く貧しくも無く』って感じ。それでも前世の現代的な生活を知っている私の目から見ればかなり余裕の無い生活ね。」


「そうなんだ。」


「うん。私のお父さんの1ヶ月の稼ぎが不安無く生活できるギリギリの収入だったし、貯蓄出来る余裕は無かったわ。だから一家の大黒柱が怪我や病気で働けなくなると忽ち生活が困窮してしまうの。生活保障みたいな考えも国には無いし・・・。だから、そういう家が出ると周囲の人達がその一家を助けたりするのよ。『助け合い』って言う奴ね。」


「・・・そうしないと生きていけないって言うのは問題よね。」


 あたしが呟くとアリスは苦笑する。


「そうね。でも国が国民の最低限度の生活を保障するって考え方は近代から現代のモノだから、今のこの国に無くても仕方が無いとは思うわ。それでも平民学舎は無料に近い形で解放されているのは凄いと思うし。」




 へぇ・・・大人な考えじゃん。




「だから平民って子供のお小遣いとかもあんまり上げられないから、10歳の頃から働き出す子も居るのよ。10歳から始まる学舎も午前中だけだし午後は自由だからね。私もパン屋で働いてたよ。」


「そう・・・。大変だった?」


「そうね。前世でバイトしてたから労働に対しての抵抗はそんなに無かったけど、10歳の体力で働くのは楽じゃ無かったわ。まあ、働くって言っても10歳の女の子だからお手伝いの売り子みたいな事しかしなかったし収入も月で銀貨5枚・・・前世で言えば5万円程度だったけどさ。それでも子供が自分でお小遣いを稼ぐって言うのは一般家庭には助かるらしくてね、お父さんとお母さんは私が働く事に特に反対はしなかったわ。」




 おかしいな。




「じゃあさ、グラスフィールド学園の学費とかはどうするの?」


 さっきの話を聞いていると、とても学費を払えるとは思えない。


「学費?」


 アリスは首を傾げる。


「無料だよ。」


「おお、無料なんだ。やるなぁ、太っ腹じゃん。」


 珍しく学園を見直しているとアリスが付け加えてきた。


「将来は王城に勤める事が条件だけどね。」


「え?」


「王城に勤めなかった場合や勤められなかった場合は学費を返すんだって。」


「・・・。」




 前言撤回。


 やっぱこの学園の経営陣はクソだわ。平民の優秀な若者を王城で独占しようって魂胆かよ。しかもバカ高い学費で人の人生を縛るなんて最低なやり方だわ。




「ま、私はスクライド様に会えるんなら何でも良いんだけどね。それに平民からしたら王城勤めはスーパーエリートだから悪くは無いし、そもそも能力的には王城勤めも充分に可能な子達しか入って来られないから『王城に勤めたくない』は有っても『能力的に勤められない』は有り得ないしね。」


「・・・ああ、そっか。」




 そっか。確かにそうかも知れないな。




「ねぇ。」


「ん?」


 突然アリスが爆弾をブッ込んできた。




「あんた達は神様に何て言われたの?」


「「・・・・・・・・・は?」」


 あたしとマリの声が重なった。




 アリスの表情が訝しげなモノに変わる。


「は?・・・って、会ったんでしょ? 神様に。」




 何言ってんだ? コイツ。


 実はヤバい奴なのか?




 何と答えて良いのか解らなくてあたしはマリを見る。


 マリは固まっていた。


 基本、この子は話し合いとかになるとあたしに任せてマリ自身は黙ってる事が多い。かと言って何も考えてない訳じゃ無くて、寧ろあたしよりも色々考えてる事もあるくらいに良く聞いて考えてる。




 そんな彼女が・・・彼女の表情が完全に固まっていた。多分、思考も。




 あたしとマリの視線を受けてアリスは焦ったように早口で捲し立て始める。


「え・・・い、いや、ちょっと待ってよ。あんた達も会ったんでしょ? 会ってないの? ・・・ちょっとやめてよ、そんな可哀想な子を見る様な目は! アレ!? 私だけなの!?」




 とんでも無くぶっ飛んだ事を口走ってはいるけど、何か世迷い言を宣っている様には見えない。




「会って・・・無いけど・・・?」


 辛うじてそう返すとアリスが参ったという風に表情を顰める。


「何て事よ・・・。じゃあ私は何の前振りも無く途轍もなくバカな事を訊いてしまった様なもんじゃないの・・・。」




 もんじゃないの・・・って言うか、現時点では確実にそうなんだけど。




「あのさ・・・もうちょっと詳しく・・・。」


 何とかそう言うとアリスはハッとなった様に頷いた。


「そ・・・そうね。今のままじゃ私、途轍もなくイタい子よね。」




 そうね。




「えっと・・・。」


 アリスは少し思案しながら話し始める。


「転生した時にさ、何か変な場所に連れて行かれたんよ。真っ白なお城みたいな所。そんで其処に居たんよ、神様が。」


「ほう・・・。」


「一番偉そうな神様と他に何人か神様が居た。」


「どんな神様だったんですか?」


 マリが少し興味を惹かれたように身を乗り出してアリスに尋ねる。


「爺さん。」


「爺さん・・・。」




 いや、言い方とかあるでしょうが。




「他の神様はお姉さんとかお兄さんとか若い感じ。みんな美人だったよ、爺さん以外。」


「へー・・・。」


 マリが反応に困ってるのであたしは言った。


「あのさ、一応神様なんでしょ? 爺さん呼ばわりはどうなのよ。」


 するとアリスはやさぐれた様に


「へっ」


 と鼻で笑うと言った。


「あんなの『爺さん』で充分よ。」




 どうしたよ、アリスさん。




「とにかくその爺さんから聞いたのよ。『4人転生させた』って。で、その1人がマリーベル様だって言うのも聞いた。ただ、ゲームみたいな悪役令嬢になってないから頑張ってマリーベル様を悪役令嬢にしてヒーローをモノにしろって言われた。」


「は?」


 思わずカチンと来て低い声が出た。




 神様がそんな事言うんかい。なんじゃそりゃ。




「ね? 腹立つでしょ? 何で真面目に生きてる人をムリヤリ悪役に仕立てなきゃなんないのよ。冗談じゃ無いわ。それじゃあ私が悪役じゃないのさ。」


「そうね。実際、あたし達からしたらアリスはラスボスみたいな存在だったし。」


「ラスボス・・・。酷くない? 普通の女の子なんだけど。」


「うん、話してみるとそう思うわ。」


 あたしが頷くとアリスは少し嬉しそうに笑う。


「でしょ? ・・・まあソレを聞かされた後に私は6歳のアリス=ミラーとしてこの世界に落ちて来たの。で、さっきマリーベル様を見つけて話し掛けてみたのよ。まさかモブのヤマダ=ハナコまで転生者だとは思わなかったけどね。」


「あたしもタマゲたわよ。」


「そうよね・・・。」


 彼女はまたあたしを可哀想な子を見る様に見た。


 なんなのよ、その視線は。




「うーん・・・。」


 アリスは目を瞑って上を向き、下を向き考えている。




 どうした。何を考えてるんだ?




 漸く眼を開けたアリスはあたしを見た。


「ねえ、神様に会ってみる?」




 は? ・・・会えるの?




「会えるの?」


「会えるよ。私『聖女』らしいから。」




 おい、もう新情報はお腹一杯やで。




「聖女なの?」


 マリが尋ねる。




 うん、物語好きのマリは興味を持ちそうだわ。




「そうだよ、マリちゃん。」


「どんな事が出来るの?」




 マリの問い掛けにアリスは「うーん・・・」と唸ってから訊き返してきた。


「逆に訊くけどマリちゃんは『聖女』ってどんなイメージがあるのかな?」


「イメージ・・・。」


 マリは問い返されて少し考える。


「そうだなぁ。やっぱり傷や病気を治す魔法が使えたり、魔王も退ける凄い力を持ってたり・・・かな?」


 マリが答えるとアリスは笑った。


「あはは。ないない。そんな力無いよ。」




 え、無いの?


 あたしもそう思ってたんだけど。




「・・・聖女の『聖』は神様の力の事らしくてね。聖女はその神様の力を使って地上の様子を神様に教える連絡係なんだってさ。で、問題が在る地域に神様は奇跡を起こして其処を救済するの。私に出来るのはソレだけ。」


「・・・。」


「・・・へぇ・・・そうなんですね。」


 拍子抜けした様な表情でマリが頷く。




 聖女って・・・何か想像ほど凄くないんだな。




「あ、今、大した事無いとか思ってるでしょ。」


 あたし達の表情を見て感づいたのかアリスがツッこんでくる。


「え、そんな事・・・。」


「別に思ってない・・・よ。」


 アリスが溜息を吐く。


「まあ、ショボく聞こえるのは仕方ないけどさ。実際は凄いよ。私が報告する内容で神様の行動が決まっちゃうんだから。」


「!?・・・おお・・・。」




 そう聞くとトンデモネェ。やりように依っては神様使って自分の思い通りに出来ちゃうじゃん。




「まあ、そういう訳で私は何時でも神様ん家に跳んでいけるわけ。」




 神様ん家かぁ・・・。何か「友達ん家にちょっくら行ってくるわ」くらい気楽に言ってるけど、アリスの顔を見てると何だか簡単そうに思えてくる。




「行って・・・みたい気もするなぁ。」


 あたしがそう言うとマリが


「行ってみたいです!」


 と力強く言った。




 マリのキラキラ顔にアリスがニコニコ顔で頭を撫でる。


「いいよ、行こうか。」




 ・・・まあ良いか。




 アリスは続けて言った。


「ホントは爺さんから『4人』って聞いているから、残りの1人を見つけてから行きたかったんだけどね。」


「あ、そっか。」




 ソレを忘れてた。もう1人居るんだったよな。




 誰なんだろ? 少なくとも初等部時代にはソレらしい人は居なかったな。


 うーん・・・敢えて言うならセシル様かなぁ。色々とお見通し的な意味で前世の記憶を活かしてる、とか。


 うん、解らんな。




「ま、考えても解んないし4人目が出て来たらまた連れて行ってあげれば良いんじゃない?」


 あたしが提案するとアリスも頷いた。


「そうね。別に何時でも行けるんだし。」


 アリスはニヤリと笑った。


「じゃあ・・・行っちゃう?」


「行く!」


「行こう。爺さんに一言文句言ってやりたいし。」


「よし!」


 アリスが立ち上がったのであたし達も立ち上がる。


 随分長いこと話し込んでいたせいか、いつの間にか周囲に人は誰も居なくなっていた。


 


 朝起きたときには予想だにしてなかった超展開だけど少し楽しみだな。


 ヒロインが良い奴だって解ったし、ここ最近の不安も和らいで久々に心から笑えてる気がするわ。






「おいっ!」


 大声が響いたのはそんな時だった。


 余りの大声に驚いてあたし達3人が声の主を見ると其処には見たくも無い奴が立っていた。




「殿下・・・・。」


 マリから固い声が漏れる。




 其処にはゲス王子が立っていた。マリの声は無視して何故か怒り顔でアリスを睨んでいる。




 何でコイツが此処に居るんだよ。王城で謹慎っぽい事してるんじゃ無かったのかよ。そんで何でコイツはアリスを睨んでるんだよ。




「何でしょう?」


 アリスが表情を消してゲス王子に訊き返す。




 王子はアリスを指差した。


「お前、その髪はどうした! なんでそんなに短いんだ!」


「・・・は?」


 アリスが訝しげに問い返す。




 ホントに何言ってんだコイツは。




 王子はアリスの反応が気に入らなかったらしく更に声を張り上げる。


「俺はあの長いフワフワの髪が好きだったんだ! 今すぐ元に戻せ!」


「・・・あの、私、生まれた時から1度だって髪を伸ばしたことは無いんですが。其れにどなたか知りませんがお会いするのは初めてだと思いますけど。」


 アリスは不快げな表情を滲ませながらそう答える。


「うるさい!」


 王子が怒鳴った。




 なんかヤバいな。コイツ目の焦点が合ってない様な気がする。正気じゃ無いんじゃないかしら。




「俺は・・・俺は、リアルのヒロインに会うために此処まで来たんだ! お前をモノにするんだ!」


「!?」


 アリスとマリの表情が引き攣った。




 ・・・・・・コイツか。




 ああ、なんてこった。


 信じられないくらいの超展開だわ。









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[一言] 神様たち、転生者と奇跡の扱いが雑ぅ…。
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