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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
ファイナル・チャプター 高等部
95/105

M80 合格発表

最終章に入りました。

ヒナとマリの物語も佳境です。

どうぞ最後までお付き合い下さい。

宜しくお願いします。



 春。




 風見陽菜の記憶がヤマダ=ハナコに舞い降りて来てから3回目の春が訪れた。




 あたしとマリは初等部を卒業するに伴って、2年間お世話になった寮を出て高等部女子寮の2人部屋にお引っ越しをした。




 新学期が始まる。3日後に。




 そして今日は――――。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 その日は朝から晴天だった。




「ヒナちゃん、美味しい?」


 マリが小首を傾げながらあたしに尋ねてくる。


「うん、美味しい。マリ、どんどん上手になってくね。」


 あたしは微笑んで答える。


「へへへ。やった。」


 マリが嬉しそうに笑った。




 ああ、相変わらずの天使やな。




「・・・。」


 マリが作ってくれた朝食を口にしながら、あたしはマリをみつめる。






 もともと出会った時からマリはお人形の様な子だった。




 コマい愛らしさに、サラリと伸ばした長い銀髪、見つめられると目が逸らせなく程に綺麗なエメラルドグリーンの双眸、冬の雪でさえも恥ずかしくて逃げ出してしまう程に真っ白な肌。


 余りの可愛らしさに思わずポカンと見惚れたモンさ。


 そして2年経った今ではこれらの上に、程良い身長と年齢相応の膨らみが加わり見映えの良さが天井知らずになった。




 そんでもって中身は?と訊かれれば。


 前世も含めて人間関係で辛い思いを味わい続けて来たせいか、人の気持ちに敏感で誰かを蔑む事を本気で嫌う。優しさに溢れているし心身共に強さも身に付けた。


 それにちょっとした事でとても嬉しそうに笑うし、身分差を全く気にせずに誰とでも幸せそうに話すから下級貴族の御令息御令嬢からの人気が半端ない。1年の学園祭が過ぎてからは伯爵家の御令息や御令嬢とも打ち解けてマジの人気者になってきてる。




 ぶっちゃけた話「この子のドコに悪役要素が在んの?」と思ってしまう。どう見ても絶対無敵のヒロイン枠だわ。




 それでも・・・。




 『編入してこないかも・・・』とあたしが勝手に期待しているヒロインはやっぱり編入してきて、そしてそんなヒロインはマリを遙かに凌駕するイイ子ちゃんで、マリがこれまで築き上げた人気の全てを掻っ攫っていくかも知れない。




 ・・・と不安は拭えない。




 そして今日は――――ってクドいか。




 あたしは朝、目が覚めた時からずっと迷ってる。


 言おうかどうしようかって。




 でも・・・確認した方が良いに決まってる。そうして置くだけで心構えも随分変わって来る筈だ。




 よし言おう。




 あたしはマリを真っ直ぐ見つめて言った。




「ねえマリ。」


「うん?」


「今日は編入試験の合格発表日だね。」


 マリの手がピクリと止まった。




「そう・・・だね・・・。」


 


 そっか。やっぱり気付いてたのか。


 そりゃそうだよね。自分を破滅させるかも知れないスーパーハイスペックの女が入学してくるかも知れないんだ。気付いて無い筈は無かった。




「・・・見に行ってみる?」


「!?」


 あたしの提案を受けてマリは弾かれたように驚愕の表情を向けた。




「え・・・見に・・・?」


「そう。」


「でも・・・。」


 マリは不安そうに俯く。




 そりゃ怖いよね。でも。


「マリ、怖いのは解るよ。でも、逆にコレはチャンスでも在るんだよ。」


「チャンス・・・?」


 マリは首を傾げる。


「そう、チャンス。」


 あたしは頷いた。


「考えて見て。先ずホントに編入してきてるのかを今日確認出来るわ。其れだけで精神的に凄いアドバンテージになると思うの。いざ出会した時に慌てないで済むからね。其れに向こうはあたし達の事を知らないけどコッチは向こうを知っている。だったらコレから先もヒロインと関わる事を避ければ良いんだわ。」


「其れはそうだけど・・・。」


 マリは不安を拭いきれない表情で訊いてきた。


「でも、どうやってヒロインを見分けるの?」




 う・・・。そうなのよね。ソレが少し問題。ヒロインの顔って二次元の立ち絵しか知らないし、その顔だけでリアルヒロインの顔を見分けられるんだろうか?


 でも・・・と思う。




「一応見分けるポイントは在ると思うの。ピンク色の髪よ。」


 マリの顔が『あ・・・』と言わんばかりの表情になる。


「マリは今までこの世界でピンク色の髪の人に会った事ある?」


「無いわ。」


「あたしも無い。ひょっとしたらピンク色の髪はヒロインだけのモノじゃ無いかって思ってるの。」


「・・・そうかも。」


「それにゲームの立ち絵通りなら凄いボリューミー且つフワッフワな髪をしてる筈よ。だからピンク色でそんな感じの髪を目標にして発表を見に来る人を遠くから見張ってようよ。」


「・・・。」


 マリは暫くあたしの顔を見つめていたけど、やがて頷いた。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 平民の編入試験の合格発表は高等部正門から入った学舎のエントランスに張り出されていた。




 張り出されている合格者の数は200人。


 ・・・少なくない?


 確か毎年1000人以上の人達が編入試験を受けるって聞いたんだけど。




 あたしとマリはエントランスの片隅に置かれたテーブルセットに腰を下ろして紅茶とケーキのセットを楽しむ生徒の振りをして合格発表を見に来た人達の様子を具に観察する。




 すると。




「あれ? ヒナ嬢にマリーベル嬢。こんな所で何をしているの?」


 聞き慣れた声がする。


 振り返るとセシル様が此方を見ていた。


「あ。ご機嫌よう、セシル様。」


 あたし達が挨拶をするとセシル様が微笑んで応える。


「うん、ご機嫌よう。そう言えば未だ言って無かったね。2人とも高等部入学おめでとう。これからは同じ学舎だけどよろしくね。」


「はい、宜しくお願いします。」




 ああ、やっぱカッコいいな、この人。




「セシル様はお仕事ですか?」


 マリが尋ねるとセシル様が頷いた。


「うん。トラブルが起きると良くないから今日は生徒会メンバーは全員生徒会室で待機さ。」


「はあ・・・大変ですねぇ・・・。」


 あたしが言うとセシル様は苦笑する。


「その大変な生徒会に君を入れようとスクライドは張り切ってるんだけどね。」


「え、イヤです。・・・あ。」


 思わず本音を言ってしまって口を押さえるあたしを見てセシル様が笑い出す。


「うん、解ってる。だから以前にも言った通り、僕が今アイツを説得中さ。」




 フォー! マジか。神がここに居るよ。頑張ってくれ、セシル様!




「よ・・・宜しくお願いします。」


 いやマジで。


「うん。まあ、でも余り期待はしないでね。」


 いや、期待するって。マジで頼むから!




「ところで君達は何をしてるの? もう、自室の整理は終わったのかい?」


 セシル様の問いにあたしは頷く。


「はい、もう終わりました。ソレでやる事が無くなったんで休憩も兼ねて此処でどんな人達が入学してくるのかを見てました。」




 やることが無くてってのは嘘だけど。


 あ、そうだ。さっきの疑問も訊いてしまおう。




「セシル様。」


「なに?」


「合格者の数が200人なんですけど、受験者数って1000人以上居るんですよね。」


「そうだね、確か今年は1100人近くが受験したって聞いているけど・・・。」




 1100人中で合格できるのが200人。


 って事は・・・競争率5.5倍!? メッチャ高くないか!?


 合格率は18%・・・低すぎるよ!




 ホントに平民の子を入れる気あるのか、この学園は!




「・・・合格者の数、少なすぎませんか?」


 前世で大学受験に勤しんでた身からするとこの数値は腹が立ってくる。まあ、あたしは推薦で早々に進路を確定させてたからアレだけど。




 あたしのジト目を受けてセシル様は困った様に笑う。


「そうだね。僕らもそう思うよ。だから今年はスクライドが『合格者数を増やすべきだ』って学園に掛け合ったんだけど・・・上手くいかなかったんだよね。『栄誉有るグラスフィールド学園に平民が入学しようと言うんだからこのくらいの数値は当然だろう』ってさ。」




 なんだそりゃ。


 以前から思ってたんだけどこの学園の経営陣ってセンスが無いと思うんだよね。プライドが最優先している感じがして「将来の有能人材を輩出する」って言う学園にとっての実質の利益を見ていない気がする。


 でも、そっか・・・。スクライド会長も頑張ったんだな。




「そうなんですね。でも勿体ないですよね。不合格者の中にだって優秀な人は沢山居た筈なのに。全員を合格させろなんてバカなことを言う気は無いですけど、それにしても合格率18%は低いですよ。」


 あたしが呟くとセシル様は少し驚いた様な顔で頷いた。


「そう・・・正に僕らもそう思っているんだ。・・・驚いたな、まさか高等部に入学したばかりの君が其処まで僕らと認識を共有出来るなんて思わなかった。・・・コレはやっぱり君も生徒会に・・・。」




 ハ!? しまった! 唯一の味方が敵に寝返ってしまう!




「って、お父様がそう言ってました! あたしには合格率とか競争率とかサッパリチンプンカンプンです!」


 あたしが泡喰って叫ぶとセシル様は呆けた様にあたしを眺めてからクスリと笑った。


 クソ、その笑顔は尊いな。


「解ったよ。そういう事にしとくよ。」




 セシル様は爽やかな笑顔を残してお仕事に向かって行った。






 はぁ~焦った。




 気付けばマリがポカンとした顔であたしを眺めていた。


 なに、その顔。可愛いんだけど。




「どしたの? マリ。」


 プニプニほっぺを突つきながらあたしが尋ねるとマリは照れ臭そうにほっぺを膨らませて抗議の表情をした後に言った。


「ヒナちゃんってやっぱりお姉さんなんだなって思った。」


 は? どう言う意味?


 あたしは首を傾げる。


「だってさ。セシル様とあんな難しい話を普通にしてるんだもん。えっと・・・合格率だっけ? ソレが低いのか高いのかも私には解らなかったし。」




 ああ・・・確かに受験戦争の経験が無いマリにはピンと来ない話だったか。




「そっか。まあ、あたしは大学受験とか経験してるからね。その辺の数字には敏感なのよ。マリも受験戦争を経験したら理解できるわよ。ほんっとに大変だから。ソレにあたしよりももっと昔の人達は子供の数も多かったからもっと激しい競争をしてたらしいし。」


「そうなんだ。」


 まったくピンと来てない表情でマリが頷く。




 まあ理解しろって言っても無理な話よね。


 あたしは苦笑いしながらまたマリのほっぺたを突つく。




「さ、ソレよりもヒロインを探しましょ。」


「うん、そうだね。」


 あたしが言うとマリも朝よりは随分と落ち着いた表情で頷いた。






 合格発表の掲示板の前では一喜一憂する人達の声でちょっとした騒がしさだ。ソレを眺めるあたし達の趣味も些か悪い気がするけど仕方無い。




 それにしても・・・喜ぶ人より嘆き落胆する人の数の方が圧倒的に多い気がする。コレで良いのかしら?




 そして・・・肝心のヒロインだけど・・・。


 ソレらしい人が全然現れない。




「ソレらしい人、来ないね。」


 マリが呟く。


「そうだね・・・。」


 何回もおかわりした紅茶のポットはとっくにカラになっている。




 まあ、でも。


「逆に言えば来ないって事はさ、編入してこないって可能性も在るんだから良いんじゃ無い?」


「あ、そっか。」


「ソレにね。」


 あたしは以前から考えてた事をマリに話した。


「前から思ってたんだけど、ヒロインが入学してきたからって何が起こるわけでも無いんじゃないかな?」


「なんで?」


「だって、攻略対象の3人はもう社会的に死んだも同然なのよ。何をするって言うの? 今ヒロインが編入して来てもさ、単にハイスペックガールが1人編入して来たってだけの事じゃない?」


「・・・!」


 マリの目が驚きに満たされていく。


「そっか・・・。凄い、ヒナちゃん!」


「いや、あたしが凄い訳じゃ無いって。」


 マリの賞賛にあたしは苦笑いする。




「でも、そうすると本当にゲームは関係無くなって来てるんだね。」


「幸いなことにね。」




 マリはホッとした様に微笑んだ。


 あたしも釣られて微笑む。




「!」


 そして何気なく掲示板に視線を移したマリの表情が驚愕に包まれた。 


「?」


 釣られて掲示板を見たあたしの顔も強ばった。




 見えた。


 ピンク色の髪。




 一人の少女が首の辺りで切り揃えたショートボブの髪を揺らしながら緊張した面持ちでエントランスに入って来る。そして掲示板を見たピンク色の髪の少女は暫くして・・・その表情を嬉しそうに緩めた。




 ああ・・・合格したのか・・・。




 さっきまでの期待感が嘘の様に消し飛び、あたしとマリは顔を見合わせた。




「合格したみたいだね。」


 マリが呟く。


 あたしは頷いた。・・・んだけど、うーん・・・でも。


「アレ、ヒロインかなぁ・・・?」


「え?」


 マリが首を傾げる。


「いや、だってさ、髪が短すぎない? あたしと髪の長さが変わんないよ? ヒロインってもっとボワボワの趣味悪いってくらいにボリューミーな髪じゃ無かった?」


「ソレはそうだけど・・・でも、ピンク色だよ?」


「うん・・・そうなんだよね・・・。」




 どっちなんだろ。


 困った。判断出来ない。




 あと判断出来る材料と言えば・・・話し方か。


『・・・なんですぅ~。』『・・・なんですかぁ~?』ていう例の腹立つ話し方だったらほぼ確定。




 だけどソレをどうやって確認するのか。




「うーん・・・。」


 あたしが両手を頭に乗せて考え込んだときマリが囁いた。


「ヒナちゃん。あの人、何か探してるみたい。」


「え?」


 その声に釣られてあたしも彼女の方を見ると、なるほど何かを探す様にキョロキョロしている。




「・・・。」


 2人してキョロキョロする彼女を見ていると彼女とバチッと目が合ってしまった。


『ヤバっ』


 あたしは慌てて目を逸らす。けどマリは未だバッチリ彼女を見ていた。


「バカッ、マリ、早く目を逸らしなさい!」


 小声でマリを注意した時、マリがあたしに言った。


「ヒナちゃん、あの人、コッチに来るよ・・・。」


「え?」


 思わずあたしも彼女の方を見た。




 マリの言う通り、ピンク色の髪の少女は一直線にコッチに向かって歩いてきていた。




 ウソ!?


 嘘でしょ!?


 たかが視線が合ったくらいで何でコッチにくるの!?




 何なの!? なにガン飛ばしてんだって事!? ヤンキーか、お前は!!




 あたしのパニックなんか関係無くピンクの彼女はコッチに向かって来る。






 ホントに何なんだ!











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