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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター6 2年生編 / 三学期
94/105

M79 お別れ会



 3月になった。




 あと1ヶ月。あと1ヶ月でマリとあたしにとって運命の日が訪れる。




 正直、今までのようにポワンと楽しんでばかりは居られなかった。何かしていないと落ち着かない気分も相俟って、あたし達は剣の特訓を2人きりで良くするようになった。




 それでも「やりたい」と言われればやるわけで、昨年作った『ヒナマツリ~コッチの世界バージョン』をセーラ達やリューダ様達と一緒に作った。




 其れを聞きつけてその他の女子寮のみんなや何と生徒会の皆さんまでが同じ物を作りたいと言って来て、木工ギルドのバイラルさんに嬉しい悲鳴を上げさせる事にもなったんだけど。


 で、バイラルさんと打ち合わせをして、実家にも帰って。




 そして――、


「完成させたとして大量の雛壇を何処に置くの?」


 と言うセーラの至極最もな疑問に因ってみんながウンウンと頭を悩ます事になったのは良い思い出。




 で、結局どうしたかと言えば、更にバイラルさんと打ち合わせを重ねて、広いロビーの一面を占拠して超デッかい雛壇・・・と言うか棚を作って貰って飾り立て其処にみんなで思い思いに自分の人形を置く事になった。




 もうヒナマツリとは程遠い姿になってしまったけど、此れは此れでとても楽しそうでOKだ。


 それにリューダ様とエリオット様とエオリア様とセシル様とスクライド様がいるから5人囃子もなんとか成立するし。まあ5人囃子と言うよりは5人のナイトだけどね。


 あとはボンボリとか梅っぽい枝も飾ってあるし。


 その他はみんな女雛様だけど、みんなの男雛様は誰かしら?


  ま、アイナとフレアの男雛様は決まってるし、セーラの男雛様もひょっとしたら・・・なんて思う処もあるし。


 コッチの世界のヒナマツリはこうなのよ。それで良いの。




「ヒナマツリもヒナちゃんのお父さんがイベントにしようとするんじゃない?」


 翌日、ロビーに飾られた雛壇の前に大量に並べられたテーブルと椅子を陣取ってティータイムに興じる御令嬢方を見ながらマリが楽しそうにそう言った。


「そうね。イベントになると思うよ。」


 あたしは答える。


「え・・・。」


 あたしの即答にマリがちょっとビックリした様な顔を向ける。




 実はお父様から手紙が来ていたんだ。


『ヒナマツリとやらの話を詳しく聴きたいから、今度コッチに帰っておいで。』


 要約するとそんな内容の事が書かれていて。


 だからヒナマツリ準備のクソ忙しい時に1回実家に帰ったのさ。




 やり取りの内容は大体こんな感じ。


『去年もやったらしいね。』


『はい、お父様。』


『みんなはどんな反応だった?』


『今年は自分のも作りたいと仰っていて人形の数が凄い事になりそうです。』


 あたしが溜息を吐くとお父様は笑った。


『確かコンセプトは今年度の思い出を大切に胸に仕舞って来年度に向けて希望を託す・・・で良かったかな?』


『はい、大体そんな感じです。』


『うむ・・・。」


 お父様は少し瞑目したあと、あたしの頭を撫でた。


『全く・・・。聖夜ツリーといい、豊穣祭といい、カドマツといい。君の頭にはあとどれだけの素敵なアイデアが詰まっているのだろうね。』


『!』


 優しげに見つめられてあたしの顔は真っ赤になったもんさ。




 とにかくあのお父様の様子では、来年辺りは多分仕込み万全で大々的にやるだろうな。




「そろそろ、初等部も卒業だね。」


 あたしが呟くとマリは一瞬弾かれたようにあたしを見てから静かに頷いた。


「・・・そうだね。」




 運命の日は近づいている。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 ・・・でも、ヒナマツリを終えてからあたしは思うようになった事があるんだ。


 それは、ひょっとしたら何も起きないんじゃ無いか?って事。




 だってさ、攻略対象になる筈の3人はゲームが開始される前に社会的に死んでるんだ。


 1人は学園卒業と同時に不良王族を軟禁する場所への幽閉が確定している。


 残りの2人は高等部卒業の待たずにそれぞれの父親の引き継ぎが終わり次第、地元に連れ戻されて鍛え直しの日々が待っている。


 当人達はその確定事項を未だ知らないけど、是れってもうゲーム的には終了しているよね。


 例えば彼等が個人的にはとても良い人だったらワンチャンスあるかも知れないけど、アイツらの性格やしでかした所行は今や誰もが知るところ。


 此処からゲーム開始までの後3週間足らずで、攻略対象として再び復活するとは到底思えない。


 と、なればさ。誰が未来を閉ざされた・・・と言うか自分から閉ざしたクズを攻略したいなんて思うのさ。




 だからさ。


 ゲームの世界設定が完全に破綻している様なこんな状態になってしまったら・・・ひょっとしてだけど・・・あのイラつくヒロインの編入も無いんじゃないかって思って来てるわけ。


 だって入って来たとしても攻略するべき対象者が自ら自分の人生を詰ませてるんだから何もやる事が無いじゃない。「誰を攻略したら良いんだよ」って、あたしがヒロインならそう思うわ。


 ヒロインにはご愁傷様って感じだけど、乙女ゲームのヒロインとしてのアイデンティティーは既に崩壊してしまっているんだ。




 だったら・・・あのクソゲーは開始されないんじゃ無いかって。あたしは多分の願望を込めて期待している。




 だからあたしは願う。


 どうかヒロインは編入して来ませんように、と。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 お世話になったマルグリット先生に何かお返しをしよう――。


 そんな流れが我がクラスにある。




「どんなお礼にしようか?」


 先生が居ない時間を狙ってみんなで話し合いを進めるけど中々に良い案が出て来ない。




 何しろマルグリット先生は親しみやすい本当に良い先生だった。特にあたしも含めてクラスの半分近くの生徒は丸々2年間お世話になっている。みんな在り来たりのパーティーなどでお茶を濁すつもりは毛頭無い。


 マルグリット先生が本当に喜んでくれる様な事は出来ないだろうか?


 みんな其処に拘っている。




「ヒナ嬢、何か良い案は無いかな?」


 話し合いを進めていたエリオット様があたしに尋ねてくる。みんなの視線もあたしに集中する。




 まあ意見を求められるとは思っていたけど・・・。


 うーん・・・難しいよな・・・。なんか無いかな・・・。




 あ。




 あたしは閃いた。前世で昔、引っ越していくクラスメイトに皆で送ったアレ。クラスメイトはソレを貰って号泣していた。




 この世界の・・・況してや貴族子女の集うこの学園では理解を得られるかは判らないけど、まあ言ってみるだけならタダだしね。




「寄せ書きを作ってみるのはどうでしょう?」


 あたしは提案した。




「ヨセガキ・・・?」


 マリ以外の全員が首を傾げた。


 あ、寄せ書きそのものを知らないのか。




 あたしが寄せ書きの説明をしてみると、みんなの表情が少しずつ変化してくる。




「良いんじゃ無いかしら・・・。」


 セーラが呟く。


「1人1人が想いを込めて・・・か。」


 アイナが少ししんみりとした調子で呟く。


「私がそんなモノ貰ったら感動して泣いちゃうかも。」


 フレアが少し目を潤ませてあたしを見る。




 3人が感想を述べたのを皮切りにみんなも口を開く。


 うん、概ね好評の模様。


「もし送る言葉が被ってしまったらどうしたら良いんでしょう?」


 そんな質問にあたしは笑って答えた。


「全く気にしなくて結構です。同じ言葉を送ってあげて下さい。大事なのは皆さんがマルグリット先生に一番送りたい言葉を記せば良いんです。」


「一番送りたい言葉・・・。」


「そうです。極端な話、30人全員の言葉が同じになってしまったって良いんです。大事なのは真心ですよ。」


 少し啜り泣く声が聞こえてくる。




 だよね。やっぱりあの先生と離れるのは寂しいよね。


 でもコレが人生なんだよ。


 ってあたしも大して知ってる訳じゃ無いけど、迫る『別れの時』を初めて経験するみんなには耐えがたいモノが在るんだろうな。




 最後にエリオット様が纏めた。


「では、我がクラスから恩師マルグリット先生には『ヨセガキ』を渡すと言う事で決定します。」


 最初疎らに起きた拍手は次第に勢いを増して、最後には盛大な拍手が起きた。




 コレがこのクラスで行う最後の共同作業だ。素敵な仕上がりになれば良いな。






 王立学園グラスフィールドは初等部卒業までの1週間、授業は無い。高等部入学へ向けて個人個人が準備する期間として自由時間が学園から生徒達へ割り振られている。


 卒業式に出席さえしたら、ソレまでは学園に来ても良いし来なくても良い。・・・んだけどウチのクラスは毎日午前中だけみんな来てる。




「あれ、食通連への発注担当って誰だっけ?」


「ここの飾り・・・ちょっと貧相じゃないか?」


「ちょっと!踏んでるわよ!」


「小道具班、どのくらい出来た?」


 ワチャワチャ・・・ワチャワチャ・・・




 何をしているのかと言えば卒業式の後に行う予定の「お別れ会」と銘打ったクラスパーティーの準備をしているんだ。




 文化祭のお店造りの時は難しい箇所をプロの職人さん達にお任せしたり手伝って貰ったりしていたけど、今回は30人だけで準備しようって事になった。


 要は材料集めからクラスの会場造り、飾り付けまで全部を生徒達だけで行っている。




 でもね・・・何しろ皆さん貴族の御子息と御令嬢。全部を自分でやろうとすると中々に上手くいかない。




 さっきのワチャワチャはそんな場面の一部。




「お別れ会か。本当に貴女達は・・・。」


 あたしとマリで許可を貰いに行ったとき、マルグリット先生は少しだけその綺麗な双眸を潤ませて微笑んだ。


「もちろん良いですよ。素敵な会にして下さいね。」


「はい。モチロン先生も参加ですよ。」


 マルグリット先生の言い方がちょっと引っ掛かってあたしがそう言うとマルグリット先生は頷いた。


「ええ、有り難う。是非、参加させて頂くわ。」


 よし、コレで良い。


 あとは会場を造り上げれば準備OKだ。




 ただ『寄せ書き』は極秘事項。当日のサプライズだからマルグリット先生にだけは知られてはいけない。






 そしてなんやかんやと1週間は過ぎていき、あたし達は何の変哲も無い卒業式を無事に終えた。学長の話やらお偉いさんの話やらがダラダラ続くだけで、正直言って余りにも代わり映えしなさ過ぎてハッキリ言ってつまんなかった。




 まあ、初等部の卒業っつってもね・・・結局、1週間後には高等部でまた会える訳だし、寂しさも何も無いよね。




 そんな事よりも・・・さあ、お別れ会だ。






「では私達の恩師マルグリット先生にご入場頂きましょう。」


 エリオット様の言葉と皆の盛大な拍手とともにマルグリット先生が教室に入ってきた。




 先生は今まで見た事も無いような嬉しそうな表情で頬を染めていた。


「先程、エリオット君から聞きました。このお別れ会は私の為に開いてくれたそうですね。・・・皆さん、本当に有り難う。」


 先生は少し涙を浮かべながら頭を下げた。


 御令息達は笑顔で、御令嬢達は少し貰い泣きしながら拍手を送る。


 


 先生を交えてみんなで思い出を語り合いながら楽しくもしんみりとした感が拭えない時間が経過していく。






 ・・・え? 語り口調が堅いって? ・・・だってしゃーないじゃん! メッチャ緊張してるんだよ!




 なんの因果か、寄せ書きを渡す役にあたしが選ばれちゃったんだよ。みんなの想いが込められたコノ1枚の厚紙の何と重いことよ。


 マジでこの2年間で一番緊張してるかも知れない。




 そして遂にその時が。




「では本日のメインイベントです。マルグリット先生、どうぞ前へ。」


「え? 何かしら?」


 会話を楽しんでいた先生は急に呼ばれて楽しそうに前に出て来た。・・・こうやって見ると普通に優しいお姉さんだよな。確か今年で26さ・・・ゲフンゲフン。




 さあ、あたしの出番だ。トチるなよ、あたし。




 あたしは先生の前に立つ。


「あらヒナさん。何を企んでいるのかしら? 表情が硬いわよ?」


 先生は笑顔で小首を傾げる。




 先生、ヒナさん呼びがすっかり定着したなぁ・・・。


 まあ、ソレはともかく・・・。




 あたしはスッと息を吸うと口を開いた。




「先生、先生がもし時間を遡れるとしたら何時まで遡りたいですか?」


「え?」


 先生は首を傾げる。


「面白い事を訊くのね。そうねぇ・・・。」


 マルグリット先生は人差し指を顎に当てて考える。・・・けど暫くしてゆっくりと首を振った。


「でも、遡る必要は無いわね。私は今の時間に満足しているし未来に希望も抱いているから。」




 流石だなぁ・・・。


 あたしは感心しながら微笑んだ。


「あたしもです。」


 先生がニッコリと笑った。


「あたしも今のクラスのみんなと出会えた事に満足してるから時間を遡りたいとは思いません。そして先生に受け持って頂いた2年間の事も。」


「・・・。」


 先生は黙ってあたしの言葉に耳を傾けてくれる。


「だからこの決して戻って来ない時間の中で先生から頂いた思い出を胸に、みんなの言葉をこの紙に集めました。みんなからマルグリット先生への想いを寄せて書いたこの『寄せ書き』を先生に贈呈したいと思います。」


「・・・。」


 先生は無言で寄せ書きを受け取った。




 そして無言のまま、寄せ書きを読む。その双眸からポロリと涙が零れた。




「・・・。」


 みんなも無言のまま、そんなマルグリット先生を見つめる。




 先生はそっと涙を拭うと輝く様な笑顔をあたし達に向けた。




「こんな・・・こんな素敵な贈り物を貰ったのは初めてです。・・・みんな・・・本当に有り難う。」


 そう言うと先生は両手で顔を覆った。


「先生・・・。」


 あたしはそんな先生をそっと抱き締めた。




 途端に御令嬢方がわっと押し寄せて来て先生に抱きつく。




 お別れ会は、大成功だった様だ。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 ――夜。




 私は受け取った寄せ書きをもう1度手に取って眺めた。




 中央には私の名前が書かれ、其れを囲むように30人の愛しい生徒達の名前と私への感謝の言葉が書き綴られている。


 なんて素敵な贈り物なのかしら。これ程に心が温まる贈り物は貰った事が無いし、今までに『寄せ書き』なる物を聞いた事が無い。




 ――・・・きっとあの子のアイデアね。


 私は確信する。そしてあの子の書いた言葉を再び読んだ。




『高等部を卒業したら、あたしとお友達になって下さい。――ヤマダ=ハナコ』




 思わず笑いが零れる。




 本当にあの子らしい。




 いつも明るくて、斬新な発想を持っていて、あの子の周りはいつも笑いに溢れていた。私は何度あの子に助けられた事だろうか。




 お友達・・・とても素敵なアイデアだわ。




 私は彼女の名前を指でなぞった。




「楽しみに待っているわ。ヒナちゃん。」




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 こうして、あたしとマリのグラスフィールドストーリーに於ける初等部の時間は終了した。




 マリとの出会いから始まって色々な出来事が在った。もう算えきれないくらいにたくさん。






 そして、遂にやってくる。




 運命の時が。







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