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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター6 2年生編 / 三学期
93/105

M78 セント・バレンタイン



 1月の3学期始業の日は雪が舞い落ちるホワイトセレモニーとなった。




 この冬初の雪は去年の12月25日。朝、あたしがお風呂に入ってる時に降った。でもあの時の雪は直ぐに止んでしまった。でも今日は全く降り止む気配が無い。




 そしてあたしは始業日早々、登校の時点から期待の眼差しを向けられていた。




「・・・。」


「また注目されてるね、ヒナちゃん。」


 そんな眼差しには気が付かない振りをして、あたしが黙って寮から学園までの道のりを歩いていると隣からマリが楽しそうにそう言った。


 あたしは溜息を吐く。


「そんな期待をされてもさ・・・。」




 ・・・君達、やりたいなら勝手にやりなさいよ。


 あたしは複雑な表情を浮かべて歩くしかない。


「今回はあたしは何もしないよ。」


「えー・・・。」


 マリが不満げな声を上げる。




 えー・・・じゃ無いよ。




 実はあたしは不安を感じているんだ。


 このままみんなの期待通りに雪合戦やら雪だるさん作成やらの先頭に立ち続けて居たら、今後は何でもあたし主導になって非常に面倒臭い事になるんじゃ無いかってね。




 コレが単なるあたしの自意識過剰で済むなら良いんだけど、実際に彼女達からはそんな気配をビシビシ感じるんだよね。




 だから今回は何もしない。


 あたしは固く決意する。




 そして臨んだ始業式。


 スクライド様の一言であたしの決意はあっさりと決壊する。


「・・・さて、話は変わりまして本日は大量の雪が降っていますね。一昨年までは雪など歩きにくいだけで憂鬱なモノでしたが・・・昨年から様相が一変しましたね。」




 ん!?


 スクライド様がチラリとあたしを見て笑った様な気がする。




「・・・ユキガッセンにユキダルマ。少々子供っぽいとは言え、大変楽しい遊びが我が学園を席巻してくれました。」




 ちょっと待て。何を言い出す気だ、会長閣下!




「そして今日も大雪が降りしきっています。しかも今日は始業式で半日で学園は終了です。」




 おい!




「誰に・・・とは言いませんが、我々生徒会も期待しております。」




 閣下!




 初等部どころか高等部の皆さんからも強烈な期待の視線が飛んできて、あたしの全身をザクザクと貫いてくれる。




 ・・・なんて事をしてくれるんだ、スクライド卿・・・。




 仕方無くあたしは学園と生徒会の許可を貰って、午前中に高等部と初等部のメインロビーに半ばやけっぱちになって雑に書いたポスターを貼った。




『やりたい人は放課後に大園庭に集まれ! ユキガッセン開催じゃぁぁぁぁ! ハナコ』




 ポスターを前にみんながクスクスと笑っていたのは何気に満足だった。




 そして既にやる気満々のマリ達と、わざわざ2年のクラスまで迎えに来たアリエッタちゃん達1年生に引き摺られて、放課後大園庭に出ると既に大勢の御令息御令嬢方が今や遅しとあたし達を待ち受けていた。




「主催者のヤマダ=ハナコ嬢が来ました!」


 張りのある声がコンモリ積もった雪景色の中に響いた。




 は!? スクライド様!? 何やってんの、あの人!?


 いや、よく見たら生徒会メンバー揃ってんじゃん。暇では無いでしょうが、皆さん!




 って言うか、あたしが主催者って!?・・・って、そうか。あたしが主催者になるのか。




 あたしが愕然としてる間にスクライド様が園庭の皆に向かって声を張り上げた。


「じゃあ皆さん。やりたい人はみんな集まったでしょうから・・・。」


 スクライド様があたしを見てニヤリと笑った。


 ん?なんだ? 何か嫌な感じが・・・。




「・・・ユキガッセン開催じゃぁぁぁぁ!」


「「「おお!!!」」」




 スクライド様が拳を突き上げ、皆がソレに応える。隣でマリ達やアリエッタちゃん達も拳を突き上げている。


 そして怒濤の大爆笑がソレに続いた。




 あたしは真っ赤になった。


 やけっぱちになって作ったポスターの言葉をそのまま使われてしまった。チクショウ、やられた。もうちょっと令嬢らしい言葉を使うべきだったか。




 内心で羞恥に悶えるあたしの手を取ってマリ達がチーム分けの輪の中に入っていく。




 皆がチーム分けで右に左に分かれる中、ニッコニコの笑顔でスクライド様が話し掛けてきた。


「ハナコさん、期待通りに動いてくれてとても嬉しいよ。」


「・・・。」


 あたしはそのとっても良い笑顔に一瞬見惚れた後、プイと横を向いた。


「暫くは会長さんと口を利きたくありません。」


「えー? 参ったなぁ。」


 おい、全然参った顔に見えないぞ。


 ニッコニコの会長の笑顔を見ながらあたしは憮然とした表情になる。




 いつもはこんな時にあたしのササクレ立った心をいやしてくれるクールビューティーなセシル様もチーム分けを仕切っていてそれどころでは無さそう。




 チクショウ。ムシャクシャする!




 あたしはそんな気持ちを存分に雪玉に込めてぶん投げまくった。




 で結局、去年と同じくその日もみんなは日が暮れるまで飽きもせずに雪玉を投げまくって帰路に着く事になったんだよね。




 去年と違うのは、マゼルダ婦人がグショ濡れの御令嬢の群れを見て悲鳴を上げずに代わりに溜息と苦笑いを漏らした事。




 マゼルダ婦人。言っとくけど今年はあたしだけのせいでは無いですからね。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 2月。


 今年何度目かの大雪が降った。




 みんな飽きもせず大雪が降る度に


「ユキガッセン開催じゃぁぁぁぁ!」


 と叫んでは放課後に雪玉を投げまくっている。


 何かもう合い言葉になってないか?




 そして園庭の隅には御令嬢方が作った沢山の雪だるさん達が所狭しと犇めき合っているんだけど、コレがまたカラフルなんだ。


 みんな自分達の私物を惜しげも無く雪だるさん達に装着させて披露し合っているので何だかパリコレみたいになっている。




 もう、冬の学園の風物詩になりつつあるな。




 あたしはと言うと、もう雪に飽きてしまっていた。


 だから教室から園庭を見下ろして


「楽しんでいるか、子供達よ。」


 などとほざきながらヌクヌクしたりしている。




「ヒナ、行くよ!」


 偶にこんな風に強引に引き摺られて行くんだが。


「あん、もう強引なんだから。」


「何バカなこと言ってんの。」


「へいへい。」


 ってな感じでね。






 だが、今年はやる事がある。




 あたしは、とある休みの日にソレを作成していた。マリも自室で何かゴソゴソやってる。




 先ずは貴族御用達の高級ブランドショップで買ってきたチョコレートを細かく刻んでボールにぶち込む。


 この世界では何故か高品質のチョコレートは食料品店では手に入らない。ドレス用の高級生地やアクセサリなどと一緒にブランドショップで販売されているんだ。


 いや、まあ確かに高級チョコレートは目ん玉飛び出るほどの高級品ではあるけれどもさ。


 確か手の平サイズのパッケージに包装された奴で銀貨1枚から販売だったかな? お高いモノになると金貨5枚なんてモノも在った。日本円に換算して凡そ50万円!チョコレートに50万円!


 ぼったくり過ぎでしょ! ・・・などと思いつつもあたしも金貨を数枚払ってチョコレートを幾つか購入したんだけどさ。




 さて刻んだチョコレートをぶち込んだボールを湯を張ったボールに浸してヘラで掻き混ぜていく。チョコレートは段々と溶けていきゴロゴロがドロドロに、ドロドロがトロトロに変化していく。


 チョコの甘い香りがあたしの鼻腔を擽ってくれる。


「よし。」


 あたしはチョコの蕩け具合に満足するとクッキー用の金型器具を取り出して慎重にチョコを流し込んでいく。形は定番のハート。




 後は冷やして固めてバレンタインチョコの完成だ。


 氷嚢庫に入れても良いけどこの季節は外に置いておいた方が早く固まる。あたしは布を被せると窓の外にチョコを置いた。これで1時間と経たずにカッチカチになる筈だ。


 次にあたしはバターを取り出すと砂糖と混ぜて掻き混ぜていく。ホントはカカオバターの方が良いんだけど無かったんだよね。良い感じになったら少しずつミルクを流し込んで掻き混ぜていく。そんでコレも冷やす。




 頃合いを見計らってあたしはチョコとバターを室内に入れた。


 バターを湯煎で少し温めて柔らかくしたらお手製のコルネでキンキンに冷えたチョコに文字を書いていく。




『Dear My darlin' Mari』




・・・ダーリンだってさ。自分で書いておきながらあたしは勝手に顔面を真っ赤に染めた。書いたのを見てしまうと猛烈に恥ずかしくなってくる。


 違う言葉にすれば良かった。コレは恥ずかしい。かと言ってもう作り直す時間は無いし。


 ああ、もういいや。気持ちに嘘は無いんだし。コレでいこう。




 あたしは用意していたパッケージと包装紙でラッピングを済ませると「ふぅ」と一息吐いた。




 窓を開けて真冬の冷たい冷気を浴びた。両肘を着いて両手の上に顎を載せる。


 ハァと真っ白な吐息が大気に溶けて消えて行く。




 本命チョコに友チョコに、あたしが住んでた地域特有のラブチョコ。今回のチョコはどれに該当するんだろうと思う。




 本命チョコ・・・になるのかな。友チョコではある。でもやっぱりラブチョコなんだろうな。まさか貰ってばかりでお返しに奔走していたあたしが送る側になるなんてね。




 ブルリ。寒さに身を震わせたあたしは


「寒い・・・。」


 と呟いて窓を閉めた。






「ハッピーバレンタイン、ヒナちゃん。」


 マリが頬を染めながら甘い香りのする包みを渡してくる。




 くー・・・可愛えなぁ。




 あたしは笑顔で包みを受け取るとお礼を言った。


「ありがと、マリ。」




 そしてあたしも包みをマリに渡した。


「ハッピーバレンタイン、マリ。」




 ダーリンの一文字が頭にチラついて顔がメッチャ火照る。




「開けて良い?」


 あたしが訊くとマリは恥ずかしそうにモジモジしながら頷く。




 包みを開くとあたしと同じハート型のチョコが入っていた。そして・・・その下にもう1枚紙が入っていた。




 取り出したモノは星の形をしたピンク色の紙。


 あたしはジッとその紙を見つめた。マリもあたしの顔をジッと見ている。




 もちろん、あたしにその意味が解らない筈は無い。マリが覚えていたとは思わなかった。しかもソレを使ってくるなんて。


 無言で星の紙を裏を返すと


「大好きなヒナちゃん。ずっと一緒に居たいな。」


 とメッセージが書いて在った。




 あたしはマリを見た。


 マリはさっきの嬉しそうな表情とは打って変わって不安そうな表情になっていた。


「あ・・・あのヒナちゃん・・・。」


 あたしは微笑んでマリに言った。


「あたしのも開けて見て。」


「う、うん。」


 マリは頷いてあたしのチョコを取り出した。




「Dear My darlin' Mari・・・。」


 マリがあたしの書いた文字を口にする。




 あたしは付け加える。


「darlin'ってね『最愛の人』って意味。夫とか奥さんに送る言葉。」


「!」


 マリの表情が驚きに満ちて頬が紅色に染まっていく。


「ヒナちゃん・・・。」


 あたしは頬を掻いた。


「そういう事。」




 マリが抱きついて来た。


「良かった・・・嫌がられたかと思った。」


「そんな訳無いでしょ。」


 あたしもマリを抱き締める。




 そしてあたしはマリから貰ったチョコをパクリと囓ってみた。




 あれ? この味・・・。




「マリ、このチョコの材料って『ノーブルリーフ』で買った?」


 ノーブルリーフは貴族御用達の高級ブランドショップであたしが今回チョコレートを買ったお店だ。朝、試しに囓ったチョコと同じ味がしたんだ。


 マリは頷いた。


「うん。あ、ヒナちゃんも彼所で買ったの?」


「買った。」


「そっかぁ。」


 マリは何だか嬉しそうだ。




「マリ、ありがとね。このメッセージ、大事にするよ。」


 あたしがそう言うとマリは頬を染めて頷いた。


「うん。ヒナちゃんもありがとう。私、初めてチョコ貰った。このチョコ大事にする。」


「いや、食べなさいよ。」


「嫌。勿体なくて食べられない。」


 あたしは苦笑する。


「食べないとダメになっちゃうよ?」


「・・・うー・・・。」


 あたしが言うとマリは困った様に唸った。


「・・・じゃあ、食べる。」


 暫くして彼女は諦めるようにそう言った。


「うん、そうしな。」


 マリの表情が可愛くてあたしは彼女のホッペをツンツン突つく。




 でも其処まで大事に思って貰えるのは嬉しいな。




 あたしはマリのホッペにチュッと口づけると言った。


「来年もあげるね。」


 マリの顔が更に真っ赤になっていく。


 彼女は恥ずかしそうに微笑んであたしに顔を寄せた。




 チュッとあたしのホッペに柔らかくて温かいモノが触れる。




「私もきっとあげるから。」


「うん。」




 バレンタインか。


 なんか良いよね、こういうの。









6/14

誤字報告を頂きましたので早速適用させて頂きます。

大変助かります。ありがとう御座います。

今後とも宜しくお願い申し上げます。

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