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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター6 2年生編 / 三学期
92/105

M77 新年



 新しい朝が来た。希望の朝だ。


 悦びに胸を開いて青空を仰ごう。




 あたしは窓から見える満天に広がる曇天に無言で立ち尽くした。


 ちょっと。ここは晴れやかな冬の晴天がセオリーでしょうが。空気を読みなさいよ、空。






 昨日、あたしはマリから生涯忘れられない程のプレゼントを貰った。思い返すだけで顔面が茹でたタコになる訳だが、同時に心がトンデモナイ幸福感に包まれもするのである。




 当のマリはベッドの中で未だスヤスヤと微睡みの女神に抱かれている最中だ。まさかあたしが先に目を覚ますとは思わなかった。


 あたしの手を緩く握ったマリの手をそっと外すと、彼女を起こさない様にゆっくりとベッドから這い出す。




 あ、まだ下着1枚の姿だった。


 そしてあたしはパジャマをかき集めて身に着けた後、冒頭の台詞を宣いながら窓の外を眺めた次第だ。




 ・・・着替えよう。




 あたしはコッソリとマリの部屋を出ると自分の部屋に戻った。着替えるついでにお風呂の湯を沸かすと真冬にもかかわらず自分が随分と汗を掻いていた事に気が付く。


 あたし、どんだけ昨夜は燃えていたんだろう?


 今現在、心此処に在らずでフワフワな自分にちょっと恥ずかしくなってくる。




 お湯が沸いたのを見計らうと、身体を洗っていたあたしは湯船に飛び込んだ。




 うーん・・・凍てついた朝の日に浸かる湯船は極上だぜ。




 体育座りの格好でお湯の温かさに身も心も温まってくると、少し昨日のことを冷静に思い返せるようになる。




 昨日あたしはマリに自分の全てを差し出した。


 大好きな人に全てを触れられる恥ずかしさと嬉しさ。それは今まで味わったソレらを遙かに上回る大きな波となってあたしを揉みくちゃにした。




 マリの手に拠って次々と襲い来る怒濤の快楽の渦の中であたしは完全にソレに呑み込まれて溺れていた。




 あたしは自分の身体を眺めた。


 真っ白な肌。風見陽菜の時よりも細い腕に括れた腰。胸は陽菜にはまだ追いついていないけど、同じ年齢の御令嬢達の中では有るほうだ。


 何より全体的に身体が華奢だ。


 少女漫画のキャラを実体化したらこんな感じなのかなって言うくらいに自分でも綺麗な体型をしていると思う。


 まあ、マリには・・・マリーベルには及ばないんだけど。




 あの子の美しさはもう神懸かっている。チートだと言いたくなるくらいに。例えるなら天才彫刻家が其の生涯を掛けて作り上げた塑像の如き調和を秘めた美しさなんだ。


 そんな彼女の全てにあたしは触れ、そして昨日はあの子があたしの全部に触れた。




 ・・・ブルリ。




 あたしは身を震わせた。




 何て途方も無い身の預け方なんだろう。


 自分ではない誰かに自分の全てを曝け出して快楽を味わう。クセになるどころの話じゃない。開けてはいけない扉を開けてしまった背徳感と知らない世界を知ってしまった高揚感は一種の麻薬に近いのかも知れない。


 だって、今もう既にマリと昨夜の続きをしたくなってるあたしが此処に居る。これが大人ですら簡単には断ち切れない性への誘惑なのか。




 性欲は有性生物が種族子孫を繁栄させるために当たり前に備えている欲求の1つだって言う。人に限って言えば、個々には抗いがたい快楽として行為を促し、種全体としては子が宿り子々孫々への道程を世界に標していく。そうやって人が世界に現れてから連綿と続いた営みの果てに今の世界が在ってあたし達が居る。


 ・・・もっともあたしとマリとでは子供は勿論生まれないんだけれども。




「ふう・・・。」


 あたしは取り留めも無い考えを溜息と供に追い出すと膝の上に頬を置いた。




 難しい事はともかく、あたしは少しだけ怖さを感じていた。




 あの感覚はヤバい。気を抜くと抜け出せなくなる程の快楽だった。アレはキスみたいに簡単に求めて良い様なモンじゃ無いと思う。




 況してやあたしとマリは女の子同士。互いに何をどうしたらどう感じるかを良く解ってる。ソレだけに上手なんてモノじゃ無いから簡単に溺れてしまう。




 特別な時に特別の愛情を込めて。




 取り敢えずあたしはそう言う結論だけを出すことにした。まあ、守れるかどうかは解らんけど。マリに求められたら敢え無く崩壊する自信があるし、あたしが我慢出来なくなる可能性は大いに在る。


 ま、でも心に一応の標を立てて置く事は大事だわ。




 あたしは立ち上がると窓ガラスの曇りを手で拭って外を覗いた。


「あ・・・。」


 真っ白な綿が天から次々と落っこちてきていた。




 あたしはもう一度ザブンと湯船に潜ると勢い良く立ち上がった。




 よし。大分気分も落ち着いた。


 今ならマリと顔を合わせても平静を保てるわ。そしてそろそろ起きているだろうマリに優しく微笑んでこう言うのよ。


『おはようマリ。昨夜は良く眠れた?』


 ってね。




 リビングに戻るとマリがコタツにチョコンと座っていた。


「あ・・・。」


 マリの顔が見る見る真っ赤になっていく。




 あたしは優雅に微笑むと言った。


「おおおお・・・おは、おは、おはよマリ、ゆ、ゆんべはよくねめれっぺか?」


「・・・」


 マリは突然イミ不明な言葉を発したあたしを驚いた様な表情でポカンと見上げていたけど、そのうち口の端がピクリと上に上がると盛大に笑い出した。




 ・・・所詮、あたしなんてこんなモンである。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 さて、時は冬休み。




 聖夜ツリーイベントも終了し、新年イベントの準備に入らなくちゃいけないんだけど。


 実はお父様とカール商会と農林ギルドのみんなで既に国ぐるみでの準備が始まっていて今年はあたしの出番は無いみたい。




 いいね。ゆっくりイベントを待つだけって言うのは。


 本来、あたしはこう言うスタンスが好みなんよ。




 この学園の人達は年末年始は何故か実家に帰る人が少ない。いや、少ないとは言っても半数以上の人は帰るんだけど、夏休みの9割以上が帰省する事態に比べると学園に残る人の数はかなり多い。




 よって寮も当然ソレに比例して賑やかなんだけどみんながあたしに何かを期待しているらしい。


 いや、カドマツをお父様達に取られた以上、あたしに出来る事なんて無いんだけど。




 しょうがない。


 昨年カドマツを作るついでに思いついた奴をやってみるか。


 昨年は思いついたは良いけど入手方法が解らなくて諦めた奴だ。だが今年のあたしは違う。強い味方『食通連』の皆々様が付いている。


 材料は既に食通連と木工ギルドを通して入手済みだ。




 何しろ時間は唸るほどにあったんだ。


 学園に行けなかった時間は、そのままあたしとマリの自由時間だった。食通連に通い、各ギルドに用も無いのにフラフラと立ち寄り、お茶やお菓子を頬張る毎日は中々に楽しかった。




「ヒナちゃん、アレやるの?」


「まあね。みんな、あたしが何かやるんじゃないかって期待してるみたいだし。」


「ウケるかな?」


 楽しそうな笑顔で尋ねてくるマリにあたしは首を傾げて笑って見せる。


「さあ? どうだろう?」




 そんで、あたしは雑に作った案内ポスターをロビーに貼った。




『年明け早々、暇してる御令嬢は中庭に集まれ! ヤマダ=ハナコが珍しい食べ物を振る舞いましょう! 時間は大体10:00くらい?から!』




「何アレ!?」


 貼ったその日に早速セーラ達が部屋に突撃してきた。


「何を振る舞ってくれるの!?」


 若干食いしん坊なフレアが喰い気味に訊いてくる。


「まあ、それは年明けをお楽しみに。」


 苦笑しながら答えるあたしを見ながらアイナが笑いながら言う。


「それにしても『10:00くらい?』って・・・何で疑問形なのよ。」


 OH・・・アイナさん、良いツッコミだぜ。






 それはともかく年明け。




 あたしとマリは朝早くから起き出して精を出していた。


「どう?」


「出来た。」


「じゃあ、持っていこうか。」


「だね。」


 竈からから取り出してあたし達は中庭に向かった。


 途中、ロビーに飾られたカドマツを見てちょっと嬉しくなる。

 このカドマツは農林ギルドのサイネさんが「年始の新イベントを発案してくれた功労者のヤマダ様に」って事でタダで提供してくれたモノ。




 うん。気持ちの良い元旦だ。


 あたしとマリはまだホカホカと熱いソレを入れた袋を背負いながらウンセウンセと中庭を目指す。




「・・・。」


 そして絶句した。




 まだ9:00前なのに実家に帰らず女子寮に残っていた御令嬢の殆どが中庭に集まっていた。




 何人居るんだろ?


 裕に100人は超えてる気がする。




「あ、来た。」


 セーラの声でみんなの視線があたし達に集中する。




 注目されるのは苦手だけど、まあ良いか。始めちゃおう。




 あたしは今朝早くに中庭に置いておいた容器の中に持って来た袋の中のモノを投入する。その近くには木製のハンマーと水の入った器も置いてある。後は一応、火鉢も置いておいた。




「・・・お米?」


 セーラが首を傾げる。




 そうソレはホカホカに蒸し上げた大量のお米だ。勿論ただのお米じゃない。いわゆる餅米って奴だ。コレを食通連で見つけた時は舞い上がったもんさ。




 正月にホカホカの餅米と言えば、そうだね。餅つきだね。




 って事であたしは木工ギルドで作って貰った臼と杵を用意して餅米の前に立つ。




 実は餅つきって初めてじゃない。小学校の時に入っていた子供会の正月イベントで何回も餅をついた事がある。やり方はバッチリだ。




 あたしは杵を持つと中の餅米をグイグイと押すように潰していく。いきなりついても餅米が吹っ飛んじゃうから最初はこうやって磨り潰して団子みたいにするんだ。




 あたしは磨り潰しながら見ているみんなに言う。


「今からあたしは『お餅』って言う食べ物を作ります。」


「お餅?」


「そう。で、そのうちあたしはペッタンペッタンと叩き始めるのでその時に『ヨイショ!』と景気よく掛け声をお願いします。」


「・・・? ・・・はあ。」


 みんな言ってる意味が解らないらしく反応が微妙だ。




 そりゃそうか。


 まあ、最初はマリが掛け声くれるから何となくでもそのうち解ってくれるでしょ。




 うん、そろそろかな?


 あたしはマリに合図を送ると杵を振り上げた。




「せーの・・・。」


 あたしが杵を臼の中の餅に振り下ろすと


「ヨイショー!」


 とマリが可愛い声で掛け声を入れてくれる。


 そして素早くお湯に浸した手で餅米を捲ってくれた。しかしマリ、合いの手が上手いな。




 もう1度あたしがお餅をつくと


「ヨイショー!」


 とマリが掛け声を入れてくれる。




 そして3度目。


 あたしがお餅をつくとマリの声の他にセーラの声が混じった。


「「ヨイショー!」」


 マリがセーラを見て微笑む。




 4度目。今度はアイナとフレアが混ざった。


「「「「ヨイショー!」」」」




 そして5度目の打ち下ろしの時には、御令嬢達の掛け声が元旦の晴れ空を賑やかした。


「「「「「ヨイショー!!」」」」」




 みんな良い笑顔で楽しいわ。




 あたしが汗ばむ頃、お餅は完成した。


 モッチモチのお餅を手頃な大きさに纏めたあと、砂糖とお味噌を混ぜたペーストを薄ーく伸ばして塗る。手がベタ付かない様にジャガイモさんから作られたデンプン粉を塗して出来上がり。




 さーて。後はコレを誰に最初に食べさせるかだけど。


 ま、こう言う時に実験体になって貰うのは大体決まってるわ。




 あたしは3人を見るとお餅を差し出した。


「セーラ、アイナ、フレア。お先にどうぞ。」


「・・・。」


 3人は暫く固まったままあたしの差し出すお餅を見つめていたけど、やがて怖ず怖ずと手を伸ばすとお餅を受け取った。


 だよね。3人とも好奇心が強い子達だし。




「あ、柔らか・・・。」


「あったかい・・・。」


「なんか良い匂いがする。」


 3人は手を粉塗れにしながら手で餅の感触を楽しんでいる。




「食べるときは少しずつ口にしてね。喉に詰まっちゃうから。」


「え!?」


 早速口に運ぼうとしていたフレアの手がピクリと止まる。




「こうよ。こう。」


 あたしがお餅を少し囓って『むにーん』と伸ばして見せた。そしてパクッと口に含んでみせる。


 うん。美味しい。味噌がもう少し濃くても良かったかな。




「・・・。」


 3人があたしの真似をして口を開くとお餅を少し囓って『むにーん』と伸ばした。


「ふ・・・ふふ・・・。」


 笑い声が3人から漏れてくる。


 そしてパクリと口に頬張ると笑いだした。


「アハハ、何なのコレ。」


「面白い!」


「それに美味しい!」


 3人の様子を見ていたアリエッタちゃんが話し掛けてくる。


「あ、あの、マリーベル様、ヤマダ様。わ・・・私も・・・。」




 お、食べたいのかい?


 良いともさ。




 あたしが差し出すとアリエッタちゃんが頬を染めながら受け取る。


「あ、あの、私も!」


 アリエッタちゃんを切っ掛けに御令嬢方が押し寄せてくる。




 そして餅はあっと言う間に無くなり、直ぐさま餅つき大会に様相は早変わりした。みんなお餅そのものよりも餅つきに興味があるらしく、杵の取り合いになっていた。


 いつの間にかマゼルダ婦人もいらっしゃっていてニコニコ顔で見ていてくれる。




 あたしとマリは合いの手に回り、みんなと一緒に楽しんだ。




 あー、元旦から楽しい一日だわ。


 来年辺り、シシオドシでも作ってみようかしら。





 胸に訪れるデッカい不安を気にしてばかり居ても仕方ないしね。



 今年はマリとあたしにとって運命の年だ。




 3月にはあたし達は初等部を卒業する。そして4月を迎えれば高等部に進学だ。そう、ついつい忘れがちだけどグラスフィールドストーリーと言うクソゲーが開始される年だ。


 そして、ソレはつまり平民階級の『ヒロイン』がこのグラスフィールド学園に高等部生として編入してくる年なんだ。




 ついにマリーベルにとってのラスボスが登場する訳だ。


 中ボスのゲス王子一派は勝手に自滅してくれた。じゃあ、ラスボスは? 都合良く自滅してくれるのかしら。


 ヒロインはハイスペック美少女のマリーベルがどんなに努力を重ねても敵わなかった程のスーパーハイスペックの少女なんだ。そう都合良く行くとは思えない。




「・・・。」


 あたしはみんなと笑い合うマリを見る。




 でも、あたしには期待する部分もある。




 あのゲームは乙女ゲー。

 つまり男の子と仲良くなって恋仲になり将来の夫を見つけるの主目的だ。だけどマリはこの2年間、特定の御令息と親密な関係になったりしていない。リューダ様達とは仲良くしているけど敢くまで友人レベルの付き合いだ。


 つまりヒロインに付け込まれる様な隙は無いんじゃないだろうか?




 ・・・どちらにせよ。否が応でも最大の危機は絶対に今年やって来るんだ。




 乗り越えないと。




 あたしはグッと拳を握り締めた。




 あんな腹立つヒロインに負けて堪るかよ。







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― 新着の感想 ―
[一言] 「おはよう ございます。  ゆうべは おたのしみでしたね。 1枚着けていたのは意外でした(ぉ
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