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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター5 2年生編 / 二学期
91/105

S15 マリーベルの追蹤 4

マリーベル視点のお話です。

次回から本編に入るため、少し長めになりましたが宜しくお願いします。



『フワリ』


 顔を何かに撫でられて私は意識を引き摺り起こした。


 目を開けば少し慌てた様なヒナちゃんの視線とぶつかる。




 あれ? 私、寝ちゃった?




「ヒナひゃん・・・?」


 寝ぼけて上手く口が回らなかった。




「お、起こしちゃったかな?」


 ヒナちゃんが尋ねるので私は目を擦りながら首を振った。


「ううん・・・傷痛むの?」


「いやぁ・・・うん、そう。」


「見せて。」


 私はそう言うとヒナちゃんの腕に巻かれた包帯を見る。


 包帯は巻かれたときと同じで綺麗なまま。




「・・・血は滲んでないみたい。」


「そっか。まあ、ちょっと痛いだけだから平気だよ。」


 ってヒナちゃん。




「そう・・・。痛くて眠れないんじゃ無いんだよね?」


「うん、違うよ。」


 私が尋ねるとヒナちゃんはニコリと微笑んだ。


 そしてヒナちゃんは突然腕を伸ばして私の頬に手を置いてきた。




「!」


 私はビックリして身を震わせた。


「ヒ・・・ヒナちゃん・・・?」


 私の声には頓着せずヒナちゃんはそのスベスベの手で私の頬を撫でる。




「・・・心配してくれてアリガトね、マリ。」


「う、うん。」


 嬉しくて微笑む私の頬がどんどん熱くなっている。多分真っ赤になってるだろうこんな顔を見られるのは恥ずかしいけど、今日は幸いなことに新月だ。いつもよりも暗い夜にホッとする。




 私は頬を撫でるヒナちゃんの手に手を重ねた。柔らかいヒナちゃん手の温もりに私の心が安らいでいく。




「悪役かぁ・・・。」


 ヒナちゃんがポツリと呟いた。


「え?」


「あたしの知る世界に悪役令嬢は居ないなぁと思って。」


 悪役令嬢・・・そう言えば私は悪役令嬢だった。


 私は思わずクスクスと笑ってしまう。


「悪役令嬢の方が良かった?」


「んな訳無いでしょ。」


 ヒナちゃんの苦笑いがとても綺麗だ。


「貴女は悪役令嬢のマリーベルでは無いわ。優しい貝崎茉璃ちゃんの記憶を持った素敵なマリーベルよ。あたしはそんなマリーベルが好き。」


「うん・・・ありがと。」


 真っ正面から好きと言われて照れ臭くなった私は目を伏せた。




 マリーベルか・・・。


 私は前世の事を思い出す。




「私ね。」


「ん?」


「グラスフィールドを2回プレイしたって言ったでしょ?」


「うん。よーやったわ、2回も。」


「へへ。」


 ヒナちゃんの呆れた様な声に私は照れ笑いをした。




「2回目のプレイの時は、実はマリーベルを応援しながらプレイしてたんだ。何とか幸せになって欲しいって。」


「おう。」


 『おう』って・・・。何?その返し方。私は笑い出しそうになるのを押し殺しながら話をつづける。




「応援していたのは、あの適当な世界の中でマリーベルだけが一生懸命に生きてたから。婚約者を盗られたくない一心でハイスペックのヒロインに負けない様に努力を重ねて。でも敵わなくて。誰も励ましてくれる人が居なくて歪んじゃったけど、本質的には頑張り屋さんのマリーベルが1番好きだった。だからマリーベルを好きだったっていう隠しキャラでも居ないかな?って思って2回目をやったんだ。」


「居たの?」


「居なかった。」




 ゲームの中には居なかった。


 マリーベルを慰めてくれる人も、応援してくれる人も、導いてくれる人も。好いてくれる人も。誰1人。親でさえ。あんなに一生懸命生きていたのに。


 結果在りきの詰まらないエンディングの為に、世界の全てがマリーベルの運命に悪意を剥き出しにしていた。




 そのストーリーの『幼稚さ』『拙さ』に呆れて、私はそれ以降グラスフィールドを起動させる事は無かった。もっとも、その直ぐ後に死んじゃったんだけど。




「でも・・・。」


「?」


 ヒナちゃんが首を傾げる。




「マリーベルを好きになってくれる人を見つけた。」


 そう。見つけた。


 マリーベルを・・・私を。




「あ、居たんだ。良かったじゃん。」


 やっぱりヒナちゃんは気付かない。


 あっけらかんとした表情で無邪気に喜んでいる。




 私は苦笑いをした。




「ヒナちゃん。」


「うぁ?」


「私はマリーベルだよ?」


「うん。」


「この世界もゲームの世界でしょ? 少なくともゲームの世界に類似した世界でしょ?」


「うん・・・。・・・あ。」




 やっと気付いてくれたらしいヒナちゃんの顔が多分真っ赤になってる。新月のせいで残念ながら色合いは見えないけど。




 私はヒナちゃんを見つめた。


 想いを精一杯詰め込んで。


「マリーベルはこの世界に来て漸く自分の事を好いてくれる人に出会えたの。」




 ヒナちゃんは恥ずかしそうに目線を下げた。


 そして消え入りそうな声で囁くように言ってくれた。


「うん。好き。誰よりもマリーベルが好き。」




 嬉しい。


 ホントに。


 心から。




 私はゴソリと動いてヒナちゃんにピッタリと寄り添った。


「・・・。」


 そしてジッとヒナちゃんの顔を見つめる。




「マリ・・・。」


 ヒナちゃんも少し掠れた声で私の名前を呼んだ。




「ヒナ・・・。」


 私も応える。




 唇が重なり合った。柔らかくて温かいプルンとした唇が私の感覚を支配する。


「・・・。」


 唇を離して無言で見つめ合った後、また唇を重ねた。私は舌でヒナちゃんの湿った唇を突つく。ヒナちゃんは口を広げて私の舌を自分の舌で迎え入れてくれる。




 お互いの存在を確認し合う様に舌を絡めていく。


『クチュリ』


 と重なり合ったの口の隙間から水音が漏れる。




 その音に私は更に興奮していく。




 両腕をヒナちゃんの背中に回して撫で回した。またアノ時の様な事がしたくて彼女のお尻に手を掛けてしまう。




 でも・・・ヒナちゃんは怪我をしている。其れに此処は寮じゃ無い。・・・我慢しよう。




「本当は・・・もっとしたいけど・・・ヒナちゃん怪我してるし・・・此処、ヒナちゃんの実家だし・・・今日は此処までにする・・・。」


 私は自分に言い聞かせる様にしながらヒナちゃんにそう言った。


 ヒナちゃんは微笑んで私の頬をまた撫でてくれる。




「ありがと。マリのそう言うところ、大好き。」


「うん。」


 ヒナちゃんから微笑みを向けて貰えるとやっぱり嬉しい。私は添えられたヒナちゃんの手に頬擦りする。




「お休み、ヒナちゃん。」


「お休み、マリ。」


 そして軽くチュッとキスをすると、私達は抱き合ってまた眠りに就いた。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 翌朝、私達は美味しい朝食を頂いた後、サミュエル様に呼ばれて彼の執務室を訪れて当面の流れについて説明を受けた。




「これから暫くの間、ヤマダとマリーベル嬢には学園を休学して貰う。」


「はい。」


「解りました。」


 ヒナちゃんと私は頷いた。




「休学の理由は『暴漢に襲われたショックから来る重度の精神的疲労』という事にする。」


「「はい。」」


 私達が了承するとサミュエル様は「宜しい」と頷く。


「其れと先程アビスコート家より返事が届きマリーベル嬢も併せて当家で預かる事になったので安心して良い。」


「!・・・有り難う御座います。」




 良かった。其れも引っ掛かっていた。私は嬉しくて笑顔で頭を下げる。




「お父様?」


「何だい?」


「何でアビスコート家はマリーベル様がウチに居る事を了承したんでしょうか?」


「・・・。」




 ・・・そう言えばそうだ。ヒナちゃんの疑問はもっともだ。私を傷付けたいのなら手元に置いておく方がやりやすい筈なのに。




 サミュエル様はヒナちゃんと私を見て少し逡巡する様な素振りを見せたけど直ぐに口を開いた。




「・・・社交界は魑魅魍魎が跋扈する世界だ。もし仮にアビスコート家がマリーベル嬢を手元に置いて傷付けた場合どうなるだろうね?」




 ・・・ああ、そう言う事か。如何にもあの人が考えそうな事だわ。


 私はサミュエル様の仰りたい事を何となく察してしまった。




「当然アビスコート家は『家に侵入した暴漢に娘が襲われた』或いは『家の中で事故が起きた』等、其れに類する言い訳を言わざるを得ない。そうなれば社交界からは『あの家は暴漢、又は事故から自分の娘すら守る事も出来ない無能な家』と言うレッテルを貼られる事だろう。」


「でも、裏事情を知っている貴族なら・・・。」


 ヒナちゃんが言うとサミュエル様は首を振った。


「いいや、関係無いよ。アビスコート侯爵の評判は元々良いモノでは無い。となれば表面的には良好な関係を築いているが裏ではアビスコート家を引き摺り下ろしたいと考えている貴族達にとって、コレは絶好のチャンスだ。その事態に付け込んで必ずアビスコート降ろしが始まるだろう。」




 ヒナちゃんの表情が強ばり動きが固まる。




「まあ、だからハナコ家からの申し出はアビスコート家にとっては渡りに船だったのさ。何しろ此れでハナコ家に全力で刺客を送り込む事が出来る。」




 え・・・?


 ソレはどういう事?




「それで首尾良くマリーベル嬢を傷付ける事に成功したら全てを私の責任に出来るからね。」


「そんな!」


 私は悲鳴を上げた。




 其処までは解らなかった。


 其れはダメ! 絶対に!


 この素敵なご家族にこれ以上の迷惑を掛けるなんて!


 そんな事になるくらいなら私はこの家を出た方が良い。何処か市井にでも身を隠してやり過ごした方が・・・。




「そんな・・・そんな事ダメです! ハナコ様に・・・皆さんに御迷惑をお掛けするなんて・・・。私、此処には居られない・・・。」


「マリ、落ち着いて!」


 口走る私をヒナちゃんが抑える。


「でも!」


 此処に私が居たら・・・!




 そんな私達を見た後、サミュエル様は上を見上げて思案する。




「ふむ・・・迷惑か・・・。まあ、確かに迷惑を被っているのかも知れないな。」




 そう、これ以上の迷惑は・・・。




 サミュエル様がフッと微笑んだ。


「但し、此れは貴女から被った迷惑では無い。昨日も言った様に貴女は寧ろ1番の被害者だ。今、私に迷惑を掛けているのはアビスコート家と其の周辺で下らない思惑に駆られて動いている大人達だ。」


 サミュエル様はソファーから立ち上がって私の肩に手を置いた。




 大きくて力強い手に私の心が少し落ち着いく。




「貴女が気に掛ける事では無い。寧ろ私としてはいつもヤマダと一緒に居てくれる貴女への感謝を形に出来る機会を得たと思っているくらいだ。一段落が片付くまで、ヤマダと一緒にこの家でゆっくりと過ごして頂きたい。・・・宜しいかな?」


「・・・。」


 私はサミュエル様をジッと見上げた。




 何て温かくて信頼出来る方なんだろう。・・・甘えさせて貰っても良いのかな・・・。


 私はぼやける視界もそのままにコクリと頷いた。




 ヒナちゃんのホッとした一息を聴いて私は申し訳無く思う。


 ゴメンね、ヒナちゃん。心配させて。




 その後、私達はサミュエル様の具体的な今後の方針を聴かせて貰って部屋に戻った。




 私は言った。


「ヒナちゃんのお父さんはカッコイイね。」


 本当に・・・羨ましいくらいに。




「うん。」


 ヒナちゃんは頷きながら私の手を握った。


「マリも頼って良いんだよ。」


「・・・。」




 本当に全てを委ねて良い訳では無い。私にそんな人は居ない。前世も含めて。


 でもヒナちゃんの気持ちが嬉しい。




 私は何とか笑顔を作ると言った。


「ありがとう。」






 部屋に戻ると私達はのんびりと過ごした。本を読み、前世の話をし、途中から入ってきたテオ君と最近王都で流行りのボードゲームを嗜む。


 小さいヒナちゃんみたいでやっぱり凄く可愛い。テオ君の天使っぷりに癒やされながら楽しい時間を過ごしていると午後になってテオ君が家庭教師の先生に連れられて行ってしまった。




「今頃、表彰式でもやってんのかなぁ。」


 ヒナちゃんがポツリと呟いた。


「え?」


「武術祭。」


「ああ・・・。」


 そう言えばすっかり忘れていた。


「リューダ様達は結果どうだったんだろうね。」


「そうだね。あの3人ならきっと良いところまで行ったと思うけど。」


 私がそう答えるとヒナちゃんは少し思案げな表情をした後に尋ねてきた。




「ねえマリ。」


「なあに?」


「マリってさ、その・・・リュ・・・リューダ・・・。」


「?」


 リューダ様?


 私は首を傾げる。




 するとヒナちゃんは顔を真っ赤にしながら動きを止めてしまった。


「どうしたの?」


 口にして尋ねるとヒナちゃんは何か意を決した様に私を見て口を開いた。


「マリってさリューダ様の事・・・その・・・す・・・好きなの?」




 好き?・・・まあ・・・。


「? うん、男の子の中では1番安心出来るかな。」


 私は何でそんな事を急に尋ねられたのか良く解らなかったけど、取り敢えずそう答えた。




 でもヒナちゃんの訊きたかった事はそう言う事では無かったらしい。


「いや、そうじゃなくて・・・ええと、その・・・ラブ的な意味で。」


「・・・あ、ああ・・・。」




 ああ・・・そう言う意味・・・。


 コレまで結構アピールをしてきたつもりだけど、未だそんな事を訊かれてしまうのか。確かに女の子同士だし常識的に考えればヒナちゃんの質問も解るけど・・・もう。


 私はヒナちゃんの常識を捨てきれない考え方に少しだけもどかしさを感じて彼女をジトっと見た。


「そう言う事、ヒナちゃんからは訊かれたく無かったな。」




 私が言うとヒナちゃんは少し動揺したように視線を泳がせる。


「う、うん。でもちょっと気になって。リューダ様って男の子だし格好いいから。」




 え、気になって・・・?


 私の気持ちが気になったって事?


「気になって・・・そっか。」


 ちょっとした嫉妬の一種だと思って良いよね?・・・嬉しいな。




 私は躙り寄ってヒナちゃんに寄りかかった。


「私は・・・。」


 ヒナちゃんを見上げる。


「・・・ヒナちゃんが好き。」




 ヒナちゃんの顔が見る見るうちに真っ赤になる。其れを見て私の顔も一気に火照り出す。




「うん。」


 ヒナちゃんは視線を逸らしながら頷いた。


 その仕草が可愛くて嬉しくて私は微笑んだ。


「でも・・・。」


 別の未来か・・・。私は視線を逸らした。


「もしヒナちゃんとこんなに深く知り合ってなかったら、もしかしたらリューダ様を好きになった未来も在ったのかもね。」


「え。」


 ヒナちゃんは驚いた様な表情で私を見た。


「もうそんな未来は無いけど。」


 私は彼女に微笑んだ。




 それよりも気になる事が私には在る。もうずっと前から。良い機会だから今訊いちゃおう。




「それよりヒナちゃん、セシル様をどう思ってるの?」


「セシル様?」


 今度はヒナちゃんが首を傾げる。


「そう、凄く仲が良いよね。」


「そ、そう?」


「うん。最初はスクライド様が危ないと思ってたけど、あの方は違う。あの方はヒナちゃんをオモシロキャラくらいにしか思ってない。ヒナちゃんも少し鬱陶しがってるし。」


「・・・。」


「でもセシル様と話してる時はヒナちゃん、凄く楽しそう。」


「そうかな・・・。」


 ヒナちゃんはそう呟いたきり視線を上に上げて明らかに何かを回想し始めた。




 マズい。ヒナちゃんは間違い無くセシル様を意識していなかったのに何で余計な事を訊いてしまったんだろう。




「ヒナちゃん!」


 ポカンと何かを思い返しているヒナちゃんに私は思わず大声で呼び掛けて彼女の手を鷲掴みにしてしまった。


「!?」


 ヒナちゃんはビクッとなって私を見た。


「な・・・何?」


「あ・・・えっと・・・。」


 しまった。呼んだは良いけど言う言葉を考えていなかった。




 ええっと・・・ええっと・・・。




「・・・あ、そうだ。こ・・・此れから暫くの間、私達はどうしたら良いんだろうね。外に出るわけにも行かないし。」


 ヒナちゃんは咄嗟に捻りだした私の質問にも真面目に考えてくれ答えてくれた。




「まあ、暫くはゆっくりしましょ。」




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「今晩は此方のお部屋をお使い下さい。」


 ライラさんの案内で毎晩違う部屋が寝室に様変わりして用意される。まるでホテルに泊まってる気分がしてワクワクする。




「今日も凄いお部屋だね。」


 私は部屋をキョロキョロと見て廻る。


 絵画が並んでいるんだけどその絵画が同じ流派の絵なんだ。其れが古い年代順に並んでいて見ていて面白い。




 そして夜はドキドキしながら同じベッドに潜り込む。


「・・・。」


 お互いに顔を見合わせながら照れたり笑ったり。




 毎晩エッチな事が起きるのかと胸高鳴らせたりしてたけど実際は意外とそうはならなかった。なんだかお互いに遠慮してしまう。


 でも数日も大人しくしていると我慢しきれなくなってくる。そうなると我慢出来なくなった方が堪らず相手に「チュッ」と唇を合わせちゃう。その後は一瞬で箍が吹き飛んで激しいキスの応酬になったりするんだけど。






『勉学が遅れてはいけない。』


 という理由からテオ君の家庭教師のイングリッド先生より学習課題を渡されソレを熟した。・・・んだけど、最近気になってる事がある。




 やっぱり訊いてみよう。




「ねえヒナちゃん。ヤマダ=ハナコの記憶・・・戻ってきてる?」


「なんで?」


「だって、歴史の課題が出来すぎてるモン。私が教えてた内容よりも全然細かい所も理解してるし。」


 私がそう言うとヒナちゃんは苦笑した。


「そっか。やっぱ解るよね。」




 ・・・やっぱりな。


「やっぱり。いつから?」


 ヒナちゃんは思案顔で答える。


「うーん、いつからって事もないんだよなぁ。少しずつ・・・主には家に帰る度に少しずつ小さい頃の事を思い出すようになって。」


「そっか。」




 ・・・平気なのかな?


 6月頃に見せたあのヒナちゃんの動揺ぶりを覚えている私は彼女が心配になる。




「ねえ、ヒナちゃん。」


 私は思いきって尋ねた。


「貴女は風見陽菜さん? それともヤマダ=ハナコさん?」




 ヒナちゃんはとても綺麗な顔で微笑んだ。




「あたしはヤマダ=ハナコよ。」




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 更に時は過ぎていき12月になった。12月に入ると学園では定期考査の季節だ。


 色々な事情を鑑みてヒナちゃんと私は1週間早い定期考査をハナコ家で受けた。たった2人だけの試験は一風変わっていてとても楽しかった。


 結果、総得点でヒナちゃんは試験では満点。私がマイナス4点だった。


 やっぱりヒナちゃんは凄い。






 そしてある晩、私達はサミュエル様に呼ばれた。




「だいぶ待たせたね。明日から学園に通っても大丈夫だよ。」


「・・・。」


 私達は咄嗟に反応出来なかった。




 もう学園に行っても大丈夫? 早くない? もっと時間掛かるかと思ってたのに。




 私達が黙っているとお父様が訝しげに首を傾げた。


「どうした?2人とも。嬉しくないのかね?」


「あ、いや・・・。」


 ハッとなったヒナちゃんが答えた。


「余りにも早かったのでビックリしただけです。もっと時間が掛かるかと思っていたので。」


 私もコクコクと頷く。


「ハハハ。」


 サミュエル様が笑った。


「なるほど。だが私としては娘達の復学が掛かっていたんだ。少々強引に策を打ってでも早急に事態を解決させたかったんだよ。」




 そうなのか。それは嬉しいけど・・・一体何をやったんだろう。とは言えひとまず。




「あ、ありがとう御座います。」


「ありがとう御座います。」


 私達はお父様に御礼を言った。


「うむ。」


 サミュエル様は満足げに頷く。




「そ、それで、あの・・・お父様・・・」


 ヒナちゃんが恐る恐ると尋ねる。


「ん?」


「一体どうなったんでしょうか? その刺客の件とか、誰が裏で糸を引いていたのかとか・・・。」




 確かに気になる。サミュエル様が「大丈夫」と言った以上、身の危険については何も心配はしていない。でも何がどうなったのかは気になる。




「うん・・・。」


 サミュエル様は少し思案されていたがやがて頷いた。


「そうだね。全部は話せないが少しはお前達も知って置いた方が良いだろうな。」


 そう言ってサミュエル様はあらましを話してくれた。




「そもそもの事の起こりとなった廃教会での傷害未遂についてだが、アレは君達も予想していた通りアビスコート侯爵が糸を引いていたんだ。」




 やっぱりそうなんだ。


 私はあんな雑な作戦しか考えられないあの人の稚拙さに呆れた。そしてその稚拙な作戦がヒナちゃんを傷付け、ハナコ家の皆さんに迷惑を掛けた事に怒りを感じた。


 今までも1度だってあの人を親だと思った事は無いけど、今はっきりとあの人は私の敵なんだと認識出来た。




「あと、実際に君達を襲ったあの2人は単なるゴロツキだった。金を掴まされて引き受けたらしい。兵士として紛れ込めたのはアビスコート家とその一派が仕組んだから出来た事だ。」




 そういう事ね。




「そしてこの件には第1王子、つまりライアス殿下の派閥も絡んできている。マリーベル嬢を保護する為に動いていたそうだ。間に合わなかった様だが。」


「え?」




 どういう事? ソレは意味が解らない。




 ヒナちゃんも同じ事を思ったらしくサミュエル様に尋ねている。


「何でですか?ゲス・・・ライアス殿下派にとってはマリーベル様との婚約は都合が悪いんですよね。だったら・・・。」


「昨年までならな。」


「?」


「昨年までならライアス殿下派にとってマリーベル嬢との婚約は無くしてしまいたいモノだった。しかし陛下が定めたこと故に変更出来ずに居た。ソレに加えゼスマイヤー公爵の後押しも在ったとなれば、下手な策を打って公爵に睨まれる事だけは避けたい。だからマリーベル嬢に対して危害の心配は無かったんだ。」


「・・・。」


「だが状況はもう変わった。」




 変わった? どういう事だろう?




「ライアス殿下が昨年、学園の伯爵令嬢達に何をした?」




 サミュエル様の双眸に嫌悪の色が浮かぶ。




「アレが引き金となって、元々少数派になってしまっていたライアス殿下派から第2王子のアルベルト殿下派に乗り換える貴族が更に続出したんだ。こうなると残ったライアス殿下派としてはマリーベル嬢が婚約者に収まっている間に代わりの婚約者を立てて陛下に認めさせてしまいたい。だが女性を女性とも思わぬライアス殿下の婚約候補者など上がる筈も無い。」




 それはそうね。




「そして候補者も定まらぬウチに今回のマリーベル嬢への傷害計画が上がってしまった。だから連中は今回だけはマリーベル嬢を保護する方向に動いたのさ。」




 ああ、そういう事か。私は凄く納得した。




「それでお父様は何を・・・?」


「うむ、全部は話せないがゼスマイヤー公爵と面会を重ねていた。」




 え!?


 突然とんでもない人の名前が出て来て私は仰天した。『無情の怪物』と呼ばれるあの公爵と会っていただなんて!




「ゼスマイヤー公爵とお会いになっていらっしゃったのですか?」


「そうだよ。」


「だ・・・大丈夫だったのですか?」


 泡喰って尋ねる私にヒナちゃんが尋ねてきた。


「マリ、知ってるの?」




 そっか。ヒナちゃんには1年の五草会の時に1回名前を出しただけだもんね。覚えてないよね。




「うん。前にヒナちゃんにも話した事あるけど、侯爵様と一緒に私の婚約話を国王陛下に提案した人。このアルマタニア王国の筆頭貴族よ。凄く頭の良い方で、とても冷酷な人だって聞いているわ。自分の考えにそぐわない人は容赦なく切り捨てる人だって・・・。確か第2王子のアルベルト殿下派の筆頭でもあった筈。」


 私の説明を聴いてサミュエル様は頷いた。


「確かに危険は在った。だが『竜を従えたくば其の巣に入れ』と言う言葉にも在る通り、事態を打開するには勇気を示す必要も在ったんだよ。」




 竜を従えたくば其の巣に入れ・・・前世の世界で言う処の『虎穴に入らずんば虎子を得ず』と同義語の諺だ。




「それにライアス殿下とマリーベル嬢の婚約話の支持者でもあった事だしね。」


 慌てだしたヒナちゃんがサミュエル様に尋ねる。


「お、お父様、ホントに大丈夫だったのですか? 敵の大ボスで冷酷非情でモンスターみたいな人なんですよね!?」


「モンスター・・・。」


 サミュエル様が苦笑した。


「確かにモンスターと言えばモンスターだな。だが彼は無法者ではない。決してブレない信念に基づいて行動している。その信念を貫く為ならば、例え血を分けた家族でさえも容赦なく切り捨てる。敢えて言うなら信念のモンスターと言った処か・・・まあそう言う意味では確かに冷酷非情だが、決して感情任せに動く様な無軌道な人間では無い。」




 信念・・・。私はリューダ様を思い出す。




「その信念とは何なのでしょうか?」


「民の安寧さ。」


「タミノアンネイサ・・・?」


「民の安寧・・・。」


「そう、民の安寧だ。そう考えると彼の言動にも筋が見えて来る。」




 意外な言葉だった。




「そうなんですか?」


「うむ。例えば陛下にウケの良くないハナコ商会が、未だに妨害も入らずに商売が出来ているのはゼスマイヤー公爵が陛下を止めているからだしね。」


「・・・。」


「そしてマリーベル嬢とライアス殿下の婚約についても無駄な王位争奪戦をさせぬ為に賛同した、と言うのならば解る話だ。マリーベル嬢との婚約が成立した場合、多数派のアルベルト派は『ライアス殿下は競争から脱落した』事を察して落ち着くからね。争いにはならない。精々が少数のライアス派が躍起になる程度だ。」




 そっか。そう言う事か。確かにソレなら民衆のダメージは殆ど無いのかも知れない。貴族同士の確執は深まるとしても。




 ただヒナちゃんは不満げだった。


「・・・でも、それじゃマリーベル様が可哀想です。」


「そうだね。だがゼスマイヤー公爵はそういった感情は持たない。王位継承争いが激化して貴族達の啀み合いが表面沙汰になれば必ず民がその煽りを喰らう事になる。民の安寧を護る為なら1人の貴族令嬢が不幸になる事は気に掛けないんだ。だからこそのモンスターさ。」


「・・・。」




 私はこの一連の件の裏事情を知る事が出来て妙にスッキリしていた。傷付くことも無くこんな気持ちになれるのもきっと・・・。


 私は2人を見た。




 サミュエル様がヒナちゃん頭をポンポンと叩いている。


「お前がそんな顔をしてどうする。マリーベル嬢は受け容れているぞ?」




 不満そうな顔でヒナちゃんがチラリと私を見る。


 私は微笑んだ。


 私が傷付くことも無くスッキリした気持ちになれるのも貴女が側に居てくれるからよ。




 ヒナちゃんはハァと溜息を吐いてサミュエル様に尋ねる。


「事情は解りました。では、あたし達が学園に通っても大丈夫と言うのは・・・?」


「ゼスマイヤー公爵が社交界に口を利いてくれた。『今後、マリーベル=テスラ=アビスコートとその友人達に手を出す事を禁じる。手を出した場合はゼスマイヤー家を敵に回すと知れ』とね。」


「・・・?」


「解らないって顔をしているね。」


「はい。」


「簡単に言ってしまえばゼスマイヤー公爵はアビスコート侯爵を切り捨てたという事さ。」


「え・・・。」


「公は言っていたよ。『最初に案を持ち込んだ迄は良かった。が、その後は何もせずに放蕩生活を続けており、細かな調整は儂がやっていた。役立たずは必要ない。』とね。」




 無責任に丸投げするあの人らしい。提案だけして『やった気』になったのね。で、上の人の手を煩わせて切り捨てられたのか。




 そしてサミュエル様はゼスマイヤー公爵との会話の一部を教えて下さった。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




『サミュエル卿。』


『はい。』


『君はこの国と周辺の国々を比較してどう思う。』


『どうとは?』


『女性についてだ。』


『・・・諸国では貴族女性の社会進出が当たり前になってきましたな。』


 ゼスマイヤー公爵は頷く。


『で、在るな。翻って我が国では、未だ女性は家に居るもの・・・という風潮が主流だ。』


『左様で御座いますな。』


『・・・時に卿の娘は中々に面白い発想で学園を賑やかしているとか。』


『はい。学園に留まらず、あの子は我が商会の当面の柱になり得る新商品やイベント事にも知恵を出してくれております。』


『うむ。』


『そしてマリーベル様も・・・。』


 ゼスマイヤー公爵の目がスッと細まる。




 でもサミュエル様は臆すること無く言ってくれたそうだ。




『彼女も斬新な発想からクルマイスなる物を私に提案してくれ、その商品もこの国に大きく貢献してくれております。』


『・・・。』


『彼女は自分の生い立ちの不幸に腐る事なく前を向いて経験から知恵を絞れる賢い娘です。』


『・・・知っている。』




 公爵は溜息を吐いて認めたそうだ。




『儂も足腰が弱ってきていてな。屋敷では妻共々世話になっている。』


『左様で御座いましたな。閣下にも何台かお買い上げ頂いておりました。』


『父親とは随分と違う。』


『はい。親子とは思えぬほどに聡明な娘です。』


『控えよ。あの男とて仮にも侯爵、卿より上位の貴族だ。』


『失礼致しました。』


『・・・。』




 この無敵のサミュエル様を諫めるなんてやっぱり怖い人だな。




『この事は誰にも言わんと誓え。』


『娘達には話します故に、そのお積もりでお話し下さい。』


『娘か・・・まあ良かろう。』


『・・・儂はアビスコートを切る。』


『左様で御座いますか。』


『ライアス殿下はもうダメだ。敢えて此方が瑕疵を付ける必要も無く、自分から底なしの沼に嵌まっていきよった。従ってマリーベル嬢との婚約にも何の意味も為さない。』


『・・・左様で御座いますな。』


『そして先の傷害未遂の件だが。アレは同じように考えた陛下が、もう婚約関係は必要ないと判断してアビスコートに命じた事だ。儂もその場に居たのでな、ライアス殿下派に防ぐように命じたのだが間に合わなかった様だ。』


『・・・。』


『そう怒るな。故に詫びの意味も込めてこの話をするのだからな。儂は今日にでも貴族共に言うつもりだ。「今後、マリーベル=テスラ=アビスコートとその友人達に手を出す事を禁じる。手を出した場合はゼスマイヤー公爵家を敵に回すと知れ」とな。』


『閣下・・・。』


『もはやアビスコートと組む価値は無い。寧ろ将来を鑑みれば学園でも良好の人脈を作り上げている娘の方を護った方が民達に恩恵も多かろうて。』


『しかし其れではアビスコート侯爵が納得しないのでは? 事が成れば閣下の血筋の令嬢をアビスコート家の次男に嫁がせると・・・。』


『無能に嫁がせる人間など我が一族には居らんよ。奴には違う報酬を与えて黙らせる。』




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 大体こんなやり取りが在ったそうだ。そしてサミュエル様もゼスマイヤー公爵と何か約束をしたらしいけどソレについては教えて下さらなかった。




「何にせよ、だ。」


 サミュエル様は仰った。


「この国の誰もが恐れる1番怖い貴族様の後ろ盾が付いたんだ。明日からでもお前達は学園に戻って大丈夫だ。」




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 ただいま。




 久しぶりに学園に帰って来た。2年近くも住んでいると何か『帰って来た』って感じがするな。




 正門で私達は足を止める。


 ソコには大きな聖夜ツリーが立っていた。




「うぉ!?クリスマスツリーだ!」


 ヒナちゃんが叫ぶ。


 私も少し興奮して言った。


「セーラさん達が作ったのかな!?」




 私達はジックリとツリーの周りを回りながら眺めた。


「・・・。」


 こうやって見てるとみんなが楽しそうに作っているシーンが勝手に脳内に浮かんでくる。




 ああ、でも嬉しい。会えなかった2ヶ月弱の間も、私達とみんなの縁は繋がったままだったんだなって、物言わぬ聖夜ツリーから嬉しい伝言を貰った気がする。




 ひょっとしたら、こんなツリーが女子寮にも在るかも知れないと考えて


「寮に行ってみようよ。」


 とヒナちゃんに提案してみた。




 女子寮の入り口をくぐった先の玄関ロビーには案の定、聖夜ツリーが立っていた。




 ヒナちゃんの双眸からポロリと涙が零れる。




「ヒナちゃん泣いてる。」


 私が微笑んでそう言うとヒナちゃんも


「マリだって涙目じゃん。」


 って笑いながら返してきた。




 その後、私達の帰寮に驚いたマゼルダ婦人と挨拶の抱擁を交わして久しぶりの自室に戻った。




 本当に久しぶりだ。2ヶ月弱ぶりの帰寮となるんだ。


 私は感慨に胸が一杯になってくる。




「うーん・・・帰って来たね。」


 私は精一杯ノビをしながらそう言った。




 ヒナちゃんの家も何だか本当に自分の家の様に錯覚するくらい居心地が良かったけど、やっぱり私の原点はこの部屋から始まっているんだし居心地の良さも一入なんだ。




「ふふふ。おかえり、マリ。」


 ヒナちゃんが私の後ろからそう声を掛けて来る。意外な事を言われてちょっとだけ驚いたけど私は直ぐに微笑んでお返しした。




「ただいま、ヒナちゃん。そしてヒナちゃんもおかえり。」


「うん。ただいま。」




 ああ、幸せだな。






「コタツー!」


 ヒナちゃんはそう叫ぶとお気に入りのコタツの中に滑り込んだ。




「みんな今は試験中かな?」


「だろうね。今日は社会学と魔学・・・かな?」


「多分。」


「明日が最終日で武術か。」




 大変だなぁ。




 一足早く試験を終わらせた私はみんなに頑張ってと心の中でエールを送る。気が付けばヒナちゃんはゴロンと寝転がっていた。私も横になりヒナちゃんを見る。




「またココに戻って来られて良かった。」


「だねぇ。一時はどうなる事かと思ったけど、意外とアッサリだったねぇ。」


「ハナコ様が凄い人だからよ。本当に200人の傭兵さんを護衛にしちゃうしゼスマイヤー公爵と話を着けて来ちゃうし。」


 私がそう感想を言うと


「ふふふ。」


 とヒナちゃんが擽ったそうにでも嬉しそうに笑う。とっても可愛い。




 ふとヒナちゃんは笑顔を収めると私を見つめた。


「でもね。ホントに頑張ったのはマリだよ。」


「え?」


 私はヒナちゃんの視線にドギマギしながら訊き返す。


 私、なんにもしてないけど。




「お父様が仰られた通りで、マリが腐らずに今まで頑張ったから・・・優しい気持ちを忘れなかったから、お父様も強気で動いたしソレに煽られてゼスマイヤー公爵も口添えしてくれた。」




 あ・・・。




「ホントにそう思うよ。もしマリがあの時にクルマイスをお父様に提案していなかったら、今回ゼスマイヤー公爵は口添えしなかったと思う。あの件で公爵はアビスコート侯爵よりもマリの方が国の役に立つって思ったんだろうし。」




 そうなのかな。


 でもヒナちゃんがそう言うなら。




「うん。」




 私は照れ臭かったけど素直に頷いた。


 とっても嬉しい。






 本当に運命なんて判らない。




 もし私があの時ハナコ様に車椅子を提案しなかったら・・・ううん、それ以前に五草会の時に私が食事に拘らずにさっさと自室に戻ってしまっていたら・・・。きっとヒナちゃんとこんなに仲良くはなってなかっただろう。


 そしていずれ、私は高等部の2年生か3年生辺りでアビスコート家に因って疵物にされて家から用無しと見捨てられ、野垂れ死にの運命を辿ることになっただろう。




 本当に幾つもの過去の出来事が積み重なって今の環境が在るんだなと、今回は特に強くその事を学ばせて貰った気がする。




 ともあれ、私はこの国の貴族の中で最大の権力を持つ筆頭公爵の加護を得る事となった。




 もちろんゼスマイヤー公爵の加護が永続的に続くモノとは思っていない。公爵が私に加護を与えたのは、過去の私の言動が公爵の信念に合致したからに過ぎない。私を不要と考えれば、彼は容赦なくこの加護を取り払うだろう。




 でも其れでも良い。其れでヒナちゃん達に危害が及ばなくなるなら充分だ。


 今の内に出来る事を考えなくちゃならないけど、その時間が貰えただけでも随分違うと思っている。




 ふと気が付くとヒナちゃんが怖いくらいに真剣な表情で何か考えている。




「ヒナちゃん、何か怖い顔をしてるよ? どうしたの?」


 心配になってそう声を掛けるとヒナちゃんは我に返った様に私を見上げた。




「ふふふ。何でも無いよ。」


 ヒナちゃんは突然私の頭を撫でて来てビックリするくらい優しい表情で微笑んだ。




「!・・・!?・・・!!」


 子供扱いされた不満と途轍もない嬉しさと恥ずかしさで私は言葉を失って固まってしまった。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「ヒナちゃん!マリ様!」


 扉が開いたかと思えばフレアさんが叫びながら飛び込んで来た。




 ヒナちゃんが微笑みながら優美に立ち上がる。


「あらあら、フレアさん・・・。」


 其処まで言い掛けた時フレアさんの頭がヒナちゃんのお腹に激突した。


 ヒナちゃんは


「フグゥ!?」


 と呻き声を上げてゴロゴロと転がった。


 その後を追うようにフレアさんもゴロゴロ転がり2人は身体をくの字に曲げたまま動かなくなった。




 耳を澄ますと転がった2人の弱々しい会話が聞こえて来る。




「グフッ・・・フ・・・フレア・・・なんで突進してきたのよ・・・。」


「ゴ・・・ゴメン・・・。嬉しくって、つい・・・。」


「・・・激しいわね、あんた・・・。」




 だ・・・大丈夫なのかな。


 思わず立ち上がりかけた私にアイナさんが


「マリさん、お帰りなさい。」


 と声を掛けてくれる。


「ただいま、アイナさん。」


 途端に嬉しくなって私はそう返事する。




 そして私達は一緒にやって来たリューダ様、エリオット様、エオリア様も部屋に招いてコタツに足を突っ込んだ。


 私とヒナちゃんが並んで座り、御令息方もそれぞれの婚約者の横に並んで座り、セーラさんの横にはリューダ様が座る。




「2人ともお帰りなさい。」


「ただいま、みんな。」


 御令嬢3人の眼に涙を浮かんでいるけどそれ以上に嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。様子と進捗を訊きたがる6人に私とヒナちゃんは代わる代わる話をしていく。




「ゼスマイヤー公爵閣下が後ろに着いてくれるなんて凄いな。」


 エリオット様が唸る。


「でも、気を付けた方が良い。ゼスマイヤー公爵は気紛れな処があるから、いつ後ろ盾を撤回するか判らないし。」


 エオリア様がいつになく真剣な表情で言う。




 そうだね。


 「気紛れ」からは1番程遠い人だと言うこと私とヒナちゃんは知っているけど、気を付けた方が良いという意見には激しく同意だ。




「では、僕らが周辺に気を付ける必要は無くなったと考えても良いのでしょうか?」


 リューダ様が尋ねるとセーラさんが首を捻る。


「・・・難しい処ですね。ゼスマイヤー公爵様がそう社交界に口を利いて下さったとしても、ゼスマイヤー公爵様に反感を持つ貴族も少なくないと聞きますし。」


「では、引続き朝に皆で1日の行動予定を連絡し合う様にしましょう。」


 アイナさんが提案するとフレアさんが頷いた。


「そうだね。私達だけでも互いに何をしているか判っているのは安心するし。」


「そうだな。」


 エオリア様が頷く。


「そうだね。僕達としても女性方を護るのに皆さんの行動をある程度把握出来るてと動きやすいし。」


 リューダ様の言葉は本当にかっこいい。




 思い出した様にヒナちゃんが御三方を見て言った。


「そう言えば男性陣は武術会1位~3位までの独占、おめでとう御座います。」


「あ、おめでとう御座います。」


 私も笑顔で続く。




「ん?・・・ああ、有り難う。」


「有り難う。」


「ありがとう御座います。」


 美少年3人の照れ臭そうな笑顔はやっぱりちょっと良いかも。




 そして私はコレを確認したかった。


「あと、聖夜ツリーは皆さんが立てたのですか?」


 私が尋ねると6人は笑顔で頷いた。


「2人がいつ帰って来てもいいようにって。去年貴女達とやったツリー作成が本当に楽しかったから、せめて私達だけでもやろうって言ったらみんなが話に乗ってきてくれて。ギルドの皆さんの協力もあって完成させられたの。」


「そっか・・・。」


 ヒナちゃんの双眸が潤んでいる。


「ありがとう。」


 ヒナちゃんが火照る頬もそのままにお礼を言うとみんなも嬉しそうに笑ってくれた。






「フワア~・・・眠いわね。」


 みんなが帰った後にヒナちゃんが大きな欠伸をしながらそう言った時。


「あ!」


 私は大事なことを思い出して叫んでしまった。


「どしたの?」


 ヒナちゃんが尋ねる。




 私は答える。


「明日、ヒナちゃんの誕生日・・・。」


「・・・。」


 ヒナちゃんが『あ』って顔をする。ヒナちゃんが忘れているだろう事は想定内だったけど私まで忘れていたなんて自分が許せない!




 私は自己嫌悪に陥りながらヒナちゃんに告白した。


「私、何も用意してない・・・。」




 でもヒナちゃんはあっけらかんと言った。


「何かと思ったら・・・。別に良いわよ、最近は色々在ったんだし仕方無いじゃない。」


「でも・・・。」


 悔しい・・・。




「あたしはさ、マリが側に居てくれたらソレで良いんだよ。ホントに。」


「・・・。」




 もう。直ぐにそんな嬉しい事を言ってくれる。


 頭掻いて照れ笑いを浮かべるヒナちゃんに私は身体を預けた。




「マ・・・マリ?」


 私を受け止めてくれるヒナちゃんを見上げた。


「!?」


 途端にヒナちゃんが凄くビックリした顔をする。


 彼女が何にそんなに驚いたのかは解らないけど私の気持ちはそれどころじゃ無かった。




「ヒナ・・・。」


「は、はい・・・。」




 抱き締めたい。抱き寄せてキスをしたい。その唇に触れたい。でも。


 私は一旦俯いてブンブンと首を振った。


 そして再び彼女を見上げると、精一杯微笑んだ。




「なんでもない。やっぱり今日はやめとく。」




 ヒナちゃんのあの顔。多分、少しは解ってくれてる。私は戸惑うヒナちゃんに笑い掛けギュッと抱き締めた。


 そして耳元で囁く。


「ヒナちゃん、顔が真っ赤だよ。プレゼントは・・・明日の夜に・・・。」


「・・・。」


 それ以上は口に出来ない。




 固まるヒナちゃんから私はスッと離れると立ち上がった。


「おやすみ、ヒナちゃん。また明日ね。」


 呆然と見上げるヒナちゃんにもう一度微笑むと私は自分の寝室に入っていった。




 格好良く決めてはみたけど・・・でもでも! 眠れるわけ無いよ!




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 朝。


 早めに起きて私が作った朝食を済ませた後、私達は2人でコタツに落ち着いた。




「今日を過ぎればヒナちゃんも大人予備軍だね。」


「そっか。あたしだけが未だ子供なのか・・・。」


「そう。ちびっ子。」




 むー。ヒナちゃんがプクリとホッペを膨らませる。


 何、その表情!初めて見た!可愛い!




 私は堪らなくて


「可愛い、可愛い。」


 とヒナちゃんの頭を撫で回した。


「マリちゃん。子供扱いはやめてくれる?」


 ヒナちゃんの抗議に私は首を傾げる。


「でも、ヒナちゃんは未だ正真正銘の子供でしょ?」


「むー!」


 ヒナちゃんの唸り声があんまり可愛くて私は笑ってしまった。




 その後、聖夜パーティーに何を着ていこうかって話になったんだけど・・・色々と思い出したくない。あんな恥ずかしい格好をしたのは前世から思い返しても初めてだった。


 結局、制服で行こうって話になって私はホッとした。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 そして聖夜パーティーが始まった。今年は5人とも制服での参加だ。




 スクライド様が張りのある声で開会を宣言し、学園生徒の皆の歓声がソレに続く。


 本当に久々の賑やかな雰囲気に私とヒナちゃんの眼がキラッキラと輝く。




「ヒナもマリさんも、こういうの久しぶりでしょう?」


 尋ねるアイナさんに私達は元気よく応える。


「うん!」


「じゃあ楽しまないとね。」


 セーラさんの言葉に私達は元気よく応える。


「うん!」


「プ・・・アハハ。ヒナちゃんとマリ様、子供みたい。」


 フレアさんに笑われて私達は赤面する。




 色とりどりの料理皿を眺めながら、私達いつもの8人は何を食べるか「あれがいい」「これが美味しい」と言いながら卓を賑やかした。




 大講堂の中央には大きな聖夜ツリーが飾られていて、皆がソレを見上げながら談笑している。ソレを見ていると何だか嬉しくなってくる。クリスマスツリーがこの世界のみんなに受け容れられたようで。






「やあ、ハナコさん!」


 一際賑やかな声がヒナちゃんを呼び止めた。


「ス・・・スクライド様。お久しぶりです。」


「うん、久しぶり!」


 ヒナちゃん、笑顔が引き攣ってるよ。




「大変だったね、2人とも大丈夫かい?」


 その声が聞こえて私の中でサイレンが鳴り始める。


「お久しぶりです、セシル様。はい、この通り元気です。」




 チラリとヒナちゃんを見ると、やっぱり他の人に向ける笑顔とは明らかに違う笑顔を向けている。


 なんか悔しい。


 その笑顔は私にだって向けてくれるんだから。


 それどころかもっと可愛い表情だって知ってるんだから。




 ソコまで考えて私は『何を考えてるんだ』と自分の馬鹿さ加減に赤面する。




「マリーベル嬢? どうかしましたか?」


「!・・・い、いえ。」


 恥ずかしくて2人の顔が見れない。




「そう言えばマリーベル嬢、ハナコさん。君達、ゼスマイヤー公爵の夜会に招かれたって本当かい?」


「「え?」」


 思わず顔を上げてマジマジとセシル様を見つめてしまう。。




 私達がゼスマイヤー公爵の夜会に招かれた?


 そんな話は聞いていないけど。




 私達の反応を見てセシル様は首を傾げる。


「あれ? 違うの?」


「はぁ・・・。あたし達は聞いていないですけど。」


「そっか・・・まぁ、確かにゼスマイヤー公爵が貴族当主ではなく令嬢を夜会に招くとも思えないし、ただの間違った噂かな?」


「そうだと思いますけど。」




 私とヒナちゃんは互いを見る。・・・何か嫌な予感がするな。




 気が付くとヒナちゃんが微笑んでいた。


「どうしたの?ヒナちゃん。」


 私が尋ねるとヒナちゃんが指を差した。




 エリオット様にアイナさん。エオリア様にフレアさん。・・・そしてリューダ様にセーラさん? あれ?何か・・・良い雰囲気?




「あの6人、良い感じじゃない?」


 ヒナちゃんの楽しそうな声に私も微笑んでしまう。


「・・・そうだね。」




 ヒナちゃんは言った。


「サンタさんのクリスマスプレゼントかな。」




 サンタさんのプレゼント・・・。ヒナちゃんはこう言うロマンチックな事をサラッと言う。




「その考え方、素敵。」


 私はヒナちゃんに囁いた。




 私も・・・クリスマスプレゼントを・・・。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 部屋に戻ってくるとあたし達はコタツに飛び込んだ。




「聖夜パーティーも終わっちゃったね。」


「だね。」




 どうしようかな。訊き辛いけど・・・気になる。




「あのね。」


 私は思いきって尋ねる。


「うん?」


「セーラさんとリューダ様、楽しそうだったね。」


「だね。」


「ヒナちゃん、寂しくない?」


「?」


 ヒナちゃんは首を傾げる。


「なんで?」


「だって・・・。」


 そういう方面には鈍いヒナちゃんがそう訊き返してくるのは解ってた。だから私は視線を逸らして言った。




「ヒナちゃん、セーラさんとリューダ様と仲良かったでしょ?」


「・・・ああ。」




 伝わったみたい。




「そういう意味か。だったらマリの心配は必要ないよ。」


「ホントに?」


「うん。」


 ヒナちゃん・・・ムリしてないっぽい。


「そっか。」


 私は少しホッとした。




「ふふふ。」


 ヒナちゃんが笑って私の頭を撫でた。


「心配してくれて有り難うね、マリ。」


「!」




 急にそういう事するのはズルいよ。嬉しいけど恥ずかしい。


 でも、言うなら今かも。




 私はヒナちゃんの腕を掴んで自分の胸にヒナちゃんの手を当てた。ヒナちゃんの手がビクリと震える。




「ねえ、ヒナちゃん。」


「は、はい。」


 ヒナちゃんの声が上擦っている。




 私は想いを込めて言った。




「私もヒナちゃんにプレゼントしたい。」


「え・・? でも今年は用意出来なかったでしょ?」


「うん。物は用意できなかった。」




 やっぱりヒナちゃんは昨日の私の言葉をちゃんとは理解出来てなかったみたい。


 うん、じゃあはっきりと言おう。




「だから・・・今年のプレゼントは形に残らないけど受け取って。」


 私はそう言うとやっと理解してくれたヒナちゃんに微笑んだ。








 夜の帳に静かに降る雪の音が聞こえてくるかのよう。


 銀色の月の輝きが外に積もる雪に反射して、窓からいつもよりも明るい光となって寝室を照らしている。




 そんな中、私とヒナちゃんは同じベッドの中で互いに向き合って視線を合わせた。


 トクン・・・トクン・・・。


 心臓の音が聞こえてくる。




「ヒナ・・・。」


 頬の火照りもそのままに私は彼女の名前を呼んだ。




「うん。」


 ヒナはその白磁の肌を薄紅色に染めて頷いた。




 私は腕を伸ばしてヒナのスベスベの頬を撫でる。そしてそのまま彼女の頬の上を滑らせて私はヒナの唇をゆっくりと擦っていく。




 ヒナがキュッと眼を瞑った。




 可愛い・・・。




 私はヒナの髪を撫で梳いていく。


「綺麗な髪・・・私の大好きな赤色の髪。」


 そう囁く。




 私は指をヒナの首筋に踊らせた後、スルリと滑らせて少しだけ膨らみに触れる。




「・・・ん・・・。」


 ヒナの身体が少しだけピクリと動いて声が漏れる。




 ダメだ。堪らない。




 私は腕をヒナの細い腰に回すと彼女を引き寄せた。急に抱き寄せられて驚いたのかヒナが眼を開けた。




 その驚いた顔があんまり可愛くて私は笑みを口の端に浮かべた。


「ヒナ・・・かわいい。」


 興奮しているせいか少しだけ掠れた声になってしまった。




 ヒナは視線を私に合わせたり外したりしながら


「マリ・・・めちゃくちゃエッチな顔してる・・・。」


 と小さな声で言った。




 私はクスリと笑った。


「・・・今からヒナにエッチな事するんだから当たり前だよ。」


「う・・・うん・・・。」


 ヒナがコクリと頷く。




 私は無言でヒナに顔を寄せると首筋にキスを1つ落とした。そしてその綺麗な首筋に舌を這わせていく。




「は・・・あ・・・。」


 今度ははっきりとヒナの口から声が漏れる。




 私は首筋から顔を離すとヒナを見つめた。潤んだ瞳がとても綺麗で。僅かに開いた唇がとても愛らしくて。私は彼女の唇に想いを込めて唇を重ねた。




 ヒナが私の首に腕を回してきた。


 ああ、私を欲してくれている。


 私は堪らずヒナの上にのしかかりさっきよりも激しく口づけを重ねた。




 私は彼女の口の中に舌を差込んだ。そして探り当てたヒナの舌を絡め取る。ヒナも激しく応じてくれる。




 もう夢中だった。私の意識も理性も心も全部ヒナに吸い取られていい。ただ、ずっとこうして居たい。




 どれ程の間キスを重ねていたのか判らないけど、やがて私は唇をヒナから離した。




 そしてヒナを跨ぐ格好で身体を起こす。ソレに合わせて私達の上に掛かっていた布団が剥がされた。




 忽ち私達を冬の凍てついた冷気が包み込む。でも燃え上がった私達には関係無かった。


 そんな事よりも・・・。




 冬の銀月と雪明かりに照らし出され、ベッドにしどけなく横たわりながら私を見上げるヒナの美しい顔と裸体に見惚れる。








 今の私とヒナは下着1枚しか身に纏っていない姿。だからヒナの紅色に輝く髪も真っ白な雪肌も膨らみもはっきりと私の目に映っていた。




『・・・ホントに綺麗・・・。』


 そう言おうとした時。


「・・・ホントに綺麗・・・。」


 全くおんなじ事をヒナが呟いた。




 思わず微笑んでしまう。




「嬉しい・・・。でもヒナの方がもっと綺麗だよ。」




 私はそう返して両手でヒナの身体を撫でていく。両肩を。膨らみを。お腹を。とても滑らかで温かくて。


 ヒナは時折


「・・・あ・・・」


 と声を漏らしながら身を捩らせる。




 私は布団を被りながらヒナに身を倒した。そしてヒナの上半身にキスを落としながら舌を這わせていく。




「ふ・・・う・・・。」


 ヒナの口から声がどんどん漏れてくる。




 私は動きを止めて彼女の名前を呼んだ。


「ヒナ。」


 ヒナは恍惚とした双眸を私に向けて来る。




 私はヒナにゆっくりと舌を出してみせた。そして顔をヒナの膨らみに落としていく。




「あ・・・。」


 私が何をしようとしているか理解したのか彼女が少し慌てた様な声を上げる。




 私はヒナの膨らみに舌を這わせた。そしてキスを落とし激しく攻め立てる。


 今までにも同じ事をした事は在ったけど、こんなに激しく攻めた事は無かった。




「はっ・・・・あっ・・・・。」


 大きな喘ぎ声がヒナの口から飛び出す。




 ヒナは激しく身を捩りながら喘ぎ続ける。私は無意識に逃げようとするヒナの身体を確りと抱き締めた。ヒナの両腕が伸びて私の頭を抱いてくる。




 身悶えるヒナが、声を上げるヒナが、とても可愛くて私は夢中になって彼女を攻め続けた。




 やがて私はヒナの膨らみから唇を離した。そしてまだ現実に戻らないヒナに軽くチュッとキスをする。




「はあ・・・はあ・・・。」


 私はヒナの横に添い寝して息を荒げるヒナを見つめた。






「良かった?」


 息が落ち着いてきたヒナに私が尋ねると、彼女は薄らと目を開けて微笑んだ。


「うん。」




 良かった。


 でもね、これからが本番だから。




「マリ?」


「じゃあ、プレゼントをあげるね。」


「え?」


 首を傾げるヒナに私は微笑んだ。




「ヒナ。ヒナも私の15の誕生日にくれたじゃない。忘れちゃった?」


「・・・!」


 私の言葉で多分ヒナは私がこれから彼女に何をしようとしてるのか一瞬で理解したのだろう。彼女は小さな声で答えてくれた。




「・・・忘れるわけ・・・ない。」




 良かった。




「じゃあ私が今からヒナにしようとしてる事・・・解るよね?」


「・・・うん。」


 ヒナは真っ赤な顔でコクリと頷く。




 ああ・・・やっと。


「・・・私・・・ずっと待ってた。」


 私の呟きヒナは首を傾げた。


「・・・?・・・何を?」


 私はヒナを見つめた。


「ヒナが15歳になるのを。」


「え・・・?」


「・・・ヒナが子供じゃなくなる日を。」


 ヒナの双眸が揺れ動いた。


 私は更にヒナに躙り寄る。


「私ね、15歳になったから大人予備軍だって言われても全然ピンと来なかった。でも・・・ヒナに囁かれながら全部をヒナに差し出した後、何か世界が変わった気がした。大人になれそうな気がした。」


「マリ・・・。」


「だから・・・ヒナにもその気持ちをあげたい。」


 ヒナは少しだけ身を竦めて私から視線を逸らした。




 怖がらせてしまったかな。でも・・・。


「・・・。」


 私はそっとヒナを抱き締めた。




「怖がらないで。」


 彼女の耳に囁く。


 ヒナはピクリと身を震わせると私を見た。




「でもね、ヒナが本当に嫌だって言うならもちろんやらないよ。」


 本当は止めたくないけど、やっぱりヒナが嫌がる事はしたくない。




 するとヒナはブンブンと首を激しく振った。


「嫌じゃ無い。ただ・・・マリに変に思われたりしたら怖いなって・・・そう思うから・・・。」




 こんなに可愛い人を変だなんて思うわけが無い。


 私は微笑んだ。


「変に思うわけ無いよ。私の大好きなヒナがどうなったって変になんか思わない。どうなってもヒナは可愛いんだから。」


「うん。」


 ヒナはとても愛らしく頷いた。そして。


「マリ・・・プレゼント・・・頂戴。」


 そう言ったヒナの顔がとても扇情的で蠱惑的で私の胸はドクンと高鳴り顔が急激に熱くなっていく。




「うん。受け取って。」


 私はヒナに顔を寄せて口づけた。




「ふ・・・う・・・。」


 ヒナの口から声が漏れる。




 彼女が身動いだので私は唇を離してヒナを眺める。双眸を、唇を、首筋を、鎖骨を。そして彼女の膨らみを。


「・・・。」


 私は彼女の膨らみに手を伸ばした。


 傷付けない様に優しく指を踊らせる。




「!・・・!・・・っ!」


 声を我慢しているヒナの身体がピクリピクリと震える。


 頬を紅色に染めながら必死に声を押し殺すヒナが可愛すぎてその表情に見惚れてしまう。


「ヒナ・・・可愛いよ。」


 私はヒナの耳元にそう囁いて彼女の耳をペロリと舐めた。でもヒナは多分気が付いて無いかな。




 私は微笑むとヒナのお腹を撫でながら次第に下に下げていき・・・ヒナの下着に触れた。




「・・・。」


 ヒナは肩で息をしながら私の顔を見詰めている。


 私も彼女を見つめ返す。


 さっきから胸の鼓動が高鳴りっ放しだ。




「マリ・・・。」


 ヒナがゾクリとする程の掠れた声で私の名前を呼んだ。


 彼女はもうソノ気になって私を待っている。


 私はゴクリと喉を鳴らした。




「ヒナ・・・脚を開いて・・・。」


「・・・。」


 一瞬だけ彼女は視線を揺らめかせると恥ずかしそうに視線を逸らした。そして彼女の脚がゆっくりと広がる。




「・・・。」


 大事な人の大切な場所に私は今から触れるんだ。そう思うと手が震える。




 私はもう1度ゴクリと喉を鳴らすと下着越しにヒナに触れた。




「!!」


 ヒナが激しく仰け反った。




 私はゆっくりと指を上下に動かしていく。


「!・・・ふっ・・・うっ・・・。」


 ヒナは声を押し殺しながらビクンと身体を捩らせる。




 真っ白な肌がピンク色に染まり身悶える彼女はとても愛らしくて、ダークレッドの髪が肌に浮かんだ汗を吸って張り付いた顔はとても妖艶だった。




『綺麗・・・。』


 私はヒナに何度も口づけた。




 出会った時からとても素敵だった彼女。惨めに生きてきた私にはとても手が届かない光輝く存在だった。そしてそんな彼女の優しさと温かさに救われて以来、日増しに私は彼女に惹かれていった。『釣り合うような存在になりたい。』そう思いながら彼女の隣で頑張ってきた。


 そして1年が過ぎ、もうすぐ2年が経とうとしている今。


 漸く私はヒナの全てに触れる事が出来た。彼女に受け容れて貰えた。




 ソレが何より嬉しい。




 ヒナが熱い。触れている部分が燃えるように。


「マ・・・リ・・・。」


 ヒナが私の名前を呼んで力一杯抱きついてきた。




「ヒナ・・・可愛いよ。とても綺麗・・・。」


 私がそう言うとヒナは更に強く抱き締めてくる。




 痛い。加減無しに力一杯抱き締められて身体が軋むようだ。でもそれ以上に幸せで嬉しい。




「大・・・好き・・・。」


「私もだよ、ヒナ。誰よりも愛してるわ。」




「あ・・・あ・・・」


 ヒナが喘ぎ、彼女の身体が何度もビクンと跳ねた。




 そして全ての力を奪われる様に全身を弛緩させた。




「ハァ・・・ハァ・・・。」


 肩で息をするヒナの荒い吐息の音だけが部屋を満たしている。




 私は彼女を見つめた。


 見れば見る程に愛しさが込み上げてくる。




 いつも綺麗で元気な人。頭が良くて武術も強くて何でも出来る人。でも気取らず優しくて楽しくて本当に素敵な人。




 ホントに大好きだよ。




「・・・。」


 やがてヒナが私を見た。綺麗なダークレッドの瞳をこちらに向けて。




 私が微笑むとヒナは恥ずかしそうに顔を枕に埋めた。そして消え入りそうな声で尋ねてくる。


「なあに・・・?」


 ヒナの真っ赤な耳たぶを見て私はクスリと笑った。


「ヒナ、とっても可愛かったよ・・・食べたくなっちゃうくらい。」




 ヒナが枕を抱き締めながらか「むー!」と唸った。


「もう・・・! ・・・恥ずかしいよ・・・。」




 今、彼女はどんな表情をしているんだろう。


 見たい。


 私はヒナに腕を回して更に囁いた。




「ねえ、ヒナ。コッチ向いてよ。」


「・・・。」


 ヒナは怖ず怖ずといった感じで私を見る。




 その顔が可愛くて。


 私は笑ってヒナちゃんの頬に「チュッ」とキスをした。




「ヒナちゃん・・・顔真っ赤。」


「・・・うん。」


 素直に頷くヒナちゃんを微笑ましく見ていたら彼女が突然表情を変えた。


「!?・・・!!・・・!!」




 ヒナちゃんは私の腕をガッと掴むとベッドの横に備えられたタオルを手に取って私の手をゴシゴシと拭き取った。




「あ・・・。」


 思わず私は声を上げてしまう。残念。


「・・・別に良いのに・・・。」


 私が呟くと


「馬鹿!良くない!」


 ヒナちゃん真っ赤な顔で私を窘めた。




 やがて気が済んだのかタオルを枕元に置いたヒナちゃんは再び私の横に寝転んだ。




「マリ・・・ありがとう・・・。」


「!・・・うん・・・。」


 まさか「ありがとう」と言って貰えるとは思ってなかったので少しビックリしたけど嬉しくなって私は微笑んだ。




 そして一番伝えたかった言葉を口にする。




「ヒナちゃん。15歳のお誕生日、おめでとう。」




 ヒナちゃんの照れ臭そうな表情は、多分一生忘れられないな。









5/22

誤字報告を頂きました。早速適用させて頂きました。

有り難う御座います。大変助かります。

なんであんな変換がされたのか不明ですがお恥ずかしい限りです。


ここ数ヶ月、仕事が在宅ワークから通常業務に戻った関係で投稿ペースもかなり落ちていますが

物語も終盤に突入しますので頑張って完結させていく所存です。


それから、次回より本編に戻りますのでこれからもどうぞ宜しくお願い致します。



2023/4/19

1/16


誤字報告を頂きました。


早速適用させて頂きました。


大変助かります。有り難う御座いました。


これからも宜しくお願い致します。

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