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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター5 2年生編 / 二学期
90/105

S14 マリーベルの追蹤 3

マリーベル視点のお話の3話目です。

今学期は話のボリュームが多すぎてちょっと纏めに手こずってます。

もう一話「追蹤」をしてからヒナ視点の話に戻ります。

宜しくお願いします。



 学園祭が終われば直ぐにやってくるのは武術祭だ。




 ヒナちゃんが放課後に生徒会に呼ばれてブーブー言いながら行ってしまってから私は自室のリビングで悶々としていた。


 ああ、またセシル様に会ってるのか。いや、セシル様だけじゃなくて他の方々も居るのは解ってるんだけど。




「絶対、武術祭のイベントの話をしてるのよ。」


 セーラさんの声に我に返る。


「なんで解るの?」


 フレアさんが首を傾げる。


「前に生徒会の方と話してた時『武術祭の時の女子生徒の手持ち無沙汰を何とかしたい』って仰ってたのよ。」


「其れでヒナを呼んだの?」


 とアイナさん。


 セーラさんはコクリと頷く。


「あの子ならきっと何か面白いイベントを考えてくれるわ。」




 セーラさんの目の輝きが半端じゃない。


 対してアイナさんとフレアさんの顔は余り浮かない。


「でも、そうしたら武術際の応援に行く私達は楽しめないわ。」


「それにヒナの場合、本当に楽しそうな事を提案してきそうだから困るのよ。」




 あー・・・そう言う事か。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「おかえり、ヒナちゃん。」




 やっと帰って来たヒナちゃんに私は思わず笑顔を零しながら出迎えた。


「ただいま。」


 ヒナちゃんは笑顔でそう返してくれると部屋を覗いて3人に挨拶した。




「あら、いらっしゃい。」


「お邪魔してます。」




 3人の雰囲気にヒナちゃんは首を傾げる。




「・・・何?」


「生徒会に呼ばれていたでしょ?」


「うん。」


「また何か面白そうな事を話してたんじゃ無いかと思って。」




 ヒナちゃんは呆れた様な顔を見せながら答える。




「まあ1つ提案はして来たけど・・・決定じゃ無いから他の人には未だ話しちゃ駄目よ。」


「解ったわ。」




 キャーッと3人が小さい歓声を上げる。


 アイナさんもフレアさんも、先程はあんな事言ってたけど本当は楽しみなんだろうな。




 そしてヒナちゃんが話した内容は私達の想像を遙かに上回る素敵なアイデアだった。




 校内に散りばめられた「謎かけ(リドル)」を探しながら最終的には校外に出て宝物を見つけてくる、というモノだった。




「・・・って感じよ。」


 話し終わったヒナちゃんを私達は声も無く暫く彼女を見つめた。




 そしてセーラさんが叫んだ。


「凄いわヒナ!貴女、遊びの天才よ!」


 ヒナちゃんが苦笑いをする。




「・・・?」


 微妙な表情で黙っているアイナさんとフレアさんをヒナちゃんは不思議そうな表情で見る。




「あの・・・アイナ? フレア?」


「なんで・・・」


「?」


 ヒナちゃんが首を傾げる。


「なんでこのタイミングでそんな面白そうな提案をしてしまうの!?」




 2人の言葉にヒナちゃんは仰け反った。


 きっと「そんな理不尽な・・・」とか何とか思ってるんだろうな。




 でもさっきの2人の気持ちを聞いていた私はヒナちゃんと2人の間の余りにも開いている気持ちのギャップに可笑しくて笑いそうになってしまう。




「じゃ・・・じゃあ、アイナとフレアも参加する・・・?」




 ヒナちゃんは2人に怖っかな吃驚で訊いてみる。


 2人は瞳を揺らめかせてヒナちゃんを見つめている。アイナさんもフレアさんもすっごい考えてる。そしてやがて・・・。




「エリオット様を・・・」


「エオリア様を・・・」


「「・・・応援する。」」




 ヒナちゃんは苦笑して頷いた。




「でも、ソッチも楽しそう・・・。」


 泣きそうな顔で2人が言うと


「わかったわかった。じゃあ、別の機会に企画してみるから。」


 とヒナちゃんが宥めるように言う。


「本当!?」


「うん、本当。」


「やったあ!」




 喜ぶ2人を微笑みながら見つめるヒナちゃん。やっぱり優しい人だなあ。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 その夜、私はヒナちゃんにお強請りして久しぶりにヒナちゃんを堪能した。




 興奮し過ぎてヒナの首筋に軽く噛みつくと


「あは。くすぐったいよ、マリ。」


 ってヒナは可愛く笑いながら言った。




 なんかもう堪んない。


「・・・。」


 私はそのまま返事を返さずにペロペロと彼女の白い首筋を舐め始める。




「あはは。マリ、やめ・・・くすぐった・・・あん・・・。」


 ヒナの口から漏れた悩ましい声に私のテンションが更に上がっていく。




 私は顔を上げてヒナに微笑んだ。


「あん、だって・・・。可愛い。」


「・・・!」


 真っ赤になって私から目を逸らすヒナの首筋に私は再び甘噛みをし始める。




「は・・・あ・・・。」


 ヒナは身を捩りながら悩ましく声を漏らし続ける。




 ヒナの美しさと乱れぶりに夢中になりながら私がヒナを堪能していると彼女が掠れたような妖艶な声が吐息と供に私の耳に届いた。


「マリ・・・キスしよ。」


 私は動きを止まってヒナを見つめた。




 NOなんて有り得ない。




「うん。」


 私は頷くとヒナに顔を寄せた。




『クチュ』


 と水音が漏れるのも構わずに私はヒナの柔らかい唇に自分の唇を落とす。私の下で喘ぐヒナの姿が私を幻想の世界に誘ってくれる。




「マリ・・・。」


 彼女が囁いて唇で私の唇を挟むと


「ふ・・・。」


 と余りの居心地良さに思わず小さく吐息が漏れて肩がピクリと震えた。




 ヒナはそのまま私の唇に沿って舌を這わせてくる。


「ふ・・・う・・・。」


 ヒナの舌の感覚に耐えられずに声が零れ始める。




「ヒ・・・ナ・・・噛んで・・・。」


 私は朦朧とする中で呟いた。




 ヒナは私と上下を入れ替えると私の首筋に歯を軽く当てて甘噛みをしてくれる。そして時折、舌を這わせ口づける。




「あ・・・あ・・・。」


 あんまりにも気持ちが良すぎて声が抑えられない。




 ヒナがゆっくりと私の膨らみに手を置いた。


「!」


 一瞬震える。今は・・・マズいよ。


 彼女はそのまま手を動かし始めた。




「!・・・ヒ・・・ナ・・・声出ちゃうよ・・・。」


 私がそう訴えるもヒナは


「我慢して・・・。」


 と妖しく囁く。




 ヒナがそう言うなら・・・と漏れそうになる声を懸命に抑えていると、ヒナが微笑んだ。




「マリ・・・凄く可愛い。」


「ヒナ・・・。」


 私はボーっと彼女を見上げる。




「貴女から言ってきたんだからね?まだまだ寝かせて上げないよ?」


 そう言って笑いかけるヒナの表情にドキドキしながら私は期待を込めてコクリと頷いた。




 明日も授業あるけど・・・全然構わない。






 その後リドル=フェアと名付けられたそのイベントの説明会をしたり、ヒナちゃんの実家にセーラさん達と一緒にお呼ばれして色んなイベントのお話をしたりしながら、武術祭が・・・リドル=フェアがやって来るのを待つ。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 こうしてやって来た武術祭の当日。




 セーラさんはもちろんアイナさんやフレアさんも参加する事になって、私達はいつもの5人組でリドル・フェアに参加する事になった。




 大庭園の方から歓声が沸き起こったのを合図に進行役のセシル様がリドル=フェアの開催を宣言する。




「御令嬢の皆さん。本日は楽しみましょう。」


「「「はい!」」」


 ご機嫌な御令嬢方のお返事が秋の晴れ空に響き渡る。




「じゃ、ちょっくら行ってくるわ。」


「ちょっくら・・・って・・・。」


 アイナさんのドン引きフェイスもそのままに、ヒナちゃんはそう言うとリドルのの入った箱に向かって行った。




 後ろからヒナちゃんの動きを目で追っていると、彼女はチョコチョコと動き回りながら1つの箱に動きを止めるてゴソゴソと箱を漁り始める。




 ん?




 セシル様がヒナちゃんに近づいていく・・・。突然話し掛けられてギョッとなるヒナちゃんが見える。




 何か話した後ヒナちゃんはリドルを待つ私達の下に戻って来た。




「何話してたの?」


 私とセーラさんが尋ねる。


「・・・お前は変わってるから、武術祭に参加でもするんじゃないかとと心配した、と言われた。」


 ヒナちゃんが憮然とした表情で答える




 ああ・・・なるほど。


 確かに去年の事件を知らない人ならそう思うかも。




「・・・去年のあんな不愉快な出来事なんて思い返す必要は無いのよ。それよりもヒナ、リドルを見せてよ。」


 アイナさんが居たたまれない雰囲気をバッサリと取り払ってくれる。


「そ・・・そうだよ、ヒナちゃん。早く始めよう。」


 フレアさんがソレに乗っかる。




 ヒナちゃんはリドルの紙を広げた。




『其処には黄金の雨が降りしきる。枯れた大海に浮かぶは出会いの小島。小島を探せば次の標が得られよう。』




「?」


 全く解らない。


 何だろうコレ。何処かの場所のヒントを記しているのだろうけど全然見当が付かない。




「どう言う意味だろう?」


 フレアさんが首を傾げる。


「黄金の雨・・・? 何かの例えなんでしょうけど・・・。」


 アイナさんが眉間に皺を寄せる。


「ワクワクするわね。」


 セーラさんが凄く楽しそうだ。




 私もリドルを考える。




 黄金の雨、かぁ。一瞬、何かの映像が私の脳裏を過ぎる。黄金・・・雨・・・その中を走る私。地面は黄金色に輝く・・・。




「あ」


 私は小さく声を上げた。




「何、マリ。何か解ったの?」








 尋ねてくるヒナちゃんに私はと頷いて見せた。


「多分。・・・だけど自信無い。」


 ホントに只の閃きだから違う可能性の方が高い。でも・・・。




「じゃあソコに行ってみましょ。」


 ヒナちゃんがあっさりと言うので私は少し不安になる。




「でも間違ってるかも。そしたら無駄足になっちゃう。」


 そう懸念を口にするとヒナちゃんは笑いながら言った。


「良いのよ。こういうのは間違いながらアッチコッチ行くのが楽しいんだから。」




 そ、そういうモノなのか。


「そ・・・そっか。」




 ちょっと安心した。




「じゃあ、コッチ。」


 と私は先頭に立って案内を始める。




 学舎に向かい、その壁に沿って歩き始める。




「あーっ!」


 と突然フレアさんが大声を上げた。




 そしてフレアさんは私を見ると興奮したように言った。


「マリさん、ソレ正解だよ!」




 あ、良かった。フレアさんもそう思うなら、と少し自信が出て来て私は彼女に微笑んだ。




「フレア、解ったの?」


 ヒナちゃんが尋ねるとフレアさんは頷いた。


「うん、解っちゃった。」


「ドコ!?」


「ソレは着いてのお楽しみだよ。」




 私はそのまま学舎の外壁に沿って道を折れ曲がる。


 この先には裏の林が在る。其処が私の思うとおりの光景ならば。




「あー!そう言う事か!」


 同時にセーラさんとアイナさんが声を上げる。




「マリさん、凄いわ!」


「良く気付いたわね!」


「へへへ・・・。」


 2人に誉められて私は嬉しくて頭を掻く。




 ヒナちゃんは驚いた様に声を上げる。


「アレ!?解ってないのあたしだけ!?」




「ヒナが解らない事に私は驚いてるんだけど・・・。」


 とセーラさん。


「うん。こう言うの真っ先に正解しそうなのに。」


 とアイナさん。


「いつもあんなにロマンチックな事を考えつくのに。」


 とフレアさん。




 でもホントに不思議。ヒナちゃんなら直ぐに解ると思ってた。けど、なんか不満げなヒナちゃんに私は慌ててフォローを入れる。


「と、とにかく行ってみようよ。行けばヒナちゃんも解るって。」




 そして私達は最後の角を曲がる。




 風が吹いた。




 私達の視界が黄金色に染まった。




 季節は秋。林の樹々は葉っぱを手放し長い冬に備え始める。そう、色着き黄金色に染まった落葉が『雨』の如く地面に降り注いでいたんだ。そして地面はその落葉で『海』の様になっていた。




 多分、コレが正解だと思うんだけど。




「バーゴラか・・・。」


 ヒナちゃんの呟きに私は頷く。


「うん、そう。」




 私達5人はバーゴラをせっせと調べ始める。そして。


「あった。リドルの紙だわ。」


 セーラさんの手には次のリドルの紙が握られていた。




『其処に座すは、数多の娘を見守りし麗しの女神。其の寝所には新たな世界に広がる標が在らん。女神を訪ねよ。』




 私達はその謎も何だかんだと言い合いながらマゼルダ婦人の所に向かい、お茶をご馳走になりながら次のリドルを見つけ出した。


 ちょっと長居しすぎて私達が学園を出る最後のチームになってしまったけど、何とか私達はイベントを進めることが出来た。






 因みに次のリドルはこうだった。


『其処は悲しき恋の終着点。古き鐘は既に鳴らず、泣き崩れる老女の其の先に宝は眠る。・・・この先、リドルの舞台は学園の外になります。生徒会の下に来る様に。』




 リドルの中に『宝』と言う文言が入っているので多分コレが最後のリドルなんだろう。




 私達は護衛の兵士さん4人に付いてきて貰いながらリドルについて考える。




「恋の終着点・・・?」


「悲恋の物語かなんかに関係するのかしら?」


「実話から取ってる可能性も在るよ。」




 困った。選択肢が多すぎて決められない。




「コッチの『古き鐘』は?」


「・・・『既に鳴らず』って事はもう使われてないって意味よね。」


「うーん・・・鐘なら大聖堂と時計塔に大きな鐘が付いてるけど、どっちも使われているしなぁ。」


「この『泣き崩れる老女』って言うのもよく解らないね。」




 コレは難しい。




「あ、でも港の近くの古い灯台にもう使われてない鐘が付いてるって聞いたこと在るわ。」


 フレアさんが思い出した様にそう言った。


「おお、流石は貿易商の娘。」


 ヒナちゃんが親指を立ててフレアさんを賞賛すると、フレアさんは得意げに鼻を鳴らした。




「じゃあ、其処に行って・・・。」


「あと、港の反対側になっちゃうけど、『スタリー教会』っていう廃教会にも鐘が付いてたかな。」


「・・・。」




 どうしよう。流石に2ヶ所回る時間は無いなぁ・・・。




「どっちに行く?」


 アイナさんが尋ねる。




 ヒナちゃんは暫く考えていたけどやがて私達を見て言った。


「二手に分かれましょう。」


「・・・。」


 一瞬だけ私達は戸惑ったけど直ぐに頷いた。


「そうだね。可能性の在る場所は全部見たいもんね。」


「どうやって分けるの?」


 セーラさんの問いにヒナちゃんは得意げに言った。




「グーとパーで決めましょう。」


「?」


 セーラさんとアイナさんとフレアさんが首を傾げる。私は吹き出しかけて慌てて顔を背けた。まさかそう来るなんて。でもグーとパーは私の憧れの1つ。やった事無いんだ。




 ヒナちゃんが3人にやり方を教えてる。3人が理解すると私達は準備に入る。




「じゃあ行くよ。出っさなきゃ負けよ、グーとぉパッ。」


 まさかの全員グー。




「も、もう1回。出っさなきゃ負けよ、グーとぉパッ。」


 今度はヒナちゃんだけがグー。




「え・・・じゃ、じゃあ、ヒナが1人で・・・行くの?」


「そ、んな訳無いでしょ! も、もう1回。出っさなきゃ負けよ、グーとぉパッ。」


 戸惑うように首を傾げるアイナさんの言葉に対するヒナちゃんの表情が可笑しくって笑いを堪えるのに苦労した。




 結果は私とヒナちゃんがグー。セーラさんとアイナさんとフレアさんがパー。




 チームが決まった処でヒナちゃんは言う。




「じゃあ、灯台はフレア達に任せるわ。教会はあたし達で行くから。お宝を見つけても見つからなくても2:00には此処に集まりましょ。」


「解ったわ。」




 護衛の兵隊さん達もいきなりの別行動に戸惑っていたようだけど、なんか少し揉めた後に揉めていた2人が私達の方に付いてきてくれる事になった。




 スタリー廃教会は歩いて30分くらいの所に在る。私達は散歩気分で街のショーウィンドウを楽しみながら廃教会を目指した。




 やがて王都でも有名なスタリ-湿地帯に入る。湿地帯とは言っても、大きな沼と散策用の林が在るだけで広さにして4キロ四方くらいの、ちょっとした観光名所ってだけなんだけど。前世で言うところの国立公園みたいなモノ。




 この奥のあんまり人が入ってこない所に取り壊されていない廃教会が在るっていう話だ。




 段々と薄暗く深くなってくる林の中を、サクサクと落ち葉を踏みしめながら私とヒナちゃんは手を繋いで廃教会を目指す。繋いでいるヒナちゃんの手が柔らかくて温かくて、もし後ろの兵隊さん達が居なければ私は妙な気になってたかも知れない。




 左手の沼には水鳥が数羽浮かんでいて首を水の中に突っ込んだりしている。


 時折、キラキラと水面に反射する陽の光がヒナちゃんのダークレッドの髪に降り注がれて、彼女の髪が炎の様に美しく輝く。




 もう少しで教会に到着するぞって時に後ろの兵隊さんが声を上げた。




「おい、大丈夫か?」


「?」


 私達は振り返る。




 見ると兵隊さんの1人が蹲っていて、もう1人の兵隊さんが声を掛けていた。




 え、どうしたんだろう?




「あの、どうかしましたか?」


 声を掛けると兵隊さんが言った。




「申し訳在りません、お嬢様方。実はこの者が体調を崩したようでして。」


「え、大丈夫なんですか?」


 ヒナちゃんが慌てて尋ねる。


 私はその後ろから兵隊さんの様子を観察した。




「少し休めば良くなります・・・。」


 そう答える兵隊さんは苦しげな表情を見せているけど顔色はとても良い。


 多分一時的なモノで彼が言うように少し休めば良くなりそうだな。




 ヒナちゃんの視線を受けて私は兵隊さんに声を掛けた。


「あの、此方で休んでいて下さい。私と彼女で教会に行ってきますので。」


「しかし・・・。」


「平気ですよ。もう直ぐソコですから。2~30分で戻って来れます。」


 私が微笑みながらそう言うと兵隊さんは頭を下げた。


「申し訳在りません。良くなりましたら直ぐに追いかけますので。」


「いいえ、此処で待っていて下さい。」


 私は兵隊さんにそう言い置いてヒナちゃんと廃教会を目指し始めた。




 やがて見えて来たスタリー廃教会。




 日はまだ高い筈なのに、密集した木々のせいで僅かな木洩れ日しか届かない中、静かに座す古い教会を見て私の心臓はドクンと音を立てた。




 ウソ・・・でしょ・・・?


 此処は・・・。




 ヒナちゃんの身体がブルリと震えた。緊張した面持ちで私の手を握る彼女の手を、私は強く握り返した。




 そう。私達はこの廃教会を知っている。




 とても・・・そう、とても嫌な場所に来てしまった。




 鬱蒼とした林と僅かな木洩れ日の中に佇む廃屋の教会、スタリー教会。


 ゲームの中で私は気に入らないヒロインを亡き者にする為に刺客を放ち、条件にも拠るけれど特定の条件下に於いてその命を奪うのだ。




 ・・・そのヒロインが殺された姿がかなり無残な姿で描かれていて気分が悪くなった事を思い出す。




 私は好感度が足りてなくてバッドエンドに行ってしまった。その後、少し前のセーブに戻ってこのイベント自体を回避してクリアしたんだけど。




 そしてヒナちゃんもこのイベントを失敗している。彼女と知り合った頃に、グラス・フィールドストーリーの話をしていて失敗談を聞いていたんだ。


『私と同じだね。』


 なんて笑ってたけど、笑ってる場合じゃなくなった。




 身体が震えてくる。




「マリ、大丈夫?」


 ヒナちゃんの心配げな声に私は彼女を見た。




「ヒナちゃん・・・。此処って、あのイベントの場所だよね?」


「・・・そうね。」


「・・・私が手を回してヒロインを殺してしまうイベント・・・。」


「!」


 ヒナちゃんが突然私の両頬を両手で挟んで自分に向かせた。


「貝崎茉璃!しっかりしなさい!」




 ドキッとした。




「貴女はゲームのマリーベルでは無いわ。貴女は・・・あたしの大好きな貝崎茉璃の記憶を持つマリーベルは、人を陥れる様な子では無いわ。」


「・・・うん。」




 なんか少し落ち着いてきた。


 そうだ。私はゲームのマリーベルじゃない。


 貝崎茉璃の記憶を持った・・・そして何よりヒナちゃんと出会って光を知ったマリーベルだ。


 つまらないゲームイベントなんかに左右されるような弱い私じゃ無い。




「・・・へへ。」


 そして照れ笑いをしてみる。


「そうだよね。私、別に何もしてないもん。」


「そう、そうだよ。」


 ヒナちゃんの身体から力が抜けていくのを感じる。そして彼女の顔に私の大好きな優しい笑顔が浮かぶ。




「ソレにゲームでもさ、このイベントが起きるのって高等部の3年生・・・? の時だったよね?」


「確かそうだったと思う。」


「急にあのイベントシーンが目の前に出て来たからパニックになっちゃったけど、やっぱり今は関係無いよ。」


「うん。」




 そう。そうだよ。


 私達は色々と状況を整理して漸くホッとした。




「さ、早くお目当ての物を探して兵隊さん達の所に戻りましょう。」


 ヒナちゃんの言葉に私は頷いて手を繋いだ。




 ヒナちゃんが教会の扉を押すと、扉から「パラパラ」と埃や砂粒が落ちてくる。更に押し広げると重々しい音と共に扉が開いた。




 中は広い礼拝堂になっていた。中央には何かの像が祀られていた様だけど、その像が崩れてしまっていてどんな造型なのか見当が付かない。




「あ。」


 私は指を差した。


 大きな鐘がぶら下がっている。




 リドルには


『其処は悲しき恋の終着点。古き鐘は既に鳴らず、泣き崩れる老女の其の先に宝は眠る。』


 とあった。




 『悲しき恋の終着点』は未だに解らないけど『古き鐘は既に鳴らず』はあの鐘で、『泣き崩れる老女』があの像だとしたら、其の先・・・つまり、あの像の前に何か置いて在るのかも知れない。




「行こう。」


 ヒナちゃんが私の手を引っ張り私は導かれるままに黙ってヒナちゃんに付いて行く。




 古くなった長机や長椅子が並ぶ側を歩いて行と『カツン、カツン』と私達の靴の音が、薄暗く閑散とした空間に妙に大きく木霊する。




 やっぱり気味が悪い。




「でも、やっぱり怖いね。」


 私がヒソヒソとヒナちゃんに囁く。


「うん。」


 ヒナちゃんもコクリと頷く。




 そして像の前に辿り着いた私達は・・・何も発見出来なかった。




「・・・。」


 無言で視線を交わした私達は、やはり無言で周囲を探索してみる。




「外れか・・・。」


 暫く探索した後、ヒナちゃんが呟く。


「そうだね。」


 私も同意した。




「よくよく考えてみたらさ。」


 ヒナちゃんが言う。


「教会の扉を開けた時に、埃や砂が降ってきた時点で、長い間あの扉を開けた人が居ないって事だもんね。」


「そうだね・・・。ん?ソレがどうしたの?」


 ヒナちゃんの言いたい事が良く解らなくて私は首を傾げた。


「つまりさ。此処がリドルの正解の場所だったのなら、近々で生徒会の方が正解のお宝を置きに此処に来ている筈じゃない。となれば、当然にあの扉を開けている筈よね。」


「ああ・・・そっか。」




 私は理解した。


 そしてそんな小さな事に気がつけるヒナちゃんはやっぱり凄い。


「よく気付いたね、ヒナちゃん凄い。」


「いやぁ。」


 私が賞賛するとヒナちゃんは照れ照れで頭を掻いた。




 ふふふ。可愛い。




「ま、ソレはともかく。セーラ達はお宝を見つけてるかな?」


「解んないけど見つけてたら良いね。」


「うん。」


 私達は立ち上がった。




「戻ろっか。」


「うん。」




 その時だった。


『ギィ・・・』


 と音がして扉が閉まったのは。




「・・・え・・・。」


 私達は何が起きたのか理解が出来ずに閉まる扉を呆然と見つめた。




「何で閉まったの?」


 ヒナちゃんの問いに私は回答が出せない。


「解ん・・・ない・・・。」




 ウソでしょ!?何で勝手に閉まるの!?


 私は扉に走り寄ろうとする。




「マリ!」


 ヒナちゃんが走り出そうとする私を咄嗟に後ろから抱き止めた。




「な・・・何?」


 急な事に驚いて振り返った私をヒナちゃんは見ていなかった。


 ヒナちゃんが見ていたのは、私が走り寄ろうとしていた扉の近く。




 ・・・ヒナちゃん?




「・・・なんかいる。」


「え!?」


 私はギョッとなって扉に視線を送った。




 何処からか『カサカサ』と衣擦れの音が聞こえてくる。その音は次第に近づいて来る。


「誰!?ソコに居るのは!!」


 耐えられずに私は叫んだ。




「マリ!!」


 ヒナちゃんが叫んだ。同時に私は強く突き飛ばされて床に転がった。




 そして黒い何かが私に飛び掛かるのはほぼ同時だった。


「チッ」


 黒マントから舌打ちが聞こえて、此方を振り向く。フードが剥がれた中から現れたその顔は・・・。


「兵隊さん!?」


 私は仰天した。


 マントの正体は、さっき具合が悪いと言っていた兵隊さんだった。




「なんで貴男が・・・?・・・じゃあ扉を閉めたのはもう1人の兵隊の人?」


 ヒナちゃんの問い掛けに兵士は嗤った。凄い邪悪な顔で。でも何も教えてくれない。




「!」


 ヒナちゃんは起き上がった私の手を引いて走り出した。




 兵士は・・・いや、もう本当に兵士かどうかも解らない。とにかく私の命を狙っている殺し屋はくぐもった嗤い声を上げながら追いかけてくる。




 どうしよう。どうしたら良いんだろう。


 相手は明らかに逃げ惑う私達を眺めて楽しんでいる。怖い。怖いよ。




「ヒナちゃん・・・。」


 私はもうどうして良いか解らずにヒナちゃんの名前を呼んだ。




 ヒナちゃんは私をジッと見つめてくる。そして言った。


「マリ、氷を出して。手一杯に溢れるくらい。」


「え・・・?」




 ・・・なんで?


 いや、ヒナちゃんがそう言うならそうしよう。私は直ぐに手の中に氷を作りだす。ソレを見てヒナちゃんは頷いた。


 ヒナちゃんが如何にも疲れた様に少しだけ走る速度を落としたので私もソレに合わせる。




「クク・・・もう疲れたのか。お嬢様はひ弱だな。」


 身の毛もよだつ様な、途轍もなく昏い声が聞こえてくる。


「外の相棒も待っている事だし・・・ソロソロ死ね。」


 直ぐ後ろに迫った声を聞いてヒナちゃんが叫んだ。




「マリ!足下に散撒け!」


「!」


 ヒナちゃんの言葉に反応して私は咄嗟に男の足下に両手に溢れんばかりの氷を撒き散らす。




 男にとってはホントに予想外だったんだろう。まともに氷を踏みつけて足をツルンと滑らせるとバランスを崩した。


「うぉっ!?」


 と声を上げて男は後ろに引っ繰り返りそうになる。




 途端にヒナちゃんが反転して男に駆け寄ると男の胸の辺りを力一杯突き飛ばす。『ゴンッ』と鈍い音が響いて男は強かに後頭部を床に打ち付けた。


「ぐぁっ!」


 苦痛に呻いて藻掻く男の顔をヒナちゃんは思い切り踏みつける。




 私がビックリして男を踏みつけるヒナちゃんを見つめていると


「マリ!」


 ヒナちゃんが叫んだ。




 その声に私はハッとなった。


 そして近寄り、一緒になって殺し屋の頭を目掛けて踏みつけた。




 いくら14~5歳の女の子の脚力とは言え私もヒナちゃんも足腰だけは鍛えている。


 そんな子達に何度も頭を力一杯踏みつけられたら、幾ら大の男だって保ちはしない。もしかしたら死んでしまうかもしれない。って事すら思いつかずに私は必死になって踏み続ける。




 やがて・・・男は動かなくなった。




「ハァ・・・ハァ・・・。」


 2人で息を切らしながら動かなくなった殺し屋を見下ろす。


「・・・死んじゃったの?」


 少し怖くなってきて私がヒナちゃんに尋ねるとヒナちゃんは首を振った。




「知らない。」


 ちょっとヒナちゃんが怖い。




 ヒナちゃんは周囲を見て破れ掛かったカーテンを見つけると、ソレを引き裂いて男の両腕と両脚を縛リ出した。そして脈を測って少しだけホッとした表情になる。




 ソレを見て私もホッとなる。




 でも問題は解決した訳じゃ無い。・・・もう1人居るはず。多分だけど、外からコッチの様子を音か何かで伺っている筈だ。




 ヒナちゃんもそう思っているらしく像を祀る祭壇に置かれていた鉄製の長い燭台を持つと私に渡してくる。




 そしてヒナちゃんは私に作戦を耳打ちした。私は頷く。




 私達は扉に近づくと耳を当てて気配を窺った。でも・・・気配ってどう探れば良いんだろ?


 とその時、男のクシャミが聞こえた。そしてぼやき声が聞こえて来る。




『まだ終わらねぇのか。娘2人に何を手こずってやがる。まさか1人で楽しんでるんじゃねぇだろうな・・・。』


「・・・。」


 ソレを聞いてヒナちゃんは作戦を一部変更させた。


 その変更部分を聞いて少し恥ずかしいなとは思ったけど私は頷いた。




 作戦開始。




 私は精一杯叫ぶ。




「いやぁ!止めて!何で殺すの!?・・・ああ!!」


 続いてヒナちゃんが叫ぶ。


「マリーベル様ぁ!!・・・何で殺したのよ!誰なのよ、あんたは!・・・止めて!お願い、服を脱がさないで!嫌ぁ!」




 そして私は思いきり扉にぶつかった。


 扉がガチャガチャと音を立てる。




 そして扉が開いた。




「おいっ!遊んでるんじゃ・・・。」


 叫びながら顔を覗かせた男とヒナちゃんの目が合う。




 もう1人はやっぱりさっきの兵士の片割れだった。




 ヒナちゃんは指先に灯しておいたチョットだけ大きめの火を男の顔にぶつける。


「ぎゃあっ!」


 燃え上がる髪に仰け反って叫ぶ男の首筋辺りに私は思い切り燭台を振り下ろした。


『ゴンッ』


 と鈍い音が鳴る。




 だけど殺し屋はフラつきはしたものの私を鋭く睨み付けてきた。


「このガキ!」


 と唸って腰の剣を掴もうとする。


 するとヒナちゃんは男の手を燭台で打ち据え、続けて頭に燭台を振り下ろした。


「ウグッ!」


 呻く男に、私は


『此処で決める!』


 と腹を括って再度男の頭に燭台を振り下ろす。




「き、貴様ら!」


 頭から血を流しながら蹌踉けた男に私達はもう滅多打ちに燭台を振り下ろした。




「ハァ・・・ハァ・・・。」


 2人で息を切らしながら倒れた殺し屋を見下ろし燭台を投げ捨てる。




 ・・・動かないんだけど。




「・・・死んじゃったの?」


 私が尋ねるとヒナちゃんは首を振った。


「知らない。」


 ヒナちゃんは一旦、教会の中に戻るとさっきのカーテンを更に引き裂いて倒れている男の両腕と両脚を縛った。




 危機は去った。多分。・・・助かった・・・。




 私はヒナちゃんに抱きついた。




「マリ、震えてる。」


「ヒナちゃんも。」




 私達は無言で互いの無事を喜びギュッと抱き合った。




 暫くしてヒナちゃんは気絶している男を眺めながら呟いた。


「コイツらさっきの兵士よね。」


「うん。」


「どういう事なんだろ?」




 1つだけ解っている事がある。




「・・・私を狙っていたのは確かだと思う。」


「うん。」


 ヒナちゃんも頷いた。




 其処から考えられる事。




 彼等が本物の兵士で在ろうが無かろうが、誰かの指示で動いていた可能性が高い。私の存在を邪魔に思っていた誰かがリドル・フェアの開催を知って護衛に紛れ込み殺すように指示を出した。




 思い返せば、セーラさん達と二手に分かれる時に兵士達が少し揉めていたのはこの人達が強引に私達の方に来ようとしたからなんだろう。




 では誰が彼等にそんな指示を出したのか?


 決まっている。アビスコート侯爵。あの人が一番怪しい。ヒナちゃんもきっとそう思っているんだろう。




 次に怪しいのは私を王家に迎えたくない国王本人。でも王が指示を出したとしても結局動くのは父だろうから、どっちにしてもあの人が今回の黒幕である可能性が濃厚だ。




 底知れない恐怖に心臓を捕まれたような気持ちになる。




 こうやって狙われたって事はもう私は必要無くなったって事だ。つまり・・・コレから何度でもこんな事が起こると言う事。




 私は隣で何かを考えているヒナちゃんの横顔を見た。


 ・・・私が近くに居る限り、この私の一番大切な人にも危険が常につきまとう事に・・・。




 私は首を振った。


 その時はその時だ。潔く離れよう。そうするしか無いんだ。




 その後、私達はヒナちゃんの提案で偽兵士2人を草むらに隠してからセーラさん達との合流場所に向かった。




 サクサク。




 スタリー廃教会を後にした私達は、落ち葉を踏みしめながら黙って歩き続ける。


「・・・」


 黙っているとさっきの嫌な思いが頭をまた過ぎり始めてしまう。




 ヒナちゃん、何か話して。




 そう思って前を歩くヒナちゃんを見た。そして目を疑った。彼女の左脇の辺りが真っ赤に染まっている。




「ヒナちゃん!?」


 思わず大声を上げてしまう。




「ん・・・?」


 ヒナちゃんがノンビリと振り返る。




 なんでそんなに呑気な表情なの? 痛くないの? いや、ソレは今はいい。とにかく今は確認だ!




「制服脱いで!」


「!?・・・ちょ・・・何言ってるの? ココ外だよ!?」


「何言ってるの!?いいから脱いで!」


 何か勘違いしているヒナちゃんのブレザーを私は強引に脱がす。




「ヒナちゃん・・・。」


 私は呆然と呟いた。




 ヒナちゃんの真っ白なブラウスは左脇の辺りが真っ赤な血に染まっていた。しかも何か鋭利なモノで切り裂かれた跡まである。




「・・・。」


 私の視線に導かれて自分の左腋を見たヒナちゃんの動きが止まった。




「え・・・何コレ・・・。どういう・・・。」


 ヒナちゃんが其処まで言って言葉を不自然に止めた。何か思い当たったんだろうか。




 私はブラウスの裂け目から傷を覗き込んだ。けど大丈夫なのかどうなのか良く解らない。




「アイツらにやられたの?」


 私が尋ねるとヒナちゃんは頷いた。


「多分。いつ斬られたかは判んない。」




 ・・・多分、私を突き飛ばした時だ。剣は抜いていなかったけどあの偽兵士が他に刃物か何かを持っていたんだ。


 ソレでヒナちゃんが私を庇って代わりに・・・。




「痛い?」


 悔しさと申し訳なさで涙が溢れてくるけど私は訊くべき事を訊く。




「平気よ。今まで気付かなかったくらいなんだから。何か左の脇汗が凄いなぁなんて思ってたんだけど血がヌルヌルしてたのね。」




「・・・もう・・・馬鹿な事言わないで。」


 何処までも優しくて呑気さを失わないヒナちゃんの言葉に私は泣き笑いを浮かべながらハンカチを2枚取り出す。


 1枚のハンカチでブラウスの上から肩口を縛り、もう1枚でヒナちゃんの傷口を上から痛くならない様に優しく捲く。


 そしてブレザーを上から掛けるとヒナちゃんを支えた。




「行こう?」


「うん。」


 私達はゆっくりと歩き始める。


「待ち合わせの時間、遅れちゃうね。」


「理由を話せば判ってくれるよ。」






「あ、ヒナちゃん!マリ様!」


 私達の姿を見つけたフレアさんが手を振って叫んだ。


 3人はもう待ち合わせ場所に戻っていた。当たり前か。私達が大幅に遅れてしまった。




「遅かったわね。今、迎えに行こうかって・・・ヒナ、どうしたの!?」


 ボロボロの私達を見てアイナさんが駆け寄ってくる。


 セーラさんとフレアさんも駆けてきた。




 アイナさんがヒナちゃんを支えてセーラさんが私を支えてくれる。




 私達は交互に説明をした。




「命を狙われた・・・?」


「そんな・・・。」


 3人は絶句する。




 セーラさん達を護衛していた2人の兵隊さんが尋ねてくる。


「アビスコート様、襲ってきたのは護衛の兵士で間違い御座いませんでしょうか?」


「はい。」


 私は頷く。


「その兵士達は何処に行ったか判りますか?」


「・・・逃げるのに精一杯だったので、よく判りません。」


「解りました。」




 兵士は頷いて同僚さんに話す。


「あの2人は確か第三騎兵大隊の所属だと言っていたな。」


「こうなるとソレはもう眉唾だ。何者かが紛れ込んだと考えた方が良い。確認を取る必要が在る。」


「俺は学園に知らせてから騎士団に報告する。」


「解った、俺は護衛を継続する。」


 そんなやり取りの後、1人の兵隊さんが走って行く。




 そして学園に戻った私達は先生方に事情を説明した。


 結果。ヒナちゃんの希望で私とヒナちゃんはハナコ家で休養を取る事になった。




 そうだ。今日のことが御両親に知られてしまう。私のせいでヒナちゃんが凶刃の前に晒されて傷付いたことが。


 そして御二人はきっと私の事を良くは思わないだろう。私は愛する娘を窮地に立たせた諸悪の根源なのだから。


『娘から離れて欲しい。』


 当然の要求が待っているに違いない。




 だから覚悟だけはして置こう。そして御二人への謝罪も忘れずにしよう。




「帰ろう。」と手を握るヒナちゃんに私は微笑み返した。


 今、私は上手く笑えているのかな。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 その日の事情を知ったハナコ家の皆さんの驚き様は察して余りある。




 愛する娘が刺客に襲われた上に怪我をして帰って来たんだから無理も無い。大金が傭兵ギルドに積み上げられ、即時に動けた傭兵が26人、ハナコ家を護衛する事になった。




 ソレからヒナちゃんと私は呼ばれた医師の診察を受けた。


 私は異常無し。ヒナちゃんの傷は皮膚を切られただけで直ぐに治るとの事。




 良かった。




 手当てが終わるとヒナちゃんは事情を尋ねるサミュエル様とシルヴィア様に包み隠さず全てを話した。アビスコート侯爵が私を狙ったんじゃ無いかと言う予想まで含めて。




「・・・。」


 御二人は厳しい表情でヒナちゃんの話を聞いていた。




 ああ・・・。


 やっぱりダメだった。




「あの・・・。」


 私は覚悟を決めて口を開いた。




「ハナコ様、シルヴィア様。私のせいでヤマダ様に怪我をさせてしまった事、深くお詫び申し上げます。」


 震える身体を懸命に押さえながら私は頭を下げた。




「マリ・・・。」


 ヒナちゃんの声が聞こえる。




「もし・・・御二人が望まれるなら、私はヤマダ様から・・・は・・・離れます・・・。」


「!!」


 息を呑む音が聞こえてヒナちゃんの悲鳴にも似た声が響いた。


「マリ!何を言ってるの!?」




 尚も何かを言い募ろうとするヒナちゃんを私は制した。




「私が此処に付いてきたのは、コレが言いたかったから。お詫びと御二人のご判断を仰ぎたかったからなの。」


「そんな・・・。」


 ヒナちゃんが絶句する。


 そしてハッとした様に御二人を見た。


「お父様!お母様! マリは何も悪くないです! だから・・・!」




 ヒナちゃんの綺麗な双眸に涙が滲む。


 ごめんなさい、ヒナちゃん。貴女にそんな顔をさせたくないのに。




 ヒナちゃんは必死になってサミュエル様の服の袖を握り絞めた。


 サミュエル様は無言で涙を流すそんなヒナちゃんを見つめ、そして私に視線を移した。




「マリーベル嬢。」


「・・・はい。」


 身が固くなる。


「お父様!」


 叫ぶヒナちゃんをシルヴィア様が後ろから抱き寄せてサミュエル様から引き離す。




 サミュエル様が口を開く。


 私はサミュエル様の判断を待つ。どんな言葉でも受け容れるつもりだ。




「・・・貴女は何も悪くない。」


「「・・・え?」」


 サミュエル様の言葉に私とヒナちゃんは同時に訊き返した。




 悪くない・・・? なんで? 私が居なければヒナちゃんは危険に巻き込まれなかったのに?




 サミュエル様はそんな私の疑問に答えるように温かい微笑みを浮かべながら言葉を紡ぎ続ける。




「悪いのは貴女の周囲の大人達だ。下らない画策に・・・いや、今は止そう。ただ今回に限って言えば暗殺を仕組んだ黒幕が100%悪い。」


「ハナコ様・・・。」




 そんな・・・そんな風に思って下さるなんて・・・。


 私は予想と180度違う答えに逆に戸惑ってしまう。




「貴女とヤマダは単に下らない思惑に巻き込まれただけに過ぎない。そんな貴女を放り出すようなマネはこの私がしたりはしない。」




 解った事。


 私は許された。ヒナちゃんと一緒に居ることを。


 そして知った事。


 大人の人達が持つ大きさと温かさ。




「・・・有り難う・・・御座います・・・。」


 俯いた私の目から涙が零れ落ちた。




「馬鹿マリ!」


 ヒナちゃんは怒鳴りながら私に抱きついた。




「ヒナちゃん・・・。」


「二度とそんな事言うな!!」


「・・・ごめんなさい・・・。」


 私はヒナちゃんを強く抱き返した。




 本当にごめんなさい。


 私達は2人してワンワン泣きじゃくった。




 サミュエル様達の会話が聞こえて来る。


「相手が王家だろうが上位貴族だろうが関係無い。ウチの娘とその親友に剣を向けたことを心から後悔させてやる。」


「存分になさいませ、あなた。」


「うむ。・・・リジオンも其れで良いな?」


「無論で御座います。商会会長の娘が不当に傷付けられた・・・この事態を放って置いてはハナコ商会全体の沽券に関わります。徹底した態度を取られますように。」


「解った。では、ヤマダ達が捕えたと言う偽兵士共を国の連中に先駆けて捕獲してくれ。」


「畏まりました。直ちに外に居る傭兵達を使って連れて参りましょう。」


「頼む。」




 泣くだけ泣いて気分も落ち着いて周囲を見回した時、大人達の顔が見た事も無いほどの激しい怒気に包まれている事に気が付く。




 私はもう1つ知った。


 あの人達は決して怒らせてはいけない人達を怒らせた。




 偽兵士達は、2時間と経たずに傭兵さん達の手でハナコ家に連れて来られ、仁王立ちのサミュエル様の前に放り投げられた。




「・・・。」


 無言で2人を見下ろすサミュエル様の迫力に私は身震いする。




 明から様に怯える2人にサミュエル様は薄く嗤い仰った。


「お前達・・・覚悟は出来て居るな? 五体満足でこの屋敷から出られると思うな。」


「ヒッ・・・。」


 息を呑む偽兵士達からサミュエル様は視線を外すとハナコ家専属の護衛に向かって


「連れて行け。」


 と仰った。




「待ってくれ!」


 2人が叫ぶ。


「俺達は頼まれてやっただけだ! 雇い主の事も話すから・・・!」


「黙れ。知った事か。」


「!?」


「そんな事、ハナコ商会の情報網を使えば難なく調べられる。ソレよりも、私の娘とそのご友人に剣を向けたこと・・・存分に後悔するがいい。」


 当然知りたいだろう情報をぶら下げたにも関わらずサミュエル様が全く食い付かなかった事に2人は仰天した表情になる。




 そして必死の形相に変わった。


「た・・・頼む! もう2人には手を出さないから! 助けてくれ!」


 喚きながら懇願する2人が引き摺られていく。




 私達は少し青ざめながらその様子を見ていた。


「あ・・・あの、お父様・・・。」


 ヒナちゃんが怖ず怖ずとサミュエル様に話し掛ける。


「ん? なんだい?」


 此方を見るサミュエル様の目はいつもの優しい目で私も少しホッとする。




「さっきの人達は・・・。」


 ヒナちゃんが其処まで言うとサミュエル様は苦笑した。


「・・・驚かせてしまったな。本音を言えばトコトンやってしまいたいが、お前もマリーベル嬢もソレは望まないだろう?」




 コクコクとヒナちゃんと私は頷く。




「だから脅しに留めるよ。まあ、あの手の連中は基本的にシラを切るから『本当にマズい、殺される』と感じるまで脅かす。その上で情報を引き出すさ。」


「は、はい・・・。」




 サミュエル様が微笑んだ。




「さあ、お前達はもう休みなさい。後は私とお母様に任せれば良い。」


「はい、お休みなさい。」


「お休みなさい。」


 ヒナちゃんと私は頭を下げた。




「ゆっくり休むのですよ。」


 お母様が柔らかい微笑みを投げながら仰る。


「はい、お母様。」




 私達はライラさんに連れられてヒナちゃんの自室に戻った。




「あの、ライラ?」


 ヒナちゃんの呼び掛けにライラさんが振り返る。


「はい、お嬢様。」


「今日は・・・その・・・。」


 ヒナちゃんが言葉を濁すと、ライラさんは軽く溜息を吐いた。


「・・・旦那様も奥様も相当激怒なさって居りますから・・・。肉体的な拷問は無いにしても、あの2人は今晩は生きた心地がしないでしょうね。」


「・・・考えない方がいい?」


「考えない方がいいです。」


「はい。」


 ライラさんはあの2人が何をされるのか知っている様子だけど・・・ヒナちゃんは敢えて訊くのは止めたようだった。


 私もあまり知りたくない。




「ライラ。今日はあたしマリーベル様と一緒に寝るわ。」


「畏まりました。」




 ヒナちゃんの一言で私達は一緒の部屋で寝ることになった。




 一緒のベッドに潜ってからもヒナちゃんは傷が痛むのか、時折顔を顰めていた。


「痛むの?」


 私が尋ねるとヒナちゃんは苦笑いしながら


「まあ、動かすと少しね。でも思ったほど痛くならなくて助かったよ。」


 と返してきた。




 そっか。それなら良かったよ。




「でもヒナちゃん、痛くなったら直ぐに起こしてね。」


「うん。解った。」




 心配だ。


 ヒナちゃんは直ぐに我慢しちゃうから。




「私、今日は寝ないでヒナちゃんを看ているよ。」


 私が宣言するとヒナちゃんは呆れた様に言った。


「何馬鹿な事言ってんの? マリだって今日は疲れてるでしょ。」


「ヒナちゃん程じゃ無いよ。」


 私は反論したけどヒナちゃんは首を横に振る。


「ダメよ。貴女も寝なさい。大丈夫、痛くなったら遠慮無く起こすから。」


「・・・きっとだよ?」


「うん。」


 ヒナちゃんの微笑みが優しい。




 改めて思う。




 この人と離れないで済んで本当に良かった。





6/2

誤字の指摘を頂きました。早速適用させて頂きました。

いつかはこの類いのミスをするだろうとは思っていましたが自分で読み返しても中々気付けるモノでは無いんですね(汗)

有り難う御座います。大変助かります。

今後とも宜しくお願いします。


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