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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター5 2年生編 / 二学期
88/105

S12 マリーベルの追蹤 1

マリーベル視点のお話になります。

宜しくお願いします。



 朝、目を覚ますとヒナちゃんはまだ寝ていた。




 ――・・・昨夜は・・・凄かった。




 ヒナちゃんはまるで私を食べてしまいそうな激しい情熱で攻めてくれた。思い返すだけでまた身体がジクジクと疼いて熱くなってくる。




 正直に言えば15歳になったからと言って急に子供から大人予備軍になるなんて思っていなかった。そのうちに、知らず知らずのウチに勝手に「自分は大人だ」と意識するんだろうなとそう思っていた。




 でも、昨夜ヒナちゃんに色んな事をされているウチに何故か「自分は大人になるんだ」と意識してしまった。




 何故なら初めて味わう感覚が余りにも淫靡なモノだったから。


 コレに溺れてしまったら自分はダメになってしまうかも知れないと言った漠然とした恐怖を、果てしない悦びの中に感じてしまったから。




 だから戒めないといけない。そんな注意喚起の意識が私の中に芽生える。




 多分だけど「大人は色々な事が許される代わりに自身の言動に責任を持つ」と言う事は、こう言う事なんだろうなと思う。解んないけど。




「・・・。」


 まだ穏やかな顔で眠っているヒナちゃんを見る。




 昨日の蠱惑的な表情が嘘の様に綺麗な寝顔を見せてくれるヒナちゃんに見とれる。


『本当に綺麗な顔・・・。』


 私は思わず手を伸ばして彼女の紅の唇にそっと指で触れる。




 ゴクリ。思わず生唾を飲み込んで私はそのまま彼女の唇を指で撫でた。




「・・・ん・・・。」


 ヒナちゃんの眉がピクリと動き薄らとその双眸が開く。ダークレッドの大好きな瞳と視線がぶつかった瞬間、私はあっと言う間に顔が火照っていくのを感じる。




「・・・お、おはよう・・・。」


 なんとかソレだけ言うとヒナちゃんは気怠げに微笑んで


「おはよう。」


 と返してくれた。




 ああ、何て綺麗な微笑なのかしら。大好き。なんて思っていたらヒナちゃんの顔が真っ赤になった。昨夜の事を思い出しちゃったかな?


 そう思ったら私も更に恥ずかしくなってしまってムズムズしてきた。




「お・・・お湯を浴びてくるね・・・。」




 私はそう言うとソソクサとベッドを抜け出して湯浴み場に入った。




 暫くして寝室から


「・・・ウァアアアーーーッ!!」


 と言うヒナちゃんの声が聞こえてきた。




 どうしよう。今日1日、私はヒナちゃんにどんな顔をしたらいいんだろう。ギクシャクするのは嫌だなぁ。でも恥ずかしい。




 ・・・その日、ヒナちゃんはずっと私の側に居た。何か話す事が無くてもずっとニコニコ笑って私の隣に居てくれる。笑顔はぎこちないけど。




 でも、何だかそんなヒナちゃんの気持ちが嬉しくて可愛くて私は笑ってしまった。するとヒナちゃんもホッとした様に笑い出す。




 うん。やっぱりこの感じが一番だよね。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 そんなこんなで2学期を迎えた。




 そして生徒会より各倶楽部の勧誘会開催のお知らせが在った。そう言えばヒナちゃんが何かそんな話をしていたな。




 私達お料理倶楽部は初等部の園庭で実演する事になった。要はバーベキューみたいな事をするんだ。


「「「「・・・は?」」」」


 ヒナちゃんの提案を聞いて全員がポカンとした顔になるのを笑いながら眺めているヒナちゃんを見て思った。絶対、ヒナちゃんは自分達が楽しむ事しか考えて無い。


 まあ、私もソレで良いかなとは思っているけど。




 放課後。




 私はヒナちゃんに連れられて鍛冶ギルドと港を回った。私はヒナちゃんに尋ねる。 




「ヒナちゃん、港に来て何か買うの?」


「ええ、買うわ。」


 ふふふ。意気込んだ表情のヒナちゃんがとても可愛い。




「何を買うの?」


「出汁の素よ。」


「ダシノモト?」


「そう。」


「?」


 私はヒナちゃんの言葉の意味が良く解らなかった。




 やがてヒナちゃんは目当てのモノを見つけたらしく嬉々とした表情で1つの露店に近づいた。


 彼女が手にしたモノ、ソレは濃い緑色の干された海藻だった。




「昆布?」


「そう。コレで出汁を取るわ。」


「・・・あ、ああ。出汁かぁ。」




 私はやっと理解する。でも何で急にそんなモノを欲しがるんだろう? 相変わらずヒナちゃんは面白い。


 ヒナちゃんはその後、椎茸によく似た干したキノコも沢山買っていた。




「ヒナちゃん、良く知ってるね。」


「まあね。作った事は無いけど、ばあちゃんが良く出汁を取ってるのを横で見てたから。」


「ふふふ。」


 頬を紅潮させて話すヒナちゃんが可愛くて思わず笑ってしまった。


「な・・・何?」


 あ、聞き咎められてしまった。でもいっか。前々から思ってた事を言ってしまおう。


「ヒナちゃんの子供の頃の姿を見てみたいなと思って。きっと可愛かったんだろうな。」


「・・・。」


 ヒナちゃんは何故か遠く明後日を見る様な目つきで私から視線を外した。




「でも何で急に出汁なの?」


「・・・あたしにはね、マリ。以前からとある欲求が在ったのよ。」


「欲求?」


 なんだろう?


「そう、あたしの食生活に味噌と醤油が足りない。」


「・・・。」


 ・・・なんと言うか・・・。言葉を失ってしまった。


「解ってるわ。あの2つは素人が作れるモノじゃ無い。どちらも最初は『魚が腐った』とか『大豆が腐った』とか、そう言った偶然の産物から生み出されたモノらしいし。狙って作れるモノじゃ無いし諦めるしか無いのは解ってる。」


「・・・ええっと・・・」


 どうしよう。




 醤油とお味噌ってそんなに必要?




 そう訊きたかったけどヒナちゃんの顔を見ているととても訊けない。


 私は前世でも食事は洋風のモノが多かった。それに大豆に少しアレルギーが在ったのでお味噌汁とかを口にしていた記憶が殆ど無い。そのせいかヒナちゃんの欲求に共感出来なかった。




「だからね、せめて出汁を取った塩味のスープなら作れるんじゃ無いかって思ったのよ。」




 とにかく笑おう。大好きな人がやりたいって言ってるんだから此処は応援だ。


「うん、頑張ってね。」




 そんな私の返しにヒナちゃんは極上の笑顔で親指を立てて応えてくれる。


「ええ、任せて頂戴。」




 ああ、やっぱり可愛い。






 で、私とセーラさんは、翌日ヒナちゃんに誘われて彼女が作ったスープの見張りを一晩中する事になった。・・・んだけど小雨が降っていたせいもあってか秋になったばかりだと言うのにとても寒くて、私達は厨房で震えながら一晩を過ごすハメになった。




 とは言え、3人でお喋りしながら過ごす一晩はとても楽しかった。




 ソレから準備に勤しんだり、セーラさんの予言とも思えるような「雨」の予測が当たって勧誘日の1日目が潰れたりしてワチャワチャしていたんだけど。




「残念だったね。」


 1日目の勧誘が出来なかった日の夜に私がヒナちゃんにそう言うと彼女はキョトンとした顔で首を傾げた。


「何が?」


 ・・・何がって・・・。私は釈然としない表情になる。




「何が・・・って、勧誘会の事。」


「ああ・・・。」


 ヒナちゃんが『そのことかぁ』とでも言う様な表情で呟いた。




「そうでも無いの?」


 私は首を傾げる。


「いやぁ、まあ・・・うん。もう結構楽しんだなぁと思って。」


「・・・ふっ。」


 暫くヒナちゃんの顔を見ていた私は軽く吹き出してしまった。まさか本当に楽しめればそれだけで良いと考えて居たなんて。本当に面白い。




「あ、笑った。」


 釣られて笑顔になるヒナちゃんに私は言った。


「だってあんなに張り切ってたのに、本番が出来なくても構わないなんて・・・」




 ダメだ。笑いが止まらない。そんな私を見てヒナちゃんは照れ笑いをする。




「でも、マリだってそんなに残念そうじゃ無いじゃない。」


 そりゃあね。


「私はヒナちゃんと何か出来たら其れで充分だもん。」




 そう言って笑うとヒナちゃんは急に慌てた様に話題を変えた。どしたの?




 話題は私の前世の食生活。




 味噌や醤油を口にしなかったと聞いてヒナちゃんは心底驚いた顔をしていた。めちゃくちゃ面白くて可愛い顔だったな。






 私の話を聞いてヒナちゃんは両腕を頭の後ろに組んで寝転んだ。


「なるほどねぇ・・・。じゃあ、あんまり味噌や醤油に興味は無いのか。」




 え!?


 私は慌てて言った。




「そんな事無いよ。前世では余り口に出来なかったし。其れにヒナちゃんが食べたい物なら私も興味あるよ。」




 ヒナちゃんは私をじっと見てニッコリと笑った。


「うん、アリガト。」




 ああ・・・顔が火照る。私は彼女に擦り寄って横に寝転んだ。




「ヒナちゃん。」


「なあに?」


「・・・。」


 呼んだは良いけどどうしよう。


 私は左手の人差し指をヒナちゃんに突き出した。また・・・舐めて欲しいな。




「・・・。」


 ヒナちゃんは私の突き出した指を見つめる。でもヒナちゃんはプイっと視線を逸らして


「今日はダメ。」


 って意地悪を言った。


「ええっ・・・なんで。」


 ダメと言われるととても不満で私は理由を尋ねた。




「今日は気分が乗らないもん。」


 ・・・絶対嘘だ。


 私は身体をヒナちゃんにピッタリとくっつけて上目遣いにあたしを見上げた。セーラさんから教わった技だ。そして指を突き出す。


「お願い。」




 ヒナちゃんの視線が少しだけ彷徨った後、ポツリと言った。


「今日はソレだけだよ?」


 やった!


「うん。」


「・・・。」


 ヒナちゃんが起き上がったので私も続いて起き上がった。




 ヒナちゃんは頬を綺麗な桜色に染め上げながら私の指をペロリと舐めた。




「・・・もっと。」


 わたしが強請ると更に舌を這わせる。第二関節まで。指の付け根まで。指と指の股まで。




「・・・ふぁ・・・。」


 思わず口から声が漏れる。




「・・・。」


 ヒナちゃんは舐めるのを止めて私の顔を見つめた。




 私は彼女に視線を合わせると堪らなくなって、ヒナちゃんの背中に右腕を回してグイッと彼女の身体を引き寄せた。




 ヒナちゃんは身体が華奢なせいもあってか普段の言動とは裏腹に意外と体重が軽い。本人はそんな事無いと思っている様だけど。




 私はそんなヒナちゃんの綺麗な横顔を眺めた。・・・私は変態かも知れない。でも我慢出来ない。私は更に指を彼女の口元に近づけて囁いた。




「咥えて・・・。」


 ヒナちゃんはゾクリと身を震わせてから私の指をパクりと口に含んだ。




「!」


 熱が全身を駆け巡る。




 私は彼女の口の中で指をクネクネと動かした。ヒナちゃんはその指に舌を絡めてくる。チュルッと吸い付かれて私は思わず吐息を漏らす。




 私は囁いた。




「・・・噛んで。」




 ヒナちゃんはこんな変なお願いにも嫌な顔をせずに軽く歯を立てて甘噛みしてくれた。




「・・・う・・・」


 身体がブルリと震える。




 柔らかな唇と舌の感覚の中から時折感じられる固い歯の甘噛みが、私のゾクゾクを盛り上げてくれる。


 私は夢中になってその感覚を楽しんだ。




「・・・」


 と、ヒナちゃんが黙って急に右手の人差し指を私に突き出した。




「・・・」


 私はヒナちゃんの指と顔を見比べる。




「・・・舐めて。」


 頬を紅潮させながら言うヒナちゃんに私は心の中で頷いた。




 そうだよね。わたしばっかりじゃズルいよね。




 私は伸ばされた彼女の繊やかな指に口を寄せて舌を出した。


『ペロリ』


 と舐めた瞬間、ヒナちゃんは身震いした。




 私は更にヒナちゃんの指に舌を這わせる。さっきヒナちゃんが私にやって見せた様に第二関節まで。指の付け根まで。指と指の股まで。




「マリ・・・。」


 ヒナちゃんは私に囁いた。




「・・・咥えてよ。」


「・・・。」


 なんて艶っぽい声を出すんだろう。私の顔が更に火照っていく。




 私は口を開けてパクりとあたしの人差し指を咥えた。


「はぁ・・・」


 と思わず彼女の口から吐息が漏れる。




 と、突然ヒナちゃんは私を押し倒した。


「わっ。」


 驚いて思わず小さく声を上げてしまう。




「ビックリするよ、ヒナちゃん。」


 私が軽く抗議の視線を投げるとヒナちゃんは微笑んだ。




「ゴメン。」


 そして仰向けになった私の口の中に再び指を差込む。




 もう・・・。大好きだわ。


 私は口に含んだヒナちゃんの人差し指に舌を絡め続ける。




 ヒナちゃんは私の耳元に口を寄せて囁いた。


「・・・噛んで。」


「・・・。」


 私は指を咥えたままヒナちゃんをチラリと見ると指に歯を立てた。




「!」


 ヒナちゃんがブルリと震えた。




 そして言ってくる。


「ねえ、マリ。エッチな事はしないけど・・・今日は一緒に寝ようか。」


「・・・うん。」


 やったぁ!


 良い事って急に起きるなぁ。




 で、その夜は指がフニャフニャになった訳で。まあ、それ以上は何も無かったんだけど。






 翌朝はお日様カンカンだった。




 ヒナちゃんの指示で私達は用意したバーベキューセットを使って、肉焼き組、野菜担当組、お鍋組に別れて調理に入る。因みにお鍋は、ヒナちゃん特性の鶏ガラスープをベースにした塩風味の豚汁だ。




 アリエッタさん達、1年生の新入部員のみんなは、通り過ぎる1年生達に声を掛けては料理を振る舞っている。




 何しろ材料は昨日使えなかった分まで大量に余っている。




「剥け剥け!」


「切れ切れ!」


「焼け焼け!」


「煮れ煮れ!」


 みんな最初の上品さは何処かへ投げやってしまって、殺伐とした雰囲気が漂ってくる。


 でも凄く楽しい。




 良い匂いが校庭に漂い、沢山の人達が寄って来ている。




「材料が足りないわ!」


「氷嚢庫に行ってくる!」


「炭が足りない!」


「薪が無くなった!」




 人が離れては物を持って戻って来る。食材を長時間外に置いておく訳にも行かず、始まってからずっとコレの繰り返し。しかも女の子だから沢山の量を持って来られない。




 でも人数の多さが上手く機能してくれていて、大勢のお客相手にも何とかギリギリで対応出来てる。




 途中でリューダ様とエリオット様とエオリア様が来た。アイナさんとフレアさんが舞い上がったのは言うまでもない。


 あと、生徒会長さんと副生徒会長さんもやって来た。




 とにかく人が次から次へとやってくる。




 もう全員が汗まみれだ。制服のままで始めなくて本当に良かった。武術着を着せたヒナちゃんの先見の明は凄い。




 お料理倶楽部の面々のお昼はこの食材を使って昼食にする。流石に昼食はみんな食堂に行く様だ。ホッとする。




「一段落着いたね。」


 レイナーさんが呟く。




「みんな昼食を摂ったら、流石に午前程の忙しさには為らないと思うわ。」


 セーラさんがそう返しているのが聞こえる。




 草むらではヒナちゃんが寝っ転がっている。




「お疲れ様、ヒナちゃん。」


 私もヒナちゃんの右側に寝転がる。




「あ、気持ち良さそう。」


 アイナさんが食い付きフレアさんが続く。




「私はココ。」


 セーラさんがニコニコ顔でヒナちゃんの左側に寝転がる。




「・・・。」


 他のみんなも興味深そうに、でも怖っかなビックリといった感じで横になり始める。




 校庭の広い草むらに、総勢40人以上の御令嬢達が寝っ転がっている。




「ふふふ。」


 誰かが笑った。


「クスクス・・・。」


「フフフ・・・。」


 続けて笑いが起こり、終いには。


「・・・あはははは!」


 全員で笑い出した。




 やっばい。本当に楽しい。




「貴女達、何をやってるの!?」


 様子を見に着たマルグリット先生が仰天した声を上げるまで私達は笑い転げた。






 そしてヒナちゃんの思惑は見事に外れて、後日、大量の入部届けが来たのはまた後のお話。






「さて、それじゃあ・・・ちょっと今までは忙しくて聞く時間が無かったけど・・・。」




 勧誘会も終わった日の夜、ヒナちゃんはアイナさんとフレアさんに訊きたかった事を尋ねた。


「アイナちゃん。フレアちゃん。想い人とはどうなったのか教えて貰いましょうか?」


 2人は「あ」って顔になる。


「そうね。報告しないとね。」


「そうだね。」




 先ずはアイナさんが話し始める。


「私はこの夏休みにエリオット様の実家に行って・・・その、御両親に認めて頂きました。初等部を卒業したら正式に婚約者になります。」




「・・・おお・・・。」


 ヒナちゃんからなんか驚嘆に近い声が漏れた。




「おめでとう、アイナさん。」


 私とセーラさんは笑顔でアイナさんに言った。


「ありがとう。」


 アイナさんが微笑む。




「わ・・・私も・・・。」


 次にフレアさんが話し始めた。


「この夏にエオリア様の実家に行って・・・あの、その・・・御両親にご挨拶させて貰いました。私も初等部を出たら婚約します。」




「・・・ぬぅ・・・。」


 ヒナちゃんからなんか変な声が漏れた。




「おめでとう、フレアさん。」


 私とセーラさんは笑顔でフレアさんに言った。


「ありがとう。」


 フレアさんが微笑む。




 そしてセーラさんがヒナちゃんに苦言を呈した。




「ちょっと、ヒナ。さっきから『おお』とか『ぬぅ』とか変な声ばっかり上げてないで『おめでとう』って言いなさいよ。貴女も功労者なのよ。」




「・・・むぅ・・・。」


 またヒナちゃんから変な声が漏れる。




 そして・・・代わりにヒナちゃんの双眸から涙が零れて来た。




「良かったねぇ、2人とも・・・。」


 涙混じりの声でヒナちゃんがそう言うと、2人がいきなりヒナちゃんに体当たりして3人はそのまま引っ繰り返った。




「ふぐっ!?」


 呻くヒナちゃんにに2人がギューッと抱きついている。痛いのかヒナちゃんは手足をバタバタさせて藻掻いていた。でも。




「本当に有り難う、ヒナ。」


「この恩は一生忘れないよ、ヒナちゃん。」




 2人の言葉にヒナちゃんの動きはピタリと止まり、とても優しい笑顔になって2人の頭を撫でた。




 こんなところがヒナちゃんがみんなにモテる理由なんだろうな。




 ヒナちゃんの微笑みにドキドキしながら私はそう思った。




 こうしてドタバタの勧誘会はこうして幕を下ろし、何となく倶楽部に入りそびれていた初等部と高等部の1年生達も収まりたい場所に収まった感じとなった。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 さて。学園の雰囲気も一段落着いて落ち着いてくると、本来騒がなくてはいけなかった案件が生徒達の頭の中に浮かび上がってくる。




 そう、学園祭だ。




 今回は倶楽部勧誘会で1週間余りが削られてしまった為、残された時間もかなりタイトだ。急ピッチで進めなくてはならない。






「何かやりたい事は有りますか?」


 マルグリット先生の声が教室に響く。




 みんながヒナちゃんを見る。




「ハナコさん。」


 マルグリット先生が代表してヒナちゃんを指した。




 ヒナちゃんは澄ました顔で立ち上がった。




「そうですね・・・。去年、先生のクラスは『リトル=スター』を演じました。其れなら続編の『ブライダル=スター』を、とも考えましたけど・・・。その・・・表現に少し適切では無いシーンもあるので、今回は違うモノが良いと思います。」




 確かに適切では無いシーンが在る。




 ブライダル=スターはその名が示す通り、ロンディール様とアルテナ様の結婚前後を描くお話で『初夜』のシーンがかなり濃密に描かれているんだ。と、いうよりもソコが最大の見せ場になっている。




 ヒナちゃんも私から借りて読んだときには顔を真っ赤ににして読んでいた。あの時のヒナちゃん可愛かったな。




 劇が出来ないのは残念だけど仕方ない。ヒナちゃんの意見が正しい。




 そう思った時。




「異議あり。」


 私の席の斜め後ろから声が上がる。




 その美しい声の主はセーラ=ステイ=リーズリッテ。


 そう、何を隠そうセーラさんはこの『ツイン=スター』シリーズでも『ブライダル=スター』を一番の推しにしている人だ。




 そして私もヒナちゃんと出会ってからはこの『ブライダル=スター』を最推しにしている。




『私もこの初夜のシーンの様に誰かに熱烈に愛されてみたい』


 とセーラさんが悶えれば


『解るわ、セーラさん!』


 と鼻息も荒く私は彼女と同調して2人で盛り上がっているくらいだ。




 そのセーラさんがヒナちゃんと対峙する。




「・・・ヤマダ様は『表現に少し適切では無いシーンがある』と仰いました。ソレは恐らくロンディール様とアルテナ様の初夜のシーンの事を仰られているのだとお見受け致します。」


「その通りです。」


 セーラさんの言葉にヒナちゃんは頷いた。




「・・・。」


 私は突如始まった2人の対決に息を呑んで見守る。って言うかクラス全員が見守る感じだ。




「其れならば確かにヤマダ様のご指摘は正しいとも思えます。」


 セーラさんは頷く。




 ・・・あれ?認めるの?


 私が内心で首を傾げた瞬間、セーラさんの双眸に熱い情熱が渦巻いた。




「ですが、私は思うのです。」


 そう言ってセーラさんは皆を見る。




「私達も初等部の2年生。全員が今年度中には全員が15歳を迎え、準成人の扱いになります。高等部に入れば婚約を結ばれる方々も出てくるでしょう。」




 その言葉にアイナさんとフレアさんの肩がピクリと揺れた。




「そう。私達も何時までも子供では居られないのです。況してや私達は貴族子女。同年代の平民の方々に先立って大人への道を歩み出す必要が有ると思うのです。」




「!」


 クラスの雰囲気が変わった。




「そんな私達ならば、この程度の事には慣れて置いて然るべきではないでしょうか。故に、私は敢えて『ブライダル=スター』に挑戦するべきだと考えます。」




 ヒナちゃんは一瞬だけ『してやられた』って顔になったけど、直ぐに落ち着いた表情に戻る。




「成る程、確かにセーラ様の仰る事にも一理御座いますね。」


「・・・。」


 今度はセーラさんが意外って表情になる。




「しかし、セーラ様。お忘れではないでしょうか。この話にはもう1つの初夜が在るという事を。」


「!」


 セーラさんがハッとした表情になる。




 そして同時に私もハッとなってリューダ様とエリオット様を見る。御二人は未だ気付いて無いのか、ポカンと突如始まったこのやり取りを眺めている。




 勿論、大ファンのセーラさんや私が『もう1つの初夜』を忘れている筈が無い。彼女と私が失念していたのは『誰が演じるのか』という点である。




 ヒナちゃんはニヤリと笑う。




「去年演じたリトル=スターは大成功だったとあたしも自負しています。そんな中でブライダル=スターを演じるとするならば、去年のメインキャストが全員在籍しているこのクラスで、キャスティングの変更は恐らく観客の皆さんが認めないでしょう。」


「・・・。」


「百歩譲ってあたしとマリーベル様の初夜は何らかの方法で誤魔化しながら演じたとしても『ご愛敬』で済むかも知れません。しかし・・・」




 ヒナちゃんはエリオット様とリューダ様を見た。




「もう1つの初夜。つまり戦神ニケイア様と光の女神アーレ様のシーンは如何なさいますか?」


「!?」


 エリオット様とリューダ様の表情が驚愕に変わった。




 御二人はやっと気付いた様だった。自分達も巻き込まれかけていた事に。




「御令息でいらっしゃるエリオット様とリューダ様にしてみれば、男性としての『大切な何か』を失ってしまうのではないでしょうか?」


「グヌ・・・。」


 セーラさんの顔が悔しそうだ。




「で、でも!」


 セーラさんは尚も言い募る。


「御二人はとてもお美しいです!」




 そう!その通り!




 私は拳を握ってセーラさんに心の中で同調した。




「そんな御二人が初夜を演じるシーンを見てみたくは在りませんか!?」


 見てみたいです!




「「「!?」」」」


 女性陣から凄まじい程の闘気と声にならない歓声が上がった。嘗て無い程の一体感がクラスの女子生徒達の内にだけ生まれる。




「い、いや、ちょっと待ってくれ、セーラ嬢!」


「そ・・・それはダメです!」


 エリオット様とリューダ様が慌てて立ち上がってセーラさんを諫める。




 が、セーラさんはもう暴走状態寸前で理屈が通じなくなり掛けている。


「御二人は黙ってて下さい!」


「いや、当事者なんだが!?」




 何やら物思いに耽っていたヒナちゃんもそのやり取りにハッとなる。




「セ・・・セーラ様、落ち着いて下さい。」


 ヒナちゃんはそう言った。




「そのご提案は大変に魅力的ではありますが・・・」


「ヤマダ嬢!?」


 エリオット様の声にヒナちゃんは再度ハッとなる。




「し・・・失礼しました。ただ、去年と比べてリューダ様の身長はかなり伸びております。去年のリューダ様は未だ背も低く、中性的な得も言われぬ色気が御座いましたが・・・。」


「ハ・・・ハナコさん!?」


 リューダ様の声にヒナちゃんは三度ハッとなる。




「し・・・失礼しました。ただ、今年はもうリューダ様にアーレ様の役は難しいかと。特にブライダル=スターではニケイア様への愛に目覚めて女性化しておりますから、更に厳しいかと。」


「そ・・・それは・・・」


 セーラはリューダ様を見つめる。


「・・・た・・・確かに・・・。」




 そして・・・セーラさんは「ハァ」と溜息を吐いた。




「解りましたわ。私の意見は引っ込めますわ。」




 何故か少し残念そうなヒナちゃんの顔が印象的だった。




 そしてヒナちゃんは言った。


「ですが、セーラ様の気持ちも判ります。劇は残された時間を考えると難しいですが、折角の学園祭を、あたしも簡単な出し物で終わらせたくは在りません。そこで1つあたしから出し物について提案致します。」


「・・・。」


「去年、あたしが最初に提案した『仮装喫茶』は如何でしょうか?」


「仮装喫茶・・・?」


 セーラさんを含めクラスの半数が首を傾げる。




 仮装喫茶!


 ああ、ソレも良い!




「はい、基本的には喫茶店でお客様をお持て成し致します。ただ、その持て成す私達は物語などの登場人物などに仮装してお持て成しするのです。例えば物語の英雄とか、女神様とか、妖精とか。そう言った実際には会えない、会うことが殆ど不可能な存在に仮装してお持て成しするんです。」


 ヒナちゃんは微笑む。


「更に言えば、このクラスには何人かお料理倶楽部のメンバーも居ますし、お食事も提供出来ると思いますのでお客様にも楽しんで頂けると思うのですが。」


「おお・・・。」




 結局、ヒナちゃんの此の提案は通って、クラスの出し物は仮装喫茶に決まった。




 出し物が決まればやる準備も多彩だ。




 先ず、ドリンク類。喫茶なんだから当然。ソレと食事メニュー。最後に目玉の衣装。




 ヒナちゃんはソレらをテキパキと割り振って準備の指示に入って行く。うん、カッコイイ。




 ヒナちゃんの呼び出しに早急に応じてくれたセルマさんと衣装の打ち合わせに入る。




 何しろ今回はクラス全員が仮装するので注文の数は半端ない。




 内訳は『リトル=スター』のキャラから8着、『星に願いを』と言う物語から4着、『生の慟哭・死の欠片』と言う物語から6着、『セント=ミハイル・ストーリー』と言う物語から2着、『帝王の咆哮』と言う物語から3着、『神々の黄昏』と言う物語から7着。計30着。




 セルマさんは注文の数に喜色を浮かべて早々に採寸の日取りまで決めてしまった。


 これで最大の不安点はクリアだ。






 次に飲食方面。




 って事で私達は翌日、とある場所に出向いた。




 ハナコ様の紹介で訪れたその場所は『世界食料通商連盟』ってところ。


 世界の大国に流通する食料の値段や出荷量を決める重要な組織らしく、大国に1カ所は置かれて居る組織らしい。




 当たり前だけど食料事情は国の根幹とも言える重要事項で、コレに不備や不正が発生すると多くの生命が失われてしまう。だから特定の食料の占有や価格高騰を防ぐ為に20年くらい前に世界の大国が共同で立ち上げた組織らしい。




 ・・・多分だけど農協みたいなモノだと思う。




「是れはお嬢様、ようこそ『食通連』へ。」


 初老の男性と若い男性2人が和やかな笑顔で私達を迎えてくれた。




「本日はご対応頂きまして有り難う御座います。ヤマダ=ハナコと申します。」


 ヒナちゃんの挨拶に初老の男性が頭を下げる。


「ご丁寧に。私は此処で所長を務めておりますウリエン=アンベールと申します。お父上には日頃から大変お世話になっております。あ、この2人は私の補佐役でジルダとマイクです。」


「初めまして、お嬢様。」


 2人の青年が頭を下げる。




 ウリエンさんがフレアさんを見た。


「此方のお嬢様が・・・。」


「あ、フレア=カールと申します。」


 フレアさんがカーテシーをとるとウリエンさんは頷いた。


「おお、カール商会の御令嬢でいらっしゃいましたか。お父上には大変お世話になっております。」


「え、お父様に・・・?」


「はい、カール会長様には南国の特産品を大量に買い付けて頂いてこの国の食糧事情にも多大な貢献をして頂いております。お陰でウチの支所も南国方面に対しての要求が通し易くなっておりまして大変助かっております。」


「そうですか。」


 ふふ。フレアさん嬉しそう。




「そちらの御三方は・・・。」


 ウリエンさんが私達を見たのでそれぞれ紹介すると、支所の3人は驚いていた。




「それで本日は学園祭の出し物でお食事を提供されるとか。」


「はい、それで何か面白い食材とか料理があればアドバイスを頂ければと思いまして。」


「なるほど・・・。」


 ウリエンさんは頷きながら、やがて首を傾げた。




「ご来訪の主旨は承りました。それで・・・実際に料理をなさる方はどちらに・・・?」


「此処に居ますわ。」


「・・・は?」


 ウリエンさんは更に首を傾げ、やがて驚きの表情になる。


「お嬢様方が・・・?」


「はい、此処に居る5人で作ります。」


「・・・。」




 暫くは無言だったウリエンさんは静かに口を開いた。


「そうですか。お嬢様方が・・・。時代は進んでいるのですね。」


 何やらしんみりとした口調だ。


「以前の・・・其れこそほんの10年ほど前迄は『食事作りなど下賤の者が携わる卑しき仕事だ』などと見下す貴族の方々も多くいらっしゃって口惜しい思いをしたモノですが・・・。」




 ・・・そうだろうな、と思う。少なくともアビスコート家にはそんな風潮が確かに在った。




 少ししんみりとした雰囲気をヒナちゃんが笑い飛ばす。


「ふふふ。おかしな話ですわね。食事が出来なければ人は皆、等しく飢えて死んでしまいますのに。その大事な食事を作るお仕事が下賤だなんて、脳味噌が飛んでるんじゃないかしら?」


「・・・ふ・・・アハハ、まったくその通りですな。」


 ヒナちゃんの言い方にウリエンさんは驚いた顔をしていたけど、直ぐに愉快そうに笑い出した。




「若い方々がお嬢様方の様に自分達の殻に籠もらずに世界を広く見て下さるのは、年老いた私から見れば本当に喜ばしい事です。」




 ヒナちゃんは少し赤面しながら話を戻した。




「それでウリエンさん、その学園祭の件なんですけど・・・。」


「ああ、そうでしたな。」


 ウリエンさんは暫く思案した後、ジルダさんとマイクさんに指示を出して幾つかの食材を持って来させた。




 色々と目に新しいモノが並ぶ。その横でウリエンさんが言った。


「お嬢様方ほどの方々であれば、良い肉や野菜などは直ぐに手に入りましょう。ですので今並んでいるのは世界の珍味と呼ばれるモノです。」




 そう言って1つ1つ説明し始める。




 歯応えを楽しむキノコや、赤い色のチーズ、東方の深海にしか居ない大きな貝など、前世で見た事も無い、そしてこの国では手に入らない物が並ぶ。




 その中で幾つかをヒナちゃんは凝視していた。つまり、前世で見た事のあるお箸の国の食材が在ったんだ。




 1つはウニ。




「ああ、其れは『ウニ』と呼ばれるモノですよ。海の生き物で最近、食べられる事が判ったんです。殻を割ると中にオレンジ色の腑が付いてまして口に含むと甘みを感じる事が出来ます。」




 知ってます。凄く美味しいです。




 もう1つは・・・アレは何か見覚え在るな・・・何だっけ?


 ヒナちゃんが私を呼ぶ。




「是れって明太子じゃない?」


「・・・あ、そうかも。」


 ヒソヒソやってるとウリエンさんが説明を入れてくれる。


「其れは『ファイアエッグ』ですね。魚の卵なんですが南国の香辛料などでふんだんに味付けされた食材です。」




 知ってます。辛くて少し苦手です。


 でも、こっちだとファイアエッグって言うのか。面白いな。




 そして、最後の1つ。




 ヒナちゃんはその藁の入れ物に入った土色の物体を無言で手に取った。


「ああ、其れは『味噌』と呼ばれる調味料ですよ。」




 ああ!やっぱり。良かったね、ヒナちゃん!




 ヒナちゃんはペロリと味噌を舐める。




「遙か東国で作られたモノなんですが、とにかく塩っ辛くて辟易しております。何か一工夫で美味しく出来そうな気はするんですが・・・。」




 ヒナちゃんはニッコリ笑った。


「ウリエンさん、調理場をお借り出来るでしょうか?あと幾つか食材を。」




「?・・・はぁ・・・。」




 案内して貰った厨房でヒナちゃんは存分に出汁を取って、偶々見つけたナスビを投入する。そして味噌を混ぜて。




 お味噌汁の完成だ。




「・・・ほう!」と男性陣。


「美味しい!」と思わず私とフレアさんが呟く。


「変わった味だけど悪くないわ。」とセーラさんとアイナさん。




 ウリエンさんが興味津々の表情でヒナちゃんを見た。


「お嬢様は一体何処でこの調理方法をお知りになったのでしょうか?」


「え!?・・・ええと・・・。」


 途端にヒナちゃんはシドロモドロになっちゃう。




「た・・・確か、何かのお料理の本で・・・、ね、マリーベル様。」


 そしてまさかの私に振ってきた。


「え!?」


 突然話をふられて私も戸惑いながら頷いた。


「そ・・・そうでしたね。確か何処かでヤマダ様と・・・見た様な・・・。」


「そうでしたか。その様な料理本があるとは・・・。」


 ウリエンさんが感心した様に頷く。




「と・・・取り敢えず、ウリエンさん。この味噌とウニとファイアエッグを頂きたいんですが。」


「畏まりました。直ぐに手配致します。」


「あと、この味噌を定期的に購入したいんですけど。」


「畏まりました。」




 最後に茶葉関係をセーラさんとアイナさんに選んで貰って用件は終了した。






 そしてお料理倶楽部に生徒会から『お料理倶楽部で料理の提供をして貰えませんか?』との依頼が来た。普通なら忙しいという正当な理由で断る処だけどヒナちゃんは今後の事を考えて引き受けていた。




 結局、生徒会の依頼の方はシフト制にして手の空いた人達で捌く事になった。


 そしてメニューの方も1年生の子達の強い要望からバーベキューと豚汁に決まった。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 ヒナちゃんは自分が前世のように文化祭を楽しめているのは、貴族社会が想像以上に堅苦しくないお陰だと思っているらしい。


 確かに一般的に想像されがちな堅苦しい貴族風習は上級貴族間以外にはこの国には殆ど無い。前世に準えて見れば多分19世紀前後の、貴族と民衆の間に然程の開きが無い時代に近いと思う。




 多分、ヒナちゃんが思っている理由も在ると思う。でもヒナちゃんが文化祭を、いえ、もっと言えば学園生活を楽しめているのは彼女自身の功績の方が大きいと思う。




 切っ掛けは渋々だったり押し付けられたりで余り自分から動く人では無いけど、やるとなったら自分の出来る事を出し惜しみしないでみんなと楽しもうとする。その態度が回りに好感を与えて良い結果が生まれている。




 美人で気さくで明るくて。頭は良いのに隙だらけで。


 そんな彼女が引っ張って行ってくれるから、みんなヒナちゃんを好きになるんだ。私には頭の痛いところだけど。






 だから私は言う。


「多分ね、ソレは違うよ。」




 私に即座に否定されてヒナちゃんはビックリした顔をしていた。


「え・・・違うの?」




 私は頷く。


「うん。私、前にセーラさんから去年の学園祭の話を聴いたの。」


「うん。」


「そしたらね、あんまりクラスの人達は出し物には乗り気じゃ無かったんだって。」


「へぇ・・・。」


「他のクラスの人達も似た感じのこと言ってた。」


「へぇ・・・。」




 ヒナちゃんは意外そうな表情だ。




「つまりね。」


「あ、うん。」


「ヒナちゃんがみんなを盛り上げて引っ張ってってくれてるんだと思う。」


「いや、ソレは違うでしょ。」


 ヒナちゃんはとんでもないって顔で首を振った。


「あたしは寧ろ『嫌だ嫌だ』って言ってるような気がするけど・・・。」




 ヒナちゃんの言葉に私は苦笑する。


「うん、最初はね。でもヒナちゃんって気分が乗ってくると、何だかんだでアイデア出してくれるし、成功までの道筋を引いてくれるし、問題も解決してくれるしで、一緒にやってるとなんか楽しくしてくれそうな、そんな気がしてくるんだよ。」


「・・・。」




 あれ?


 なんか微妙そうな表情だな。




「うーん・・・。」


 ヒナちゃんはコタツに頭をくっつけてムニャムニャと動かす。


「・・・ふふ。」


 ヒナちゃんが今何を思っているのかは解らないけど、その小っちゃい子みたいな態度が可愛くて思わず笑ってしまう。




 ヒナちゃんが徐ろに顔を上げて私を見た。




「ねえ、マリ。」


「なあに?」


「最近、元気無いね。」


「え、そう?」


 私は首を傾げる。




 そうかな? そんな事無いと思うけど。




「元気が無いって言うか・・・2学期に入ってテンションが以前に戻ったと言うか・・・。」


「そうかな?」


「うん。修学旅行からコッチ、夏休みくらい迄のマリってさ、羽目が外れてるって言えるくらいにテンションが高かったけど、今はソレが無くなった。」




 ドキッとした。


 まさか気付かれていたなんて。




「ゲス王子が復学してるね。」


「!」




 自分の顔が引き攣るのを感じた。


 理由まで見抜かれているなんて。




 ヒナちゃんの言う通りだ。殿下が謹慎していると聞いて私は嬉しくて燥いでいた。心を冷えさせてくる相手と遭遇する心配をしなくて良い開放感にいつも以上にテンションが高かったと思う。




 でも殿下が復学してしまった。わたしのテンションが元に戻ってしまったのは否めない。




「まーりちゃん。」


 不意にヒナちゃんが明るい声で私の名を呼んだ。




「・・・。」


 思わず私はヒナちゃんを見る。




「あたしが居るよ。」


「!」




 ヒナちゃんはソレしか言わない。でも彼女の言いたい事の全部を私は一瞬で理解した。


『だから心配なんてする事無いよ。』




 彼女が側に居てくれる心強さと溢れんばかりの優しさに泣きたくなる。私は涙を押し殺して精一杯の笑顔を作った。




「・・・うん。そうだね。」




 ヒナちゃんの満足そうな笑顔が見られて嬉しい。




「マリ、今年の学園祭も楽しくしようね。」


「うん。」




 私は頷いて・・・机の上で手遊びしていたヒナちゃんの手を握った。




「!」


 急に手を握られて驚いたヒナちゃんの手の動きが止まる。




「・・・。」


 コタツを挟んで私とヒナちゃん、2人は暫く無言で手を繋ぎ合った。




 今すぐ彼女に抱きつきたい。抱き締めて想いを交わし合いたい。


 でも、今日は止めておこう。




 多分、止まらなくなる。凄い事をしてしまう。




 だから。




「・・・大好き。」


 私は自分の中に猛る想いを一心に隠して一言そう呟くと、ヒナの手を離して立ち上がり自室に向かい始める。




「・・・。」


 固まったまま私を見送るヒナに私は挨拶をしていない事を思いだして振り返った。ヒナは何故か私の顔を見て驚いた様な顔をしていたけど。




「おやすみ。」


 私はヒナにそう告げると自室に戻った。




 お休み・・・か。


 多分、今日は寝られないかな。







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