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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター5 2年生編 / 二学期
85/105

M74 ただいま



 ただいま。




 久しぶりの学園だ。2年近くも住んでいると何か『帰って来た』って感じがする。




 正門であたし達は足を止める。


 ソコには大きな聖夜ツリーが立っていた。


「うぉ!?クリスマスツリーだ!」


 あたしが叫ぶとマリも少し頬を上気させて言った。


「セーラさん達が作ったのかな!?」


 あたし達はジックリとツリーの周りを回りながら眺める。




「・・・。」


 なんかジーンときてしまった。


 会えなかった2ヶ月弱の間も、あたし達とみんなの絆は繋がったままだったんだなって、物言わぬ聖夜ツリーから嬉しい伝言を貰った気がする。


「寮に行ってみようよ。」


 マリの提案に従って女子寮の入り口をくぐると玄関ロビーにも聖夜ツリーが立っていた。




 視界が歪んで眼からポロリと涙が零れる。


 ああ、何か嬉しいな。


「ヒナちゃん泣いてる。」


「マリだって涙目じゃん。」


「うん、何か嬉しくて。」




 2人で並んで立ってツリーを見ていると


「まあ、マリーベルさん!ヒナさん!」


 と声が上がる。


 振り返るとマゼルダ婦人がビックリ顔であたし達を見ていた。


「寮母様、ただいま戻りました。」


「お帰りなさい!」


 挨拶するあたし達をマゼルダ婦人は両手を広げて抱き締めてくれる。


「心配したのよ。戻って来られて本当に良かったわ!」


「ご心配をお掛けしました。」


 あたし達もマゼルダ婦人を抱き締める。


「貴女達が居なくて本当に寂しかったわ。・・・もう大丈夫なのね?」


「はい。お父様にもう心配は要らないと言われました。」


「そう良かったわ。さあ、疲れているでしょう? お部屋でゆっくりと休みなさい。」


「はい。有り難う御座います。」


 あたし達は婦人に頭を下げてお礼を述べる。




 そして自室に向かおうとした時、マゼルダ婦人が呼び止めた。


「ああ、そうそう。今は定期考査中だから、明日の試験が終わるまでの間だけ、2人には申し訳無いんだけど無闇に学生達と関わらないようにしてね。」




 なるほど。カンニング対策か。何しろあたし達は一足お先に定期考査を終わらせているからね。つーても残る試験は武術のみだしカンニングもクソも無いけどな。




「とは言っても明日の試験は武術のみだし大した問題は無いのだけれど、一応ケジメとしてね。」




 ああ、やっぱ寮母様も同じ事を思ってるんだな。




 あたし達は頷いた。


「解りました、寮母様。」




「うーん・・・帰って来たね。」


 部屋に入ったあたしの目の前でマリがノビをしながらそう言った。


 やっぱりマリもそう思うんだ。


 まあ、そりゃそうか。マリにしてみればハナコ家は正真正銘の他所様のお家だもんな。




「ふふふ。おかえり、マリ。」


 とあたしが冗談ぽく言うと、マリは少しだけ驚いた様な顔を見せた後に微笑んだ。


「ただいま、ヒナちゃん。そしてヒナちゃんもおかえり。」


「うん。ただいま。」


 あたしも微笑む。




 リドル・フェア以来、色々あったけど、漸く落ち着いたかな?




「コタツー!」


 あたしは叫ぶと最愛のコタツの中に滑り込んだ。




 マリも笑いながらコタツに入ると言った。


「みんな今は試験中かな?」


「だろうね。今日は社会学と魔学・・・かな?」


「多分。」


「明日が最終日で武術か。」




 大変だなぁ。


 一足早く試験を終わらせたあたしは何やら得した気分で寝転がった。マリもコロンと横になりあたしを見る。


「またココに戻って来られて良かった。」


「だねぇ。一時はどうなる事かと思ったけど、意外とアッサリだったねぇ。」


「ハナコ様が凄い人だからよ。本当に200人の傭兵さんを護衛にしちゃうしゼスマイヤー公爵と話を着けて来ちゃうし。」


「ふふふ。」


 あたしはお父様を誉められて嬉しくなり笑ってしまう。




 でも・・・と思う。


「でもね。ホントに頑張ったのはマリだよ。」


「え?」


「お父様が仰られた通りで、マリが腐らずに今まで頑張ったから・・・優しい気持ちを忘れなかったから、お父様も強気で動いたしソレに煽られてゼスマイヤー公爵も口添えしてくれた。」


「・・・。」


「ホントにそう思うよ。もしマリがあの時にクルマイスをお父様に提案していなかったら、今回ゼスマイヤー公爵は口添えしなかったと思う。あの件で公爵はアビスコート侯爵よりもマリの方が国の役に立つって思ったんだろうし。」


「うん。」


 マリは照れ臭そうに、でも嬉しそうに微笑んだ。




 世の中ホントに何が人生に影響するかなんて解らない。今回は特に強くその事を学ばせて貰った気がする。


 この子はあの時・・・お父様にクルマイスを提案した時、本当に亡くなられたお母様を偲んで世の中の同じ苦しみに悩む人々を助けたいと思っただけの筈だ。でもその思いが巡り巡って今回の・・・一歩間違えればマリ自信の命が危うかった状況を救う事になった。




 この国の貴族の中で最大の権力を持つ筆頭公爵の加護を得る形で。


 もちろんゼスマイヤー公爵の加護が永続的に続くモノとは思っていない。公爵がマリに加護を与えたのは、過去のマリの言動が公爵の信念に合致したからに過ぎない。マリを不要と考えれば、彼は容赦なくこの加護を取り払うだろう。




 あたしとしてはそれで充分だけどね。


 悪いけど、信念の為ならば血も涙も情も捨て去るような御仁の加護なんてモノに何時までもマリを縛らせるつもりは無い。


 でも使えるモノは確りと利用させて貰う。そんな強力な加護が働いているなら、今の内にコッチの体勢を整えさせて貰う。アビスコート侯爵からマリを切り離す為の対決に向けて。




「ヒナちゃん、何か怖い顔をしてるよ? どうしたの?」


 ハタと我に返る。


 見ればマリが心配そうな顔であたしを見ていた。




「ふふふ。何でも無いよ。」


 あたしはマリの頭を撫でて微笑んだ。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「ヒナちゃん!マリ様!」


 扉が開いたかと思えばフレアが叫びながら飛び込んで来た。




 あらあら、フレアさん。お行儀が成って無くてよ?




「フグゥ!?」


 優雅に微笑んで迎えようとしたあたしはフレアのダイビングヘッドバッドをお腹に喰らってもんどり打った。


 2人でリビングをゴロゴロ転がって、バタンッ!キュウ・・・。




「グフッ・・・フ・・・フレア・・・なんで突進してきたのよ・・・。」


「ゴ・・・ゴメン・・・。嬉しくって、つい・・・。」


「・・・激しいわね、あんた・・・。」


 痛みで動けないあたし達は転がったままの格好で質疑応答を済ませる。




「何やってんのよ・・・。」


 セーラが呆れた声であたし達を見下ろす。




「マリさん、お帰りなさい。」


 アイナが優しく微笑みながらマリに挨拶する。


「ただいま、アイナさん。」


 マリが頬を染めて嬉しそうに返事する。




 ・・・あれよ、アレ。あたしもアレがやりたかったのに。




 そして何かの気配を感じて視線を玄関口に送るとソコには笑いを堪える美少年3人の姿が。


「!?」


 あたしは慌てて起き上がった。


「リューダ様! エリオット様にエオリア様も!」




「大丈夫ですか? ヒナさん、フレアさん?」


 リューダ様、心配してくれるのは嬉しいけどお顔が笑っていてよ?


「僕達まで突然来てしまって済まない。」


 エリオット様、謝罪など不要ですけど笑いを堪えるお顔が引き攣っていてよ?


「相変わらず元気そうで何よりだね。」


 エオリア様、せめて笑いを隠す素振りくらい見せて下さいね?






 気を取り直してあたし達はコタツに足を突っ込む。あたしとマリが並んで座り、御令息方もそれぞれの婚約者の横に並んで座り、セーラの横にはリューダ様が座る。




「2人ともお帰りなさい。」


「ただいま、みんな。」




 御令嬢3人の眼に涙を浮かんでいるけどそれ以上に嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。様子と進捗を訊きたがる6人にあたしとマリは代わる代わる話をしていく。




「ゼスマイヤー公爵閣下が後ろに着いてくれるなんて凄いな。」


 エリオット様が唸る。




 やっぱ凄い人では在るんだな。




「でも、気を付けた方が良い。ゼスマイヤー公爵は気紛れな処があるから、いつ後ろ盾を撤回するか判らないし。」


 エオリア様がいつになく真剣な表情で言う。




 そうね。


 「気紛れ」からは1番程遠い人だと言うことをあたしとマリは知っているけど、気を付けた方が良いという意見には激しく同意だ。




「では、僕らが周辺に気を付ける必要は無くなったと考えても良いのでしょうか?」


 リューダ様が尋ねるとセーラが首を捻る。


「・・・難しい処ですね。ゼスマイヤー公爵様がそう社交界に口を利いて下さったとしても、ゼスマイヤー公爵様に反感を持つ貴族も少なくないと聞きますし。」




 そうなのか・・・。




「では、引続き朝に皆で1日の行動予定を連絡し合う様にしましょう。」


 アイナが提案するとフレアが頷いた。


「そうだね。私達だけでも互いに何をしているか判っているのは安心するし。」


「そうだな。」


 エオリア様が頷く。




「そうだね。僕達としても女性方を護るのに皆さんの行動をある程度把握出来るてと動きやすいし。」




 リューダ様・・・カッコ良い事を・・・。




 そしてあたしは思い出した。


「そう言えば男性陣は武術会1位~3位までの独占、おめでとう御座います。」


「あ、おめでとう御座います。」


 あたしが言うとマリも笑顔で追従する。




「ん?・・・ああ、有り難う。」


「有り難う。」


「ありがとう御座います。」


 美少年3人の照れ臭そうな笑顔を頂きました。眼福。




 そう。今年は何とこの3人、武術会の初等部に於いて1~3位までを独占したらしいんだ。因みに今年から各クラス3人までの出場となっている。


 1クラスで3位までを独占したのは武術祭始まって以来初の快挙だそうでマルグリット先生は感激の余り涙を流されたのだとか。美女の涙・・・いやぁ、見たかったなぁ。




「あと、聖夜ツリーは皆さんが立てたのですか?」


 マリが眼を輝かせて尋ねると6人は笑顔で頷いた。


「2人がいつ帰って来てもいいようにって。去年貴女達とやったツリー作成が本当に楽しかったから、せめて私達だけでもやろうって言ったらみんなが話に乗ってきてくれて。ギルドの皆さんの協力もあって完成させられたの。」


「そっか・・・。」




 嬉しい。ヤバい。また泣きそうだ。




「ありがとう。」


 あたしは火照る頬もそのままにお礼を言うとみんなも嬉しそうに笑ってくれる。




「さて、明日は試験の最終日だ。ソレが終われば夜からは聖夜パーティーだな。」


 エリオット様がそう言うと皆が頷く。




「明日は武術でしたっけ?」


 マリが訊くとアイナが表情も暗く頷いた。


「ええ・・・。なんで女子が武術をしなくちゃいけないのかしら。」


「それは貴族令嬢たるもの多少の危機くらい自力で凌げという教えからじゃない。」


 アイナのボヤきにセーラが答える。


「因みにヒナちゃん達は明日はどうするの?」


 フレアが訊いてきた。


「あたし達は午前中は寮でお留守番。あたし達は先に試験を済ませちゃってるから試験終了時までは出来るだけ学生に触れ合っちゃいけないんだって。」




「「「え!?」」」


 みんなが驚きの声を上げた。


「じゃあ俺達がココに居るのはマズいんじゃないか?」


 エオリア様が心配そうな表情で尋ねてくるのであたしは手を振った。


「大丈夫ですよ、エオリア様。そうは言っても明日の試験は武術だからカンニングも何も在りませんから。『触れ合っちゃいけない』と言うのは敢くまでケジメの話です。」


「なんだ・・・もう、脅かさないでよ。」


 セーラがホッとした後にプゥと頬を膨らませる。




 うんうん。可愛いな、おい。




「じゃあ、明日の聖夜パーティーは出られるんですね?」


「もちろんです、リューダ様。」


 あたしが微笑むとリューダ様は嬉しそうに笑う。




 ありがとう御座います。美少年の天使の微笑み、確かに頂きました。




「じゃあ今日はこの辺で。」


 結構長い時間歓談した後、みんなは笑顔で帰っていった。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「フワア~・・・眠いわね。」


 あたしが大きな欠伸をしながらそう言った時。


「あ!」


 マリが大きな声を上げた。


「どしたの?」


 あたしが尋ねるとマリが困った様な顔を向けた。


「明日、ヒナちゃんの誕生日・・・。」




「・・・。」


 あ、ああ。そう言えばそうね。決して忘れていた訳じゃ無いわよ。ホラ、色々と在ったし・・・。




「私、何も用意してない・・・。」


 まるで嫌いな食べ物をてんこ盛りにした皿を渡されたかの様な絶望を表情でマリがそう言った。




 なんだ。そういう事か。




「何かと思ったら・・・。別に良いわよ、最近は色々在ったんだし仕方無いじゃない。」


「でも・・・。」


 マリは悔しそうな表情をする。




 うーん、その顔もいいなあ。いやいや。




「あたしはさ、マリが側に居てくれたらソレで良いんだよ。ホントに。」


「・・・。」




 ウヒョ~!照れるぜ。


 頭掻いて照れ笑いを浮かべるあたしにマリが雪崩れ込んで来た。




「マ・・・マリ?」


 あたしにしがみつくマリを受け止めながら彼女の名前を呼ぶとマリはあたしを見上げた。




「!?」


 そのマリの、何というかトンデモナイ色気に圧倒される。




 頬が紅色に・・・ってのは何回も見たことあるしソレはソレで何回見ても凄くイイんだけど。


 何て言うか瞳が・・・瞳がヤバい。何か妙にシットリと濡れてウルウルと揺れている。すんごい量の情熱が溢れ出てる感じなんだ。ソレに唇も真っ赤に染まってバンパイアみたいだ。バンパイアなんて見た事無いけど。




 その小さな唇が動いた。


「ヒナ・・・。」


「は、はい・・・。」




 ヤバい。マリが呼び捨てモードに入ってる。同じようにちょっと盛り上がってしまってるあたしに今のマリを止める手立ては無い。




 と、思ってたらマリはまた俯いてブンブンと首を振った。


 そして再び顔を上げると、彼女は顔を真っ赤にしながら微笑んだ。




「なんでもない。やっぱり今日はやめとく。」




 やめとくって・・・何を?


 いや解ってんだろ。はい、解ってます。




 戸惑うあたしにマリはクスリと笑い、ギュッと抱き締めてきた。そして耳元で囁く。


「ヒナちゃん、顔が真っ赤だよ。プレゼントは・・・明日の夜に・・・。」


「・・・。」




 固まるあたしからマリはスッと離れると立ち上がった。


「おやすみ、ヒナちゃん。また明日ね。」




 呆然と彼女を見上げるあたしにマリは微笑むと自分の寝室に入っていった。




 ・・・フオォォォォォォ! 眠れるわけ無ェだろぉぉぉぉぉ!









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― 新着の感想 ―
[良い点] >「フグゥ!?」 リアルで笑わせるのやめてくだしあ(笑) [一言] >戸惑うあたしにマリはクスリと笑い、ギュッと抱き締めてきた。そして耳元で囁く。 てぇてぇ(語彙力喪失)
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