M71 好いてくれる人
明けましておめでとう御座います。
今年も頑張って投稿して参りますので応援宜しくお願い致します!
ジクジク。
深夜になってから傷が痛み始めた。そらそうだよね。幾ら薄皮一枚切られただけの浅い傷とは言え、ナイフでガッツリ切られたんだから痛くならない訳が無い。
隣で眠るマリはコッチを向いて可愛い寝息を立てて居る。チクショウ、可愛いな。チューしてぇ。
「・・・。」
あたしは天蓋を見上げた。
アイツら・・・あの偽兵士達は誰なんだろう。いや、アイツらの正体なんてどうでもいいか。アイツらに暗殺の依頼をしたのは誰なんだろう。
やっぱりアビスコート侯爵なのかしら?
でも早すぎない?
まだゲーム開始の年齢にもなってないのよ?
確かにもうゲームなんて関係無くなっちゃってるけどソレにしたって早すぎるわよ。
だって立太子の成立要項には「15歳以上」の年齢制限があるんよ? そして第2王子が15歳になるまでに後2年掛かるんよ? 運命か何か知らんけど、前倒しするにしたって2年は早すぎない?
・・・ええと、マリを狙ってきたって事はこの子が邪魔になったって事よね。邪魔に為ったって事はだよ?あのゲス王子と婚約関係である必要が無くなったって事だ。
ん? よく解んなくなってきた。
「むー・・・。」
あたしは唸る。
そもそも何でマリとあのゲスは婚約したんだっけ? 確かマリは――
『忌み子の私が婚約相手になれば殿下の立場が悪くなって殿下を王太子候補から外せるから。』
とか何とか言ってたな。
世間体が第一の王侯貴族の社会では確かにソレは致命の一撃なんだろう。
『でも本当に私が王家に入るのは嫌だから、第2王子を立太子する辺りで私を疵物にして婚約者から外すつもりなの。』
とも言っていた。
・・・マジで胸クソ悪い。
じゃあ婚約関係である必要が無くなったって事は、あのゲスの立太子を無しにする理由が整ったって事?
だってそうじゃ無い限り、マリの存在は王家にとって必要よね。
ゾッとなってあたしは両腕で自分を抱き締めた。
え・・・ソレってヤバくない?
マリはコレから命を狙われるって事? いや殺されないにしても身体に疵を付けられるって事よね。
「・・・。」
あたしはスヤスヤと眠る隣のマリを見つめる。
眠りに落ちるまで、散々あたしの傷を心配してくれた優しい女の子。
『痛くなったら直ぐに起こして。』
と言って眠っちゃった可愛い子。
絶対に守ってやる。
あたしは決意も新たにする。そんなゲス共にマリを好き勝手になんかさせんわ。会った事なんて無ぇ奴らだけど。会いたくも無ぇ奴らだけど。
フンスッと鼻息も荒く気合いを入れたとき。
「ヒナひゃん・・・?」
マリの寝起きで噛み噛みの声があたしの耳に届いた。
ヤベ。鼻息が顔に掛かったか?
「お、起こしちゃったかな?」
あたしが尋ねるとマリは目を擦りながら首を振った。
「ううん・・・傷痛むの?」
あ、ソッチの意味に捉えてくれたか。
「いやぁ・・・うん、そう。」
よし此処は乗っとこう。
「見せて。」
マリはそう言うとあたしの腕に巻かれた包帯を見る。
「・・・血は滲んでないみたい。」
「そっか。まあ、ちょっと痛いだけだから平気だよ。」
「そう・・・。痛くて眠れないんじゃ無いんだよね?」
「うん、違うよ。」
あたしはマリに微笑む。
頭の良いこの子が此れから先の自分の運命に思いを馳せていない筈が無い。きっと不安で一杯だろうに、あたしのかすり傷を心配してくれてる。本当に優しい。
「・・・。」
あたしは腕を伸ばして、マリの滑らかな頬に手を置いた。
「!」
マリはビックリした顔で身を震わせた。
「ヒ・・・ヒナちゃん・・・?」
あたしはマリの頬を撫でる。
「・・・心配してくれてアリガトね、マリ。」
「う、うん。」
微笑むマリの頬がどんどん熱くなってくる。ああ、昼間だったら頬を染めるマリが見られたのに。今日は残念ながらの新月だ。いつもよりも暗い夜が恨めしい。
頬を撫でるあたしの手にマリが手を重ねた。柔らかい手の温もりにあたしの心が安らいでいく。
・・・ん? そう言えば日々木剣を振っているのにタコが出来てないな。 コレが圧倒的ヒロイン力と言う奴か。彼女は悪役令嬢枠だけどあたしの中では完全無欠のヒロインだわ。
「悪役かぁ・・・。」
「え?」
あたしの呟きにマリが首を傾げる。
「あたしの知る世界に悪役令嬢は居ないなぁと思って。」
マリがクスクスと笑う。
「悪役令嬢の方が良かった?」
「んな訳無いでしょ。」
あたしは苦笑いしながら否定する。
「貴女は悪役令嬢のマリーベルでは無いわ。優しい貝崎茉璃ちゃんの記憶を持った素敵なマリーベルよ。あたしはそんなマリーベルが好き。」
「うん・・・ありがと。」
マリが目を伏せる。
お、照れてるな?
「私ね。」
「ん?」
「グラスフィールドを2回プレイしたって言ったでしょ?」
「うん。よーやったわ、2回も。」
「へへ。」
マリが笑う。
「2回目のプレイの時は、実はマリーベルを応援しながらプレイしてたんだ。何とか幸せになって欲しいって。」
「おう。」
・・・『おう』って何だ。どんな返しだ。
「応援していたのは、あの適当な世界の中でマリーベルだけが一生懸命に生きてたから。婚約者を盗られたくない一心でハイスペックのヒロインに負けない様に努力を重ねて。でも敵わなくて。誰も励ましてくれる人が居なくて歪んじゃったけど、本質的には頑張り屋さんのマリーベルが1番好きだった。だからマリーベルを好きだったっていう隠しキャラでも居ないかな?って思って2回目をやったんだ。」
「居たの?」
「居なかった。」
・・・だろうなぁ・・・。あのゲームにそんな気の利いた要素は無さそうだもん。
「でも・・・。」
「?」
マリは言葉を繋げる。
「マリーベルを好きになってくれる人を見つけた。」
「あ、居たんだ。良かったじゃん。」
正直、意外だ。そんな隠し要素があのゲームに在ったなんて。
あたしの反応を見てマリは『しょうがないな』って顔で苦笑いをした。
え、何、その顔。
「ヒナちゃん。」
「うぁ?」
「私はマリーベルだよ?」
「うん。」
「この世界もゲームの世界でしょ? 少なくともゲームの世界に類似した世界でしょ?」
「うん・・・。・・・あ。」
・・・あ、そう言う事・・・。
マリの言いたい事を理解してあたしの顔が火照り出した。
「マリーベルはこの世界に来て漸く自分の事を好いてくれる人に出会えたの。」
マリの愛おしそうな視線が恥ずかしくてあたしは目線を下げる。そして下げながら言った。
「うん。好き。誰よりもマリーベルが好き。」
くー・・・恥ずかしい。こう・・・何というか、こう言う雰囲気の中で真面目に自分の本心を面と向かって言うのは恥ずかしい。
ゴソリとマリが動いてあたしにピッタリと寄り添った。
「・・・。」
マリがジッとあたしの顔を見つめる。
物欲しそうに。
ああ・・・ダメだ。くっつかずには居られない。
「マリ・・・。」
火照る顔もそのままにあたしは少し掠れた声で彼女の名前を呼んだ。
「ヒナ・・・。」
マリが応える。
唇が重なり合った。柔らかくて温かいプルンとした唇があたしの感覚を支配する。
「・・・。」
唇を離して無言で見つめ合った後、また唇を重ねた。湿った唇の間からマリの舌が出て来てあたしの唇を突つく。
あたしは口を広げてマリの舌を自分の舌で迎え入れた。
お互いの存在を確認し合う様に舌を絡めていく。
『クチュリ』
と重なり合ったの口の隙間から水音が漏れる。
マリの両腕があたしの背中に回されて撫で回してくる。時折お尻に手が掛かるのは彼女の願望かしら?
でも此処はあたしの実家だし・・・。どうしようかな。
なんて事を考えてたらマリが唇を離してあたしを見た。
「本当は・・・もっとしたいけど・・・ヒナちゃん怪我してるし・・・此処、ヒナちゃんの実家だし・・・今日は此処までにする・・・。」
自分に言い聞かせる様にしながらマリはそう言った。
クソ可愛ええな。
あたしは微笑んでマリの頬をまた撫でた。
「ありがと。マリのそう言うところ、大好き。」
「うん。」
マリが嬉しそうにあたしの手に頬擦りする。
「お休み、ヒナちゃん。」
「お休み、マリ。」
そして軽くチュッとキスをすると、あたし達は抱き合ってまた眠りに就いた。
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
「お早う御座います、お嬢様方。」
ライラの挨拶を呼び声にあたし達にいつもの朝が訪れた。
「お早う、ライラ。」
「お早う御座います、ライラさん。」
あたし達の挨拶にライラは微笑みで返すと
「お嬢様、腕のお怪我は如何ですか?」
と尋ねてくる。
ああ、怪我したんだった。寝起きで忘れてた。
あたしは無言で腕を動かしてみる。・・・うん、平気かな。
「うん。平気みたい。」
「そうですか。」
ライラはホッと息を吐く。
あたしは気になっている事を訊いた。
「ソレよりもさ、あの偽兵士の2人はどうなったの?」
「・・・。・・・。・・・どうとは?」
何?今の間は。
「い、いや、何かさ、真相を白状したとか、まだ何も聞き出せていないとか在るでしょ?」
「!・・・あ、ああ。そう言う事ですか。はい、旦那様方は幾つか情報を引き出せたみたいですよ。」
・・・『そう言う事』って他にどんな事が在るっていうのよ。
あたしが疑わしげにライラを見るとライラは誤魔化すように盛大な笑顔を向けて宣った。
「さあ、お嬢様方。昨晩はあまりお食事を召し上がらなかったから今朝はお腹が空いていらっしゃるでしょう? 朝食の準備は整っていますので直ぐに此方にお運び致しますわ。」
ふ、ふん。まあ、誤魔化されてやるわよ。
グーと鳴った胃袋の意思を尊重して、あたしは深く追求する事を止めた。
普段だとこの後は朝食前のティータイムなんだけど、今日はいきなり朝食だ。だってお腹空いてるからね。仕方無いね。
さあ朝飯だ。
やっぱりお抱えシェフって抱えられるだけの事はあるのよね。
あたし達が作る料理は問題外としても、学園の食事もかなりウマウマなんだ。だけど、それですらハッキリ言って比較にならない。
やっぱり貴族の当主夫妻が毎日口にする食事を任されているシェフの腕は見事なモノだわ。
お腹が空いていたあたしはその事を改めて知る。
やっぱ、このリンゴのソースが掛かったソーセージが絶品。前世でもソーセージ大好きだったけど、この家に出て来るソーセージはレベルが段チ。中身ギッシリで重いしナイフで切ると肉汁が『これでもか』と溢れ出してくる。
あとマッシュルーム。こんがり焼けた肉厚のまーるいキノコをソーセージと一緒に頬張ると鼻血が出そうな程に美味い。
そして卵だ。今日は半熟のサニーサイドアップ。肉汁絡めて食べればご機嫌だ。
これに今朝のメインディッシュであるベーコンとアスパラガスのキッシュが登場。クリームソースがウマウマ。熱々のパイって何でこんなに美味しいんだろう。
貴族の食事としてはシンプル、と言えば確かにシンプルなんだけど1つ1つの味が極上なんだ。これらを新鮮な生野菜サラダを口休めに頬張る事の幸せ加減ときたらどうよ?
あたしとマリは最初に
「うめぇ!」
「美味しい!」
と呟いた後は無言で朝食に喰らい付いた。
・・・それぞれの呟きに若干、乙女力の差が在ったのは気にすんな。
さてこの世に数々の例え話は在れど『腹が減っては戦ができぬ』なんて言葉も御座います。いや、この世界には無いか。
腹も満たした今のあたしなら、あの偽兵士2人が襲い掛かってきてもワンパンで倒す自信が在りんすよ。
ってぇ事でちょっくら偽兵士に会いに行こうかな・・・的な趣旨の事をライラに言ったら即却下された。
「ダメです。」
「なんで?」
「お嬢様方は近づけないようにとの奥様からのご命令です。」
ぬぅ・・・。お母様、あたしの行動を読んでいらっしゃるわね。
「それと後ほど旦那様よりお話が在るかと思いますが、お嬢様方には暫くのあいだ学園をお休み頂く事になるかと思います。」
「・・・。」
あたしとマリは顔を見合わせた。
やっぱりそうなるんだ。




