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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター5 2年生編 / 二学期
81/105

M70 怒りのハナコ氏



 あたしはふと思った。


 ――偽兵士は隠しておこう。




「マリ、1回戻ろう。」


「え・・・何で!?」


 マリは驚いた声を上げる。まあ驚くよね。


「あの偽兵士達を何処かに隠しとこう。あたしは直ぐに実家に戻ってこの事をお父様に話すつもりだけど、ひょっとしたらお父様が『身柄を確保したい』と考えるかも知れない。」


「う・・・うん、判った・・・。」


 ああ、判ってないな。まあいいや。




 あたし達は一度戻ると偽兵士達をマリと2人掛かりで引き摺って教会の奥の繁みに「ウンウン」言いながら運ぶ。それにしても伸びてる成人男性の重いこと重いこと。外せる防具は全部外したのにソレでも運ぶのは容易では無かった。


 そしてこの後、目を覚ましても声が出せないように布を噛ませて縛る。


「ヒナちゃん、手慣れてる?」


 マリがトンチキな事を訊いてくる。んな訳無いでしょうが。


「刑事モノとかで犯人がよく掠った人間をこうやって縛るでしょ。アレをマネしてるの。」




 そして1人を教会の東側の草むら、もう1人を西側の草むらに放り込んだ。




 ふう・・・。目の前がクラクラするわ。まあ、とにかくコレで良い。


「ねぇ、マリ。」


「なに?」


「他のみんなには『侯爵の手回しかも知れない』って言うのは黙って置こう。みんなには『よく判らないけど兵士が急に襲い掛かってきた。』とだけ話して置こう。」


 あたしはマリにそう提案する。


「・・・うん。」


「全部を話すのはお父様だけにしよう。」


「うん。」


 マリも色々と思う事が在るのかあたしの提案に素直に頷いた。




「じゃあ、戻ろうか。」


「うん。」






 サクサク。


 スタリー廃教会を後にしたあたしとマリは、落ち葉を踏みしめながら黙ってセーラ達との待ち合わせ場所に向かう。




 襲われた事とか今後の対策の事とかをマリと話さなくちゃいけないんだろうけど、何か気が抜けて頭からプシューッて湯気が出てる気分だ。




 ソレにさっきから左の脇汗が凄い。ヌルヌルしてて気持ち悪い。あーもう。ヤマダ=ハナコってこんなに脇汗を掻く体質だったっけ?




 そんな事を考えながら歩いていると


「ヒナちゃん!?」


 と後ろからテクテク歩いていたマリが大声を上げた。


「ん・・・?」


 あたしはノンビリと振り返る。




 マリが凄い形相で近寄ってくる。え、何? 何でそんなに怒って・・・


「制服脱いで!」


「!?」


 とんでも無い事言い出したよ、この子!


「ちょ・・・何言ってるの? ココ外だよ!?」


「何言ってるの!?いいから脱いで!」


 マリはそう言ってちょっと強引にあたしの制服のブレザーを脱がす。




 あん、もう強引。なんつって・・・。・・・ん?・・・痛!


 心の中でボケてたら突然左腕に鋭い痛みが走ってあたしは顔を顰めた。いったい何なの?




「ヒナちゃん・・・。」


 マリの顔が青ざめている。




「・・・。」


 マリの視線に導かれて自分の左腋を見たあたしは仰天した。




 あたしの左上腕部から肩口に掛けての白いブラウスが真っ赤に染まっていた。


「え・・・何コレ・・・。どういう・・・。」


 呟きかけてあたしは思い出した。




 そうだった。


 1人目の刺客からマリを守ろうと彼女を突き飛ばした時、左腕に痛みを感じたんだった。あの時にナイフで斬り付けられたんだ。多分。


 そうと理解した瞬間にジクジクと痛みを感じ始めた。




 マリがブラウスの裂け目から傷を覗き込む。


「アイツらにやられたの?」


「多分。いつ斬られたかは判んない。」


 あたしは一部事実を誤魔化しながら頷いた。


「痛い?」


 マリはもう涙目だ。


「平気よ。今まで気付かなかったくらいなんだから。何か左の脇汗が凄いなぁなんて思ってたんだけど血がヌルヌルしてたのね。」


「・・・もう・・・馬鹿な事言わないで。」


 マリは泣き笑いの表情でハンカチを2枚取り出すと、1枚のハンカチでブラウスの上から肩口を縛った。もう1枚であたしの傷口を上から優しく捲いてくれる。


 そしてブレザーを上から掛けてくれると寄り添うようにあたしを支えた。


「行こう?」


「うん。」


 マリの言葉に頷いてあたし達はゆっくりと歩き始める。


「待ち合わせの時間、遅れちゃうね。」


 あたしが呟くと


「理由を話せば判ってくれるよ。」


 とマリが返してきた。






「あ、ヒナちゃん!マリ様!」


 あたし達の姿を見つけたフレアが手を振って叫んだ。




 3人はもう待ち合わせ場所に戻っていた。そりゃそうか。あたし達が大幅に遅れてしまった。




「遅かったわね。今、迎えに行こうかって・・・ヒナ、どうしたの!?」


 ボロボロのあたし達を見てアイナが駆け寄ってくる。


 セーラとフレアも駆けてきた。




 アイナがあたしを支えてセーラがマリを支える。




 あたしとマリは交互に説明をした。




「命を狙われた・・・?」


「そんな・・・。」


 3人は絶句する。




 セーラ達を護衛していた2人の兵隊さんが尋ねてくる。


「アビスコート様、襲ってきたのは護衛の兵士で間違い御座いませんでしょうか?」


「はい。」


「その兵士達は何処に行ったか判りますか?」


「・・・逃げるのに精一杯だったので、よく判りません。」


「解りました。」


 兵士は頷いて同僚さんに話す。


「あの2人は確か第三騎兵大隊の所属だと言っていたな。」


「こうなるとソレはもう眉唾だ。何者かが紛れ込んだと考えた方が良い。確認を取る必要が在る。」


「俺は学園に知らせてから騎士団に報告する。」


「解った、俺は護衛を継続する。」


 そんなやり取りの後、1人の兵隊さんが走って行く。




「では、皆さんは私が護衛致しますので学園に戻りましょう。」


「はい。」


 あたし達は頷いた。




 途中で他の御令嬢チームと遭遇し行動を共にする事になった。その8人組のチームを護衛していた4人の兵隊さん達も事情を聞いて表情を変え、あたし達13人の令嬢を囲う様にして5人での護衛を開始する。




「あの・・・大丈夫ですか?」


 1人の御令嬢が心配そうに尋ねてくれる。


「はい、大丈夫です。お気遣い有り難う御座います。」


 あたしは微笑んで返した。




 こうして学園に戻ったあたし達は青ざめた生徒会の方々と教師陣に囲まれてやいのやいのと質問攻めに遭った。




「あの、先生。」


 一通り質問に答えたあたしはマルグリット先生にお願いした。


「なんでしょう?」


「正直に本心を言うと、あたし、かなり怖いです。なので暫くで良いのでマリーベル様と一緒に実家に戻りたいです。」


「そうね、そうよね。」


 マルグリット先生は同意してくれ、暫く思案された後に頷いた。


「解りました。馬車を用意しますから其れでお帰りなさい。」


「有り難う御座います。」


 あたしとマリは頭を下げた。




「ヒナ・・・。」


 セーラが心配げに声を掛けて来る。


「大丈夫よ。」


 あたしは笑顔を見せる。


「リューダ様達とお料理倶楽部のみんなに宜しく言って置いてね。」


「ええ、其れは任せて。」


 アイナが頷く。


「お見舞いに行くからね。」


 フレアが少し泣きそうだ。


「うん、有り難う。でも、明日はみんなの応援をしてあげてね。」


「うん。」


 頷くフレアにあたしは微笑む。




『ワァーッ』


 と大庭園の方から声が上がる。




 多分、明日の3回戦目に出場する選手が読み上げられてるんだろう。リューダ様達はどうだったのかな?


 とにかく今は帰ろう。


 あたしがそっとマリの手を握るとマリは何故か哀しげな表情で微笑み返した。


「?」


 なんでそんな顔をするの?




 疑問符を抱えたあたしはマリと馬車に乗ると、10人の兵隊さん達に護られながら一路、実家を目指した。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 その日、ハナコ家は大騒ぎだった。




 まあ、娘が命を狙われた上に怪我をして帰って来たんだから無理も無い。大金が傭兵ギルドに積み上げられ、即時に動けた傭兵が26人、ハナコ家を護衛する事になった。




 ソレからあたしとマリは呼ばれた医師の診察を受けた。


 マリは異常無し。あたしの傷は皮膚を切られただけで直ぐに治るとの事。




 手当てが終わると、あたしは事情を尋ねるお父様とお母様に包み隠さず全てを話した。アビスコート侯爵がマリを狙ったんじゃ無いかと言う予想まで含めて。


「・・・。」


 お父様とお母様は厳しい表情であたしの話を聞いていた。




「あの・・・。」


 マリが口を開いた。


「ハナコ様、シルヴィア様。私のせいでヤマダ様に怪我をさせてしまった事、深くお詫び申し上げます。」


 マリが震えながらお父様に頭を下げた。


「マリ・・・。」


 あたしはマリを見つめた。


「もし・・・御二人が望まれるなら、私はヤマダ様から・・・は・・・離れます・・・。」


「!?」


 マリ!? 何を言い出すの!?


「マリ!何を言ってるの!?」


 驚いて叫ぶあたしをマリが制した。


「私が此処に付いてきたのは、コレが言いたかったから。お詫びと御二人のご判断を仰ぎたかったからなの。」


「そんな・・・。」


 あたしは絶句した。


 マリがそんな覚悟で此処に来ていたなんて。だから馬車の中でもあまり話さなかったの?




 それからハッとなった。あたしも何か言わなくちゃ。言われて見れば2人にとってマリは娘を危険な状況に巻き込んだかも知れない人間に見えるのか。


 だったら良い感情を抱く筈が無い。




「お父様!お母様! マリは何も悪くないです! だから・・・!」


 ・・・言葉が浮かばない。チクショウ!何と言って説得したら良いか解らない。自分のマヌケさ加減に腹が立つ!


 目の前が滲む。




 もし、本当に引き離されたら、貴女はこれからどうするの? たった1人でどうやってアイツらと戦うの!?


 どうしてこんな事に!




 あたしは必死になってお父様の服の袖を握り絞めた。




 お父様は無言で涙を流すあたしを見つめ、そしてマリに視線を移した。


「マリーベル嬢。」


「・・・はい。」


「お父様!」


 叫ぶあたしをお母様が後ろから抱き寄せてお父様から引き離す。




 お父様が口を開く。




 待って! まだ何も伝え切れていない! 結論を出すのは待って!




「・・・貴女は何も悪くない。」


「「・・・え?」」


 お父様の言葉にあたしとマリは同時に訊き返した。




「悪いのは貴女の周囲の大人達だ。下らない画策に・・・いや、今は止そう。ただ今回に限って言えば暗殺を仕組んだ黒幕が100%悪い。」


「ハナコ様・・・。」


「貴女とヤマダは単に下らない思惑に巻き込まれただけに過ぎない。そんな貴女を放り出すようなマネはこの私がしたりはしない。」


「・・・有り難う・・・御座います・・・。」


 俯いたマリの双眸から涙が零れ落ちた。




「馬鹿マリ!」


 あたしは叫んでマリに抱きついた。


「ヒナちゃん・・・。」


「二度とそんな事言うな!!」


「・・・ごめんなさい・・・。」


 マリが抱き返してくる。




 あたし達は2人してワンワン泣きじゃくった。




 お父様達の会話が聞こえて来る。




「相手が王家だろうが上位貴族だろうが関係無い。ウチの娘とその親友に剣を向けたことを心から後悔させてやる。」


「存分になさいませ、あなた。」


「うむ。」




 それからお父様はリジオンさんに振り返った。


「リジオンも其れで良いな?」


「無論で御座います。商会会長の娘が不当に傷付けられた・・・この事態を放って置いてはハナコ商会全体の沽券に関わります。徹底した態度を取られますように。」


「解った。では、ヤマダ達が捕えたと言う偽兵士共を国の連中に先駆けて捕獲してくれ。」


「畏まりました。直ちに外に居る傭兵達を使って連れて参りましょう。」


「頼む。」




 泣くだけ泣いて気分も落ち着いて周囲を見回した時、大人達の顔がもの凄い怒り顔になっている事に気が付いた。


 ・・・皆さん、お顔がとても怖いです。






 マリを狙った偽兵士達は、2時間と経たずに傭兵さん達の手でハナコ家に連れて来られ、仁王立ちのお父様の前に放り投げられた。


「・・・。」


 無言で2人を見下ろすお父様。・・・いや、ホント怖いッス。




 明から様に怯える2人にお父様は薄く嗤い仰った。


「お前達・・・覚悟は出来て居るな? 五体満足でこの屋敷から出られると思うな。」


「ヒッ・・・。」


 息を呑む偽兵士達からお父様は視線を外すとハナコ家専属の護衛に向かって


「連れて行け。」


 と仰った。


「待ってくれ!」


 2人が叫ぶ。


「俺達は頼まれてやっただけだ! 雇い主の事も話すから・・・!」


「黙れ。知った事か。」


「!?」


「そんな事、ハナコ商会の情報網を使えば難なく調べられる。ソレよりも、私の娘とそのご友人に剣を向けたこと・・・存分に後悔するがいい。」


 当然知りたいだろう情報をぶら下げたにも関わらずお父様が全く食い付かなかった事に2人は仰天した表情になる。


 そして必死の形相に変わった。


「た・・・頼む! もう2人には手を出さないから! 助けてくれ!」


 喚きながら懇願する2人が引き摺られていく。




 あたしとマリは少し青ざめながらその様子を見ていた。




「あ・・・あの、お父様・・・。」


「ん? なんだい?」


 此方を見るお父様の目はいつもの優しい目で少しホッとする。


「さっきの人達は・・・。」


 あたしが其処まで言うとお父様は苦笑した。


「・・・驚かせてしまったな。本音を言えばトコトンやってしまいたいが、お前もマリーベル嬢もソレは望まないだろう?」




 コクコクとあたしとマリは頷く。




 お父様は頷く。


「だから脅しに留めるよ。まあ、あの手の連中は基本的にシラを切るから『本当にマズい、殺される』と感じるまで脅かす。その上で情報を引き出すさ。」


「は、はい・・・。」


 やっぱり何か怖っかない。


 お父様が微笑んだ。


「さあ、お前達はもう休みなさい。後は私とお母様に任せれば良い。」


「はい、お休みなさい。」


「お休みなさい。」


 あたしとマリは頭を下げた。


「ゆっくり休むのですよ。」


 お母様が柔らかい微笑みを投げながら仰る。


「はい、お母様。」




 あたし達はライラに連れられてあたしの自室に戻った。


「あの、ライラ?」


「はい、お嬢様。」


「今日は・・・その・・・。」


 どう聞けば良いのか解らなくて言葉を濁すと、ライラは軽く溜息を吐いた。


「・・・旦那様も奥様も相当激怒なさって居りますから・・・。肉体的な拷問は無いにしても、あの2人は今晩は生きた心地がしないでしょうね。」


「・・・考えない方がいい?」


「考えない方がいいです。」


「はい。」


 ライラはあの2人が何をされるのか知っている様子だけど・・・あたしは敢えて訊くのは止めた。


 それよりも。


「ライラ。今日はあたしマリーベル様と一緒に寝るわ。」


「畏まりました。」


「・・・。」


 まるで予想していたかの様にライラに即答されてあたしは言葉を失う。




 ああ、もういいや。いやもう今日はホントに疲れた。




 マリに癒やされながらグッスリと寝よっと。







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