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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター1 1年生編 / 一学期
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M8 五草会 2



「グレイバード様。あの・・・噂ってどういう噂ですか?」


 談笑用のテーブルセットに移動して3人で席に着くとあたしはアルフレッド様に尋ねた。


アルフレッド様は口にしたマッシュポテトを飲み込むと微笑んだ。


「何て事無いんだけどね。君達、昨日は行動を一緒にしていただろう?侯爵令嬢と子爵令嬢が2人だけで行動を共にするなんてどんな関係なんだろうってね。」


 遠慮無い話に少しカチンと来た。・・・いやいや13歳だし、子供だし・・・。


でも――。




 ――ああ、そういう事・・・。


 やっぱりそう言う噂か。その程度の噂なら覚悟していた事だし驚かない。彼は口にしなかったけど多分その噂にはマリーベルの環境を知っている人間達の悪意も混ざっていたんだろうな。




 でもマリの表情は強張っていた。


「グレイバード様・・・それは、私のせいですね・・・?」


 多分、マリはあたしの事を心配してくれている。ああ、ギクシャクするのは良くない。あたしはマリの・・・マリーベルの手を握った。


「マリーベル様。誰が誰と仲良くしようと他の皆さんには関係の無い話ですよ。学園の中に於いては身分の上下には拘らず広い交友関係を築く事が推奨されているんですから。」


「でも、私の環境は広く知られてしまっていますから・・・」


「マリ。」


 あたしはマリーベルの手を強く握った。


「あたしは気にしません。お父様も他人に迷惑を掛けないという条件付きで、学園では自分の望むように振る舞いなさいと仰ってくれてます。マリーベル様だって環境については今更でしょう?」




 およそ13歳の発言じゃ無いよな。


 今のあたしは高校3年までを生きてきた風見陽菜の意見だ。17歳・・・いや、もうすぐ満18歳か・・・の考え全開である。でも訝しまれてでも、ここはマリを納得させなきゃいけない場面だ。何となくそう思う。




「・・・」


 マリはあと一押しだ。ここはゴリ押せ!


「それにあたしはマリーベル様が大好きですから。あたしが一緒に居たいんです。」


「・・・はい。」


 マリはフワリと笑った。




 あっぶねー。下手踏んだら大好きなマリが離れてしまうところだった。マリのチョロさ加減に少し不安を覚えるがソコはあたしが守っていこう。・・・いや、大きく出すぎた。守っていきたいな。・・・いや、守れたらいいな。




 あたし達のやり取りを見ていたアルフレッド様は首を振った。


「噂なんて当てにならないね。」


「?」


 2人首を傾げるとアルフレッド様は苦笑した。


「実はね。噂と言うのが余り良いものでは無かったんだ。侯爵家の令嬢が子爵令嬢を無理矢理引き連れ回している。・・・なんてね。それで、今年度の入学者で王子殿下の次に身分が高い侯爵家嫡男の僕に関係を確認してくれないかって学園関係者に頼まれたんだよ。」


「そんな事はありませんよ。」


 あたしが間髪入れずに否定するとアルフレッド様は頷いた。


「うん、見ていて解ったよ。何と言うか・・・2人は羨ましくなるくらい本当に仲良しなんだなって思った。ハナコ嬢はアビスコート嬢を『マリ』なんて愛称で呼ぶくらいだしね。・・・騙すような事をしてごめんね。」


 アルフレッド様はペコリと頭を下げた。


「あ・・・いえ。」


「お気になさらず・・・」


 あたし達も何となく頭を下げる。やっぱ2人ともこういう処は日本人よな。


しかし、マリの呼び名を聞き取られていたか。耳聡いな。愛称と勘違いしてくれたのは有り難いけど。




「ところで、グレイバード様は嫡男という事であれば行く行くはお家をお継ぎになられるのですか?」


 嫡男なる者を初めて目の当たりにしたあたしは興味津々で尋ねる。


「そうだね、このまま何事も無ければそうなるね。」


「大変ですね。では領地経営など学ぶ事も多いのでしょう?」


 遠慮無い事をあたしはズバズバ訊いた。さっきの遠慮無い話題振りへのお返しだ。まあ彼には彼の事情も有ったから怒っては居ないけど、お返しくらい良いでしょ?


「ヒナ・・・ヤマダ様。」


 マリが慌てたように小声であたしを諫めようとするけど、あたしは聞こえないフリをする。


例えばあたしが伯爵家以上の令嬢なら嫁ぎ先目当ての質問に聞こえるだろうから遠慮も必要かもだけど、あたしは子爵家令嬢だ。伯爵家嫡男の許嫁には成れても侯爵家嫡男の許嫁には成れない。


 だから無遠慮でもOKだ。決してOKでは無いけど。




 アルフレッド様は特に気にした様子も無く答えた。


「そうだね。楽では無いけど楽しいよ。もっとも、本格的に学ぶのは高等部に入ってからだし実践は卒業後だからまだ実感は無いけどね。」


 先程までとは打って変わって天真爛漫な笑顔を見せる。


「!」


 ・・・おおぅ。美少年の無邪気な笑顔の破壊力よ・・・


 けどまあ幾ら美少年とはいえ、先々月まで高校3年生の野郎共に囲まれていたあたしから見ると未だ未だ可愛い男の子でとても惚れるというレベルじゃない。敢えて言えば愛でたいってところか?


 でも・・・。


 あたしはチラリとマリを見る。


「・・・」


 頬を染めて見惚れてた。


 うん、クリティカルヒットしてるね。


この子も転生しているとは言え最高年齢は12歳だ。言ってみれば適正年齢なんだから、こんな笑顔を見せられたらそりゃあヒットするわな。




「そう言えば今日は学園はどんな予定なんでしょうね?」


 あたしが疑問を口にするとアルフレッド様が教えてくれた。


「午後までこんな感じで、学園や寮の敷地内なら何処に居ても良いんじゃなかったかな?それで夕方に閉会式で大講堂に集まるんだったと思うよ。」


「って事は、ほぼフリータイムか。」


「ははっ、面白い言い方だね。うん、でも、そうなるかな。」


「そっか・・・」


 地が出ている事にも気が付かずあたしは思案した。




 あたし達はそれからも色々と他愛も無い雑談をした。


気が付けば御令息だけでなく御令嬢方の姿も見えている。それなりに時間が経ったんだな。


そんな事を思っていたらアルフレッド様が言った。


「僕のことはアルフレッドで良いよ。」


 おお・・・2人目の名前呼び許可がきた。


「では、私の事はマリーベルとお呼びください。」


「私の事は・・・ヤマダで。」


 アルフレッド様は頷いた。


「マリーベル嬢にヤマダ嬢だね。これから宜しくね。」


「はい。」


「・・・はい。」




 アルフレッド様は爽やかに立ち去って行った。




「はあ・・・侯爵家の御子息かあ。流石に上品だねえ。」


「そうだね。」


 あたしの言葉にマリが笑顔で頷く。


 あたしはガールズトークがしたくなってムズムズした。


「で、どうだった?」


「何が?」


「アルフレッド君はカッコ良かった?」


「そうだね、ヒナちゃんの次にカッコ良かったよ。」


「・・・」


 ・・・うん、何て返せばいいんだろう?トーク失敗・・・。




「そうだ。マリはいつからあたしの所に来たいの?」


 フリータイムと聞いてから考えていた事をマリに尋ねる。


 その言葉にマリは目を輝かせた。


「今日にでも!」


 いや、流石にそれは無理でしょう。


「じゃあ、寮母さんの所に行って訊いてみる?」


「うん。」


 そんな感じであたし達は中庭を後にして寮に向かって歩き始めた。




 マリはあたしの所に来たがってくれているがソレは実はあたしも同じで早く一緒に住みたい。


 やっぱり同じ転生者が近くに居てくれるのは心強いんだ。だからなるべく早くマリに移動してきて欲しい。




「あら、ハナコさん。どうしたのかしら?」


 寮母のマゼルダ婦人が管理室から出て来た。管理室とは言っても代々ここの管理人は伯爵家以上の有閑マダム達が請け負っている為、寮のどの部屋よりも豪奢な造りになっている。


「あの、あたしの同室になる人の件なんですが・・・」


「ああ、ソレね。御免なさいね、まだ・・・」


「いえ、それなら良いんです。その、同居人の推薦をしたくて来たので。」


 マゼルダ婦人は意外そうな表情であたしを見た。


 ま、そらそうだろうな。


「・・・そうなの。それで、どなたかしら?」


「この方です。」


 あたしは後ろに立っていたマリを前に出した。


「まあ、アビスコート家の御令嬢じゃない。」


「はい。私、ハナコ様と同室になりたいんです。」


 マリの言葉に婦人は思案顔になる。


「でも、アビスコート嬢は1人部屋をご使用中でいらっしゃるでしょう?わざわざ2人部屋に行きたいのですか?」


「はい。」


 え?あたしは驚いた。マリって1人部屋なの?あたしはてっきり同室の子と反りが合わなくてあたしのトコに来たがっているんだとばかり思ってた。


「まあ、お互いが納得しているのなら構わないけれど。では、小物類などは纏めておいて頂けるかしら?準備が出来たら教えて頂戴。」


「分かりました。では、今日中に纏めて置きます。」


「あらそう。では明日、貴女方が講義を受けている間にでも移動させて置くわね。ハナコさん、明日は学園に行く前に私のところに部屋の鍵を預けて頂戴。」


「分かりました。」




 あたし達はマゼルダ婦人と別れてあたしの部屋に向かう。




「マリって1人部屋だったんだ。」


「うん。言わなくて御免なさい。」


「いや、別にいいけどね。」


 1人部屋を貰っているのにあたしのトコに来たいのか・・・。


 あたしはニヤニヤしてしまった。


「マリってば、そんなにあたしが好きなんだ。」


「・・・好き。」


 真っ赤になった顔を逸らしてマリはポツンと言う。




 ・・・鼻血吹きそう。




「だったらさ、もうマリの部屋の小物とか纏めて準備しちゃおう。あたしも手伝うよ。」


「え?でも・・・」


「2人でやれば直ぐ終わるよ。」


「うん、ありがとう。」


 とか何とか言っておいて、夕方の閉会式の時間を忘れて慌てて戻ったのは後々良い思い出になるだろう。・・・なるかな?




 そして夜。


 あたし達は夕食を終えて部屋のコタツで寛いでいた。


「やっと終わったね。流石は侯爵家の御令嬢。小物の数も半端ない。」


「ごめんね、疲れたでしょ。」


「平気平気。一仕事終えて良い気分よ。」


 あたしはゴロリと横になる。


 マリも合わせて横になった。


 人前じゃ絶対に見せられない格好だ。特にマリはマリーベル様なのだ。


 ――うーん・・・なんかエロい。


絶世の美少女がしどけなくコタツで横になる姿に、あたしは美しさを超えて妖艶さまで感じてしまう。




 2人でぼーっと天井を見上げる。


「・・・明日から一緒に住むんだね。」


 あたしが呟くと、マリがソッとあたしの手に自分の手を絡ませてきた。


「うん、宜しくね。」


「こっちこそ。」


 あたしは手を握り返す。




 あたし達は目を合わすと微笑んだ。





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