M67 リドル・フェア
生徒会から謎かけイベントのチーム分け方法が発表された。
○クラス内のメンバーでチームを作る事。
○作り方はクラスに一任。
○1チームは8人以内とする。
なんやかんやと条件出してくるのかと思いきや、意外とあっさり普通だったんで拍子抜けした。あと、ウチのクラスは意外と参加者が少なかった。
理由は解ってる。
御令嬢方はみんなアイナとフレアに触発されたんだ。
頑張れば好きな相手と婚約出来る。
必ずしも家の言いなりで婚約を結ぶ事は無いんだと、貴族だからと言って恋愛を諦める必要は無いんだと知った。何しろ其れを成し遂げた2人が同じクラスに居るんだから。
なら、私だって!
みんなそんな思いに駆られたんだ。
だから武術祭に出場する御令息を応援して切っ掛けを作りたい。或いは選手を応援する御令息達と一緒に応援して切っ掛けを作りたい。
そんで当然だけど、そんな御令嬢方の熱意は黙っていても御令息方には伝わるモノで、
『武術祭を一緒に・・・』
なんて御令嬢を誘っている御令息の姿をチラホラ見かけた。
良い傾向だと想うわ。
お父様曰く、世界的にも王政や貴族制度にも限界が来ているらしい。
其の証拠に酷い王政から逃げ出した民衆が自治都市と称して、民衆が民衆の手に依る民衆の為の町を造り始めている場所も在るんだとか。
其処には王も貴族も存在してなくて、民衆が寄り集まって町のルールを決め、其れに従って生活をしているらしい。つまり民衆が其れだけの知恵を身に付け始めたと言う事。
世の王侯貴族達はその動きを苦々しく思っているけど、世界中の賢者達がこの仕組みの行く末を興味津々で見守っている為、迂闊に手を出せないんだとか。
それは民主政治の原型とも言える姿。
軌道に乗れば途轍もなく強固で安定した国が生まれるのは知っている。何しろ、あたしとマリはその民主主義の国から『やって来た』んだから。いや、『その世界で生きていた記憶を持っている』と言った方が良いのか。
ただ、この世界で実際に自治都市が上手く行くかどうかなんて事は誰にも解らない。あたしにもマリにも。何故なら何でもそうだけど仕組みは変換期が最も脆弱で簡単に壊れてしまうモノだから。
だから結果として、自治都市がポシャればまだこの世界の人達に民主主義は早すぎるって事になるんだろうし、上手く行くようなら『自治』という高度な仕組みに対応出来る程の高い知性と理性を兼ね備えていると言う事。
そう言う意味で、貴族が家の為に人生を捧げると言う生き方も見直され始めて良い頃合いなんだろうと思う。この国が変わる切っ掛けになるのかも。
ま、難しいことは置いておこう。
それよりもチーム分けだ。
とにかくそんな御令嬢方の事情も在ってウチのクラスは謎かけの参加者が殆ど居なかった。と言うかあたし達いつもの5人が参加するだけ。
御令嬢方はあたしに謝ってきたけど
「いやいや詫びなんか要らないから気にしないで。それよりも成功をお祈りしているから。」
的な事を言ったら嬉しそうに頷いてたわ。
ああ、みんなまだ14~5歳。控えめに言っても天使よね。
そんな年齢なのに既に将来の重みを、前世の頃のあたし達とは比較にならないレベルで受け止めなければならないなんて。正直、同情してしまう。
ホントみんな頑張れ。
「さて、結局ウチのクラスはあたし達だけが出場する事になったんだけど・・・。」
あたしは其処まで言ってセーラを見た。
「貴女はコッチで良いの?」
「?」
セーラはあたしの言いたい事が解らなかったのか首を傾げる。
「アイナとフレアは良いとして、あたしはお父様に婚約は焦らなくて良いと言われてる。マリもその辺は今気にすることじゃ無いし・・・。でも貴女は違うでしょ?」
「ああ・・・。」
セーラは理解した様だった。
「まあ確かにね。恋愛して婚約を・・・って望むなら、焦らなくてはいけないんだろうけど。」
複雑そうな表情になる。
「まあでもコレと言った殿方が居ないし。」
うーん・・・そうかなあ。結構良い男の子は居ると思うけど・・・まあこの辺は人それぞれだしね。セーラがそう言うなら良いか。
あたしとしても5人の方が楽しいし。
「わかったわ。じゃあ、5人で申し込んじゃうね。」
4人は笑顔で頷いた。
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
こうしてやって来た武術祭の当日。
幾つか在る園庭の1つにあたし達は集まっていた。いよいよ始まる謎かけ大会。生徒会で『リドル・フェア』なんて銘打ってくれていたけど。
にしても集まりに集まったな、御令嬢方。
高等部の方もいらっしゃるので実に300人近くの御令嬢が参加している事になる。全体の半分以上の御令嬢が武術祭の応援に回っているとは言え、コレだけの女子が武術祭を退屈に感じていたんだな、と思うとあたしも結構良い提案をしたなと思う。
予想以上の人気に、あたし達5人が何となく固まって立っていると声が掛かった。
「貴女がヤマダ=ハナコさんかしら?」
振り返ると、全く見覚えの無い美しい御令嬢方が立っていた。
え、誰?
「は、はい。そうですが。」
「やっぱり。」
あたしが答えると御令嬢方は嬉しそうに笑った。
あたしは制服を見て気が付いた。あ、高等部の方達ね。に、してもエロ・・・いや、魅力的だなあ。アイナとかも相当色っぽいけど、高等部のお姉様方の色気には敵わないな。
・・・っつーか、あたしも嘗てはその位置に居た筈だし、その程度の大人っぽさは兼ね備えていた筈なんだけどなぁ。1年以上も中学生の年代をやっていると感覚はズレてくるモノなのか。
「一度、声を掛けて見たかったのよ。」
お姉様は話し続ける。
「そ、そうなんですか。」
「高等部で貴女の名前が結構話題に上るのよ。面白い事を考える子が初等部に居るってね。」
「・・・!」
顔が火照ってくる。
「今回のリドル・フェアも貴女が発案者なんでしょう?」
「い・・・いや、発案者って言うかやってみたら面白いんじゃ無いかって言っただけで・・・。」
「あら。ではやっぱり発案者じゃない。」
「は・・・はあ。」
お姉様方がコロコロと笑う。
「毎年、この2日間は退屈で仕方が無かったの。こんな楽しそうな企画を考えてくれて貴女には感謝しているわ。」
「い・・・いえ、そんな・・・。」
「お互い、楽しい1日にしましょうね。」
「は・・・はぅ。」
「では、ご機嫌よう。」
「・・・。」
立ち去るお姉様方を黙って見送る。
「ヒナ!」
突然大声で呼ばれた。
「うぉ!?」
思わず叫んで振り返るとセーラが頬を膨らませてあたしを見ている。
「な・・・何!?」
驚いて問い返すと
「何、見惚れてんの!?」
と詰め寄られる。
い、いや、別に見惚れてたわけじゃ・・・と言おうとしてセーラの後ろにマリのジト目を確認する。
・・・あう・・・。
大庭園の方から歓声が沸き起こった。どうやら武術祭が始まったらしい。あちらのお目付役はスクライド様がやっている。
こっちはセシル様が進行役。
当然、御令嬢方の目の輝きが凄まじい。
まあクールビューティーは眼の保養に最適だしね。仕方無いね。
「御令嬢の皆さん。本日は楽しみましょう。」
「「「はい!」」」
ご機嫌なお返事が秋の晴れ空に響き渡る。
セシル様が優しげに微笑んだ。
「皆さん既にルールは把握されていると思いますが改めて簡単に説明させて頂きます。」
ウットリと見惚れる御令嬢方の視線に構わずセシル様は話を続ける。
「私の横に在るこの箱の中に、様々なリドルが書かれた紙が入っています。其れをチーム代表の方に引いて頂いて、皆さんで謎を解き進めて行って下さい。最終的には学園の外に出て行く形になりますので、その際は皆さんに護衛を付けますので必ず私に声を掛けて下さい。宜しいですか?」
「「「はい!」」」
セシル様は頷くと宣言する。
「では、第一回リドル・フェアを開催致します!」
「きゃーーー!!」
黄色い歓声が上がった。
「じゃ、ちょっくら行ってくるわ。」
「ちょっくら・・・って・・・。」
アイナのドン引きフェイスもそのままに、あたしはそう言うと箱に向かった。
御令嬢方がワクワクした表情で箱の中の紙を引いていく。
いやー、確かに堪んないわ、コレ。めちゃくちゃワクワクする。
あたしはドキドキしながらそっと箱に開いた穴の中に手を入れる。やがて指先に紙切れが触れる。
「・・・。」
よし、君に決めた!
あたしは揚々と紙を引っ張り出すとフンッと鼻息を吹く。
「ふふ・・・。」
「?」
笑い声に横を向くと微笑むクールビューティーがソコに居た。
おう!?いきなり出て来んなや。貴男のどアップは心臓に悪いんです。
「ご、ご機嫌よう。セシル様。」
「はい、ご機嫌よう。良かったよ、君が参加してくれて。」
無意味に顔が火照る。
「そりゃ、言い出しっぺですし。これであたしが武術祭の応援に回ったら『何なん?アイツ。』ってなりますでしょ?」
「そんな事は無いけれど・・・。」
セシル様は可笑しそうに笑う。
「でも、君の行動は予測が付かないからね。武術祭の応援どころか『選手として参加してます』なんて事も有り得そうだし、少し心配してたんだ。」
「・・・ははは・・・。」
あたしは去年のドタバタを思い返しながら乾いた笑い声を絞り出す。
「とにかく今日は楽しんでね。」
「はい、有り難う御座います。」
セシル様の言葉に頭を下げるとあたしはリドルを待つ4人の下に戻った。
「何話してたの?」
何やら剣呑な雰囲気を纏わり付かせた視線でマリとセーラが尋ねてくる。
「・・・お前は変わってるから、武術祭に参加でもするんじゃないかとと心配した、と言われた。」
あたしが憮然とした表情で答えると2人は「ああ・・・」と何とも言えない表情になる。
「・・・去年のあんな不愉快な出来事なんて思い返す必要は無いのよ。それよりもヒナ、リドルを見せてよ。」
アイナが居たたまれない雰囲気をバッサリとやってくれる。
「そ・・・そうだよ、ヒナちゃん。早く始めよう。」
フレアがソレに乗っかる。
あたしはリドルの紙を広げた。
『其処には黄金の雨が降りしきる。枯れた大海に浮かぶは出会いの小島。小島を探せば次の標が得られよう。』
「?」
全く解らない。
何だコレ。何処かの場所のヒントを記しているのだろうけど全然見当が付かない。
「どう言う意味だろう?」
フレアが首を傾げる。
「黄金の雨・・・? 何かの例えなんでしょうけど・・・。」
アイナが眉間に皺を寄せる。
「ワクワクするわね。」
セーラが楽しそうだ。お嬢さん、楽しむのは結構だけどちゃんと考えてね。
「・・・。」
じーっとリドルを眺めていたマリが
「あ」
と小さく声を上げた。
「何、マリ。何か解ったの?」
あたしが尋ねるとマリはコクリと頷いた。
「多分。・・・だけど自信無い。」
「じゃあソコに行ってみましょ。」
あたしが言うとマリは少し不安そうな素振りを見せる。
「でも間違ってるかも。そしたら無駄足になっちゃう。」
まったく何言ってんだか、この子は。
「良いのよ。こういうのは間違いながらアッチコッチ行くのが楽しいんだから。」
「そ・・・そっか。」
マリは安心したように頷くと
「じゃあ、コッチ。」
とあたし達4人の先頭に立って案内を始める。
マリは学舎に向かっている。
――学舎に入るのか・・・。
と思っていきや、学舎には入らずにスイッと壁に沿って歩き始める。
――あ、学舎の中じゃ無いんだ。
と思っていたら
「あーっ!」
と突然フレアが大声を上げた。
そしてフレアはマリを見ると興奮したように言った。
「マリさん、ソレ正解だよ!」
マリが黙ってフレアに微笑む。
え?
「フレア、解ったの?」
あたしが尋ねるとフレアは頷いた。
「うん、解っちゃった。」
「ドコ!?」
「ソレは着いてのお楽しみだよ。」
グヌヌ・・・。生殺しとはこのことか。
あたし達はそのまま学舎の外壁に沿って道を折れ曲がる。
うーん、この先って確か裏の林だよなぁ。その先は例の丘で・・・うーん・・・水に関係は無さそうだけどなあ。
「あー!そう言う事か!」
同時にセーラとアイナが声を上げる。
「マリさん、凄いわ!」
「良く気付いたわね!」
「へへへ・・・。」
2人の賞賛にマリは照れ臭そうに頭を掻く。
うん、あの仕草あたしソックリ。いやいや、そうじゃなくて。
え?2人とも解ったの・・・って事は・・・え?
「アレ!?解ってないのあたしだけ!?」
あたしは驚いて4人に尋ねる。
4人は意外そうな表情であたしを見た。
「ヒナが解らない事に私は驚いてるんだけど・・・。」
「うん。こう言うの真っ先に正解しそうなのに。」
「いつもあんなにロマンチックな事を考えつくのに。」
え、何?
何かロマンチックな事なの?
ならあたしにはムリ。ロマンチシズムとは無縁の人生だったので。
「と、とにかく行ってみようよ。行けばヒナちゃんも解るって。」
マリの言葉であたし達は再び歩き始める。
あの角を曲がれば学園裏の林だ。
角を曲がる。
風が吹いた。
あたしの視界が黄金色に染まった。そしてあたしは理解した。そっかそう言う事か。
季節は秋。林の樹々は葉っぱを手放し長い冬に備え始める。そう、色着き黄金色に染まった落葉が『雨』の如く地面に降り注いでいたんだ。そして地面はその落葉で『海』の様になっていた。
なるほどね。落葉が『黄金の雨』で、その枯れた落葉で埋まった地面が『枯れた大海』ね。ロマンチックだわ。あたしにゃ絶対に解らん。
とは言え、此処まで来たらもう解る。『枯れた大海に浮かぶは出会いの小島』はバーゴラの事だ。
「バーゴラか・・・。」
「うん、そう。」
あたしが呟くとマリが微笑んだ。
なるほどねぇ。生徒会の皆さんも良く考えたもんだ。
あたし達5人はバーゴラをせっせと調べ始める。そして。
「あった。リドルの紙だわ。」
セーラの手には次のリドルの紙が握られていた。




