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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター1 1年生編 / 一学期
7/105

M7 真夜中のティータイム 2



「6歳の時?」


 あたしはポカンとなった。


「え?・・・うん。」


 マリーベルことマリはキョトンとした表情で頷いた。


「ヒナちゃんは違うの?」


「あ・・・うん。あたしは入学する1週間くらい前・・・」


「じゃあ、つい最近なんだ。」


「そうだね・・・」




 ――あれ?何かおかしくない?


「ねえ、マリは前世ではゲームをやって1ヶ月くらいで死んだって言ってたよね。それで転生したのは6歳の時?」


「うん。」


「あたしはゲーム販売初日で何かがあってこの世界に来たの。それで転生したのはつい最近。」


「・・・何か時間がおかしいね。」


「だよね。」


「・・・」




 どう言う事だろう。前世とおさらばしたのは、あたしが1ヶ月早くて転生したのは7年も遅い。これがメインキャラクターとモブキャラの差なの?


「どう言う事だろう?」


 不安になったのかマリは緊張した面持ちであたしに尋ねてくる。


「なーんも解らん。」


 あたしがそう返すと、マリは一瞬呆気に取られたようにポカンと口を開けてこっちを見た。けど、直ぐにクスクスと笑い始めた。


「え、何か面白かった?」


「違うの、何かヒナちゃんと一緒にいると大した事じゃ無いんだなって思えて安心しちゃった。私1人だったら深刻に悩んじゃったかも。」


 ・・・あたしはポリポリと頬を掻いた。


「だって解らないもんは解らないしさ。考えても解らない事は考えない主義なんだよ、あたし。」


「うん、私もそうしよう。」


 ――いや、そんなトコを真似されても・・・




「ああ・・・でも、さっきマリはあたしの事を年上って言ったけどさ。あたしは実質17年しか生きてないけど、マリは12歳プラス7年分を生きてるからマリの方が2歳年上じゃない?」


「・・・うーん、そうなのかな?でも、話してるとヒナちゃんは凄く大人に見えるよ。」


 ――考え方・・・いや感じ方の違いか・・・


「じゃあ、もう同い年って事でいいか。実際、同い年なんだし。」


「うん。」




 あたしとマリは微笑み合うと紅茶を口にした。・・・ああ、やっぱり冷めてるな。




「ヒナちゃんは・・・」


 マリは口を開いて・・・言い淀んだ。


「何?」


 あたしが「ん?」と首を傾げて見せると真剣な瞳でマリはあたしを見た。


「ヒナちゃんは、1人暮らしは気に入ってるよね。」


「そうね。控えめに言って天国かしら。」


 あたしがご機嫌で答えるとマリはちょっと寂しそうに笑った。


「そうだよね。誰にも邪魔されたく無いよね。」


「・・・」


 ――はっきり言ってあたしは勘は悪くない方だと思っている。


 あたしはマリをジッと見た。


「此所に来る?」


 あたしが言うとマリはパッと顔を上げた。


「いいの?」


「うん。」


 あたしは頷いた。


「でも、公爵令嬢と子爵令嬢が同室だと色々言われてヒナちゃんに迷惑を掛けるかも知れない・・・」


「気にしないよ。ドンと来い。」


 マリは暫くあたしの顔を眺めてたけど、やがてフワリと笑った。


「やっぱりカッコいいな。」


 ――・・・おい、やめろ。妙な気分になるから。


 ムラムラを押さえる為にあたしはテーブルに突っ伏した。


「・・・なんで突っ伏すの?」


「いや、気持ちを調整中。」


「?」




 あたしは気になっていたどうでも良い事を、突っ伏しながらマリに尋ねた。


「・・・結局『魔女』って何だったんだろうね?」


「まじょ?」


「黄昏の魔女・・・」


「ああ・・・ゲームタイトルの・・・。」


 当に黄昏れたような声がテーブルの向こうから聞こえてくる。


「・・・私も2回プレイしたけど魔女は出て来なかったね。」


 ――よくアレを2回もプレイする気になったな


「やっぱタイトル詐欺かあ・・・。ホント、あたしが黄昏れたわ。プレイヤーを黄昏れさせてどうするよ・・・」


「あはは。」


 マリはあたしのボヤきを聞いて笑った。






「ホントに一緒に寝るの?」


 明かりを消した寝室のベッドの前であたしはマリに尋ねた。


「・・・駄目かな?」


「駄目では無いけど、あんまり広くないし・・・その、大丈夫?あたし、寝相が良くないよ?」


 そう。あたしはあんまり寝相が良くない。朝、目覚めると布団が蹴っ飛ばされてる事が度々あった。


もし、マリを・・・いやマリーベル様を蹴っ飛ばした・・・何て事になったらヤバい。


「大丈夫です。・・・その、私もそんなに寝相は良くないから・・・」


――え!?貴女も蹴っ飛ばし系の人?




 まあ、なら安心か・・・安心か?・・・まあいいや。


「じゃあ・・・どうぞ。」


 あたしは先にベッドに潜ると、布団を持ち上げてマリを誘う。


「・・・お邪魔します。」


 美しい銀髪を纏め上げたマリーベル様が・・・マリがスッポリとあたしの横に収まった。


そして、あたしを見て照れ臭そうに笑う。


――!!・・・ヤバい、抱き締めたい。ナデナデしたいぞ!




「私、こういうお泊まりとか夢だったんです。」


 彼女の無邪気に喜ぶ声が、一瞬であたしをお姉さんモードに引き戻してくれた。


「・・・そう。じゃあ、願いが1つ叶って良かったわ。」


 あたしはライラさんも絶賛の優美な笑いを浮かべてマリの頬を撫でた。


「!」


 マリはクルリとあたしに背を向けた。


「恥ずかしいです。」


 消え入りそうな声が聞こえる。


 ――ああ、もう!可愛いなあ!






 朝日が顔に掛かりあたしは大の字姿で目を覚ました。


「・・・」


 眠い。


 ん?身体が重いな。




 あたしは顔を右に向けて目を剝いた。


纏められた銀髪がほどけ乱れてしまった絶世の美少女があたしの身体にしがみつき美しい寝顔を朝日に晒していた。


――乱れて・・・美少女・・・何だ!?


 混乱したあたしの心臓付近では祭りが絶賛開催中だった。捻り鉢巻きの屈強な男達がバチを持って祭り太鼓宜しくあたしの心臓を盛大にぶち破ってくれてやがる。




 あたしの心臓祭りの騒音に気が付いたのかマリがゴソリと動いた。


そして、ゆっくりと目が開いて・・・あたしと眼が合った。


「あ・・・お早う御座います。」


「はい、おはようゴザイマス・・・」


「・・・。・・・!」


 あたし達の体勢に気付いてくれたらしい。


 マリは勢いよく離れた。


「あ・・・あの・・・。・・・おはようゴザイマス・・・」


「あ、はい・・・おはようゴザイマス・・・」


 ギクシャクと交わした挨拶があたし達の1日の始まりとなった。




 朝食はガーデンパーティーで摂る事にしたのでマリは1度自室に戻り制服に着替えて来た。


「・・・」


 が、朝の寝姿の件もあり、何かぎこちない。


あたしは作り笑いを浮かべてマリに話し掛けた。


「いやあ、マリの寝相が悪いって言うのは抱きつき癖があるって事だったんだねぇ。」


 するとマリは慌てたように口を開いた。


「ち・・・違う!・・・違わないけど・・・確かにヌイグルミを抱いていつも寝てるけど。でも、昨日最初に抱きついてきたのはヒナちゃんだよ。」


「え、そうなの?」


「ヒナちゃんが先に寝ちゃって暫くしたらガバッって抱きつかれて・・・」


「あ・・・そうなんだ。えっと、ごめんね。」


「あ、ううん、私も・・・抱きついちゃったし。」


「・・・」


 お互い何だか照れ臭くなって黙ってしまった。


 うーん、話題選びを失敗したな。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 今日は五草会の後半だ。




 ガーデンパーティーの主会場となる中庭には既にお腹を空かせた貴族令息達が山盛りの料理を載せたトレイを片手に談笑を始めている。


御令嬢方は未だ誰も来ておらず、女性ではあたし達が1番乗りだった。 




 やっぱりは殿方はお腹が空くのは早いのかな。


あたしは前世の修学旅行の食事風景を思い出した。男子の無限の胃袋に戦慄したもんだ。流石に此処の皆さんは貴族令息という身分からか品が良いけど、食欲旺盛なのは変わらないよね。




 談笑とざわめきにあたしは口元を綻ばせてマリに話し掛ける。


「マリーベル様は何をお召し上がりになります?」


 マリはあたしの口調が突然変わった事に驚いてこちらを見上げてきた。けど、直ぐに理解して人差し指を顎に当てて考え始める。・・・くそぅ、いちいち仕草が可愛いな。


「うーん・・・特には・・・。ヤマダ様は何を召し上がるんですか?」


「え、うーん・・・」


 返されてあたしも悩む。もともと朝は食べなくても平気な方だからな。


「そうだな・・・お茶と・・・フルーツと・・・ヨーグルトかな。」


「じゃあ、私もそれで。」


 そう言ってマリはデザートの置いてあるテーブルへと歩き始めた。




 一口サイズのリンゴとイチゴと杏等の上に蜂蜜とヨーグルトを掛けた一品を盛り付けたサンデーグラスをトレイに載せて緑茶を片手に、あたし達は少数置かれた椅子に腰掛ける。


サイドテーブルにトレイを置くと、あたしはイチゴを一口頬張った。


うん、美味しい。あたしはご機嫌の表情になった。


「杏が美味しいですよ。」


 何ですと。マリからの情報であたしの視線は杏に注がれる。実は杏って食べた事無いんだよね。


「・・・」


 パクリ。・・・酸っぱい?・・・いや、甘い・・・更に蜂蜜の芳醇な甘さとヨーグルトの酸味が混ざり合って・・・美味い!何コレ美味い!朝の乾き気味の口にピッタリだ!


「美味しい!」


「ですよね。」


 マリの微笑みにあたしも笑顔で返す。




「それだけで足りるの?」


 2人でキャッキャウフフしていると突然、前から少年の声が聞こえた。


「・・・」


 誰かに話し掛けられるとは思っていなかったあたし達はビックリして声の主を見上げた。




 色の薄い金髪が風に吹かれてサラサラと靡いている。セルリアンブルーの双眸と白磁の肌に薄紅の唇が映える壮絶な美人が其所に立っていた。


 ――・・・え?誰?・・・男の子?


いや制服を見れば男の子だと分かるんだけど、一瞬男装した少女かと思ってしまうほどの凄まじい美少年に圧倒されてしまう。


「あの・・・」


 無反応のあたし達に困った様に美少年は言葉を紡ぐ。


 ハッと我を取り戻した。


「あ、失礼しました。」


「すみません。」


 あたし達が詫びると美少年は慌てて胸の前で手をフルフルと振った。


「あ、いや。此方こそ女性に不躾に声を掛けてしまい申し訳ありません。僕はアルフレッド=フレア=グレイバードです。」


「マリーベル=テスラ=アビスコートです。」


「ヤマダ=ハナコです。」


 ・・・何だろう。このオチ担当感。まあいい、気にすんな。




 美少年ことアルフレッド様は穏やかに微笑んだ。


「もし良ければ、朝食を御一緒しても宜しいですか?」


 その微笑みにポォっとなったあたし達は思わず頷いた。




「ふふふ。噂のお2人とお話が出来る何て光栄だな。」




 噂?何の噂だ?あたしは顔を首を傾げた。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 「あ・・・あの・・・。・・・おはようゴザイマス・・・」 「あ、はい・・・おはようゴザイマス・・・」 [一言] 尊い。
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