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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター5 2年生編 / 二学期
69/105

M58 衣装合わせ



 さて、衣装合わせで女子更衣室は沸きに沸いている。




 マリは『星に願いを』からヒロインのオルエッタさん。


 薄いライムグリーンでキツめに作られたティーレングス。セルリアンブルーの縁取りや帯が眼に映えて、夏のイメージを呼び起こされる。


 去年のアルテナ様もエロ可愛くて良かったけど、コッチはコッチで落ち着いた雰囲気が在ってイイ。しかもマリの体型が去年から一転しているので、マジでキツめのティーレングスが似合う。




 セーラは『リトル=スター』からアルテナ様。


 去年のマリと同じ、真っ白のカットソーに純白のミニスカート。上から半透明の薄絹の羽衣を纏っている。・・・んだけど・・・。


 ヤベえ。マジでエロい。去年のマリは少し子供体型だったからミニスカートも可愛く見えた。けど、セーラはどちらかと言えばアイナ寄りの大人体型だ。ミニスカートからスラリと伸びる白亜の美脚は男子の眼にかなり毒なんじゃ無いだろうか?しかも黒髪ロングの清楚美人がこの格好はマズいかも。




 アイナは『生の慟哭・死の欠片』から悲劇のヒロイン、アウローラさん。


 真紅のマーメイドドレスなんだけど何とワンショルダー。インドの女性なんかが着るサリーっぽい。


 ストーリーの中で夜会に出掛ける時の衣装らしいんだけど『ポロリもあるよ』とか誰かが言ってしまいそうな格好だ。


 因みにアイナが何故コレを選んだのかは明白です。エリオット様が『生の慟哭・死の欠片』の愛読者だからだ。


 このアウローラさん、『平民から貴族に養子として招かれる』と言う先行きに不幸な未来しか見えない状況に在るんだけど、案の定、悪事に嵌められて命を落とす。ただ、風貌はお色気要素抜群で「厚めの唇」だの「豊かで整った胸」だの『ガチでアイナじゃん。』と思ってしまう程に、アウローラの容姿の表現方法が、まんまアイナの特徴を捉えている。




 フレアは『神々の黄昏』から剣の美姫エリエーン様。


 白と黒のエプロンドレスだ。膝丈までの黒のスカートと胸元のピンクの紐ネクタイがめっちゃキュートさんだ。


 まあ、美『姫』が何でエプロンドレス?って疑問は残るけど。


 本来の通常衣装は、所謂ビキニアーマー?って奴に腰から下はスカートを巻いた姿なんだってさ。いや、ソレもどうなのよ。


 そんでエオリア様が断固反対した。猛反対した。ま、そうだよな。フレアもエオリア様が言うならって拒否したんだ。それで考えた苦肉の策が物語の山場で美姫が変装するメイドの扮装だった。


『フレアが侍女・・・。』


 エオリア様はフレアが使用人に扮装する事に多少の引っかかりを感じて居たみたいだけど、それでもビキニアーマーよりはマシだと思ったのかOKしていた。




 そんで・・・あたしなんだけど。




 端々に金の細工をあしらった漆黒のノーブルスーツ。背中に羽織るは純白のマント。その名も『帝王の咆哮』から覇王エーランド帝王陛下。近隣諸国に虐殺王として恐れられた帝王様だってよ。




 またかよ。


 また男役かよ。しかも虐殺王って、去年より酷いじゃん!


 何度でも言おう。あたしゃ其処まで益荒男じゃ無ぇ!


 なんだよ虐殺王って。あたしゃ戦国の覇王か!?第六天魔王もビックリだわ。コレでも前世では敬虔・・・では無かったけど仏教徒だったんだぞ。断じて仏陀の敵に回った覚えはない!




 いかん、落ち着こう。コレは衣装合わせだ。


 キツい所は・・・特に無いかな?胸以外は。


 チクショウ、スポブラみたいな下着がギュウギュウに胸を締め付けてくる。ハッキリ言ってマジで苦しい。




「?」


 異様な気配を感じて周囲に目を向けると、御令嬢方が頬を染めてコッチを見ていた。


「・・・。」


 ああ、去年と同じだ・・・。


 なんとも言えないまま、あたしは引き攣った愛想笑いを皆に振りまく。




「ヒナ格好いい・・・。」


 セーラがいつの間にかピッタリと横にくっついてあたしに囁く。おい、やめろ。そんな格好で頬を染めて言われたらドキドキするだろ。


「・・・。」


 マリが無言で反対側に立ってあたしの腕を掴む。って痛いんだけど、マリちゃん。




「ホント、ヒナってそう言う格好が似合うわね。」


 アイナさん、ソレ誉めて無いよね。


「ヒナちゃん格好いいよ!!」


 フレアさん、あんまり嬉しくないよ。




 偶にはあたしもヒロイン役の格好をしてみたいよ。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「ヒナさん、生徒会室に行ってくれるかしら?」


 更衣室に入ってきたマルグリット先生がそう言ってからあたしを眺めた。


「あら、似合いますね。」


 ・・・先生、あんまり嬉しくないです。あと遂にみんなの前でも、あたしを「ヒナ」と呼び始めましたね。しかもサラッと自然に。


「・・・はい。」


 あたしは色々と不満を抱えて頷く。




 あたしは衣装を脱ぎ捨てると制服に着替える。


「ええ、脱いじゃうんですか?」


「そのまま行ったら良いのに。」


 おい、御令嬢方。メチャクチャ言うんじゃない。






 生徒会室には執行役員12名が集まっていた。そしてあたしが来賓席にポツンと座ってる。


 何?この晒し者状態。


「・・・と言う事で。」


 会長のスクライド様があたしの方を見て話を振る。


――何が『と言う事で』だ。


 一応、定番のツッコミを心の中で入れながら、あたしは姿勢を正す。




「先日にハナコさんが提案してくれた件が通りました。」




 あ、通ったんだ。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 実は食通連に行った翌日にあたしは生徒会にまたしてもお呼ばれしていたんだ。その時は他にも初等部2年の人達が何人か居たんだけど。




 そん時にスクライド様から言われた事。


「生徒会として何か新しい事をやりたいんだけど何かアイデアは無いかな?」


 初等部の・・・って言うかあたしを見てスクライド様が意見を求めた。




 うーん・・・アイデアと言ってもなぁ。此処は前世の風習をお借りしようか。


「では、後夜祭などは如何でしょう。」


「後夜祭・・・。」


 セシル様が呟く。


「はい。去年、学園祭が終わった後に思ったんです。なんか味気ないなって。だから自由参加で後夜祭を開いたら如何でしょうか?」


「ほう。」


 スクライド様が頷く。




「しかし後夜祭と言っても、何をするんだい?」


「大した事はしないですよ。互いの労を労って簡単な飲食をする感じです。」


「パーティーのような?」


 あたしは、そう言われて考えたんだ。どうせなら屋外でやりたいよねって。


「校庭なんかの方が開放的で良いと思います。」


「なるほど・・・。」


 暫し考えていたスクライド様があたしに言った。


「学園に提案してみるよ。」




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 その案が通ったらしい。




 スクライド様の眼が悪戯っ子の様にキラリと光ってあたしをみた。


「それで後夜祭と言っても、具体的には何をするんだい?」


「うーん・・・。」


 考える。




 あと1週間じゃ大した事は出来ないだろうな。かと言って、ショボい事をするくらいならやらない方が良い。


 ・・・定番で良いか。




「・・・キャンプファイヤーなんてどうでしょう?」


「キャンプファイヤー?」


「はい。」


 首を傾げるスクライド様にあたしは頷いた。


「校庭の中心にデッカい丸太を何本も組み上げて、その中に沢山の木を放り込んで火を焚くんです。」


「・・・野営火みたいなモノかな?」


「多分。」


 スクライド様がセシル様に尋ね、セシル様が頷く。




 野営火って言うのが何かは判らないけど、多分ソレだ。いや判んないんだけど。




 セシル様が紙とペンを渡してくる。


「良ければ絵に描いてみてくれるかな?」




 ああ、よろしくってよ。




 あたしは受け取ると描き始める。


 組木を描いて中に炎を描く。あ、そうだ、組木の組み合わせる部分の窪みもアップで描いて置かないとね。参考までに人も横に描いて大きさの参考にして貰おう。


 ・・・うん、こんなモンかな?




「上手いモンだね。」


 声が掛かって顔を上げると、生徒会の方々がみんなして覗き込んでいた。




 いや、怖ぇよ。




 あたしが紙を渡すとみんなで拙い図面を眺めた。


「・・・なるほど。」


「野営火の感じで良さそうだね。」


「イメージが掴み易いな。」




 スクライド様が1人ポツンのあたしを見る。


「コレなら1週間で準備出来そうだ。が、コレだけって事も無いのだろう?」


 お、そう来るか。


 そうだなー・・・。ま、何でも良いんだけどね。ぶっちゃけ、みんなでキャンプファイヤーを囲むだけでもテンションは爆上がりするし。




「まあ、特に何かをするって事も無いですけど、ダンスとかなら皆さんも直ぐに参加できるんじゃないですか?」


「ふむ、すると楽団だな。」


「高等部で楽団を呼んでいるクラスがありますから交渉してみましょう。」


 セシル様の呟きに役員のお姉様の1人が直ぐ反応する。


 そういう話が直ぐ出来る辺り、いやあ、みんな優秀だわ。


「焚火の周りをみんなで囲んで踊るとなお楽しいかもですね。」


「なるほど楽しそうだ。・・・選曲は楽団に頼めるのかな。」


「恐らく可能でしょう。」


 あたしに頷いて見せたスクライド様が他の役員さんに尋ねる。




「後は何かあるかい?」


「あとは・・・。」


 あたしは考える。


「・・・例えば『賞状』を付けると言うのはどうでしょう。あ、順番を付けるのは角が立つのでユーモア賞みたいなモノです。例えば『頑張ったで賞』とか『面白かったで賞』とか。敢くまで生徒会の皆さんの独断と偏見で決めて貰うんです。」


「フッ・・・。」


 役員のお姉様の1人が吹き出して顔を背ける。


 あら、お姉様。お顔を背けていらっしゃるけど、その細い肩が揺れていらっしゃいますわ。


「それなら、我々は全ての出し物を観て回る訳だから見回りの序でに出来るな。」




「後は何かあるかい?」


「うーん・・・。」


 あたしは腕を組む。


「時間が在れば生徒会の方々で簡単な出し物でもしたら良いとは思いますけど・・・。」


「じゃあソレは来年だね。」




「後は何かあるかい?」


「ええと・・・。」


 あたしは眉を顰めて脳味噌を捻る。


 そしてハタと気付いた。コレってあたしが「もう無い」と言うまで延々と続くパターンじゃ無い?って言うかこの人、絶対いくつかの案を初めから持ってた筈だ。その上であたしにも考えさせたな。


 チクショウ!上手く使われれた!




 あたしはジロリとスクライド様を見遣る。


「もう!少しは其方で考えて下さい。」


「アハハ、残念。気付かれちゃったか。」


 スクライド様が笑う。




 チクショウ・・・そんな良い笑顔で誤魔化されると思うなよ。・・・まあ、誤魔化されてやるけど。




「いや、でも有り難う。本当に助かったよ。短期間で準備出来そうな案をこんなに出して貰えるとは思っていなかった。」


「そうですか。ソレは何よりです。」


 素っ気なく答えてみたけど、まあ生徒会の助けになったのなら上々よね。






「スクライドが調子に乗ってしまって悪かったね。」


 暗くなったからと女子寮まで送って貰う道すがら、セシル様が苦笑しながらあたしに言う。


「いえ、お気になさらず。」


 あたしは答えながらセシル様を見上げる。




 男子とは思えない程に綺麗な肌だ。線の細いイメージだけど、よく見ると結構身体はがっしりしている。


 顔はとても整っていて、でもとても冷たい印象を受ける。初見さんは怖っかなビックリになるだろうな。ところが話してみると良く笑うし冗談も通じる。しかも頭も良い。女子には堪らないだろうな。




「セシル様は武術もお得意なんですか?」


「え?」


 急に話題を変えたあたしの質問にセシル様が驚いた声を出す。


 ヤベ・・・唐突すぎたか。でも訊いてみたくなったんだ。コレで武術もイケるなら、エリオット様に続いて2人目の完璧超人を発見した事になる。




「武術か・・・。」




 お?その反応は苦手か?


 良かったらあたしがお教えしましょうか?


 デキる人間の弱点を発見したかも知れなくて、なんか意地の悪い高揚感を覚える。いかん、ニヤニヤしてしまいそうだ。




「去年の武術祭では高等部で3位だったな。」




 Oh・・・2人目の完璧超人が登場したよ。




「結構悔しかったな・・・。」




 いえいえ、充分で御座いますとも。デキる人間は凡人の及ばない高い理想を持つモノなんだと思い知らされました。


 眉目秀麗、頭脳明晰で、冗談も理解出来て武術もイケる。しかも3位では不満とか、なんなんだよ。






 部屋に戻ると銀髪の美少女が笑顔で迎えてくれる。


「お帰り、ヒナちゃん。」




 ああ、そうだ。


 完璧超人は此処にもう1人居たわ。







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