M53 スープを作ろう
今回から本編新チャプターに入ります。
宜しくお願い致します。
※本日より活動報告を利用する事にしました。お知らせ等はそちらに告知しますので、時々覗いて頂ければ幸いです。
※作品内の作者マイページよりお入り下さい。
「・・・」
朝、目を覚ますとマリがあたしの顔を覗き込んでいた。
目が合うと、マリは見る見るうちにユデダコになる。
「・・・お、おはよう・・・。」
俯くマリの口から小さな挨拶が聞こえてきたので
「おはよう。」
と返す。
で、段々と頭がハッキリしてくる訳だ。
「・・・」
そしてあたしもユデダコになる。
「お・・・お湯を浴びてくるね・・・。」
マリはそう言うとソソクサとベッドを抜け出して湯浴み場に入って行く。いつの間にか確りとネグリジェを身に付けて。
でも・・・ま、そうだよね。マリはお湯を浴びたいよね。
あたしは昨夜、マリに凄い事をした。してしまった。遂にやっちまった感が凄い。さっきのマリの顔を見る限り傷付けては居ないと思うけど・・・。
・・・て、言うか・・・。・・・ウァアアアーーーッ!! 恥ずかしい!!
どうしよう!どんな顔をしたらいい!?
あたしはマリのベッドの上でバタバタと悶える。
正解だ。何か正解を見つけなくては!
そう、まるで昨夜の事など無かったかのように、ごく自然にいつも通りにマリとキャッキャウフフ出来るワザを考えるんだ!
・・・わからん。いや、考えても正解なんて判らんし、多少のぎこちなさは覚悟しておこう。
そして絶対にやっちゃいかんのは気まずいからと言って距離を置く事。コレは最悪だ。マリが距離を置きたがったら仕方無いけど、そうじゃ無いなら今日はマリに1日ベッタリだ。気まずくてもな。
あたしはノロノロとベッドから這い出すとまだ下着一枚しか身に付けていない状態である事に気が付きネグリジェを探す。目当てのモノを見つけて身に付けると枕元に置かれたガーネットのブローチを手に取る。
昨夜のマリの姿が思い出される。
穏やかな微笑みを浮かべてブローチとリングを眺めるマリ。あの時のマリは裸なのにエロさを感じなくて、身に纏わり付いた銀髪の美しさも相俟って、とても綺麗に見えた。
・・・メシ作ろう。
あたしは軽く溜息を吐くと部屋を出た。
あたしが卵料理が好きな様にマリにも好物がある。あの子はチーズとイチゴが大好きだ。イチゴは無いけどチーズは一塊置いてある。
あたしはチーズを切り分けると、ジャガイモを取り出して薄くスライスする。ハムもカットして塩コショウを振りかけてポテトの上に置く。更にたくさんのチーズを乗っけて竈にぶち込む。後は手早くチーズのオムレツを作る。で、青野菜をザックザックと切ってサラダにする。
料理を並べているとマリが自室から出て来た。
「あ・・・。」
あたしが料理を並べているのを見て声を上げる。
「おはよ、大丈夫?」
努めていつも様に笑顔で尋ねると、マリは恥ずかしそうに頷いた。
「うん。ゴメンね、朝ご飯作るの手伝えなくて。」
「良いって、食べよう。」
マリが少し笑った。
よしよし、先ずは笑顔を見せて貰うのが大事よ。
マリは食べながらもチラチラとあたしの顔ばかりを見ている。でも、何かを話し掛けてくる訳では無い。
まあ・・・うん、今日はこんな感じよね。
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
とは言っても、ソコはあたし達の仲だ。いつまでもぎこちない状態で居られる訳がない。だって、つまんないし。
って事で、翌日には殆どいつも通りに戻っていた。時折、手がぶつかったりして顔が真っ赤になる意外は。
そのうちセーラも帰って来た。彼女は当然の様に宿題は全部終わらせていたので、心置き無く3人で町に出掛けたりして遊びまくった。
序でに女子寮の1年生エリアに侵入してアリエッタちゃんを2人に紹介したりする。
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
そんなこんなで2学期を迎えた。
そして乗っけから生徒会よりイベント開催のお知らせが在った。各倶楽部の勧誘会だ。
・・・ああ、やるんだ。アリエッタちゃんを生徒会室に連れて行った時に、何かそんな話をしていたな。そう言えば。
「勧誘会って何をしたら良いのかしら?」
高等部食堂の厨房で、セーラが連れて来た倶楽部メンバーの1人のレイナー様が首を傾げる。伯爵家の御令嬢だ。
最初は近寄りがたい雰囲気の方だったけど其処はセーラが気を許すだけ在って、身分に対しての拘りも無く何だか直ぐに打ち解けてしまった。
マリの事情も知っていたみたいだけど、特に偏見も無く仲良く接してくれている。
「まあ・・・作った料理を配るとか・・・実演して見せるとか・・・。」
あたしが適当に言ってみる。
「料理を配るのは判るけど・・・実演は難しくない?」
「そうね。高等部の食堂に初等部の子を呼ぶのはムリが在るかも・・・。」
「でも、料理を配るって多分お菓子とかでしょうけど、インパクト弱いかも・・・。」
みんなが腕を組む。
「・・・うーん・・・。」
そしてあたしの頭に稲妻がピキーンと走った。ニヤリと思わず笑みが零れる。
「ヒナ、悪い笑顔が出てる。」
セーラが失礼なツッコミを入れてくる。
「悪い笑顔って何よ。・・・いや、そんな事よりさ、別に此処に呼ぶ必要はないじゃない。」
「呼ばないでどうするの?」
「初等部の園庭で実演するのよ。」
「「「「・・・は?」」」」
全員がポカンとした顔であたしを見る。
アッハッハ。みんないい顔するなぁ。
「え、でも竈とかどうするの?」
「作るのよ。」
「作る!?竈を!?」
「こんな大掛かりなモノじゃ無くても良いじゃない。要は火を起こせれば良いんだから。」
つまりはバーベキューだ。アレにもう少し手を加えてフライパンなんかも置ける様なモノを作れば良い。
焼いて、煮て、喰って。そんな事をしてればきっと楽しめる。
要はあたしが楽しめれば其れで良い。メンバーはもう充分に居るんだしこれ以上増やしても捌ききれない。だからイベント事としてみんなで楽しみたい。
楽しむだけなら、やっぱりお外でバーベキューでしょ。
「器材は用意するからさ、その他の分担をお願い。」
あたしはそう言った。
放課後。
あたしはお料理倶楽部をセーラ達に任せて、早速マリを連れて鍛冶ギルドに向かう。
イメージはバーベキューセット。それと五徳と、あと何か時代劇で見た火鉢みたいな長い奴。灰を入れて炭火を入れて五徳を置けば鍋も置けるよね。
ギルドマスターのオリゲックさんに概要を話してイメージ画像を見せる。
「なるほど・・・楽しそうですな。」
「ですよね。」
同意を得られてあたしはニコニコ顔だ。
「お嬢様が仰った物の殆どは既に在る物ですから直ぐにご用意出来ますよ。この・・・ヒバチ・・・ですか?コレは作って見ましょう。」
おお!素晴らしい!
「お願いします。1週間で出来ますか?」
「枠を作るだけですから問題ありません。」
ヨシ!なら間に合うわ。
次にあたしは港に向かう。
「ヒナちゃん、港に来て何か買うの?」
「ええ、買うわ。」
あたしは気合いを入れて答える。
「何を買うの?」
「出汁の素よ。」
「ダシノモト?」
「そう。」
「?」
あたしはマリが理解出来てない事に気付かないくらいに夢中になっていた。
目当てのモノを見つけるのに意外と手間取った。けど見つけた。
「昆布?」
「そう。コレで出汁を取るわ。」
「・・・あ、ああ。出汁かぁ。」
出汁になるモノは幾つかある。流石に鰹節は無いだろうけど、椎茸みたいなキノコを干した奴も見つけた。後は・・・無さそうだな。まあ、他は野菜クズとかで良いか。
「ヒナちゃん、良く知ってるね。」
「まあね。作った事は無いけど、ばあちゃんが良く出汁を取ってるのを横で見てたから。」
「ふふふ。」
マリが可愛く微笑む。
「な・・・何?」
あたしがドギマギしながら尋ねるとマリは言った。
「ヒナちゃんの子供の頃の姿を見てみたいなと思って。きっと可愛かったんだろうな。」
「・・・。」
いや、言うまい。超が付く程のお転婆だったとか言えない。
「でも何で急に出汁なの?」
うん、まあ、そう思うよね。でも、あたしには以前から「とある欲求」が在ったんだ。
「欲求?」
マリが首を傾げる。
「そう、あたしの食生活に味噌と醤油が足りない。」
「・・・。」
「解ってるわ。あの2つは素人が作れるモノじゃ無い。どちらも最初は『魚が腐った』とか『大豆が腐った』とか、そう言った偶然の産物から生み出されたモノらしいし。狙って作れるモノじゃ無いし諦めるしか無いのは解ってる。」
「・・・ええっと・・・」
マリは戸惑うような顔をしている。
解る。解るわ。貴女も日本人の記憶を持つ人だもの。辛いわよね。
「だからね、せめて出汁を取った塩味のスープなら作れるんじゃ無いかって思ったのよ。」
マリはあたしの顔を見て引き攣った様な笑顔を見せた。
「うん、頑張ってね。」
何でそんな微妙な顔をするのか解らないけど、あたしはサムズアップで応える。
「ええ、任せて頂戴。」
ってな訳であたしは翌日、食堂厨房のおばちゃん達に許可を貰ってスープ作りに興じた。出汁取りは寮に戻ってからやれば良い。
寸胴鍋に鶏ガラやら牛骨やらキャベツやらタマネギやらニンジンやらをぶち込んで塩を入れてひたすら煮込む。超煮込む。丸1日くらい?
「・・・」
みんな遠間からあたしのやってる事を黙って見ている。けど、寸胴鍋から漂って来た強烈な臭いに驚いて逃げ出してしまった。
フッ。素人め。
とは言え、誰も居なくなってからも火を焚き続けるのは火事が怖いので、夜間宿泊の許可を取って厨房で震えながら一晩を過ごすハメになった。
1人はお化けが怖いのでマリとセーラにも来て貰う。本当はアイナとフレアも巻き込みたかったんだけど、2人は同室の御令嬢が居る手前、不用意な外泊には誘い難かったので今回は泣く泣く外した。
まあ、後で其れが2人にバレてブーブー文句言われたけど。
そして鍛冶ギルドからモノが届いた日曜日。
あたし達はマゼルダ夫人の許可を得て早速届いた品々を女子寮の庭に並べてみる。お料理倶楽部のメンバー呼んで、アリエッタちゃんを含めた6人の1年生女子を紹介する。
そして本番の勧誘会に向けて試しに何かを作ってみる事にする。
料理名は『豚汁(塩風味)』。だって味噌が無いんだもん。
ガチャガチャと焚火台を組み立てる。ホントは折りたたみ式が良かったんだけどこの世界では未だ無いっぽいので、組み立て式で我慢。台に炭火を放り込んであたしの火の魔法で点火。網を置いて完成。
もう1つ、台の上に直方体の『火鉢』を置いてみる。更に火鉢に灰を投入。炭火を置いて既存の五徳っぽいモノを置く。そして大きな寸胴鍋を載せた。
うん、安定感はバッチリだ。ひっくり返して周りの人に怪我をさせる心配も無さそうだ。
取り敢えず厨房で作ったスープの原液を持って来ている。
実はあの後、出来上がったスープを飲んでみたんだけど濃すぎて吐き出しそうになってしまった。けど、原液1に対して水を2の割合で薄めると、まあまあ良い味になったんだ。言ってみれば塩の鶏ガラスープみたいなモンだけど、コレを素にして煮込み料理作れるんじゃ無いかな。
あたしは鍋に原液を入れると水を投入する。炭火を集めて火力を上げる。沸騰する直前までスープが煮えるのを待つ間に、みんなには食材の下拵えに入って貰う。
野菜の皮を剥く係、野菜を切る係、厳選豚肉を薄く切り分ける係、その他諸々。アリエッタちゃん達1年生にはそのお手伝いをして貰って2年生との交流を図って貰う。
かなりの量のジャガ、オニオン、ニンジンを一斉に鍋に投入。序でに隠し味に昆布出汁とキノコ出汁を投入。さあ、ココからが長い。弱火でひたすら煮る。あたしとマリは汗を掻きながら鍋の様子を見続けた。
他のみんなには休憩して貰っていると、女子寮の他の子達があたし達に気付いて「また何かやってる」とワラワラと出て来た。
うん、だいぶジャガが柔らかくなってきた。豚肉入れよう。
「みんな、そろそろ他のも焼いて頂戴。」
あたしが声を掛けると、みんなが返事をして何台も並んだ焚火台の前に立って、野菜や肉を焼き始める。この時の為にみんなには、ここ数日、厨房で網焼きの練習をして貰っていたんだ。
ゴチャゴチャとしては居たけど・・・実演の見通しは立った。
と言うのも、野次馬で観に来ていた令嬢方に豚汁と焼き物を提供した処「美味しい」と好評だったんだ。
やっぱ、外で食べると美味しさの度合いが変わるよね。
「ふふふ。上手く行きそうだね。」
夏休みを越えて何か妙に色っぽくなったフレアが微笑む。
「そうね。楽しみだわ。」
夏休みを越えて何か更に色っぽくなったアイナが微笑む。
・・・オマエラ絶対に何かイイコト在ったろ。そう言えば、まだ2人の話を聞いてない。
「後は雨が降らないことを祈るばかりね。」
セーラが冗談めかして言う。
「「え?」」
全員の笑顔が固まった。
あ、ソレは考えて無かったな。




