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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター4 2年生編 / 一学期
63/105

S11 マリーベルの追懐 3

マリーベル視点のお話です。

次回より本編に戻ります。


宜しくお願いします。


※8/18

 誤字の指摘を頂きました。有り難う御座います。

 早速適用させて頂きました。



 夏休みに入った。




 アイナさんとフレアさんは晴れやかな笑顔で実家に帰って行った。あの2人はこの夏にきっと素敵な思い出を作ってくる筈なので、寮に戻って来たらたくさんお話を聴かせて貰おう。




 セーラさんは2人に1日遅れで実家に戻って行った。・・・とは言え、彼女の実家は王都内なので馬車で半日くらいの所に在るそうだ。




『ヒナ達はいつ頃に実家に帰るの?』


『3日後。』


『・・・ちぇ。』








 セーラさんは私も一緒にヒナちゃんの実家に行くことを知って、彼女の実家の用事を終えたらUターンして自分も私達に同行したかったらしい。・・・ハラハラする事になりそうだけど、でも彼女も来たら間違い無く楽しくなると思う。




 でも3日後では王都を離れてしまっているらしく、私達に予定を合わせられなかった。




『じゃあ、来年。来年おいでよ。』


『約束よ。』


『わかった、わかった。』


 ヒナちゃんとのやり取りにセーラさんはご機嫌で帰って行った。








 そして裁縫ギルドのセルマさんが水着を届けに来てくれた。




 新作水着どころかこの世界に於いて初めての水着だ。




 伸縮性を図る為に材料となる生地の比率について試行錯誤が続き、色付けやデザインを入れる余裕は無かったようだ。視界に触れる水着表面に白絹を使用した美しい真っ白なワンピースの水着が届けられた。




「コチラがマリーベル様。」


 セルマさんが差し出す水着を、私は躊躇いがち受け取った。




 コレを着るのかぁ・・・。恥ずかしい。似合うと良いけど、ヒナちゃんはどう思うだろうか?




「コチラがハナコ様。」


「!」


 一瞬で意識が其方に向けられた。




 ヒナちゃんが無造作に受け取る真っ白な水着に視線を奪われる。




 其の水着にヒナちゃんが手足を通すのね。




 ダークレッドの髪を棚引かせて真っ白なワンピースの水着を着るヒナちゃん・・・。凄く綺麗なんだろうな。早く見てみたい。




「それと・・・。」


 セルマさんは付け加える。


「伸縮性と水への耐性はクリアしたのですが、やはり水に濡れてしまうと若干透明度が上がってしまいまして・・・。」


「透けて見えちゃうって事ですか!?」


 ヒナちゃんの泡食った問い掛けにセルマさんは頷いた。


「はい。」




 私は絶句した。


 うそ・・・。見えちゃうの? ソレは嫌だわ。着たくないわ。




「ですので、胸の部分と股の部分を下着の様な形状の薄い生地でガードさせて頂いております。違和感を感じるかも知れませんがお気になさらぬように。」




 ああ・・・、なんだ。対応はしてくれてるのね。ビックリした。




「ただ、やはり人目には触れぬ処でご使用下さい。」


「はい、勿論です。色々と有り難う御座いました。」


 ヒナちゃんの御礼に合わせて私も頭を下げた。




 何だかんだで今回はセルマさんも大変だったらしく、目の下に隈が出来てる。そうよね、頑張って作ってくれたんだもの。大事に着なくちゃ。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「ただ今戻りました。」


「お邪魔致します。」


 私とヒナちゃんが挨拶をすると、執事のリジオンさんが出迎えてくれた。




「お帰りなさいませ、お嬢様方。」




 ――お嬢様『方』ですって・・・。私にまで『お帰りなさい』と言ってくれたわ。


 私は嬉しくて思わず微笑んでしまう。




 あんな事をサラリと言ってしまえるリジオンさんはカッコイイ。


「リジオンさんって、きっとモテたでしょうね。」


 私が囁くとヒナちゃんも頷いた。


「うん、そう思うわ。」




 ボソボソと話しているとライラさんが首を振った。


「あの方は今でも社交界の雄として同年代の御婦人方と楽しくされていらっしゃいますよ。」




 ・・・ああ、やっぱり。モテる男性に年齢は関係無いのね。




 ご家族に挨拶をして部屋に戻り、テオ君も交えて3人で歓談する。途中、ヒナちゃんがお花を摘みに離席した。


 テオ君が歴史についてあやふやな部分が有るとかで教えを乞うてきたので、私は解る限りで教えてあげる。


 テオ君は今年10歳。ヒナちゃんと同じダークレッドの髪を短く切り揃えている。顔の造りもヒナちゃんに似ていてとても可愛い。甘えっ子の感じは否めないけど、頑張って勉強している姿はすごく好印象だ。




「マリーベル様。じゃあ、700年前に来た人達が、この国を創ったんですか。」


「そうですよ。レインモート遺跡と呼ばれる場所でその証拠が見つかっています。」


「なんだ。じゃあ、やっぱり僕が正しかったんだ。」


「ふふ。」


 口を尖らせるテオ君が可愛くて、その髪を撫でる。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 そして遂に私は、ヒナちゃんに連れられてメインイベントにやって来た。


 ヒナちゃんが色々と手を回したのか、私達と護衛の方々しか来ていない。




『マリーベル様と湖で遊びます。裸になるから近づかないでね。』


 とヒナちゃんが護衛の方に伝えているのが聞こえて顔から火を吹く思いだった。






 そして湖の畔にまで来るとヒナちゃんが悪い笑顔を私に向けた。




「さあ、マリちゃん・・・。」


「ヒ・・・ヒナちゃん・・・。」


 私は笑顔を引き攣らせながらヒナちゃんから一歩だけ後退る。




「もう、着てるんでしょ?」


「・・・。」


 ・・・着てる。




「じゃあ、その邪魔な服を脱ぎましょう。・・・なんなら、お手伝いしましょうか?マリーベル様?」


「・・・。」


 顔の温度が急上昇する。




 手伝うって・・・脱がすってコト・・・?ヒナちゃんが私を・・・?




「じゃあ・・・お願い。」


 私がそう言うと、ヒナちゃんは一瞬ポカンとした顔になったけど見る見る内に顔を真っ赤にした。




「い・・・いいの?」


 戸惑いながら尋ねるヒナちゃんに私は頷いた。




 ヒナちゃんは少し震える手で、私のワンピースのカジュアルドレスに手を伸ばした。私はドキドキしながらヒナちゃんを見つめて身体を差し出す。




 ヒナちゃんが私の腰のリボンに手を掛けて引っ張ると、シュルリとリボンが解けてワンピースはフワリとAラインドレスの様に広がった。


 胸のボタンに彼女の繊やかな指が掛かりクルリと動いて、ゆっくりと1個ずつ外していく。全部外されると、若草色のワンピースは私の両肩から外れてストンと地面に落ちた。




「・・・」


 私を見たヒナちゃんの顔が真っ赤に染まっていく。恥ずかしいけど嬉しい。




「・・・」


 いきなりヒナちゃんがしゃがみ込んだ。




「ヒ・・・ヒナちゃん、どうしたの!?」


 ギョッとなってヒナちゃんの前に屈み込もうとするとヒナちゃんが手で止めて言った。




「は・・・」


「は?」


「・・・鼻血出そう・・・。」


「・・・。」




 バカ。


 もう何かと思ったわ。それに私だけ服を脱いでいるのは嫌だわ。




「ヒナちゃんも脱いでよ・・・。」


 私は照れ隠しも兼ねて彼女に言った。




 すると。


「じゃあ、マリが脱がしてよ。」


「!?」


 予想外のヒナちゃんの言葉に驚愕する。でも、考えて見ればそう来てもおかしくないよね。


 私はコクリと頷いた。




 ヒナちゃんに手を伸ばして、ワンピースのリボンをシュルリと解く。ヒナちゃんのカジュアルドレスがフワリと広がって胸がドキリと震えた。


 次に胸のボタンに手を伸ばして外していく。




 やがて彼女が着ていた水色のワンピースは『ファサッ』と音を立てて地面に落ちた。




 途端に現れた真っ白な素肌と同じく真っ白なワンピースの水着。湖の水面に反射する陽光に照らされて、ミディアムボブの髪がダークレッドの色に幻想的に光輝いた。




 彼女の2つの膨らみはきつ目に身体にフィットした水着のせいで、寧ろビキニスタイルよりも強調されている。




「・・・。」


 マジマジとヒナちゃんの姿を見てしまい、私の顔が真っ赤になったのが直ぐに判った。




「マ・・・マリ!行くよ!」


 私の視線に堪えられなくなった様にヒナちゃんは私の手を掴むと湖に突入した。




 え・・・でも、でも、ちょっと待って。




「ヒ・・・ヒナちゃん、私、泳げない!」


 腰の辺りまで水に浸かった時、漸く私は悲鳴の様な声を上げてヒナちゃんに訴えた。




 ヒナちゃんは足を止めると私を振り返った。


「ゴメンゴメン。そりゃそうだよね。」




 ヒナちゃんはコクリと1つ頷くと笑った。


「じゃあ、あたしが泳ぎを教えてあげようか?」


「え、ヒナちゃん泳げるの?」


「まあね。コレでも小学生の時にスイミングスクールに通ってたから、4泳法は全部できるよ。」


「凄い・・・。」




 ホントにこの人は何でも出来る。


「ヒナちゃんって、ホントに何でも出来るんだね・・・。」




 ヒナちゃんの身体がグラリと揺れた。ん?どうしたの?




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「よし。じゃあ、特訓を始めよっか。」


「うん。」


 私は嬉しくてニコニコ笑顔で頷いた。


 前世でやりたかった事の1つ。水遊び。ソレをこんなに大好きな人と一緒に出来るなんて。




「マリは・・・顔に水が浸けられる?」


「出来るよ。」


「じゃあ、潜れる?」


「潜れるよ。」




 ヒナちゃんがちょっと微妙な顔になる。


「・・・浮ける?」


「浮けるよ。」


「・・・水の中で目は開けられる?」


「開けられるよ。」




 ヒナちゃんの顔が呆れたモノになった。


 え・・・なんで? なんかダメだった?




「何で出来るの?」


 なんでって言われても・・・。


「前世の時、プールで遊ぶのが夢だったからお風呂場で練習してたんだ。・・・結局プールに行くことは無かったけど。」


 あ、言ってて少し寂しくなってしまった。


 いや、でも今は楽しいんだから、もう過去なんて関係無いわ。私は笑って言った。




「・・・だから今、凄く楽しいの。」


「・・・そっか。」


 ヒナちゃんは凄く優しく微笑んでくれた。




 ああ、その笑顔が大好き。




「まあ、マリは直ぐに泳げる様になると思うよ。」


「ホント?」


「うん。」


「頑張る。」


 よーし、頑張るぞ。




 私は気合いを入れた。




 ヒナちゃんは少し考える仕草をした後、私に言った。


「じゃあ、マリ。水の中でジャンケンをしよう。」


「ジャンケン?」


 なんで?


「そう。先ずマリが潜って。そしたらあたしも潜るから水中ジャンケンしよう。」


「解った。」


 良く判らないけど勿論従うつもりだ。




 私は頷くと息を吸って水に潜った。




 一気に音がしなくなり、代わりに湖の中の音が耳に響く。


 ボヤけた視界の中でヒナちゃんが水中に潜ってきたのが見える。


 ヒナちゃんが腕を動かすのが見えたので、私も動きに合わせて腕を動かした。




 ――ジャンケンポン。私はグーでヒナちゃんはチョキ。やった、勝った。




 ヒナちゃんが立ち上がったので、私も立ち上がってヒナちゃんにニッコリ笑って見せた。




「私の勝ちだね。」


「だね。」




 その後、私はヒナちゃんに手を引いて貰ってバタ足を教わった。よく漫画やアニメで観る奴だ。




「腿から動かしてね。」


「うん。」


 楽しい。それにヒナちゃんの柔らかい手の感触にさっきからドキドキが止まらない。


 と思っていたら。




「じゃあ、手を放すから、水に顔を浸けてそのまま進んでみて。」


「え・・・?」


 手を離しちゃうの?




 ヒナちゃんは安心させる様に微笑んだ。


「大丈夫。足が着く場所だし、あたしが直ぐ後ろから追い掛けるから。1人じゃ無いよ。」




 ・・・そうだね。頑張ろう。ヒナちゃんにカッコ良いところを見せたい。


「うん、わかった。」


 私は頷くと、息を吸って顔を水に浸けた。




 ヒナちゃんはそっと私の手を放した。




 足をバタバタさせる。ボヤけた蒼色の視界の中で湖底の景色が流れて行くのが見える。


 ・・・進んでる。前に進んでるよ。私、今泳いでる!




 楽しい!でも息が苦しい。でも、もうちょっとだけ。・・・でも、もう限界!




、私は立ち上がった。




「・・・ハァ・・・ハァ・・・。」


 肩で息をしながら私は進んできた行程を振り返った。・・・凄い進んだ。


 ヒナちゃんを見ると彼女は顔を水に浸けずに私の後ろを泳いでいた。凄い、そんな事が出来るの?




 ヒナちゃんが立ち上がって笑った。


「お疲れ様。随分と泳いだね。」


「・・・。」


 私は胸が一杯になってヒナちゃんに抱きついた。




「やったぁ、嬉しい。ヒナちゃん、ありがとう。」


「後は息継ぎを覚えれば体力の続く限り、何処までも泳いでいけるよ。」


「うん。」


「やってみる?」


 え、今教えてくれるの?


「やる!」




 その後、私はクロールを教わった。腕を回転させる時のポイントと水の掻き方、ソレに息継ぎのタイミング。




「息を吸うときは水の中で肺の空気を吐き出してから、真上を向く位の気持ちで勢い良く頭を振りかぶってから息を吸って・・・そうそう。」




 息継ぎって意外と大変。何回もやってるとソレだけで息が上がってくる。


「ヒナちゃん、息継ぎが大変。」


 私が訴えとヒナちゃんは微笑んだ。


「慣れれば自然と出来る様になるわよ。」




 それから私は夢中になって泳ぎ続けた。だんだんと息継ぎにも慣れてくると自在に泳げる様になってきた。楽しい。


 潜って、上昇して、クルリとひっくり返って。泳ぐのがこんなに楽しいなんて。




「はぁ・・・はぁ・・・。」


 でも、流石に疲れた。




 私は立ち上がってヒナちゃんを探した。彼女はいつの間にか湖の畔に腰を下ろしていた。下半身を水に浸しながら、両腕を後ろに着いて上半身を支え、両脚を投げ出している。




「お疲れ。随分と泳げる様になったね。」


 ヒナちゃんの笑顔に私も笑顔で返す。


「うん、ヒナちゃんの教え方が上手だから。」


「ふふ。此れで悪党に襲われても水の中に飛び込んで逃げられるね。」


「あ、そっか、そうだね。」


 ヒナちゃんの言葉に私はハッとなって頷く。




 そっか、ヒナちゃんはこの為に私を泳ぎに誘ってくれたのかな?


 この人はいつも私の事を案じてくれている。とっても嬉しい。大好き。




ふと、何故か顔を赤らめて私を見ているヒナちゃんに私は内心で首を傾げた。


そして気が付いた。ヒナちゃんの水着の下の部分が透けてる!セルマさんが言ってたガードの部分が透けて見えてる!




 忽ち顔が火照ってくるのが判る。そんな事になってると気付かずに無防備に脚を開いて私を見上げる彼女がしどけなく見えてしまう。




「マリ、座らないの?」


「う、うん、座る。」


 私はモソモソとヒナちゃんの隣に腰を下ろした。




 どうしよう。でも、言った方が良いよね。




「あのね、ヒナちゃん・・・。」


「うん?」


「水着、透けてる。」


「!」


 ヒナちゃんは慌てて自分の身体を見て・・・。


「嘘ばっかり。」


 と返してくる。




 確かに胸の部分は透けて無い。私は首を振って言う。


「ホントだよ。胸じゃなくて下の方が。」




 ヒナちゃんは慌てて立ち上がって確認した・・・。そして。


「わっ!」


 と叫んでまた慌てて水の中に腰を下ろす。




 可愛い。


「ね?」


 私は首を傾げて言う。けど・・・。




「マリも透けてるよ。マリは上も下も透けてる。」


「!?」


 今度は私が驚く番だった。




 私は上下両方が透けていた。


「ぎゃあ!」


 思わず叫んで両腕で上と下を隠す。




 両方透けてるなんて恥ずかし過ぎる。




「マリちゃん、めちゃくちゃエロい。」


 ヒナちゃんが悪い笑顔でそう言う。




「ヒナちゃんもエロい。」


 私も言い返す。




 思わず顔を見合わせて笑ってしまった。




「きっと乾いたら見えなくなるよ。」


「そっか・・・。」


 見えなくなっちゃうのか・・・。




 私は水を両手で掬うと


「パシャリ」


 とヒナちゃんの胸目掛けて水を掛けた。




「わっ」


 ビックリして私を見るヒナちゃんに私はもう1度水を掛ける。




「ちょ・・・マリ。」


 ヒナちゃんが腕で水を防ぐと私は言った。




「じゃあ、濡らしちゃえばヒナちゃんも私と同じだね。」




 もうちょっとヒナちゃんのエッチな姿を見ていたい。




 その後はキャーキャー言いながら2人で水の掛け合いっこが始まった。楽しい。






 私は逃げるヒナちゃんに後ろから抱きついた。


「うわっ」


 バランスを崩して前に倒れそうになるヒナちゃんを私は慌てて支える。あったかい。それに柔らかい。


 私はそのままヒナを抱き締めた。




「マリ?」


「・・・ヒナ・・・。」


「マ・・・マリ、何で急に・・・?」




 ヒナが私の腕を掴む。




「ヒナが・・・あんまりエッチで可愛いから・・・。」




 理由はもう1つ。




「それに・・・暫くは御実家に居るでしょ?・・・今しかチャンス無いもん。」




 これが本音。自分を解放出来るのは今しか無い。




 私は前にコタツで彼女を攻めた時から、我慢が効き難くなっている気がする。ヒナが綺麗で可愛くて仕方が無くて。触れたいとなったら押さえが効かなくなる。




 そんな私の腕の中で彼女は大人しく私に掴まっている。




 ああ、やっぱり我慢が出来ない。




 私は猛る鼓動もそのままに、右手を動かすとヒナの左の膨らみに触れた。この体勢、修学旅行の夜と同じ格好だ。




 私の腕を掴んでいたヒナの手が離れた。


 受け容れてくれた。


 ソレが得も言われぬ高揚を与えてくれて私の息は自然と荒くなってしまう。




 私は優しく、そして出来るだけヒナが気持ち良くなってくれる様に、彼女の両の膨らみの上で両の手を踊らせた。




「・・・ッ!」


 ヒナちゃんの身体が震え声にならない声が漏れてくる。




 私は後ろからヒナの首筋に唇を押し当てた。そのまま舌を這わせていって、耳を舐める。




「うあっ」


 ヒナが声を上げて身体が仰け反らせた。




 そしてそのまま彼女はしゃがみ込もうとする。


 ダメ。まだ座っちゃダメ。


 私は腕をヒナののお腹に回してしゃがもうとするのを阻んだ。そして息を荒げている彼女に囁く。




「・・・座っちゃダメ。」




 ヒナは真っ赤な顔で私をチラリと横目に見ると、また目を瞑りガクガクと震える脚に何とか力を込めて立ち続けてくれる。




 私は尋ねた。


「ヒナ、気持ちいい?」


「・・・うん。」




 そっか、良かった。




 私はヒナの膨らみから手を移動させて、彼女の太腿に触れた。


「・・・」


 ドキドキする。


 ・・・許してくれるかな?




 私はその手を彼女の脚の付け根に向けた・・・。




「マ・・・マリ・・・!」


 ヒナは私の手を掴んで首を振った。




「そ・・・ソコは恥ずかしい。」


 やっぱりダメか。私は直ぐに手を退かした。触れたかったけど、嫌がる事は絶対にしたくない。




「・・・ハァ・・・ハァ・・・。」


 ヒナは肩で息をしながら身体をクルリと私の腕の中で入れ替える。




 彼女と視線が合うと、忽ち私の顔がこれ以上無いってくらいに火照りだした。




 何て綺麗な顔なんだろう。頬は薄紅に染まり、唇は信じられないくらいに紅い。ダークレッドの双眸は涙で潤んでいて、彼女の余りの美しさに私は一瞬で攻めッ気を失い、惹き込まれた。




「マリ・・・。」


 彼女は私の名を囁くと、その柔らかな唇を私の唇に落とした。そしてそのまま吸い付いてくる。




 余りにも激しいキスに私は思わず声を漏らしてしまった。


「む・・・う・・・。」




 するとヒナは私の腕を掴んで、頬や首筋にキスを落とし始める。やっぱりヒナは上手で私は夢心地になってしまう。




 でも夢心地はソコまでだった。




 ヒナは私の両脚の間に自分の脚を差し込むと、腿を私に押しつけた。さっき私が手でヒナにやろうとした事を脚を使ってやり返された。




「ひゃっ!」




 余りの衝撃に私は心底驚いて声を上げて身を引こうとする。けど、ヒナはグッと抱き締めて私を逃してくれなかった。




 彼女はそのまま脚で私を刺激し続ける。


「・・・ッ!・・・!」


 目を瞑って彼女の攻めに堪えていたけど、どんどん身体が熱くなってくる。私の知らない感覚が湧き上がってきて・・・。私は身を震わせながらヒナの名を呼んだ。




「ヒ・・・ヒナ・・・。」


 彼女の肩に手を置いて私は愛しい人の名を呼び続ける。




「マリ、可愛い・・・。」


 ヒナが私の耳元に囁く。




 ソレが限界だった。身体がビクンと震わせて私の頭の中は真っ白になった。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 疲れて小石が敷き詰められた浜辺に上がると私達は腰を下ろした。


「少し乾かそう。」


「・・・うん。」




 お日様ぽかぽか。あったかい。さっきまでの、途轍もない感情の暴走が嘘の様に収まっていく。


 と、同時に強烈な恥ずかしさが溢れ出てくる。




「・・・。」


 私がヒナちゃんを見つめていると、私の視線に気付いた彼女がスッキリした顔で小首を傾げてくる。


 もう、可愛い顔して・・・。




 でも訊きたい事も在る。




「・・・さっき、あんな事・・・。」


 私が呟くとヒナちゃんは『あ、やべ。』って顔をした。




「ああ・・・ゴメン。イヤだった?」


「ううん。」


 私は首を降った。




 嫌なわけ無い。むしろ・・・。


「その・・・良かった。」


「そ・・・そう・・・。」




 いや、そうじゃなくて。


「でも・・・。」


 私はジロリとヒナちゃんを見た。


「あんな方法を知ってるなんて、ヒナちゃん前世でああいう事した事あるの?」


 コレが訊きたい。


 別にした事が在ったって良いんだ。ただ知りたいだけ。




「な!?・・・無いよ!」


 ヒナちゃんが慌てて言う。




「ホント?」


「ホントだよ!ホントにマリが初めて!」


「・・・」


 え・・・私が初めて?


「そっか。・・・私が初めてか・・・。」




 嬉しい。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 その夜、私はハナコ様に呼ばれた。




「どうぞ、其方に。」


 私が緊張した面持ちでハナコ様の執務室に入ると、彼は穏やかな笑みを浮かべて私にソファを勧めてくれた。彼の隣にはシルヴィア様もいらっしゃった。




 話の内容はなんとなく察しがついている。




 前にヒナちゃんに訊かれた事が在る。


『マリはアビスコート家に未練はない?』


『二度とアビスコート家に戻れなくなっても平気?』


 私はどちらの質問にも迷うこと無く首を縦に振った。




 多分、ソレについてだろうと思っていた。果たしてその通りだった。




「以前にヤマダから貴女に確認して欲しいと頼んだ事が在ります。」


「はい。」


 私は頷いた。


「ヒ・・・ヤマダ様より伺いました。私と実家に関するご質問ですね。」


 ハナコ様は頷いた。


「その通りです。貴女がアビスコート家に未練は無く戻れなくなっても構わないと聞いていますが、其れで間違いは無いでしょうか?」


「はい、間違いありません。」


「解りました。」


 ハナコ様は頷かれた。




「ならば、貴女にはある程度話して置きましょう。」


 そう前置きされてハナコ様はお話を始められた。




「いずれハナコ商会は本店・・・つまり我が家の事ですが・・・此処を他国に移すつもりです。」


「・・・!」


 驚いた。そんな心積もりでいらっしゃったなんて。




「先王陛下までならいざ知らず、今はこの国では商売がし難い。・・・無論、この国と関係を絶つわけでは無い。シルバニー家やカール商会など、手放すには惜しい取引相手はこの国にだって幾らでも居ります。・・・ただ、此処の王家だけは頂けない。故に移すのです。」


「爵位は如何為さるお積もりですか?」


「そんなモノは返上しますよ。元々我が一族は爵位などには大した価値を見出して居ません。商売に使えそうだから私の曾祖父が爵位を受けたに過ぎません。ですが、今やその爵位が商売の足を引っ張っている。ならばそんなモノは必要ない。」




 ・・・凄く納得がいってしまった。この方は根っからの商売人なんだ。先ず商売有りきで、その他は序でに過ぎない。




「ですから、いずれはヤマダも連れてこの国を出て行くつもりです。」




 ・・・そうだろう。当然だ。大事な娘を置いていく筈が無い。じゃあ、ヒナちゃんとの付き合いはソコまでなんだ。そこから先は・・・私はまた1人になる・・・。




 私は俯いた。涙が零れそうになるのを防ぐ為に。




「マリーベルさん。」


 シルヴィア様の声が掛かる。




 私は涙を拭うとシルヴィア様を見た。


「はい。」


 大丈夫。ヒナちゃんがくれた強さが在れば私は1人でだってやっていける筈。頑張れる筈。




 シルヴィア様は優しく微笑まれた。


「だから、その時は貴女も連れて行こうと私達は考えています。」


「・・・え?」


 今、なんて・・・?




 ハナコ様が口を開く。


「ヤマダがね、私に頼んで来たんだよ。『マリーベル様も一緒に連れて行って欲しい』とね。『責任は全部自分が持つから。ハナコ家に迷惑は掛けないから。』とも言っていた。」


「ヒナちゃん・・・。」


「そして私達は其れを了承した。もう、あの子は貴女を連れて行く気でいるよ。」




 ・・・もう後半の話は殆ど耳に入って居なかった。嬉しくて嬉しくて、涙が止まらなかった。大事な人。ホントに大好きな人。私の全てを捧げたい。




「あり・・・がとう・・・ございます・・・。」


 私は突っかえ突っかえ御礼を言った。シルヴィア様がそんな私を抱き締めてくれた。小さい頃にお母様に抱かれたような懐かしい感覚に私も身を寄せた。




 何とか気を落ち着かせると私はハナコ様に言った。コレだけは伝えて置きたい。


「もし私の存在が、ヒナ・・・ヤマダ様だけで無く、御二方の大切なモノを護る為に邪魔に為るようでしたら、遠慮無く切り捨てて下さい。」


「マリーベル嬢・・・。」


「私にとっても・・・ハナコ家の皆さんは・・・とても大事な存在なんです。だから迷惑だけは掛けたくないんです。」


 私がキッパリと言うと、ハナコ様は微笑まれた。




「覚えて置きましょう。ただ、大人と言うモノは出来ない事は口にはしない。今回の件も『出来る』と踏んだからヤマダに了承を出したし、貴女にも直接に知らせたのです。・・・だから安心して良いんですよ。」


 信頼できる大人が見守ってくれる事の心強さを、私は生まれて初めて知った気がする。




 私はハナコ様の執務室を後にしてヒナちゃんの部屋に戻った。




 彼女の部屋の扉が見えた瞬間、私は気持ちが昂ぶり駆け足になる。


 淑女にあるまじき勢いで扉を開けると、ビックリした顔でコチラを見ている愛しい人の胸に私は飛び込んだ。




「ヒナちゃん!」


 と叫んで思いっきりヒナちゃんを抱き締める。




「マ・・・マリちゃん、痛いって。」


「ヒナちゃん、有り難う!色々・・・ホントに色々と有り難う!」


 私は思うままに感謝の言葉を口にした。




 ヒナちゃんのちょっと照れた様な顔と優しい声を、私は一生忘れない。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 私達は寮に帰ってきた。




 夏休みはまだまだ残っていて、寮にいる子はいつもの1割にも満たない。アイナさんとフレアさんは当たり前だけどギリギリまで帰って来ないし、セーラさんも寮に戻ってくるまでに後1週間は掛かる。




「去年もそうだったけど、ホントに静かだよね。」


 ヒナちゃんの言葉に


「そうだね。」


 私は頷いた。




 夏休みの日課である朝の訓練を終えて、宿題も終わらせた真夏の昼過ぎ。


 ヒナちゃんが窓から吹き込む風に身を預けながら涼んでいる。




 私はその横にピッタリと身を寄せて座っていた。




 私はハナコ様とシルヴィア様にお話しをして頂いてから、ヒナちゃんが愛しくて仕方が無かった。もう、好きで好きで堪らない。


 今までも大好きだったけど今はもっと好きだ。少しだって離れていたく無い。




「マリ・・・。」


「なあに?ヒナちゃん。」


 ああ、名前を呼ばれるだけで、こんなにも甘い気持ちになってしまう。・・・でも、あんまりベッタリされてもヒナちゃんも困るよね。少しは自制しないと。・・・でも、今日だけは私の誕生日だし、許してね。




「今日は何したい?」


「ずっとヒナちゃんとこうしていたい。」


「・・・。」


 本音を隠せない。




 ヒナちゃんの「しょうがないなぁ」とでも言いたげな苦笑を見て嬉しくなる。今日は素敵な誕生日になりそう。




 ・・・って思ってたのに私はマルグリット先生から呼び出しを受けてしまった。まさか夏休みにまで呼び出されてしまうなんて。




 私は泣く泣く学園に向かった。






「ごめんなさいね、マリーベルさん。」


「いえ。」


 私は引き攣った笑いを浮かべながら先生に返事をする。




「本当は2学期が始まってからお伝えするつもりだったのですけど、寮に戻っていらっしゃると聞いたので来て貰いました。」


「はあ・・・。」


 先生の顔が真面目なモノに変わって私は首を傾げた。




「マリーベルさん。」


「はい。」


 マルグリット先生の目が逡巡する様に揺れた。


「先生?」


「・・・貴女はアビスコート侯爵様から、ライアス殿下が謹慎を受けている事を聞いていますよね?」


「はい。」


 私は頷いた。


 ただ、あの人から聞いてはいない。


「父からは何も聞いておりませんが、噂でその様な話は聞いております。」


「え・・・?」


 マルグリット先生は怪訝な視線を私に向ける。


「お父上から聞いたのではないのですか?」


「はい。」


「・・・そうですか。昨年、侯爵様がご自身で貴女に話すと仰っていたのですが・・・。」


「そういう人ですからお気になさらないで下さい。」


 私の言葉にマルグリット先生は気遣わしげな視線を向けたが口にしては何も仰らなかった。


「解りました。」




 先生は1つ頷くと話を続けた。


「謹慎の理由はご存知ですか?」


「はい。伯爵令嬢を6人、妊娠させた責を受けたと聞いています。」


「・・・その通りです。」


 マルグリット先生は嘆息しながら首肯された。


「そんな事までが噂になっているのですね。」


「はい。」




 私は先生がこの話を始めた趣旨が掴めなくて戸惑っていた。出来ればあの人の話などしたくは無い。


「あの、先生。其れが何か・・・?」


 私が先を促すと先生は仰った。


「ライアス殿下が2学期より復学します。」


「!」


 私の顔は今度こそ引き攣っただろう。


「そう・・・ですか。」


 戻って来るのか。アイナさんに聞く迄は謹慎した事すら知らなかったんだから、何が変わる訳でも無い。でも『今は学園に殿下は居ない』と言う開放感が失われてしまうのは、やっぱり嫌な事だ。




「それでね、殿下が復学したら色々と騒がしくなるかも知れません。その時は婚約者の貴女にも沈静化に一役買って貰えないかと思ったの。」


「・・・」


 先生の仰る事は解るし、至極まともな依頼だ。




 何故なら私は普通の婚約者では無い。第1王子の婚約者なのだ。だけどこの婚約には裏が有りすぎる。何が事態を悪化させるか判ったモノじゃ無い。




「先生。一度、父とご相談下さい。私は父の判断に従います。」


「そうね。そうさせて頂くわ。」


 マルグリット先生は直ぐに了承して下さった。




 多分、あの人は反対するだろう。パッと考えて見てもあの人の立てた計画には都合が悪い。知った事では無いけれど。




 寮に戻るとヒナちゃんは居なかった。




『殿下が戻って来る・・・』


 ジッとしていると嫌な事を思いだしてしまう。せめて今日くらいは忘れていたい。


「・・・ご飯作ろ・・・。」


 私はキッチンに向かう。




 夕飯を作り終えて料理をコタツに並べていると、扉の開閉音が聞こえた。ソッチを見るとヒナちゃんが『あ』って顔をして立っていた。




「ヒナちゃん、お帰り。どこ行ってたの?」




 ヒナちゃんはコタツに料理が並んでいるのを見て


「あっ!ゴメン!今日はマリの誕生日だから、あたしが作ろうと思ってたのに。」


 と慌てて言った。




「あはは、いいよ、そんな事気にしなくても。」


 そう、ヒナちゃんはもう充分に色々な事を私にしてくれている。せめてコレくらいは私がやりたい。




「ゴメンよ、マリちゃん・・・。」


 ヒナちゃんの悄げた顔が可愛い。


「いいって、いいって。さあ、食べよう。」




 やっぱりヒナちゃんの顔を見ると元気が出てくる。




 食事を終えて私達は歓談していた。


「へー、じゃあ、そのアリエッタさんと何人かが、2学期からお料理倶楽部に入るんだ。」


「多分ね。」


「賑やかになるね。」


「更にね。」


 私達は顔を見合わせて笑う。




 ヒナちゃんがスッと立ち上がって自室に入っていった。




 ?・・・どうしたんだろう?




 首を傾げる私に、戻って来たヒナちゃんがニッコリ微笑んだ。




「マリ、お誕生日おめでとう。」




 私は差し出された小さなケースを受け取る。そんな・・・急に・・・。でも、嬉しい。


「・・・。」


 私は弾む鼓動を抑えて『パカッ』とケースの蓋を開けた。




「・・・!」


 ソコには小さなシルバーのリングが入っていた。そしてそのリングに象られているのは・・・。




「これ・・・パンジーの花冠・・・?」


「うん。」


 私が尋ねるとヒナちゃんは頬を染めて恥ずかしそうに頷いた。




「・・・アルテナ様とロンディール様の・・・?」


 ヒナちゃんはビックリした顔をしたけど、直ぐにまた頷いた。


「いや・・・あの・・・うん・・・。」




 それって・・・。




「前にマリがガーネットのブローチを贈ってくれたでしょ?だから・・・その・・・。」




 私は溜まらずにヒナちゃんに飛びついた。




「ありがとう・・・とっても嬉しい。」


「う・・・うん。」




 ヒナちゃんの鼓動が凄く速い。そのヒナちゃんが私の耳元に囁いた。


「今日は・・・一緒に寝ようか・・・?」




 嫌な筈が無い。




「うん。」


 私は頷いた。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 落ち着こう。先ずは落ち着こう。




 ドキドキが治まらないけど。何がどうなるなんて判らない。ホントにただ一緒に寝るだけのつもりかも知れないし。でも、そうじゃ無かったら・・・。そしてそうじゃ無い事を期待している私がいる。




 それに・・・あんなに艶っぽい雰囲気のヒナちゃんは初めて見た気がする。なんか見ているだけで惹き込まれる様な・・・凄い色気が在った。




 って言うか・・・あーどうしよう。




 私はいつものパジャマを離すと、奥に仕舞ってあったネグリジェに視線を向ける。


『アッチの方が脱ぎやすいな・・・』


 そう考えて恥ずかしさに身悶える。




『何考えてるの、私は!ホントに最近、エッチな事しか考えて無い!』


 私は自分を戒めるように両のほっぺたを「パチン」と叩くと、パジャマを掴んで離し・・・結局はネグリジェを手にした。


 そしてもう1つを身に付ける。






『コンコン』




『来た!』


 扉がノックされて私は身を震わせる。




「ど、どうぞ。」


 思わず上擦った声が出てしまう。




 カチャリと扉が開いてヒナちゃんが顔だけを覗かせる。ああ、やっぱり綺麗な顔。




「・・・。」


 お互いに見つめ合って・・・クスリと笑ってしまった。




 何を緊張してるんだろ。今更、変な緊張をする必要なんて何処にも無いわ。




「お邪魔するね。」


「うん。」


 ヒナちゃんの言葉に私はそれでも顔の火照りを感じながら頷いた。




 彼女が中に入ってきた姿を見て私は驚いた。彼女もネグリジェを着ていた。極薄のシルクのネグリジェは薄い水色に彩られて、彼女の可憐な美しさを引き立てている。明かりの採り方によっては身体のラインまで透けて見えそうだ。




「ヒナちゃん、ネグリジェ・・・。」


「うん・・・その・・・脱ぎやすいから。・・・マリもだね。」


「・・・うん、脱ぎやすいから・・・。」




 照れた様に言うヒナちゃんに私も本音で答える。と、私は気が付いた。




 彼女の胸元に紅いブローチが付けられている。




「あれ・・・? それ・・・私があげたガーネットのブローチ・・・。」


「うん。」


 ヒナちゃんが嬉しそうに頷いた。


「マリが色んな気持ちと一緒にくれたブローチ。今日はマリの誕生日だから身に付けなきゃって思ったの。」


「・・・。」




 嬉しい。身に付けてくれた事よりも、私の込めた想いまで汲み取ってくれた事が。視界が少しぼやけるまま、私は笑って薬指を見せた。ヒナちゃんがくれたシルバーリングが輝く。




「私も指輪を嵌めた。」


「・・・うん。」




 ヒナちゃんは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑う。この笑顔が大好き。




「隣・・・座っていい?」


「うん、来て。」


 私が手を伸ばしてヒナちゃんを私の隣に導く。




 とは言え。


 こういう事、初めてじゃ無い筈なのに。


 何だか凄く顔が熱くてヒナちゃんの顔が見られない。自然と顔が俯いてしまう。




「・・・。」




 ヒナちゃんが私の手をそっと握った。




「!」


 驚いて彼女の顔を見る。顔の火照りが止まらない。




「緊張してる?」


 ヒナちゃんの優しい微笑みに私は素直にコクリと頷いた。




「ふふふ。いつもは凄いのに。」


 あ、そんな言い方・・・。まあ、そうかも知れないけど。


 私はプクッと頬を膨らませて・・・直ぐに顔を背けながら理由を口にする。




「・・・だって、今日のヒナちゃん・・・凄く・・・。」


「凄く・・・何?」


 ・・・やっぱり言えない。


「何でも無い。」


 私はこの話を打ち切ろうとした。けどヒナちゃんは許してくれない。




「マリ。」


「言わない。」


「言えーー。」


「きゃー。」




 ヒナちゃんに引っ張られて、私は彼女に倒れ込んだ。


 私はヒナちゃんに抱きついたままポツリと呟いた。




「今日のヒナちゃん、とってもエッチな感じがする。」


「よくわかったね。」


「え・・・」




 ヒナちゃんの返しに私はギョッとなってヒナちゃんを見た。




「ふふふ・・・覚悟してね?」


 ヒナちゃんが蠱惑的に、そして挑発的に笑う。




 その笑顔に私は魅せられてしまった。


「・・・うん。」


 と頷く。




 そして私はヒナちゃんに寄りかかったまま、彼女が何をしてくれるのか胸を高鳴らせながら待つ。




 ヒナちゃんはゆっくりと左手を伸ばしてきて私の右頬に添えた。暖かくて滑らかな手の感触に私は頬を寄せる。彼女はそのまま撫でる様に手を私の首筋にまで滑らせる。




「・・・っ。」


 擽ったくて私は首を少しだけ顰める。




 銀色の月光に煌めく彼女のダークレッドの髪がサラサラと風にそよいでいる。ヒナは私の髪に手を差込むとゆっくりと弄ぶ。そして耳元で囁いた。


「綺麗な髪・・・。」


 その声に私の身体はピクリと震えた。




 ヒナがその繊やかな指で私の唇をそっと撫でる。ゾクゾクして吐息が零れてしまう。




「ヒナ・・・。」


 もっと欲しくて私は彼女の名を呼んでねだる。彼女は微笑んで私に唇を落とした。彼女の柔らかな唇が私と重なるとお互いに強く強く求め合った。




 私は肩をヒナにトンと押されて呆気なくベッドに倒れる。その私の上にヒナは被さってくる。そして私のネグリジェの前ボタンを外すと肩からスルリと脱がしてしまう。




 私は肌が露わになり、窓からそよいでくる夏の夜風が柔らかにあたしの膨らみを撫でていく




 恥ずかしくて両腕で胸を隠す私にヒナはキスの雨を降らせてくる。唇に、頬に、首筋に、鎖骨に。私はその優しいキスの1つ1つに反応しながら彼女の唇の、舌の感触を堪能する。




 そしてヒナは私の腕を退かして隠していた膨らみにも唇を落とした。口づけ、舌を這わせ・・・吸いい付いてくる。




「・・・!・・・あっ!」


 身体に電気が走って私は小さく声を漏らして仰け反った。




 ヒナは私に口づけながら、手を私の膨らみの上に重ねて指を動かしてくる。




「う・・・あ・・・。」


 余りの激しさに私は喘いでしまう。




「マリ・・・可愛い・・・。」


 ヒナの甘い声が獰猛な行為の中から聞こえてくる。




 温かくて柔らかくて綺麗なヒナが、私を眺め下ろす姿に引き込まれていく。




 彼女から見れば今の私は恥じらう娘に見えてるかも知れない。でもその実、私の身体の中は熱く滾っていた。この大好きな女の子を捕まえたい欲求でどうにかなりそうだった。




 だからヒナが更に手を伸ばした時、私は彼女の腕を掴んだ。




「・・・マリ?」


「私ばかりが脱ぐのはズルい。」


 私は首を傾げる彼女にそう返して体勢を入れ替える。




 逆に今度は私が上に跨がった。




 そしてヒナのネグリジェからガーネットのブローチを丁寧に外すと枕元の台にコトリと置いた。そして自分の指に嵌まったシルバーリングも外すとブローチに重ねる様に置く。




「・・・」


 私はその2つを見つめて満足する。これでいい。ロンディール様とアルテナ様はいつも一緒に居て欲しい。


 私達もそう在りたいから。




 やがて私はヒナに視線を戻すと前ボタンに手を掛け外してしまう。そして彼女のネグリジェをスルリと脱がした。




 忽ち彼女の真っ白な素肌が私の前に露わになる。




「ヒナ・・・とっても綺麗・・・。」




 私が呟くと、ヒナは恥じらうようにその胸を両の腕で隠してしまう。私はその細い腕を掴むと胸から退かせた。




 そしてヒナの綺麗な膨らみに手を重ねて優しく撫で回す。




「・・・ふ・・・う・・・。」


 ヒナの口から我慢する声が漏れる。




 その可愛い唇に私は唇を重ねる。そのまま舌を彼女の口の中にねじ込みながら、ヒナの膨らみを撫で続ける。彼女はその1つ1つに翻弄されて悶えてくれる。




 私が少しだけ離れると


「ハァ・・・ハァ・・・。」


 と彼女は荒く息を吐いた。




 私はそんな彼女を見下ろした後、今度は首筋にキスをした。そのまま舌を這わせて耳を舐める。




「う・・・あ・・・。」


 彼女の声が喘ぎ始める。




 ふと、彼女が私の両肩に手を置いてゆっくりと私を押した。




「ヒナ・・・?」


 どうしたの・・・?


 何かイヤだった?


 ちょっと心配になった瞬間、天地がひっくり返った。




「あ・・・。」


 ヒナに組み敷かれて私は思わず声を上げる。そしてそのままヒナを見上げた。




「マリ・・・。」


 ヒナは荒れた息を整えるとそう呟いて、左手で私の右の膨らみを撫でた。




「・・・っ。」


 気持ち良すぎて私は右手の甲を口に押し当てて声が漏れそうになるのを堪える。






 ヒナは手の動きを止めると、私の耳に口を寄せて囁いた。


「マリ・・・聞いて。」




 ・・・何?


 私はヒナの声に薄らと目を開けてゆっくりとヒナを見た。




「・・・なぁに?」


「あのね・・・あたし・・・マリにたくさん触れてきたわ。」


「うん。」


「でもね・・・。」


「・・・?」


 何が言いたいんだろう?




「・・・まだ、マリに触れてない場所がある・・・。」




 え・・・?


 どういう事?


 まだ触れてない場所・・・?


 私は彼女の言葉の意味を考える。




 そして『あっ』と思いついた。




 さ・・・触りたいって事かな・・・?


 でも、一度触ってるじゃない。


 私はゆっくりと視線をヒナから外すと言った。


「嘘。・・・触れたじゃない・・・。湖で。水着の上からだったし、脚で、だったけど・・・。」




 ヒナは『あっ』って顔をした。


「確かにそうだったね。でも・・・手で触れたわけじゃない・・・。」


「・・・。」


 確かにそうだ。




 ・・・でも。ソコだけは今までとは違う。ヒナちゃんが相手でも躊躇ってしまう。


 でも。でも彼女なら・・・。


 ・・・違う彼女にだけなら。




 私は意を決して尋ねた。




「触りたい・・・?」


「うん、触りたい。マリの全部に触れたい。」




 それは私も同じ。あの湖の時だって・・・


「・・・私だってあの時はそうしたかったし・・・。」


 そうだ。


 多分、気持ちは同じだ。同じなら。




「いいよ。」


 私は呟いた。




 その返事にヒナの身体が身動いだ様に感じた。




 ヒナは私の胸の上に置いていた左手を再び動かして、お腹をなぞっていく。そしてどんどん手を下に下ろしていき、彼女の右の太腿を撫でた。




「・・・。」


 胸の高鳴りが大変な事になっている。恥ずかしさと不安と、そして期待に心が磨り潰されそうだ。




 ヒナの左手が私の脚の内側に届く。




「!」


 思わず身体がピクリと身動いだ。




「マリ・・・。」


 ヒナが私に囁いた。


「脚・・・広げて・・・。」




「・・・。」


 私はヒナを見て・・・視線を逸らした。


 そっか。脚広げないと触り難いよね。でも、ソレは・・・。でも、ヒナが望んでるなら・・・。




 私は少しずつ脚を広げた。




 ヒナの手がゆっくりと動いた。そして下着の上から指を押し当てた。




「ひゃっ・・・!」


 大きな声を上げてしまう。感じた衝撃は今までの比じゃ無かった。感じた事も無い程の強烈な稲妻が全身を駆け抜けていく。余りの刺激に身体が震えて私はヒナにしがみついた。




 ヒナの指がゆっくりと動く。私は声を押し殺しながら身を捩った。ただ触れられているだけなのに、頭が真っ白になる程に気持ち良くて。私はどんどん息が荒くなっていく。




 彼女の指の動きに合せて身体が動いてしまう。もう彼女の指の感覚と、掴んでいる彼女の両肩しか私には判らない。




「マリ・・・。」


 喘ぐ私の耳元にヒナが話し掛ける。


「・・・もっとあたしを感じて。」




 私は薄らと目を開けるとヒナに視線を投げて


「ヒナ・・・。」


 と、掠れた声で大好きな人の名を呼んだ。情欲と情愛の狭間で絞り出された私の声はまるで別人の様な声だった。


「・・・大好き。」


 私は喘ぎながらも彼女に微笑んで見せる。




 ヒナは私にキスをする。


「あたしも・・・マリが好き。」


 そしてもう一度口づけを落とす。




 もう、ダメ・・・。私の身体がビクンと大きく震えて・・・頭が真っ白になった。






 やがてヒナちゃんは私の頬に手を添えた。


「マリ。」


 その声に私はゆっくりとヒナちゃんを見て・・・恥ずかしくて視線を逸らした。




「凄く可愛かったよ。」


 ヒナちゃんの言葉に私の頬がまた火照り出す。


「ヒナちゃんのエッチ。」


 恥ずかしくてそう言い返すと


「うん、どうしてもマリにあたしを感じて欲しかったから。」


 なんて、そんなトキメいてしまう様な事を囁かれた。




「・・・そんな素敵な言葉を使うなんてズルい。」


 大人な雰囲気のヒナちゃんに比べて子供っぽい自分が恥ずかしくなり、私はクルリとヒナちゃんに背を向けた。




「怒った・・・?」


「・・・。」


「マリ・・・?」


 心配げに私を覗き込むヒナちゃんの優しさが嬉しくて私は彼女に視線を向けると


「大好き。」


 と呟いて枕に顔を埋めた。




 くぁー!恥ずかしい!




 その私の耳元にヒナちゃんが囁いた。


「マリ、15歳のお誕生日おめでとう。」




 好き!もう大好き!


 私は感情を持て余して、枕に顔を埋めたまま足をバタバタさせた。そして少し落ち着いてから返事をする。




「ありがとう。・・・とっても嬉しい。」




 枕元に置かれたシルバーリングは、いつの間にかガーネットのブローチから転がって落ちていた。







・・・余談ですが。

今学期だけで2人は結構絡んでいるなと思いました。

「少し自重した方がいいのかな」と書き終えてから考えてしまいました。

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