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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター1 1年生編 / 一学期
6/105

M6 真夜中のティータイム



「グラスフィールド ストーリー 黄昏の魔女。」

 あたしの呟いた言葉の効果は如実だった。

 マリーベル様は今まで見せた事も無い様な勢いで振り向き、やや吊り上がったその綺麗な双眸をまんまるに見開いてあたしを見る。


「なんで・・・それを・・・。」


やっぱりか。

あたしは納得した。

「マリーベル様も『こっちの世界』に来た人なんですね?」

 あたしの問いにマリーベル様は暫し固まっていけど、やがてコクリと頷いた。

「あたしもです。日本から来ました。・・・いや、来させられた、が正しいのかな?」

 ブツブツと呟くあたしの手を、俯いたマリーベル様は黙ってギュッと握った。


「マリーベル様?」

「良かった・・・私だけじゃ無かった・・・ホントに良かった・・・」

――うんうん、そうだよね。あんまり物事に動じないって前世で評判だったあたしでもかなり狼狽えたしね。こう言ってはなんだけどマリーベル様ってあまり気が強そうでは無いから、かなり怖かったよね。


 だから。

「ヤマダ様。今晩、寮のお部屋に行っても良いですか?」

 だから突然且つ大胆なマリーベル様からのお願いにあたしはビックリして頷くしか無かったんだ。

あんまり物事に動じないって言うあたしの評判は何処に行った。


 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆


「お邪魔します。」

 ノックされた扉を開けるとパジャマ姿のマリーベル様が立っていた。

 可愛いな、おい!なんて心の邪心はおくびにも出さずにあたしは笑顔で迎え入れる。

「どうぞ、お入り下さい。」


「本当にお部屋をお1人で使っているんですね。」

 他の部屋が物珍しいのか、マリーベル様は部屋のあちこちをチョロチョロと見て回り感想を述べた。

「そうですよ。ところで宜しければこちらに座りませんか?」

 あたしはそう言ってリビングのテーブルにマリーベル様を誘った。


「これは・・・コタツですか?」

 ああ・・・その言葉を知っていますか。感動ですよ。

「そうです!コタツです!」


 本当に苦労したんだ。

設計図を描いて町の木工ギルドに持ち込んで、イメージを語りながら材料を選定し、最後の塗りまで口を出した。

この世界では6月半ばくらいまで夜は肌寒いらしいので、未だ未だ使える。

冬の本格使用も視野に入れて、遠赤外線装置の代わりに温石を使おうと考え、それを投入出来る場所まで作って貰った。


 企画設計で半日、製作期間3日の超大作である。勿論、お代はハナコ家へまわして貰った。

それに合わせて、お高いフッカフカの絨毯(土足禁止用)も購入。勿論、お代はハナコ家へまわして貰った。

更には座布団を4枚、あたしが作成した。


 その座布団の1つをマリーベル様にお渡しする。

明らかに日本人には見えない白銀の髪の美少女は、其れを受け取ると勝手知ったる風で座布団を置いて腰を下ろした。


 そんな何でも無い仕草にあたしは『日本』を感じてしまい感動に咽ぶ。


 ああ、やっぱり日本人だったらコタツでしょ。温石を入れて無いから中は温かくは無いけど充分に日本を感じられる。暖炉に火を入れているから寒さは問題無いしね。



「さて、では自己紹介から入りましょうか。」

「自己紹介?」

 あたしの提案にマリーベル様は小首を傾げた。

「そうです。前世の自己紹介です。」

「あ・・・そうですね。」

 あたしはニッコリと笑った。もう興味津々なんだ。マリーベル様が前世でどんな子だったのか?もう楽しみで仕方が無い。だから自分の紹介はさっさと済ませるつもりだ。

「じゃあ、あたしからで良いですか?」

「は・・・はい。お願いします。」

 マリーベル様の頬が紅潮している。キラキラと眼が輝いているよ。

――・・・あれ?期待されてる?・・・そんな楽しいモンじゃ無いんだけどな。


「あたしの本名は風見陽菜です。『風』を『見』るでカザミ。太陽の『陽』に野菜の『菜』でヒナ。これでカザミヒナです。」

「ヒナさん・・・可愛い名前ですね。」

「名前だけは。」

 あたしは苦笑いする。

「此処に飛んでくる迄は高校3年生。ゲームが好き。乙女ゲーとかRPGは良くやってました。」

「あ・・・年上ですね。」

「え、そうなの?・・・あ、そうなんですか?」

 あたしが言い直すとマリーベル様はクスクス笑った。

「敬語は要らないです。2人きりの時は普通にお話しましょうよ。折角の前世持ち同士なんですから。」

 ――ああ、今、この子は本当に楽しんでくれてるんだな。

「・・・そうだね。これからは2人きりの時は敬語は禁止だね。」

「はい。・・・あ、うん。」

 くぅー・・・言い直して照れる姿が抱き締めたい。・・・いやいや日本語がおかしくなってる。

「で、グラスフィールドを初日にダウンロードして3時間でクリアして、頭にきてチャリに乗ってコンビニに買い物に出掛けたら『此所』に居ました。」

「・・・?・・・え、良く解らなかった。コンビニに行く途中で死んだって事ですか?」

 ――そうだよね、やっぱ解んないよね。あたし自信が解んないんだもん。

「良く解らないんだよね。チャリで車も通らないような狭い道を走っていたのは覚えているんだけど、次に気が付いたらハナコ家のベッドで寝ていたわけ。・・・やっぱり死んだのかなぁ。マリーベル様はやっぱり死んだの?」

 あたしの問い掛けにマリーベル様は頷いた。

「あたしは12歳の時に病気で・・・。・・・あ、じゃあ私も自己紹介しますね。」

「宜しくです。」


 マリーベル様は居住まいを正した。

「私の名前は貝崎茉璃です。海に住む『貝』に山崎さんの『崎』、ジャスミンの意味を持つ『茉』と瑠璃の『璃』でマリです。」

 ――・・・瑠璃の璃ってかっこいい。

「じゃあマリちゃんだね。お、マリーベルと出だしが一緒だ。」

「ホントだ。」

 マリちゃんは嬉しそうに微笑む。

「じゃあ、マリちゃんの前世のお話をどうぞ。」

 あたしがそう言うと銀髪マリは困った様に笑う。

「そんなに楽しいモノじゃないんです。私は生まれたときから持病があって身体の抵抗力が凄く弱かったの。食べ物の制限も多くて風邪なんかを引くと1ヶ月くらい寝込んだりして。だから家と病院の往復で殆ど外に出た記憶は無いんだ。家は裕福だったけど友達は居なくて1人ぼっちだったな・・・。」

 ――・・・コレ、楽しんで聴く話じゃ無いな。

「でも、ご家族とかは・・・ね?」

「両親は仕事で家には居ませんでした。兄も病弱な私の相手は面倒だったのか顔を合わせる機会も無くて通いのメイドさんが時々相手をしてくれるくらいでした。だから本や漫画やゲームが私の楽しみだったの。」

「ソウデスカ。」

 冷や汗ダラダラなあたしは、不用意に彼女の重い話に踏み込んでしまった自分の軽率さを後悔していた。

「それで12歳にあのゲームをやって・・・。1ヶ月くらい経った時に肺炎を患って入院したんだけど、そのまま・・・。」

「そう・・・。最期にご両親には会えたの?」

 マリちゃんは首を振った。

「多分、来てないです。私、厄介者扱いだったから。」

「・・・」


 あたしは彼女を見つめた。


 前世でもこの世界でもこの子は不遇な扱いを受けている。

きっとあたしじゃ想像も付かない程の辛い思いを繰り返し味わった筈。

ふと、午前中のパーティでモグモグと夢中で食べ物を口に頬張るマリちゃんを思い出した。

そして丘の上での彼女の言葉。

『・・・でも嬉しいことも在るんです。ここでは自分の食べたい物を食べられるし自由に歩き回れる。だから幸せを感じる事も出来るんです。』

 あれはこの子の心からの言葉だったんだ。


 そうだよ。この子は幸せに成るべきだ。誰もそうしないなら、あたしがソレを成す。決めた。


「マリ。」

 マリは急に下の名前を呼ばれてビックリした顔をする。

「あたしは貴女に幸せに成って欲しいと思うよ。」

「ヒナさん・・・。」

「誰も貴女を幸せにしないなら、あたしが貴女を幸せにする。」


 

 マリの・・・マリーベルの顔が見る見る内に真っ赤に染まっていく。

 ――いやあ、あたしも恥ずかしいセリフを吐いたと思うよ。でも、知ってて欲しくて言っちゃった。

「ありがとう、ヒナ・・・ちゃん。」


 あたしとマリの深夜のティータイムは続いた。

「マリちゃんはこれから何がしたい?」

「あたしは・・・色々な所にお出掛けがしたいな。」

「いいよ。隙を見つけて一緒に遊びに行こう。」

「はい。」

 ああ、やっぱ天使やな。


「そう言えばヒナちゃんはヤマダ=ハナコに転生したんでしょ?」

「・・・そうね。言いたい事は山ほど在るけどね。」

「あはは。言いたい事は何となく解るよ。・・・それでその姿なんだけど、ゲームでは名前しか出てこなかったよね。」

「ああ・・・」

 あたしは彼女の言いたい事が解った。

「そう。だからかも知れないけど、この姿は前世のあたしの姿なんだよね。髪とか眼とか肌の色は勿論違うし、年相応に幼くはなってるけど。」

 そう、お陰で折角育った凹凸も全部パアになっている。グヌ・・・。

「どうせならマリーベルみたいな絶世の美少女に成りたかったよ。」

「・・・そうかな。あたしはヒナちゃんの顔・・・とても綺麗で好きよ。」

 ――おい、顔を赤らめんな。

「あ・・・ありがとう。」

 あたしまで照れ臭い。いやあ、この部屋暑いわ。


「ヒナちゃんは学校でもモテたんだろうな。」

 マリの無邪気な言葉があたしを貫いた。


 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆


 あたしは、市立の小学校に通った後、私立の女子中学校に進学して県立の高校に入った。その間に告白された回数は2回。その内の1回は中学校時代の青春の思い出だ。

 ・・・そう、女子中学校での思い出なのだ。当然、告ってきた子は女の子だった。


 だからあたしは高校に共学を選んだんだ。男子との「キャッキャ♡うふふ」の思い出が欲しくて。

そして2回目の告白を高校で受けた。・・・女の子から。

何でだ。

この世に男子は居ないのか。

しかもファーストキスまで奪われた。いや、それどころか貞操の危機まであった。未遂だけど。

『なんであたしなの?』

と訊いて帰ってきた答えは

『そこらの男より漢らしいから』

だった。


 凡そ乙女に下す評価じゃねーよ。


 しかも、ファーストキスを奪われたと言うのに腹立つどころか、少し・・・その、胸が高鳴ってしまった事に腹が立つ。

 実際、あたしは両方イケる口らしい。


 あたしの恋の遍歴を思い返してみてもそう思う。

 小学校の時は普通に男の子を好きになった。穏やかで頭が良くてとても優しい子で彼をいつも目で追っていた。

 中学では・・・。そう、実は中学でも居たんだ。好き、と言うか気になる子が。それは告ってきた子だった。才媛と名高い彼女が頬を赤らめる姿を前に「友達で居ましょう」と返したは良いけど、その後、卒業までその子が気になっていた。

 高校では男子剣道部の主将に惚れた。文武両道を地で行く彼にマジ惚れして女子剣道部に入った。・・・けど、彼女持ちでした。

 まあ、そのまま部活は続けてそれなりに成績は残したけどさ。

 そして、前世で最期にあたしが好きだった子は、やっぱり告ってきた子だった。しかも、お付き合いめいた事もしていた。


 見目麗しく尊敬出来るところが在れば、あたしには性別はあまり重要では無いみたい。


 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆


 だから、マリの言葉にあたしの笑顔は引き攣るしか無かった。

「ははは、そんな事は無いよ・・・」

「そうかな・・・女の子にはモテそうだけど。」

 ――え・・・なんで判るの!?あたしの恋の遍歴知らないよね!?


 マリは・・・マリーベルはあたしの顔をジッと見る。

「・・・」

「・・・はは。・・・なんで判るの?」

 あたしは笑って誤魔化そうとしたが観念してガックリと俯きながら訊いた。

「やっぱり、そうなんだ。」

 マリは口を尖らせる。

 ――やめて。マリーベルの顔でそんな表情されるとムラムラしてくる。


「ま・・・まあ、そんな話は置いておいて、マリは何時この世界に転生して来たの?」

 あたしは話題を逸らす。


 そして彼女の言葉があたしを混乱させた。

「・・・6歳の時だよ。」


 え?・・・どう言う事なの?





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