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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター4 2年生編 / 一学期
59/105

M51 誕生日



 寮に帰ってきた。




 夏休みはまだまだ残っていて、寮にいる子はいつもの1割にも満たない。アイナとフレアは当たり前だけどギリギリまで帰って来ないし、セーラも寮に戻ってくるまでに後1週間は掛かる。




「去年もそうだったけど、ホントに静かだよね。」


「そうだね。」




 夏休みの日課である朝の訓練を終えて、宿題も終わらせた真夏の昼過ぎ。




 あたしが窓から吹き込む風に身を預けながら呟くとマリがその横で頷いた。




 ・・・マリちゃん、近いんだけど。




 マリは実家でお父様と話しをした辺りから、あたしを見る眼が何か違う気がする。その視線から放たれる好き好きオーラが凄まじい量になっている気がするんだ。気のせいかも知れないけど。




「マリ・・・。」


「なあに?ヒナちゃん。」


「今日は何したい?」


「ずっとヒナちゃんとこうしていたい。」


「・・・。」




 いや、まあ、確かに前からこういう事を言う子だったけどさ。


 今日はマリの誕生日だし、あたしもソレで良いかな、とか思ってはいるけどさ。


 貴重な夏休み。なんかしたいよなぁ。




 なんて思っていたら、マリがマルグリット先生に呼ばれて学園に行ってしまった。なんか寮に戻ってきた事がバレたらしくて仕事を頼まれたらしい。




 既にプレゼントも買ってしまっている以上、本格的にする事が無くなってしまった。




「・・・食堂でも行ってみようか。」


 暇を持て余したあたしは、普段行かない食堂に足を運んでみた。




 テコテコと歩いて食堂に到着してみたけど、やっぱりガランとしてるわ。当然か。そもそも食事時じゃないし夏休みで人は居ないし。


 ご飯を作ってるおばちゃん達も今は出払ってる感じだ。




 1人、女の子がカウンターを覗き込んでウロウロしている。




 何だろ? ご飯でも食べそびれたのかな?




 あたしは「ご自由にどうぞ」用に置かれたティーポットでカップに紅茶を注ぐとテラス近くの椅子に座った。


 お、カモミールティーだ。クセのある薫りだけど慣れてくると病みつきになる奴だ。・・・冷めてるけど。




 紅茶を口に含みながら女の子の挙動を観察する。


 1年生っぽいな。コマい身体でウロチョロしている様子は去年の今頃のマリを思い出して少し口の端が上がってしまう。




 女の子は暫くするとあたしに気が付いた様でギョッとして身を竦める。そして諦めた様に食堂を出て行こうとした。




 うーん・・・どうしようかな。上級貴族の令嬢だったら面倒だしな・・・。下級生の上位者なんてどう扱って良いか判んない。


 でも、ま、暇だし良いか。面倒臭そうな子だったら適当に切り上げて部屋に帰れば良いし。




「ねえ、貴女。」


 あたしが声を掛けると女の子はクルリとコチラに振り返った。


 栗色のストレートヘアに栗色のクリクリした瞳が愛らしい。




「は・・・はい。」


 消え入りそうな声で女の子が返事をする。可愛いけどそんな怯えんでも。




「どうかしましたか?」


 あたしが尋ねてみると、女の子は目をキョロキョロさせながら言い倦ねている様子だ。


 うん、きっと気が弱い子なのね。こっちから誘導してあげるか。




「お食事でも摂りたかったのかしら?」


 女の子はコクリと頷いた。


「そう・・・。」


 作ってあげても良いけど、流石に許可を貰っている訳でも無い寮食堂の厨房を勝手に触るのは気が退ける。


 あたしの部屋に招いても良いけど・・・。




「ねえ、貴女、1年生?」


 あたしが尋ねると女の子はハッとなった様に頷いてカーテシーを施した。


「は、はい。失礼致しました。私、アリエッタ=カルノーと申します。1年生です。」


 あたしもカーテシーを返す。


「あたしはヤマダ=ハナコです。2年生だよ。」


「あ、貴女が・・・。よ、よろしくお願いいたします。」


「ええ、宜しくね。」


 さて、軽く気になる反応をされたけど、まあいいや。




「ねえ、アリエッタちゃん。少し我慢出来る?そしたら、あたしがご飯を作ってあげても良いけど。」


「え・・・。」


 女の子はビックリした表情であたしを見上げる。


「で・・・でも、先輩に作って頂くなんて・・・。」


「!」




 先輩!・・・ああ、何て懐かしい響きかしら。ここ1年以上、そんな風に呼ばれた記憶が無い。有る筈も無い。


 よし!此処は可愛い後輩の為に腕を振るって上げようじゃないか。




「良いのよ。料理は好きだし。付いて来なさいな。」




 あたしはアリエッタちゃんを連れて、高等部校舎の門を潜った。


「あ・・・あの、先輩。此処、高等部ですよね・・・?」


 アリエッタちゃんは怖っかないのか無意識にあたしの服の裾を掴んでくる。やーん、可愛いじゃないの。


「平気よ。あたしお料理倶楽部の部長なの。高等部の厨房に関しては使用許可を貰ってるのよ。」


「・・・凄い・・・。」


 お、アリエッタちゃんのあたしを見る目がキラキラと輝いているぞ。尊敬の念が籠もってる気がするぞ。気のせいじゃないと思いたいぞ。




 厨房に入ると、あたしは彼女を適当に座らせて食料庫から材料を引っ張り出してくる。


「アリエッタちゃん、苦手な食べ物とか在る?」


「私、辛いモノは苦手で・・・。」


「りょーかい。」




 簡単でお腹に溜ると言ったらコレよね。ポテトのパンケーキ。




 ポテトを摺り下ろしーの、タマネギ摺り下ろしーの、塩コショウに卵と小麦粉と材料を混ぜ合わせーの、オリーブオイルを引いたフライパンにタネを流し込んで焼くだけ。




 竈から良い匂いが立ち籠めてくる。




 取り出した料理にトマトソースを添えてアリエッタちゃんの前に置く。序でに食料庫から取り出した杏と乾棗の砂糖漬けもデザート代わりに出す。っつーか、此れは単にあたしが食べたかっただけ。コレ美味しいんだよな。




「・・・美味しい・・・。」


 一口、口に頬張ったアリエッタちゃんがポツリと漏らす。ヨシ、お世辞じゃ無い『美味しい』頂きました。


「そう?良かった。」


 嬉しくてあたしもニッコリ笑顔で返す。




「先輩は凄いですね。色んな事が出来て。」


 ん?色んな事? あたしこの子の前で何かしたっけ?




「色んな事って・・・?」


「先輩は1年生の間では有名人なんですよ。」


 ・・・は?なんで?


「去年、1年間で色々な事を企画して全てを成功させてるアイデアの天才だって。」




 カーッと顔が熱くなる。やめろ。アイデアの天才とか言うな。全部、前世のイベントを持ち込んだだけだって。


「そ、そんな事無いよ。」


 やべ、声が上擦った。・・・って言うか。




「何でそんな事知ってるの?」


「寮母様が入寮初日にみんなに教えて下さいました。何か困った事が在ったらハナコ先輩に相談してみると良いって。」




 おい!寮母様!?無垢な1年生達に何をトンデモナイ事を吹き込んでくれてるんですか!?




「でも、なかなか2年生の方々と知り合う機会も無くて・・・。」




 ・・・そうなのよね。寮も校舎も1年と2年って完全に分けられてるから出会う機会が無いのよね。まあ、貴族という地位が在る以上、余計なトラブルを引き起こさない為の配慮である事は判るんだけど。




 でも、ま、その対応策に倶楽部の増設が在るんだけどね。




「なら、倶楽部に入ると良いわ。その為のモノだし。」


「はい・・・。」


 アリエッタちゃんは少し浮かない顔だ。


「どしたの?」


「ただ・・・ホントに入って良いのか判らなくて・・・。」


 え?


「良いに決まってるじゃない。」


「御令息達は勧誘を受けて剣術倶楽部や乗馬倶楽部に入っているのは知っているんです。・・・でも、御令嬢方が入れるような倶楽部からは何処からもお誘いが無くて・・・。」




 頭をブン殴られた様な衝撃を受けた。




 言われてみれば、前世でも『倶楽部勧誘』やってたじゃん。すっかり失念していた。


 確かに『倶楽部をたくさん用意しましたよ。さあどうぞ。』って言われても初めて来た子達からしたら『え?ホントに良いの?』ってなるよね。




 アリエッタちゃんは食べ終えてるな。よし。




「行こう。」


「え・・・何処へ?」


「生徒会室。」


「え・・・ええ!?」


 怖じ気づくアリエッタちゃんの腕を引っ張ってあたしは生徒会室に足を運んだ。




 スクライド様かセシル様のどちらかが居れば良いなって思ってたんだけど、見事に2人とも居た。と言うか2人しか居なかった。




「おや、ヒナちゃん。久しぶりだね。」


 おい、乗っけからヒナちゃん呼びとか止めろ。アリエッタちゃんが真似したらどうすんだ。


「お久しぶりです、スクライド様、セシル様。」


 あたしが挨拶をするとセシル様が穏やかな微笑みを浮かべる。


「実家には帰らないの?」


「いえ、帰って戻ってきました。」


「ああ、そうなのか。・・・後ろの子は?」


 セシル様がアリエッタちゃんを見て尋ねてくる。


「初等部の1年生でアリエッタ=カルノーさんです。」


 あたしが紹介するとアリエッタちゃんは慌ててカーテシーを施し2人に挨拶する。




 あたしは厨房でのやり取りを2人に話した。


「・・・ソレは・・・迂闊だったな・・・。」


 スクライド様が珍しく眉間に皺を寄せる。


「勧誘か・・・。確かに必要だな。」


 セシル様も同意される。


「・・・2学期開始の辺りで『勧誘会』をねじ込んでみるか・・・。」


 スクライド様が呟く。


「そうだな。今期生徒会の活動目標から鑑みても優先順位はかなり高い。」




 スクライド様が笑顔でアリエッタちゃんに話し掛ける。


「それで、アリエッタ嬢は、入りたい倶楽部に宛ては在るのかな?」


「・・・。」


 アリエッタちゃんがあたしの顔をチラリと見た。


「・・・お料理倶楽部に入ってみたいです。」


 お?


「・・・だ、そうだよ。部長殿。」


「もちろん歓迎ですよ。」


 あたしは微笑みながらアリエッタちゃんの頭を撫でた。昔っから小っちゃい子に弱いんだ。あたしは。




「あの、他の人も誘って良いですか?」


「ええ、良いわよ。入部の条件はお料理に興味が在る事だけだから。条件に合う人なら連れてきて。」


「ありがとう御座います!」


 いやぁ、良い笑顔だわ。




 その後、あたしは少しだけ御二人と意見を交換させて高等部を後にした。




 寮は入り口で1年生と2年生に別れる。


「今日はありがとう御座いました。・・・お料理、美味しかったです。」


「どういたしまして。」


「あの・・・2学期から楽しみです。」


「ふふふ、あたしもよ。」




 アリエッタちゃんの立ち去る後ろ姿を眺めながら、初めて関わった後輩ちゃんが良い子で良かったとしみじみ思った。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「ヒナちゃん、お帰り。どこ行ってたの?」


 部屋に戻るとマリが帰って来てた。




 見るとコタツに料理が並んでいる。


「あっ!ゴメン!今日はマリの誕生日だから、あたしが作ろうと思ってたのに。」


 あたしがそう言うとマリが笑った。


「あはは、いいよ、そんな事気にしなくても。」


 あー・・・マジで失敗した。




 しかもあたしの大好きな卵料理ばっかり並んでる。これじゃ、どっちがお祝いされる側か判ったもんじゃない。


「ゴメンよ、マリちゃん・・・。」


「いいって、いいって。さあ、食べよう。」




「へー、じゃあ、そのアリエッタさんと何人かが、2学期からお料理倶楽部に入るんだ。」


「多分ね。」


「賑やかになるね。」


「更にね。」


 あたしが返すとマリが笑う。




 もう今でさえ倶楽部には30人以上のメンバーが部員として在籍している。更に増えるとなると。今もマリには副部長として頑張って貰ってるけど、更に副部長を増やす?


 ま、あとで考えよう。




 あたしは一度席を外すと、自分の部屋からプレゼントを取ってきた。




「マリ、お誕生日おめでとう。」


 あたしは言いながらマリに小さなケースを渡す。


「・・・。」


 マリは瞳を輝かせてソレを受け取ると『パカッ』と蓋を開けた。


「・・・!」


 彼女の顔が驚きの表情に包まれる。




 中に入っているのはパンジーの花冠を象ったシルバーリング。






 実はこのプレゼントに辿り着くまでには随分と時間が掛かった。




 この世界で15歳って大人予備軍に算えられる年齢なんだ。18歳で成人なんだけど「15~18歳の3年間で大人になる為の心構えを養いましょう。」って扱いになるんだ。




 つまり・・・大人っぽい奴が良いよなあ。




 で、超悩んだ挙げ句に思い出したのが、去年の聖夜祭でマリが言っていた


『・・・ロンディール様はアルテナ様にガーネットのブローチを贈って、アルテナ様はロンディール様に白いパンジーの花冠を贈ったそうよ。』


 って台詞。




 コレを思い出した時は嬉しさと恥ずかしさで顔から火を吹いたよ。




 だってマリがあたしの14歳の誕生日に贈ってくれたのがガーネットのブローチだったから。


「そういう事だったかぁ・・・」


 1人ベッドの上で悶絶していた。


 マリが恐らく色々な想いを込めて贈ってくれたのに、『わーキレイ』とちびっ子の様な感想しか持たなかったあたし。この意識の差よ。




 だがあたしとて、いつまでも幼子のままでは居られぬのだよ。そう、ココで挽回だ。




 マリがガーネットのブローチを贈ってくれたのなら、あたしはソレの対になる花冠を贈ろう。とは言え、馬鹿正直にパンジーの花冠を贈るのはセンスがどうなんだろう。


 という訳で花冠はアレだけど、ソレを模した指輪にしたらオシャレじゃないかしら?前世では『荒野のオシャレ泥棒』とまで言われた風見陽菜さんの力を今こそ見せる時じゃないかしら?




 っつー訳で、マリに内緒で裁縫ギルドに向かったのが先月。


 裁縫ギルドには、去年の学園祭で使った「アルテナ様の手袋」を作る為に測ったマリの指のサイズのデータがとってあるんだ。




 で、その日の内に、貰ったデータとイメージ画を持って装飾品ギルドに依頼を掛けた。素材はシルバー、使う宝石はエメラルドで指定して出来たのが先々週だった。






「これ・・・パンジーの花冠・・・?」


「うん。」


 いやー照れる。まあ真意はバレないだろうけど、やっぱ照れる。


「・・・アルテナ様とロンディール様の・・・?」


 いきなりバレた。


 ウソ・・・普通は気付くモノなの?


 気付かないのってあたしだけ?




「いや・・・あの・・・うん・・・。」


 あーっ!恥ずかしい!!


「前にマリがガーネットのブローチを贈ってくれたでしょ?だから・・・その・・・。」




 突然マリが体当たりを噛ましてきた。


 オッフ・・・。




 吹っ飛ばされそうになるのを辛うじて踏ん張って堪え、抱き止める。


 マ・・・マリちゃん。1年前のコマい頃ならまだしも、今はあたしと体格はそんなに変わらないんだから、あの頃のつもりで突っ込んで来られると受け止めきれないよ。




 なんて事を思いながらマリを見ると、彼女は瞳を潤ませてあたしを見上げて笑いかけて来た。一瞬でその笑顔に引き込まれる。


「ありがとう・・・とっても嬉しい。」


「う・・・うん。」




 顔が耐えがたいほどに熱いよ。




「今日は・・・一緒に寝ようか・・・?」


 あたしが提案するとマリは


「うん。」


 と頷いた。







次回は少し扇情的な描写から始まります。

苦手な方はご注意下さい。

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