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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター4 2年生編 / 一学期
55/105

M47 夏休みに向けて



 マリと過去の記憶の話をしてから時間が過ぎた。




 あの時に感じた不安は今のところブリ返したりはしていない。




 自分の正体が『風見陽菜』なのか『ヤマダ=ハナコ』なのか。その答えは今のところ保留にするって事であたしの心は落ち着いている。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 そんなこんなで6月の長雨の時期は過ぎ去り、カッと熱い太陽が燃え盛る夏が再びやって来た。定期試験の対策は今のところはバッチリで、多分だけど今回も上位は狙える。


 まあ、いつまでも1位って訳には行かないだろうけど。


 別に1位に拘りは全く無いから、そろそろマリかアルフレッド様辺りが順位を抜いて来そうだ。




 さて、そんな事よりも、あたしにはこの夏に絶対やりたい事が在った。




 その為に、マリの腕を引っ掴んで馬車に飛び乗ると、あたしは裁縫ギルド直営のいつものお店に向かった。




「ヒナちゃん、何を作るの?」


 碌な説明も受けずに馬車に押し込まれたマリが少し不安げに尋ねてくる。




 あたしはニッコリと満面の笑みを浮かべてマリを見る。


「ヘヘヘ。」


「・・・ヒナちゃん、悪い顔してる。」


 んな!?


 失礼な!!


 最高の笑顔を見せてあげたのに!・・・ま、まあいいや。




「コホン・・・。実はね、今年の夏はやりたい事が有るのよ。」


「やりたい事?・・・って何?」


 マリは小首を傾げる。


「あのね、今年の夏休みはね、海に行きたいの。」


「海・・・。」


 あたしの提案にマリの顔がポワンとなる。が、直ぐに嬉々とした表情に変わった。


「いいね、海!私も行きたい!」


「でしょ?」


 あー、可愛い笑顔だな。


「でも、じゃあ何でお店に・・・?・・・!!!」


 首を傾げたマリの顔が一変する。


「まさかヒナちゃん・・・。」


「そう!マリの水着を作りに来ました!!」


「いやいや待って!ヒナちゃん!」


 マリがあたしの腕を掴む。


「何?」


「この国に水着の概念は無いよ!?」


 あたしは首を傾げた。


「嘘よ。じゃあ、素潜りの女漁師さん達はどうしてるの?」


 前にお父様から聞いた事がある。


 漁師には船を使う漁と、潜水して貝や海藻なんかを採る漁が在るって。潜水って素潜りの事よね。女性も居るって話だし、まさか素っ裸で潜る筈も無いし。




 するとマリが言った。


「素潜りの女性は仕事着のサラシとショートパンツみたいな布製の服を身に着けて潜ってるらしいよ。少なくともヒナちゃんが想像している様な水着はこの国には無いから。」


「・・・そうなのか・・・。」


 あたしは唸った。


 行けば簡単に作って貰えると思ってたけど、違うのか。・・・どうしよう?


「うーん・・・」


 あたしは考えた挙げ句、御者さんに行き先の変更を告げた。




「で、結局、裁縫ギルドに来たと・・・。」


 諦めないあたしにマリが呆れた様に呟く。


「だって、マリの水着姿が見たいんだもん。」


「・・・」


 マリが赤くなって俯く。


 いや、もうホント可愛いな。ギューッてしたくなる。




「水着・・・ですか?」


 ギルドマスターのセルマさんが首を傾げる。


「・・・南方の国々には水際で遊ぶ風習も在って、そういった類いの服が在るとは聞いた事が在りますけど・・・。」


「おお!」


 あたしは目を輝かせる。


 何だ、在るんじゃん!ならソレで良いわよ。


「ただ・・・こんな形ですよ?」


 セルマさんは簡単なスケッチを始める。そして見せられた絵は・・・。


「・・・うーむ・・・。」


 あたしとマリは覗き込んで思わず唸ってしまう。




 ソコに描かれていたのはホントに『服』だった。平服にロングのパレオみたいなモノを身に付けた女性の絵。要は濡れても良い服を着てホントに波打ち際でパシャパシャと遊ぶだけなんだ。


「お嬢様が仰る様な『泳ぐ』遊びには不適切な格好かと。」


 ・・・確かに。此れじゃ泳ぐ前にパレオが脚に絡みついて溺れてしまう。




「・・・よし。」


 暫く絵と睨めっこしてたあたしは決心した。




 あたしはペンと紙を借りるとサラサラと絵を描いていく。


「・・・ヒナちゃん、絵が上手だね。」


 横から覗いていたマリが感心した様に言った。




 ふふふ、まあね。高校時代、剣道部主将に一目惚れしなければ漫研に入ろうかと考えてたくらいには自信がある。


 先ず女性の姿を描く。もちろんモデルはマリちゃんだ。


「ヒ・・・ヒナちゃん・・・。」


 マリは予想通り、顔をトマトの様にして少し咎める様な声を出す。


「ふふ。」


 あたしは笑いながらマリの絵を完成させる。




 そして胸のところと腰のところに線を入れていく。


「・・・!」


 マリが声にならない悲鳴を上げて、服の袖を引っ張る。


「これ、ビキニ?」


 小声で尋ねてくるマリにあたしは頷く。


「そだよ。」


「ビ・・・ビキニは嫌。」


「なんで?」


「恥ずかしいよ・・・。」




 うーん・・・でも、あたしが見たい。あ、でも。あたしはマリの前世を鑑みて尋ねた。


「ねえ、マリは今まで水着を着た事とかある?」


「・・・無いよ。」


 ・・・あー・・・やっぱりぁ・・・。前世のマリは身体が弱かったもんね。じゃあ、水遊び自体の経験は無いと思った方が良いか。


 だとすると・・・初っ端からビキニはハードルが高すぎるか・・・。




 しゃあねぇ。




 あたしは線を消すと、新しくマリの身体に線を入れていく。


「・・・ワンピース?」


「うん。」


 これならマリもそんなにハードルの高さを感じなくて済むんじゃないかな?




「コレならどう?」


「・・・」


 マリは絵をジッと見つめる。


「腰のところ。」


「ん?」


「ショートパンツみたいにしたい。」


「ソレは駄目。」


 あたしは即却下した。




「な・・・なんで!?」


 マリは即答で却下を喰らうとは思って無かったらしく、驚いて訊き返してきた。




 なんでって決まってるじゃない。


「エロくないから。」


「・・・ふぁ・・・?」


 マリは呆気に取られた様に変な声を上げる。けど、直ぐにハッとなった。


「なんて理由なの!?ビックリしたよ!」


「マリちゃん・・・。」


 あたしは絵を置くと彼女の両肩に手を置いた。




「な・・・何?」


 マリはあたしのメヂカラにビクリと肩を震わせる。


「いい?・・・女性の水着は何の為に在ると思ってるの?」


「え・・・?」


「女性の水着には『華』が求められているのよ。そしてエロスも同様に求められる。ソレは何時の時代も、何処の世界でも共有されるべき真理なのよ。」


「・・・」


 マリは眉根を寄せてあたしの熱弁を聴いている。


「世の男性はソコにロマンを感じて、女性を敬愛するモノなの。」


「・・・男性には見せないわよ?」


「あたしが居るじゃない。」


「・・・」


 マリの瞳が揺れる。


「・・・ヒナちゃんは見たい・・・?」


「見たいわ。」


 あたしが頷くとマリは真っ赤な顔で視線を逸らした。


「・・・わかった。」




 ヨシッ!!




 因みに今の会話は小声でやり取りしていたので、セルマさんには殆ど聞こえてない。ただ、あたしがマリを説得している姿はまる見えだったので苦笑いしていた。


「意見は纏まりましたか?」


「はい。」


 あたしはとっても良い笑顔で返事する。


「コレで作って下さい。」




 絵を受け取ったセルマさんは顔を引き攣らせて絶句した。


「・・・本当にコレで作って宜しいんですか?」


「勿論です。」


 あたしはサムズアップをして見せる。


「解りました。」


 セルマさんはサムズアップは理解出来なかったみたいだけど頷いた。




 ま、セルマさんが顔を引き攣らせるのも解る。


 この世界の価値観からすると明らかにハシタナイもんね。


 ただ、ソレでもこの世界の肌の露出に関する価値観は、あたしが前世で知る中世貴族の価値観よりだいぶ緩い。


 いや、現代寄りと言うべきか。貴族の御婦人でも夏なんかは結構、肌を露出させている。寮の御令嬢方も意外とカジュアルな格好で歩き回っている。




 ソレはともかくセルマさんは絵を見ると、色々と実現に向けて考え始めてくれる。


「・・・そうなると・・・かなりの伸縮性が必要ですね。特に股の部分は布地が少ないので確りとカバーしないと大変なことになりますね。」


 セルマさんは言いながら少し顔を赤らめる。


「あと・・・水に濡れても変形しない様にしないと・・・。」


 思案しているモノが少し形になってきたのか、セルマさんはあたしとマリを見た。


「恐らくは絹か綿か羊毛辺りを織り交ぜて作る事になると思います。・・・それと海では使用しないで下さい。」


「え!?」


「多分ですが・・・海水はダメージが強すぎて・・・その・・・大変な事になると思います。」


 ・・・そ、それはマズいわね。仕方無いわね。・・・ちぇ。




「・・・海に使えないなら、やっぱり腰のところは・・・」


「解りました。ソレで結構です!」


 マリが変更を口にしそうだったので、あたしは慌てて了承してゴリ押した。


 まあ、海が駄目なら去年の夏休みに行った実家の近くの湖に行くしかないわね。




「承りました。では採寸を始めましょうか。」




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「フレアが悩んでいるみたいなの。」


 そんな言葉をアイナとセーラから聞いたのは定期テストの最終日、武術試験が終わった後だった。




「悩んでる?」


 あたしとマリは顔を見合わせる。




 そんな風には見えなかったけどな。さっきの対戦試験もいつものニコニコ笑顔で、相手の御令嬢を相手にフルボッコ・・・ではないけど、圧勝していたし。




「いつも通りに見えたけど・・・?」


 あたしが答えるとアイナは首を振った。


「普段はそう見えるのよね。でも最近は、よく1人でボーッと溜息吐いたりしているのよ。どうしたの?って訊いても何でも無いって寂しそうに笑うだけで話してくれないの。」


「・・・。」


 そうなのか。


「ところでフレアは何処に行ったの?」


「お花を摘みに。」


 そっすか。




「私もアイナから聞かされてね、考えてみたんだけど・・・。」


 セーラが口を開く。


「フレアって何でも話す子でしょう?そんな子が話を隠すって事は、結構重い内容だと思うのよね。」


「うん。」


「最初はお家の事なのかな?って思ったんだけど・・・カール商会って調子が良いのよね。」


「メチャクチャね。絶好調よ。」


 ソコは間違い無いと思う。


 お父様が南国相手の商売に於いて、カール商会をメインパートナーに据えるくらいだから相当調子が良い。


「そうよね。」


 セーラが頷く。


「あのね、コレは完全に当てずっぽうなんだけど・・・フレアの悩みってエオリア様の事ではないかしら・・・?」


「・・・」


 有り得る。あの意外に乙女なフレアなら・・・。でも何を悩むんだろう?端から見てもかなり良好な関係に見えるんだけどな。


「でも何を悩む事があるんだろう?」


「身分差・・・かしらね?」


「身分差?」


「エオリア様は伯爵家の御令息でしょう?フレアは男爵家の御令嬢。『1つ飛び』は中々に難しいでしょ?」




 1つ飛び・・・そう言や、そう言うの在ったな。この国では身分が2つ離れた者同士の結婚は難しいらしい。


 爵位には公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の基本の位が在る。例えば伯爵と男爵の間には子爵が在り、男爵から見れば伯爵は『1つ爵位を飛ばした先』の爵位となるので、この国の暗黙の常識に鑑みると婚約は難しいんだ。


 今回の場合は、上の立場であるエオリア様の御両親が、カール家と縁を結ぶ事に余程のメリットを見出さない限り結婚は難しい。


 アイナの時もそんな流れは在ったけど、フレアの場合はもっとその条件が厳しい。




「ヒナ達で訊いてみてくれない?」


 アイナが頼んでくる。




 んー・・・とは言ってもなぁ・・・。どう訊いて良いのか判らない。でも、2人がそう言うのに知らん顔も出来ないよなぁ・・・。




「そうだなぁ・・・。」


「ヒナちゃんが1人で訊いた方が良いと思う。」


 マリが言い出した。


「え!?」


 マリさん?


「大事な事って、話しにくいと思うの。だから・・・。」




 うーん・・・ソレもそうか・・・。




「解った。訊いてみるよ。」


 あたしは頭を掻きながら了承した。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 あたしは放課後にフレアを学園裏のパーゴラまで呼び出した。




「ヒナちゃん。」


 パーゴラのベンチに座っていたあたしはフレアを見た。・・・確かに元気が無い。


 あたしは微笑むとポンポンと隣の席を叩いて「座って」と合図を送る。


「・・・」


 フレアは黙ってあたしの横に座った。




「話って、何?」


 多分、察しは付いているだろうフレアが一応とでも言うように尋ねてくる。


「うん・・・。」


 あたしはズバリ訊くことにした。


「アイナとセーラがさ、貴女が元気が無いって言ってきてね。・・・何か悩み事?」


「・・・」


 フレアはいつもの明るい笑顔を何処かに置き忘れて来てしまったかの様に、俯いて口を開かない。




 初夏の熱さを伴った風が、パーゴラのベンチに座るあたし達の間を「ザァ」と駆け抜けていく。緑の薫りが鼻腔を擽る。




「エオリア様の事かな?」


 あたしが尋ねるとフレアの肩がピクリと動いた。


「・・・」


 それでもフレアは口を開かない。




 参った。ここまで黙られてしまうと訊きようが無い。しゃあない。カマを掛けて見るか。




「アイナとエリオット様の話から、エリオット様は流石だなぁって思ってたけど。エオリア様はそうでも無かったのかな?フレアの事を大事に想ってると思ったんだけどなぁ・・・」


「ち・・・違う・・・。」


「あたしが文句言ってきてやろうか?」


「やめて!!」


 フレアが涙を溜めた双眸を向けてあたしを制した。




 あたしはニッコリと笑って見せる。


「・・・ホントはさ、こんなやり方は好きじゃ無いんだけどさ。貴女が自分から話し始めるのを待つのが一番良いって思うんだけど。・・・でもみんな心配なのよ。」


 フレアの愛らしい顔がクシャリと歪む。


「ね、話してみない?・・・役に立てるかどうかは判らないけどさ。」


 あたしはフレアの涙を拭いながらその頬にそっと手を当てる。


 フレアはコクリと頷いた。




「別に悩んでる訳じゃ無いんだよ。」


 フレアはポツリと言った。


「そうなの?」


「うん・・・ただ・・・私馬鹿だなって。」


 ん?どう言う事?




「前にエリオット様が御両親に紹介する為にアイナを御実家に招いたでしょ?」


「うん。」


「あの後ね・・・。」


 フレアは少しだけ間を開ける。


「・・・エオリア様も私を御実家に招こうと誘ってくれたの。」


「ほ・・・。」


 変な声が出た。


 なんだ。ちゃんと誘われてるんじゃない。


「エリオット様が御実家にアイナの事を認めて貰って、エオリア様も何か焦ったらしくて。」 


 うんうん。そりゃあ、フレアは可愛いからね。しかも御実家は飛ぶ鳥を落とす勢いのカール商会だもの。エオリア様も誰かに横から掻っ攫われたら堪ったモンじゃ無いよね。どう見てもフレアにベタ惚れだったし。・・・このクダリ、なんかアイナの時も考えてたな。




 つまり・・・御実家に行った先で何かが在ったのね?




「だからね、私、そのお誘いを断ったの。」


「なるほ・・・ん?・・・え!?」


 今、なんつった?断った?なんで!?




 あたしは訳が解らなくてフレアの顔をマジマジと凝視する。




 断った?・・・いやいや意味が解んないよ!?









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