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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター4 2年生編 / 一学期
50/105

M42 風に吹かれて



 あたし達は学園に戻ってきた。初等部の修学旅行はコレにて終了。


 なかなか楽しかったわ。




 馬車から降りると、アイナとフレアは男子が乗る馬車の方にいそいそと向かって行った。・・・フフフ、仲が宜しいことですな。




 時刻はまだ夕方にも為って居ない。あたしがマリとセーラに振り向いて尋ねた。


「あたし達はどうしよっか?」


 するとセーラが


「私、実家に帰らないといけないの。多分、帰りは明日になると思う。」


 と告げてきた。




 ・・・ああ、昨夜の話の事かな?


「うん、解った。・・・大丈夫なんでしょ?」


 あたしが訊くとセーラは頷いた。


「ええ、今回は大丈夫。」


「解った。気を付けてね。」




 セーラは微笑んで挨拶すると学園の正門へ歩いて行く。




 それを見送っているとマリが呟いた。


「・・・気になる?」


「?」


 あたしはマリの訊いた意味が良く解らなかった。でも、セーラの事情を勝手に話すわけにもいかないし。


「いいえ。」


 あたしは首を振った。




 夕刻に向けて、陽は段々と傾き始めている。もうすぐ陽の光はオレンジ色に変わり始め、町並みを暖かい暖炉の色に染め上げるのだろう。




「・・・」


 あたしは黙ってマリの手を握った。


「ヒナちゃん?」


 マリの声にあたしは微笑んで歩き始めた。


「ドコいくの?」


「付いて来て。」




 あたし達は学園を抜けて裏の林を歩いた。冬の間は葉を落としていた木々もすっかり芽吹き青々とした葉を繁らせている。そしてその先は。




 小高い丘の上にあたし達は辿り着いた。




「ここ・・・」


 マリの呟きにあたしは頷いた。


「ふふふ、久しぶりだね。ココに来るのは。」




 丁度1年前の五草会のあの日、マリと運命的な言葉を交わした場所。彼女の寂しさを知り、彼女があたしと同じ転生者である事を知り、彼女と一緒に居たいと初めて思った場所。あたしと彼女の全てが始まった場所だ。




 あたしは握っていた彼女の手を離して前に出た。丘の縁に立って下を見下ろすと王都の町並みが一望出来る。




 町並みがオレンジ色に染まるまであと少しの時間が必要そうだ。ソヨソヨと吹く柔らかな風があたしの髪を弄んでくすぐったい。


「気持ち良い・・・」


 そう言った時。




『ビュゥッ』


「!」


 突然吹いた強い風にあたしの髪がバサバサと煽られた。フワリと舞い上がったスカートの裾を押さえる。


「もう・・・急に吹くな。」


 あたしはブチブチと不満を口にしながらマリを振り返った。




 あたしの短い髪ですらクシャクシャになってしまったんだから、マリはもっと大変な事に為っているだろう。




「・・・」


 けど、マリは乱れた髪を押さえた手もそのままに、あたしを見つめていた。




 長い白銀の髪をソヨソヨと風に揺らめかせながら、頬を薄紅色に染めてあたしを見つめる彼女の姿が一瞬であたしを魅了した。




「ど・・・どうしたの? そんなに見つめて。」


 何気ない場面でジッと見つめられて顔が火照るのを感じながら、あたしを見続けるマリに尋ねると、彼女の顔が見る見る内に真っ赤になる。


「え!?・・・あ、ああ・・・あの・・・綺麗だなって・・・思って・・・。」


「?・・・あ、・・・ああ。でも、其処からじゃ町並み見えないでしょ?」


 しどろもどろになって答えるマリにあたしが尋ねるとマリは首を振った。


「ち、違う。町並みじゃ無くてヒナちゃんが綺麗だなって・・・」




 え、あたし!?・・・別に今、何もしてなかったけど。


「あ、あたしが?」


「うん。」


 マリが頷く。


「髪が風に靡いていて、優しい目で町並みを見つめていて・・・その横顔が・・・凄く綺麗だった。」




 顔が真っ赤になったのが自分でも判る。


「そ・・・そう。」


 そんな何でも無いところを綺麗なんて言われると、どうしようも無く照れ臭くなる。




 どうしようも無い愛しさが胸から湧き出してくる。


「・・・」


 あたしは黙ってマリに手を伸ばした。


 マリもあたしの手を掴んで隣に立ち向かい合う。




 心臓の鼓動がどんどん大きくなっていく。




 頬を薄紅に染めて銀色の髪を棚引かせる彼女は、うっとりとした表情であたしに微笑み掛けてくる。あたしは小さく囁いた。


「マリも、とても綺麗だよ。」


「・・・嬉しい。」


 彼女の声がとても心地良い。




 あたしとマリは胸の辺りで恋人の様に両手を繋いで見つめ合う。もう我慢なんて出来ない。




 あたしが彼女に顔を寄せると、彼女は顔を真っ赤にしながら慌ててあたしを止めようとした。


「ま・・・待って、ココじゃ誰かに見られちゃう。」


「大丈夫だよ。」


 あたしは彼女に顔を寄せて微笑んだ。


「校舎側からは林に隠れてココが見えないし、下の町からはこの丘の場所が高すぎて見えないよ。」


「・・・」


 マリはキョロキョロと校舎と下の町並みを交互に見ていたけど、安心したのか


「・・・うん。」


 って頷いた。




 あたしは再度、彼女に顔を寄せる。今度はマリもうっとりとした表情であたしに顔を寄せて来た。そして彼女の柔らかな唇に自分の唇を重ねる。




『ザァ・・・』


 と風が吹き、あたし達を包み込むように駆け抜けていく。




 マリの唇は相変わらず柔らかくて温かい。それに少し甘く感じるのは気のせいかな?




 彼女はそっとあたしから唇を離すと恥に噛む様に笑った。


「まるで映画かドラマのシーンみたい・・・」


 確かに。小高い丘の上で風に吹かれながらお互いの手を繋いで口づけするなんて、ドラマか映画でも無ければそうそう起こらなさそうなシチュエーションだ。




 愛らしく微笑む彼女が堪らない。あたしはマリの手を離すと其の両腕ごと彼女を抱き締めて更に口づける。


「・・・ふ・・・う・・・」


 マリはあたしの勢いに押されて少し苦しげな声を漏らす。けど、その彼女の手はあたしの制服を掴んで離さない。




 口づけては離し、また口づける。彼女の薄く開いた口に舌を滑り込ませると、彼女もそれに応じてくれる。身体が時折ピクリと震えるけどその反応すらも愛おしい。




「ハァ・・・」


 吐息を漏らしながらあたし達は唇を離した。




 濡れた唇をペロリと舐めると、マリも同じ仕草をした。


「ふふ。」


 あたしが微笑むとマリがあたしに抱きついて耳元に囁く。


「幸せ。」


 うん、あたしも。






 満足したあたし達は丘の上に腰を下ろした。




「座りませんか?」


 1年前のあの日、あたしが『マリーベル様』に掛けた言葉を再びマリに掛けた。マリは一瞬「え?」って表情をしたけど、直ぐに理解したらしく微笑んで言った。


「ありがとう御座います、ヤマダ様。」




「・・・プッ・・・アハハハ。」


 懐かしくて、むず痒くて、あたし達は笑ってしまう。




 2人で町並みを見下ろす。


「もう、1年前か・・・。懐かしいね。」


 あたしが呟くとマリが頷く。


「うん。・・・そしてお母様が亡くなって『幸せ』を失った私に、もう1度『幸せ』が訪れた日。」


「・・・」


「ヒナちゃんは私の幸せそのものだよ。」


 マリの言葉が嬉しい。


「あたしもだよ。・・・マリに出会えて本当に良かった。」




「ふふふ。」


 2人して見つめ合い照れ臭げに笑い合う。それから、あたし達は修学旅行の話に始まり、この1年の思い出話に浸った。




気が付けば、もう辺りはオレンジ色に染まり始めていた。夕方だ。




「綺麗な色だね。」


 マリが町並みを見下ろして呟く。


「うん、そうだね。」




 マリがあたしに寄りかかってきた。あたしもマリに重心を預ける。


「・・・」


 黙って町並みを見ているとマリが


「はぁ・・・」


 と切なげに吐息を漏らした。


「マリ?」


 あたしが彼女を見ると、マリは黙って立ち上がった。




 アレ?どうした?何か気に障る事したかな?




 少し焦るあたしの手をマリは無言で掴んで、あたしを立ち上がらせた。そしてあたしの手を引いて林へと歩いて行く。


「マ・・・マリ、どうしたの?」


 あたしの問いかけには答えずにマリは無言で林の中に入ると、1本の大樹にあたしを押しつけた。




「マリ?」


 尋ねたあたしは、此方を見る彼女の瞳に息を呑んだ。




 目は口ほどに物を語る――。そんな言葉の意味を強烈に理解させられた。


 彼女のやや吊り目が掛かったエメラルドグリーンの双眸には、とんでも無い情熱と欲が込められていた。


「マ・・・マリ・・・」


 そう言ったきり、後は言葉が続かない。




「ヒナ・・・」


 その小さな唇から漏れた艶っぽい声は、既に『呼び捨てモード』に入っていた。




 なんで急に!?・・・いやさっきキスしたんだし、急って事も無いんだろうけど・・・でも何でいきなりそんな盛り上がってるの!?




「・・・もう無理・・・」


「マ・・・マリ、急にどうしたの?」


 あたしはマリを落ち着かせようとする。けど、、マリの気持ちは収まらなかった。


「急じゃ無いよ。私、ずっと我慢してたよ。・・・2日目の夜から。」




 あ。


 言われて気付いた。そう言えばあの時、言ってたな。温泉であたしの裸見てから我慢してたって。




 そして彼女は言葉を紡ぎ続ける。


「そしてさっきのキスと・・・その後ヒナに寄りかかってた時に感じたヒナの温かさと貴女から漂ってきた香りが・・・我慢の限界を超えちゃった。」




 言い方は可愛いけれども。可愛いけれども、その瞳には肉食動物が獲物を狙う様な・・・ハンターの輝きが宿っていた。




「マ・・・マリ・・・此処、まだ外だし・・・ね?」


 と言ったあたしの顔にマリは両手を伸ばすと顔を寄せて来た。そして彼女はあたしの言葉には耳を貸さずにその唇であたしの唇を塞いできた。




 激しい。マリは凄く激しかった。何度もあたしの唇に口づけては離し、首筋にキスをしては、舌を這わせてくる。


「あ・・・」


 思わず声が漏れてしまう。




 いつものベッドの中じゃ無い。此処は外だ。下手に声を上げれば、その声は今もソヨソヨと吹く穏やかな風に乗り、この林間を突き抜けて誰かの耳に届いてしまうかも知れない。




 あたしは口をキュッと結んで声を漏らさぬように堪えながら、マリの攻めに堪え続けた。




「ヒナ・・・可愛い。」


 あたしの表情を見てマリが蠱惑的に笑う。この微Sッ娘め!


 でもあたしは彼女のその笑みにゾクゾクと震え、得も言われぬ背徳的な感覚に身を捩らせた。




 マリの手があたしの首筋に掛かりそのまま下に撫で下ろされる。その手が胸に触れてあたしはハッとなった。


「マ、マリ!此処、外だよ!?」


 マリはジッとあたしを見ながら言った。


「いや?嫌なら止める・・・。」


「・・・」


 そんな事言われたら気持ちが止まらなくなっちゃうじゃないの。


「・・・嫌じゃ無い。」


 あたしは目を逸らしながら小さく言った。




 マリはあたしの制服の中に手を入れるとブラウスのボタンを外してスルリと手を忍ばせてきた。肌にマリの細い指が触れてあたしは身を震わせる。彼女の手はあたしのブラを肩から片方外して胸を覆うカップをズラすと、そのままあたしの胸に触れた。


「!」


 思わず身を竦める。




 肌に触れる外気とマリの手を同時に感じて、あたしは訳の解らない興奮に支配される。以前の時よりも身体が敏感になっているのか、あたしはマリの手の動きの1つ1つに翻弄されて我慢していた声を漏らし始めてしまう。


「・・・は・・・あ・・・」


 マリが囁いてくる。


「ヒナ、可愛い。」


「!」


 あたしはその囁きにビクンと震えると、ヘナヘナと腰が砕けて大樹の根元に座り込んでしまう。マリもあたしの動きに合わせて一緒にしゃがみ込んだ。




 荒い息を吐くあたしをマリが覗き込む。


「・・・ゴメンね、調子に乗っちゃった。」


 あたしは首をユルユルと振った。


「いいよ。けど・・・ちょっと疲れた。」


「帰る?」


「少し、休む。」


 あたしはそう言うと、そよぐ風に身を委ねる。




 火照った身体には、夜が近づいて涼気を含み始めた風が心地良い。


「・・・」


 マリが無言であたしの服の乱れを直してくれた。


 頬が薄紅色に染まってるけど、貴女がしたのよ?・・・とも言い辛い。何だかんだで、最初に盛り上がってキスをしたのはあたしだしね。マリはあたしに引き摺られた訳で、結果、溜め込んでたモノが爆発してしまっただけだし。




 せっせとあたしの服装を直してくれる銀髪の美少女に見惚れながら、あたしは考えた。


「マリ。」


「なあに?ヒナちゃん。」


 あ、ちゃん付けモードに戻ってる。


「2日目にアイナが言ってた話の件だけど。」


 マリの手が一瞬だけ止まった。けど、直ぐに動き出す。


「うん。」


 然も有りなん。あんなゲス王子の事なんて今は思い出したくなかったよね。失敗した。けど、言ったからには話してしまおう。


「あたしは元々、侯爵が動くとしたら第2王子の立太子が出来る3年後、つまりあたし達が高等部の3年になった年が危ないと思っていたの。」


「うん。」


「でも王子が此処まで阿呆な奴だとすると、正直判らなくなった。・・・だからね、マリ。あたし、マリが婚約者になった裏の事情をお父様に話してアドバイスを貰おうと思うの。」


「・・・」


 マリがあたしを見つめた。


 あたしは言葉を続ける。


「ひょっとしたら、そのせいでマリとの交友を止めろと言われる可能性も在るわ。」


「いや・・・」


 マリの表情がクシャリと歪んだ。


 あたしは彼女を抱き締めた。


「大丈夫。その時は全部を捨てて、貴女を連れて何処へでも逃げる覚悟は在るから。・・・どんな形になっても決して貴女を1人にだけはしない。必ずあたしが隣に居るから。」


「・・・ヒナちゃん・・・」


 マリは身体を小刻みに震わせながら、しかし言った。


「ダメだよ、ヒナちゃん。・・・ヒナちゃんがあの素敵なご家族を捨ててはダメ。それだけはしちゃダメだよ。私ね、ハナコ様もシルヴィア様もテオ君もライラさんも大好き。あの方達を悲しませる様な事だけはしたく無いの。・・・私は大丈夫。1人でも頑張れる。ヒナちゃんから素敵なモノを沢山貰ったから。」




 ・・・ったく、こんな健気な子を見捨てられる筈が無いでしょうが!


「わかった。でも、絶対あたしは貴女を離さない。だから、お父様に相談するね。」




 マリはあたしに涙で濡れた双眸を向けると微笑んだ。


「うん、有り難う、ヒナちゃん。」




 泣かせてしまってゴメンね、マリ。









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