M40 修学旅行 2
修学旅行2日目。
今日は学年全体で行動する日だ。行き先は・・・えっと、午前中はディラン音楽堂で演奏会を鑑賞するらしい。その後に昼食を摂って、午後から音楽堂の近くにあるバランティーノ遺跡に行くんだって。
うん、まあ・・・300人で移動だもんね。そんな色々は回れないよね。いいさ、メインは明日の自由行動なんだから。
ディラン音楽堂は大きな石造りの建物だった。イメージ的には古代ギリシャのコロッセオみたいな感じだ。
「イメージと随分違うね。」
あたしが呟くとマリが頷いた。
「うん、もっと講堂みたいな場所をイメージしてた。」
あ、あたしも。
半円形の長大な観客席にあたし達は腰掛けた。楽団の人達は既に中央の舞台で準備を始めている。弦楽器に金管楽器、ティンパニみたいなパーカッションもあるな。ちょっと楽しみだぞ。
それにしても、こんなに広くて音響設備も無い青空ステージで音が響くのかしら?あ、でも楽団の後ろに大きな衝立が立ててあるな。アレで音を前に飛ばすのか。
やがて楽団長らしき人が前に出て来て、挨拶をする。楽団長も演奏者も青や緑の衣装に身を包んでいる。
「衣装がカラフルね。」
オーケストラのイメージが強いあたしがそう言うとセーラが尋ねて来た。
「ヒナは楽団を見るのは初めて?」
「うん。」
あたしが頷くとセーラが説明してくれた。
「音楽は自然の神様と人間の間を取り持つ『友好の架け橋』として扱われるの。だから演奏者は森をイメージした『緑』と、海をイメージした『青』の衣装を着るのよ。・・・ヒナが去年着ていた秋の実りに感謝して作ったドレスと同じ発想ね。」
「素敵・・・」
あたしは楽団を見る。
演奏が始まった。どれもあたしには初耳の楽曲だ。でも、セーラの説明があたしのテンションをガン上げしてくれたお陰で、とても没入して聴くことが出来た。
因みに『しどけなき宵闇の連環』も演奏されていた。
マリをチラリと見ると銀髪美少女が恥ずかしそうに笑って見せる。
うん、楽しいわ。とっても素敵な時間だったわ。
あたし達は時間も忘れて午前の音楽鑑賞を楽しんだ。
昼食。
コレもディラン音楽堂で用意されていた。4人と席が離れて仕舞ったのは寂しいけど、まあしょうがない。あたしは同席した御令嬢方と会話を合わせてやり過ご・・・せなかった。
「あの・・・ハナコ様ですよね?」
お隣に座ったフワフワ金髪の御令嬢が話し掛けてきた。
「はい、ヤマダ=ハナコと申します。」
「あ、失礼致しました。私、ケイト=グリアスと申します。」
・・・ん?あれ?この方・・・。
「・・・聖夜ツリーの作成に協力して頂いてませんでしたか?」
ケイト様がパァッとお顔を輝かせる。おぅ、可愛いな。
「はい!とても楽しい一時でした!」
「ソレは良かったです。」
あたしもニッコリ笑顔で応える。
「あと・・・あの竹を使った・・・」
「カドマツですか?」
「はい、竹を使った理由をお聴きして、私、感動の余り泣いてしまいました。」
うーん・・・純粋なケイト様に、お姉さんクラクラする。
「また、ああ言う企画はなさらないのですか?」
「考えますよ。」
その返答に周りの御令嬢方が反応した。
「まあ、どの様な企画が在るのですか?」
「私、カドマツには参加出来なくて悔しい思いをしていましたの。」
あたしは質問攻めに遭って昼食どころでは無くなってしまった。嬉しいけどお願いだから少し食べる時間を頂戴。
中々にかしましい昼食を終えて馬車に戻ると、4人はもう馬車に戻っていた。
「ふふふ、大騒ぎしてたわね。」
セーラが笑いかけてくる。
「まあね・・・お陰で余り食べられなかったわ。」
「ヒナちゃんは何処に居ても目立つから直ぐに居場所が分かるね。」
ちょっとマリちゃん。まるであたしが騒がしくしている様な言い方はやめて頂戴。
「・・・」
「?」
アイナが大人しい。フレアが心配げにアイナを見ている。
「アイナ?」
「・・・。・・・ん?何?」
暫くしてから、アイナは窓の外に向けていた視線をあたしに向けた。
「・・・なんかあった?」
あたしが訊くとアイナは少し逡巡した後、無理矢理に笑って見せた。
「なんでもないわ。」
もう、その返しは何かあったと言ってるようなモンじゃない。
「そう・・・。」
そう返すあたしの耳元にセーラが囁く。
「馬車に一番最初に戻って来たみたいで、ずっとこんな感じなの。」
・・・長引くようなら確り訊いた方が良いかな。
午後の予定地であるバランティーノ遺跡は馬車に揺られて30分程で到着した。
バランティーノ遺跡はこの国で最も古い遺跡だそうだ。
今から700年程前に流浪の民がこの地に流れ着き住み着いたと言われているらしい。王国住人の前身の人達とも言われている。
流浪の民はこの地に大きな神殿を建て、周囲に街を形成していったそう。
古代の街跡かぁ。確かに浪漫溢れるわね。
あたし達はガイドさんの説明を聞きながら遺跡を回る。
上下水道の跡。当時から水の大切さは認識されていて、この設備を整える事で疫病の発生、及び蔓延を防ぐことが出来た云々。
ゴミ捨て場の跡。此処で見つかる残骸から、当時の食糧事情や主に使われていた道具の類い、文化形成まで知る事が出来る云々。
民家跡。当時の人々の暮らしを知る上でこの上無い生きた資料だ云々。
メインとなるバランティーノ神殿。此処には大人気物語『ツイン=スター』シリーズの主人公、ロンディールとアルテナの元となった神々が祀られていたらしい。その他にも太陽神やら大地母神やら海神やら。残念ながら神殿は、今は殆ど崩れていて見られる場所は少なかったけど。
そして自由時間。
・・・そろそろ良いかしらね?
「アイナ。そろそろ話してくれないかしら?」
遺跡の壁に寄りかかって立つアイナにあたし達4人は話し掛けた。
「・・・」
アイナは暫くマリをジッと見ていたけど
「そうね。」
と呟いた。
あたし達は観光客用に用意された林の中のテラスに腰を下ろした。
まだ寒い時期とは言え、陽が出ていれば温かさを感じられる季節になっている。木洩れ日を心地良く浴びながらあたし達はアイナに話を促した。
「貴女を落ち込ませるって、一体何があったのかしら?」
あたしが口火を切るとアイナは苦笑した。
「別に私は落ち込んでた訳では無いわ。ただ、話して良いのか迷っていただけ。」
「迷っていた?」
アイナは頷く。
「ええ・・・。私、昼食の時に一度、席を外しているの。で、其処で食事も摂らずに隅でヒソヒソと話している令嬢方を見つけたのよ。最初は何の気も無し、聴くとは為しに聴いていたわ。・・・でも後半は立ち聞きに変わってしまったわね。」
珍しい。アイナはそう言うマナーに反する事は結構嫌がるタチなのに。
アイナは話を続ける。
「・・・みんなは去年の秋頃、5~6人の御令嬢達が立て続けに学園を去った事を知ってるわよね?」
「ええ。」
あたしとマリも、その頃にそんな話をベッドの中でした覚えが在る。
「その御令嬢方はみんな王子殿下のお側に居た方達なの。」
ああ・・・偶に見掛けたあの取り巻きの令嬢達か・・・。確か全員が伯爵家以上の令嬢だとか。
「ソレでね。その御令嬢達が学園を去った理由は全員が同じ理由だったそうなの。」
「同じ理由?」
あたしがオウム返しに聞き返すとアイナは頷いた。
「ええ・・・。理由は・・・。」
アイナは言い辛そうに眉を顰めると少し俯いた。
「・・・お腹に子供が出来たかららしいの・・・」
「!?」
え!?お腹に!?・・・ソレって、つまり・・・そういうコトをしたって事!?去年の話だからまだ13~14歳って事だよね!?
あたしは文字通り絶句した。
その横でセーラが淡々と話す。
「婚約に年齢制限の無かった昔の時代なら、親公認ならばその位の年齢での妊娠もあったらしいわ。でも今の時代、婚約は王族の方以外は初等部を卒業する迄は禁じられてる。況してやそう言う行為は、婚約した者の家同士の事情でも無い限り、学園を卒業する迄は禁止されてる筈よ。」
「ええ・・・」
アイナが頷く。
それからアイナはマリを見た。
「ねえ、マリさん。マリさんは王子殿下の3学期の定期考査の順位をご存知?」
マリは心無しか青ざめた表情で首を振った。
「いいえ・・名前は無かったわ。」
「では3学期に王子殿下を見たりした?」
「いいえ。」
「そう・・・やっぱりそうなのね。」
「アイナ・・・まさか・・・王子殿下が相手だと言いたいの?」
フレアが恐る恐るとアイナに尋ねる。
アイナはソレには直接答えなかった。でもマリに向ける気遣う様な視線は「そうだ」と言っている様な物だ。
「殿下は3学期は学園に来ていなかったそうなのよ。」
「知らなかった・・・」
「理由は伏せられているけど『謹慎』させられているみたい。」
「・・・」
もし・・・もしも御令嬢達が去った理由がアイナの言った通りなら、そしてその相手があのゲス王子だったなら・・・如何な王子と言えども、いや王子だからこそ、そう言った不逞な行いが許される筈も無い。
身分を以て秩序を為す制度に於いて、上位者が下の貴族を蔑ろにし其れに対して処罰が与えられなかったら。当然の様に秩序は崩壊する。
以前にマリから聞いた話も合わせて考えれば、王家としては第一王子を廃嫡する絶好の機会なのだろうけど如何せん事がデカすぎる。廃嫡するとなれば理由を明らかにしなければならないが、明らかにしてしまうと確実に王家の恥となる類いの愚行だ。だから取り敢えずひっそりと『謹慎』させているのだろう。令嬢達の家を納得させる為に。
でも謹慎で済ませるなんて女を馬鹿にしてないか?
対応したのは敢くまで伯爵家達に対してであって、令嬢1人1人の心についてはまるで頓着していない。
・・・ムカムカする。
王家の恥だとか、そんなモンどうでも良い。自分達を守る為だけに、傷を付けられた御令嬢達を逆に学園から追い出すなんて許されるのか。あたしは絶対に許したくない。
子供の考えなのは判ってる。でも、其れでは大人な考えが絶対に正しいのか。何より学園を去った令嬢達の無念が浮かばれない。
「腹立つね。」
あたしはボソリと言った。
「ヒナ?」
「あのゲス王子とクソ王家にトコトン分からせてやりたい。世の中はテメーのモノじゃ無いって。」
「ヒ・・・ヒナ!」
アイナが慌ててあたしの口を塞ぐ。
「馬鹿!何てコト言うの!?こんな処でそういうこと言っちゃダメよ!」
口を塞がれたあたしはコクコクと頷く。
確かに場所が悪い。つい感情的になっちった。まあ、冷静になればあたしも他人のコトは言えない。マリにイカガワシイ事してるんだし。
「正直、殿下の婚約者であるマリさんの事を思うと言わない方が良いとは思ったわ。・・・でも、逆にマリさんに黙っていると言うのも気が引けて・・・。」
アイナが苦しそうにそう言うと、マリは笑みを浮かべてアイナの手を握った。
「嬉しいわ、アイナさん。そんなに私の事を考えてくれて。でも、気になさらないで。知ってると思うけど私と殿下の仲は最悪だから。私も殿下に対しては何の感情も無いから平気よ。」
「・・・でも、お家の事とか・・・」
「其れこそ関係無いわ。私、家でも厄介者扱いだもの。だから今更なのよ。」
「・・・そう・・・」
アイナは暫くマリを見ていたが、やがて表情を緩ませると少しだけ微笑んだ。
「さて、不愉快な奴の事なんか忘れて、旅行を楽しみましょう。」
あたしは話はおしまいとばかりにパンッと手を打ってそう言った。
・・・取り敢えず、お父様に連絡して御令嬢方の行方を調べて貰いましょう。多分、マリに・・・引いてはあたしに関わってくる事だろうから。
ホテルに戻って、夕食を済ませ温泉に入る。
「また背中の流しっこしよう。」
とフレアが提案してまた輪になる。
アイナの調子もすっかり通常営業に戻り、みんなで大笑いしながら2日目の温泉も楽しんだ。深夜、マルグリット先生の見回りの眼を掻い潜ってマリがやって来ると、みんなで定番のコワい話をしてみる。
「・・・それでね、朝、見に行ったら其処は墓地だったんだって。」
「・・・」
あたしは前世で有名だったコッテコテの怪談ネタを披露してみたんだけど、みんな無反応。
あれ?あんまり怖くなかったかな?まあ、王道のネタだしな・・・と思ってたら。
「それ・・・作り話だよね?」
とフレアが真っ青な表情で聞いてくる。
あたしはニヤリと心の中でほくそ笑む。そして顰めっつらしい表情で
「一応・・・知り合いの人の実体験なんだけど。」
「嘘でしょ!?やめてよ!!」
珍しくセーラが青ざめた表情で叫ぶ。
アイナは・・・何と涙を流していた。
「私・・・お化け話はイヤ・・・」
やべぇ・・・この世界ではみんな怪談に耐性が無いんだ。初めて知った。因みにマリはこの話を知っているらしく苦笑いをしてタネ明かしをしていた。
「アイナさん、大丈夫よ。ヒナちゃんの作り話だから。」
「ホント?」
普段は大人っぽいアイナが幼子の様にマリに訊き返す姿が実に愛らしい。
「・・・良かった-・・・」
「ヒナ・・・貴女・・・。」
フレアが胸を撫で下ろし、セーラが絶句した表情であたしを見る。
あたしは頭を掻いた。
「いやーゴメンゴメン。みんながあんまり良い反応をするモンで・・・ついね。」
「ついね・・・じゃ無いわよ。アイナが泣いちゃったじゃないの。」
「だからゴメンって。」
あたしは苦笑いをしながらマリを宿泊部屋に送る事にして、その場を退散する事にした。
暗い廊下。もう時間は2時を回っていて、流石に誰も見回っていない。寒い廊下をあたし達は言葉も無く歩き続けた。
マリの泊まるシングルルームの前に来たとき、あたしはマリに後ろから抱きつかれた。
「わ・・・」
思わず声が上がる。
「・・・」
マリは無言だった。
多分・・・考えてる事は同じかな。あたしはマリの手に自分の手を重ねた。
「ヒナちゃん・・・」
「ん?」
マリの呼び掛けにあたしは尋ね返す。
「昼間のアイナさんの話・・・。もし・・・殿下の廃嫡が早まったら・・・私・・・」
やっぱりそう考えてるか。まあ、そう思ったから送ったんだけどね。
だから予め言おうと思っていた言葉を口にする。
「マリ・・・1人で悩む必要なんて無いわ。あたしがココに居るよ。マリの隣にね。だから、一緒に対策を考えよう。」
「・・・うん。大好き。」
マリがギュッとあたしを抱き締めてくる。
マリの膨らみがあたしの背中のだいぶ上の方に押し当てられている。・・・ホント背が大きくなったなぁ。もうコマいなんて言えないなぁ。
なんて事を考えてたら、あたしのお腹に回されていたマリの腕がサワサワと上に上がって来た。
「?」
「・・・。」
「!」
マリの手があたしの膨らみを包んでいる。
「マ・・・マリ・・・」
あたしが少し慌ててマリに振り返ろうとした時、彼女の手があたしの膨らみの上でクネクネと動く。
「あっ・・・!」
思わず声が漏れてしまう。あたしはマリの手の動きに翻弄され前屈みになりながらも彼女にストップを掛ける。
「マ・・・マリ、だ・・・ダメだよ。こ・・・こんな所で・・・」
「ヒナが欲しい・・・」
うぁ・・・呼び捨てモードに入ってる。こんな後ろ向きの体勢じゃ何処までされるか分からない。あたしを離してくれないマリの腕の中で、あたしはグルリと180°身体を入れ替えてマリと向き合った。
瞬間、あたしの視界に飛び込んできたのは頬を紅色に染めた銀髪美少女のどアップ。エメラルドグリーンの双眸がウルウルと月の明かりに煌めいて揺らいでいる。
マリを止めるつもりで振り返ったあたしは見事に一瞬でマリに引き込まれてしまった。
「ヒナ・・・」
「マリ・・・」
彼女の小さな唇があたしに寄せられ重なった。熱く柔らかい感触があたしの全身を支配していく。唇を重ねるのも久しぶり。
こういう時は別人の様に激しいマリだけど、今日は一段と激しかった。
何度も何度もあたしの唇を貪り、あたしに回された片腕は背中と言わずお尻と言わず撫で回してくる。もう片方の手はあたしの胸の上を踊っている。
完全に捕らわれたあたしは、為す術も無くマリの動きに身体をピクピクと震わせながら彼女の要求に何とか応える。
「マ・・・マリ、激しいよ・・・」
喰らい付かれて何度目かの後に、あたしは漸くそう言った。
マリはジッとあたしを見ながら顔を寄せて首筋にキスをしてくる。
「だって・・・我慢出来ない・・・。」
「うっ・・・」
くすぐったいけど気持ち良すぎて、あたしは小さく呻く。
「温泉でヒナの裸を見たら・・・もう・・・」
え・・・って事は昨日から?
「でも・・・廊下だし・・・修学旅行だし・・・」
マリはブツブツ言いながら、あたしから離れた。
「・・・続きは帰ってから・・・。」
マリは上気した顔であたしにそう言った。
マリの言葉にあたしは苦笑いしてしまいながらも頷いた。だって、そんなに求めて貰えるのはやっぱり嬉しいし。
「うん、帰ってから・・・あたしもしたいな。」
う・・・言ってて顔が火照ってくる。
あたしも大概だよな。
マリの嬉しそうな顔が心地良い。
「お休み、ヒナちゃん。」
「お休み、マリ。」
あたしとマリは、こうして2日目の修学旅行を終えた。




