M38 生徒会
新学期がスタートして2週間が過ぎた。
クラスもメンバーがそんなに変わらなかった事もあり、恙なく生活を送れていると思う。
そして新年度と言えば、新入生が入学している筈なんだけど・・・。
この2週間、あたしもマリも新入生と出会す機会が無かった。まあ、初等部校舎と言っても棟が1年生と2年生で別だし、普通に生活していると出会さないのが当たり前なんだけどね。
それにこの学園では課外活動・・・いわゆる部活動が殆ど無い。自主的な生徒活動は、生徒会、馬術倶楽部、ダンス倶楽部くらいだ。所属メンバーなんて全生徒数の1割にも満たない。
だから尚更、他学年との交流は皆無に等しい。
寮も1年生と2年生で見事にエリアがぶった切られている。昨年の2年生達は春休みに高等部女子寮に移っていったから新入生達はソコに入居している筈なんだけど、コレまた見事に出会さない。
食堂に行けば会えるんだろうけど、あたしとマリは基本的にリビングのキッチンで作って食べちゃうからマジで新入生と触れ合う機会が無い。
まあ・・・伯爵家以上の1年生とかどう対応して良いか解んないし、面倒臭そうだから良いんだけどね。
とある日、マルグリット先生があたしを呼び止めた。
「あ、ヒナ・・・ヤマダさん。」
「!?」
いや、今のは聞き違いじゃ無かったゾ!
間違い無く言った。
何だ!?何で知ってんだ!?
「あの・・・先生。ひょっとして・・・あたしの愛称を知ってますか?」
あたしは恐る恐る訊いてみる。
マルグリット先生は苦笑いになった。
「あー・・・ええ、知ってます。」
「な・・・何で・・・?」
「マリーベルさんから聞きまして。」
マリちゃん!?何を恥ずかしい事を先生に喋ってくれちゃってんの!?
「ソ・・・ソウデスカ・・・マリーベル様ガ・・・」
「ええ。ほら、マリーベルさんは侯爵令嬢ですから・・・私も色々とお願い事をしているでしょ?その時に良く『ヒナちゃんが・・・』って言うのよね。本人は気付いていないみたいだけど『ああ、ヤマダさんの事を言ってるんだな』って解ってしまってね。」
・・・あのウッカリさん!
「でも、なんで『ヒナちゃん』なの?名前にはドコも引っ掛かってないわよね?」
「さ・・・さあ・・・。気付いたらそう呼ばれてまして・・・」
あたしは視線を逸らして答える。
いや、恥ずかしくて理由なんか言えるか。
話を変えよう。
「ソレより何か御用ですか?」
「あ、そうそう。生徒会から五草会の助っ人メンバーをウチのクラスからも1人出して欲しいって言われてね。貴女を推薦しておいたから。今日の放課後に生徒会の人が迎えに来るそうだから宜しくね?」
ホワッツ!?ホワイあたし!?呆然とするあたしにマルグリット先生は和やかな笑顔を向けて立ち去っていった。
そして放課後。
ホントに迎えが来たよ。
「貴女がヤマダ=ハナコさん?」
「あ、はい。」
高等部の方で伯爵家の御令息だとか。茶掛かった黒髪に碧眼、そんで眼鏡を掛けた美貌の貴人。如何にも眉目秀麗・頭脳明晰なタイプ。
うわぁ・・・あたしの苦手なタイプかも。こういう理知的なタイプって冗談が通じない人が多いイメージなのよね。
「僕は高等部2年のセシル=エイラ=アーベットです。生徒会で副会長を務めています。宜しくね。」
セシル様はそう言ってニッコリと微笑む。
あ・・・あれ?意外と取っ付きやすいタイプ?
「あ、ヤマダ=ハナコと申します。アーベット様。此方こそ宜しくお願い致します。」
あたしはカーテシーでご挨拶してみる。
「うん、宜しく。じゃあ行こうか。」
「はい。」
あたしはチラリとマリ達を振り返って「バイバイ」と手を振るとアーベット様の後を付いて行く。
高等部校舎。
初めて来たわ。やっぱり初等部よりも建物も大きいし棟数も多いんだな。それにみんなデッカい。ハハハ・・・ちょっと怖いな。
「おい、セシル。初等部の子なんか引き連れて何してるんだ?」
「たらし込んだのか?」
高等部の御令息?方が何人かでセシル様に絡んで来た。
セシル様は壮絶な視線を御令息達に向けると底冷えするような声を出した。うわ、怖!
「おい、初等部の子がいる前で何を言っている。・・・見ろ、怯えさせてしまったじゃないか!」
い・・・いや、貴男のお顔が怖いんですって。とは言わないが。
「あ、マズい・・・」
あたしの顔を見て御令息方は気まずそうな表情になる。
「ゴメンね、お嬢さん。冗談だから。」
「この男は真面目一筋でたらし込むなんて奴じゃ無いから。」
「いいから、もう行け!!」
セシル様が怒鳴ると御令息方は苦笑いしながらあたしに手を振って退散して行った。
「ゴメンね、馬鹿に付き合わせてしまって。」
「あ、いえ。面白い方達ですね。」
何か妙にしょげた表情を見せてくるので、あたしは微笑みながらフォローを入れる。いやあ、美人のしょげた顔って可愛いな。
何となく打ち解けた気がして、あたしとセシル様はそのまま生徒会室に到着するまでペチャクチャとお喋りしながら歩いて行った。
「やあ、生徒会へようこそ。僕は生徒会長のスクライド=ベルク=ローデリッサです。招集に応じてくれて有り難う。」
金髪碧眼にセシル様に比べるとやや幼い顔立ちの御令息が、満面の笑みを浮かべながらあたしを出迎えてくれた。
「あ、いえ。ヤマダ=ハナコと申します。ローデリッサ様。宜しくお願い致します。」
「うん、宜しく。」
・・・何というか・・・お日様みたいな人だな。
「さてと。」
全員が席に着いた処でスクライド様が口を開いた。
「新生徒会が立ち上がって暫くが経過したわけだけど、2週間後には五草会が開かれる。僕達にとっては初めての大仕事だ。」
生徒会役員メンバーは10人。その他に高等部の各クラスから2名ずつが選出されて構成されたクラス委員が60名。計70名が生徒側の最高意思決定機関として活躍しているらしい。かっけー。
そして今回は通常の役員メンバーに加え、あたし達初等部2年生から適当に選抜された臨時メンバーが5人呼ばれている。
「・・・以前にも言ったけど僕はこの生徒会を運営するに当たって1つの目標を生徒会に課したよね。覚えてるかな?セシル副会長。」
「はい。今年度の生徒会は各行事を執り行うにあたり必ず何か新しい事に1つ挑戦する、です。」
「その通り。」
スクライド様は頷いた。
「で、五草会だ。正直に言えば、最初の仕事が『五草会』というのは重い。重要度が他の行事に比べれば桁違いだ。右も左も判らない初等部新入生と高等部から入学してくる平民の子女達を迎えるのだから失敗は許されない。此処で少しでも学園と生徒達に馴染んで貰わなくてはならないのだが・・・。」
スクライド様は一旦言葉を切る。
「・・・実際には五草会当日の上級生達は通常の授業を受けており、新入生達の自主性に任せるだけのイベントになりつつある。ソレでは気の弱い子達が友人を作るのは難しい。」
・・・ソレはそう思う。
あとから聞いたのだけど、マリも去年の五草会では料理だけ楽しんだら自室に戻るつもりだったんだとか。あたしがもし声を掛けなかったら・・・と思うと少しゾッとする。
「そういった理由も有り、僕はこの五草会にテコ入れをしたいと考えているんだが・・・なかなか良い案が出なくてね。」
スクライド様はそう言って、あたし達を見た。
「初等部のみんなの意見も聴いてみたいと思って呼んだんだ。君達5人は昨年の五草会を経験した身だし、何か意見があれば遠慮無く言ってみて欲しい。無論、どんな意見でも構わないよ。」
「・・・」
そんな事を急に言われても。
高等部の・・・況してや生徒会長というトップに突然意見を求められて、あたし達は固まってしまった。
五草会で何か新しい事?・・・いや、なんも思いつかん。
スクライド様はそんなあたし達の様子を楽しげに見ていたが、おもむろに声を掛けてきた。
「ハナコさんは何か無いかな?」
「ぬぉっ!?」
やべぇ!変な声を出しちまった。意見が出なければ1人ずつ訊いてくるかもしれないとは思ってたけど・・・チクショウ、初っ端があたしかよ。
「ぬぉ?」
首を傾げる生徒会長様にあたしは引き攣った笑いを浮かべる。
「ふふふ。貴女は面白い意見を出してくれるとマルグリット先生が仰っていらっしゃったから訊いてみたいと思ってね。」
おのれ先生!あたしを選んだのはやっぱりそう言う理由だったか!ムチャ振りが酷いぞ。
どうしようかなぁ。意見が無い訳じゃ無い。けど、直接には五草会と関係無い事なんだよなぁ。
「・・・何でも良いんですか?」
「もちろん。」
スクライド様の視線に何か期待めいたモノを感じるぞ。やめろ。そんな目であたしを見るな。
「会長のご要望とはズレた意見かも知れませんけど・・・」
「是非、聴かせて?」
・・・じゃあ言うか。
「その・・・以前から感じていた事なんですけど・・・この学園って課外活動が少ないなぁって思ってました。今在るのは生徒会、馬術倶楽部、ダンス倶楽部くらいですよね?」
「そうだね。」
「生徒会はともかく・・・馬術倶楽部は貴族の嗜み、ダンス倶楽部は夜会の嗜みで、全部貴族の教養に類するモノばかりなんです。それが理由かは解りませんけど、参加者も少ないって聞いてます。」
あたしがソコまで言うと、スクライド様は役員の方の1人に尋ねた。
「・・・今、何人くらい?」
「・・・馬術倶楽部が92名、ダンス倶楽部が・・・134名ですね。」
「・・・確かに少ないな。・・・ああ、ゴメンね。続けてくれるかな?」
あたしが黙っているとスクライド様が促してくれた。
「だから、教養とかそういうのに拘らずに、趣味とかの倶楽部もたくさん在って良いと思うんです。その方が楽しいし。」
そう言ってあたしは考えた。
うーん、そうだな・・・。
「・・・例えば・・・裁縫倶楽部とか、工作倶楽部とか、料理倶楽部とか。こう・・・同じ趣味の人同士で一緒に楽しく出来る倶楽部が在れば、みんな参加しやすいんじゃ無いかなって。」
「うん。」
「ソレに初等部には倶楽部自体が無いし。」
「・・・」
スクライド様が黙っちゃったよ。どうしよう。やっぱり頓珍漢だったかな?・・・あ、手間とかを考えてるのかな。
「あ、だからと言って生徒会で倶楽部を提供してあげる必要なんて無いんですよ?」
「?・・・どういう事かな?」
「そんなのはやりたい人達が生徒会に申請したら良いんです。申請してでもやりたいって言うくらいの気概が無いなら大した情熱でも無いでしょうし。」
クスリ。
うあっ!笑われた!ど・・・どうしよう!?顔が火照る!でも今更止まらない。
「だ・・・だから生徒会の人達は申請内容を精査するだけで良いんです!ソ・・・ソレを発表して生徒会長閣下が『待ってるよ』って言ってくれたら、みんな何かしら行動すると思うんです!えっと・・・アノ・・・ソノ・・・。」
閣下って何だ!?
あとこの話どうやって終わらせたら良いんだ!?
テンパったあたしにスクライド様が笑顔で言ってくれた。
「落ち着いて?ちゃんと聞いているから。」
「・・・あ、はい。」
フシューっとあたしはクールダウンした。
「・・・成る程ね・・・課外活動か・・・。」
「1つ良いかな?」
セシル様があたしに尋ねてくる。
「貴女は生徒会が用意する必要は無いと言っていたけど、申請となるとやはりハードルは高いかなって思うんだけど、どうかな?」
だよね。
「は・・・はい、だから申請は敢くまで最終段階の話で、最初は『相談』で良いと思うんです。『こういう倶楽部を作りたいって思ったら是非相談してね。』って感じでフランクな雰囲気を出せば良いかなって思うんですけど。」
「うむ。」
セシル様も黙っちゃったよ。
どうすんだよ、コレ。どうやって収拾つければ良いんだよ、コレ。
「・・・いや、非常に面白い意見だね。必ず検討するよ。」
スクライド様が笑顔を向けてくれる。
いや、何だよ。ビビらせないでよ。泣きそうだったよ。
「他のみんなも意見が在れば言ってね?」
あたしという人身御供の意見が受け入れられたのを見て安心したのか、他の初等部4名も意見を言い始める。
結局、会長は全員の意見を検討すると言っていた。
「今日は大変に有意義な時間が持てました。初等部の皆さん、どうも有り難う。」
生徒会長様は言葉巧みにあたし達の自尊心を擽ってくれましたよ。
会議も終わり『さて、あたしも帰ろうかなー』と席を立った処で
「ハナコさん。」
と会長様に呼ばれてしまいました。
何だろう・・・?
「はい、何でしょう?」
「今日は貴重な意見を有り難う。貴女の意見は五草会どころか学園生活そのものに影響を与えかねない素晴らしい意見だったよ。」
え・・・ちょっと待って。そんなご大層なモンじゃ・・・。
「い・・・いや、そんな大した意見じゃ・・・」
セシル様が微笑む。
「倶楽部の件に関しては早々に取り組むつもりだよ。・・・そうだろ?スクライド。」
「もちろん。・・・ふふふ。流石はマルグリット先生のお墨付きだ。」
「ったく・・・あの先生は・・・」
ブツクサるあたしを見てお二人は笑い出す。
「本当に面白いな。実は君を出して欲しいと要望したのは僕達なんだよ。」
「は!?」
何だそりゃ。
「聖夜ツリーやカドマツ・・・だっけ?アレが男子寮に飾られているのを見て感心したものさ。アレを作ったのが初等部1年生の女の子だって聞いて、以前からどんな子なんだろうって興味を持っていたんだよ。」
「それにユキダルマとかユキガッセンとか。やり始めたのも君だろう?」
オッフ・・・恥ずかしい。
「・・・こんなんでスミマセン。」
「いや、期待以上の素晴らしい御令嬢だったよ。君の意見はまた聞いてみたいな。」
ソレはちょっと・・・。
「はい・・・。」
あたしは苦笑いをする。
結果、生徒会はその1週間後に『倶楽部増設に伴う相談受付』の件を発表していた。いや、仕事が早すぎないかい?
あたしも言い出しっぺとしてマリ達4人を連れて『お料理倶楽部』の『相談&申請』に赴きました。
因みに生徒会は初等部の子も来やすい様に、高等部と初等部の境目に出張所を作ってくれてソコで相談を受け付ける様にしてくれました。
会長様は自ら大喜びで出迎えてくれましたよ。
「これで前例が作れるよ。」
ご機嫌だな、おい。まあ、あたしもそのつもりで来たんだけどさ。
許可には1週間ほど掛かるらしいから、結果は五草会以降かな。
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
そんで今日は恐らく五草会が執り行われている。
『五草会かぁ・・・』
授業を受けながら、あたしは隣のマリを見る。
彼女と仲良くなったのはこの五草会が切っ掛けだった。
五草会が無ければ、この子に前世が在って辛い思いをしていた事も知らなくて、部屋が一緒になる事も無くて。
多分だけど今ほどは仲良くなってなかったかも知れないんだよなぁ。
運命ってホントにどうなるか解んない。でも、1つだけ解ること。ソレは何かしなくちゃ何も起こらないって事。当たり前っちゃあ当たり前なんだけど、ついつい忘れがちよね。
「ハナコさん、聴いていますか?」
あ、ヤベ。数学の先生がコッチ見てる。
「此処の値は何ですか?」
「18です。」
「・・・。」
ヤベー、ヤベー。つい、上の空になっちまった。
「ヒナちゃん、どうしたの?ボーッとしてない?」
授業が終わった後、マリが尋ねてくる。
「あー・・・うん、五草会やってんだなぁ・・・って思ってた。」
「違うこと考えてるのにサラッと正解答えるのが笑えるわ。」
セーラがニヤニヤと後ろから背中を突きながら言う。
「ソレよりも修学旅行って自由行動あるのかしらね?」
アイナが訊いてくる。
あ、確かにソレまだ聞いてないな。
「そうだね。急に自由行動ありますよって言われても困るよね。」
フレアが頷く。
あ・・・この2人、想い人と一緒に行動する気だな?まあ・・・ソレも良いけどね。
何やら浮ついてますなぁ。あたしも含めて。
結局、自由行動は『有り』って事になったらしい。
「ドコに行きたい?」
セーラが満面の笑みで尋ねてくる。
いや訊かれてもさ。あたしこの世界に来てまだ2年目だから良く解らないんだよね。
「あたしは特には・・・」
「えー?ヒナなら何か面白そうな処を知ってるでしょ?」
「え・・・うーん・・・。し・・・調べておくよ。」
苦し紛れの逃げを打ったあたしをマリが苦笑いで見てる。
いや、マリ、貴女ならあたしがホントに困ってるの解ってるでしょ?助けてよ。
「マリ、助けてくれないんだもんなぁ・・・」
「ゴメン。私もロアンナ直轄地って良く知らなくって。」
「え・・・マリも解んないの?じゃあ、あたしが解るわけ無いじゃん。」
コレはもうお父様に訊くしか無いな。
「えー・・・と言う訳で自由行動の行き先なんだけど。」
「どういう訳?」
あたしは皆のツッコミを無視してお父様から返ってきた『お勧めピックアップ』を皆に発表した。
「先ずは『星皇ヶ原高原』で有名デザートを食べます。その後『レインモート遺跡』で歴史に触れてみます。その後『クインシアの滝』でお魚料理を食べます。あと時間があったら『ブランニュー通り』でショッピングをしたいと想います。」
「・・・」
みんなポカンとあたしを見上げてる。
何だよ、何か文句あるなら言ってよ。無言が一番怖いんだよ。
「凄い・・・。凄くまともな提案が出て来た。」
「うん・・・楽しそうで驚いた・・・。」
オマエラ。
「じゃあ、レインモート遺跡以外を全部回るって事で。」
「賛成。」
君ら、学習に対する向上心は無いのか?因みにあたしには無い。だからソレでいいや。
さあて。後は修学旅行を待つだけかな?




