S8 セーラの憂鬱 2
セーラ視点のお話の続きです。
次回から初等部2年生のお話になります。
宜しくお願いします。
私はヤマダ様の手を引き中庭に出た。彼女の思った以上に華奢な手を握りながら、私は胸を高鳴らせる。ヤマダ様が戸惑うように上げた声に私はハッとなって足を止める。
「強引に連れ出してしまってご免なさい。」
私は閑散とした中庭で静かにお詫びを口にする。
「あ・・・いえ。」
彼女は何故こんな事になっているのか理解出来ない様に戸惑いの視線を向けながら言葉少なめに返事を返してきた。そんな表情も愛らしい。
「驚いたでしょう?」
「ま・・・まあ。」
「・・・」
当たり前だけどぎこちない。
それはそうか。私は彼女を知っているけどヤマダ様は私を知らない。知らない人にこんな風に連れ出されたら怖いに決まっている。
そうだ。自己紹介しないと。
「あ、私、セーラ=ステイ=リーズリッテ。伯爵家の人間です。」
私がカーテシーをするとヤマダ様も慌てた様子でカーテシーを返してくれる。
「あ、あたしはヤマダ=ハナコです。」
もちろん知っている。
「知っているわ。ハナコ子爵家の御令嬢でしょう?ハナコ商会の1人娘ですよね。」
「よくご存知ですね。」
ヤマダ様は一瞬驚いたような顔を見せたけど直ぐにニコリと笑った。
憧れの笑顔を私に向けてくれたことが嬉しくて気持ちが高揚する。
「それはそうよ。だって貴女、有名人ですもの。」
私がそう答えると彼女は嬉しそうな顔をした後に驚きの表情を向ける。
「え・・・有名人って・・・何でですか?」
・・・呆れた。リトル=スターでどれだけ自分が注目されているか知らなかったんだ。男子達からは勿論だけど、女子からの人気もある。それこそ下手な男子よりも遙かに。
「貴女、アレだけ注目を集めておいて気付いてなかったの?」
「は、はあ。」
彼女は頭をポリポリ掻きながら面目無さそうな表情になる。
ホント、クルクルと表情が変わって面白い。思わず微笑んでしまう。
「いつもアビスコート様と一緒に居らっしゃるでしょう?それだけで注目の的よ。それに私もアビスコート様がとても愛らしく笑っていらっしゃるのを見て、ああ、貴女があの笑顔を引き出したんだなって思っていたわ。」
「・・・」
「それに1学期の定期考査。剣術の試験で男子を倒したでしょう?」
あ、顔が引き攣った。
「それと極めつけは、学園祭のリトル=スターよ。貴女の演じたロンディール様役はアビスコート様のアルテナ様役とセットで女子の間でとても好評だったわ。私も・・・ちょっと見惚れたもの。」
本当はちょっと処では無いけれど。
忽ち彼女の頬が紅色に染まる。
「そういう訳で貴女は有名人で、私は貴女を知っていたの。貴女は私を知らなかっただろうけど。」
私がそう言うと彼女はシドロモドロになりながら返してきた。
「え・・・いや、お・・・お隣のクラスの方だって事は知ってましたよ。」
・・・嬉しい。隣のクラスだった事を知っていてくれただけでも嬉しい。何か他にも私の事で知ってる事って在るのかな?
「それだけ?」
と私は意地悪っぽく訊いてみる。
「あ、いや、ええと・・・。・・・すみません。」
彼女は暫く何か思い出そうとしている様な素振りをしていたが、やがて項垂れると謝ってきた。
ホントに素直で可愛らしい方。
「冗談よ。意地悪を言ってみたくなっちゃっただけ。ごめんなさい。」
「・・・」
彼女は暫く私をボーッと見ていたけど慌てたような表情で口を開いた。
「リーズリッテ様は・・・」
リーズリッテ様・・・彼女に家名で呼ばれたくは無いな。ファーストネームで呼んで欲しい。
私は手の平を彼女に突きだして言葉を止める。
「セーラでいいわ。お友達になりたい人に家名で呼ばれるのは好きじゃないの。」
「!?」
私の要望にヤマダ様は驚いた顔を見せたけど、直ぐに従ってくれた。
「セ・・・セーラ様は・・・」
『様』・・・彼女に敬語は使われたく無いな。もっとフランクに話がしたい。
私は手の平を彼女に突きだして言葉を止める。
「『様』も敬語も要らない。」
「で、でも・・・」
流石に彼女は戸惑っている様だけど此処は譲りたくない。
「要らない。」
私はゴリ押しする。
「・・・セ・・・セーラは・・・。」
彼女はそう言って恐る恐ると言った表情で私を見る。・・・嬉しい。ヤマダ様が私を「セーラ」と呼んでくれている。私は思わずニッコリと笑ってしまう。
彼女もホッとした様な表情で話を続けた。
「・・・良かったの?あの御令息達を放っといて。」
ああ・・・さっきの事・・・。そうよね。彼女にしてみれば気にしてしまう処よね。とは言え、ウンザリした顔になってしまう。
ヤマダ様相手だからだろうか。理解してくれる様な気がして、つい本音が口から零れ落ちてしまう。
「いいの。ホントに毎度毎度、いい加減にして欲しいのよ。いつも家の自慢話ばかりで聴いていてちっとも楽しくないわ。」
ヤマダ様が『ああ・・・成る程・・・』といった表情になってくれる。良かった。やっぱりこの方は解ってくれると思った。
そんな事よりも。
「ねえ、その衣装。」
私はさっきから気になっていた彼女の衣装について訊いてみた。
セパレートのドレスに見える。上は制服に似たフォルムで黒、下も黒の膝丈までのフレアスカート。黒のドレスなんて凄く珍しい。少なくとも私達の年齢で身に付ける色合いじゃ無い。
そして特徴的なのが濃いオレンジ色の大きなエプロン。背中の部分にも大きな同色のリボンをあしらっている。
こんな色合いとフォルムの衣装は見た事が無かった。
「とっても斬新な色合いね。見ていて楽しくなるわ。」
私が誉めると、ヤマダ様は途端にニッコニコのとても愛らしい笑顔で話し出した。
「そうでしょ?秋の豊穣を感謝するコンセプトで作ったのよ。オレンジが秋の実りで黒が大地をイメージしているの。」
「・・・」
・・・射貫かれると言うのはこう言う時に使う言葉なんだろうか?私は彼女の発想に心を打ち抜かれた。
誰だってドレスは作るけど、いつでもその時の流行りのフォルムでドレスを作る。でも、感謝の気持ちを衣装に繁栄させてドレスを作るなんて事はしない。私だって考えもしなかった。
「凄いわ。秋の豊穣への感謝を衣装に繁栄させるなんて、とても素敵な考え方だわ。」
賞賛の言葉が自然と口をつく。
そんな私に彼女は見惚れてしまう程の素敵な微笑みを見せてくれた。余りにも美しい笑顔に私の胸が思い切り高鳴る。私は彼女から目を逸らした。
・・・ああ、やっぱり勇気を出してもっと早くから話し掛ければ良かった。そしたら、もっと素敵な思い出をたくさん作れた筈。
『あの方、とても楽しい方らしいわよ。』
『ヤマダ様って凄く話し易い方らしいですよ。』
クラスメイトの噂話を思い出す。
「・・・噂通りだわ。・・・失敗した。」
思わず呟く私にヤマダ様は訝しげな視線を向ける。
「セーラ?」
ハッとなって私は慌てた。
「な・・・なんでもないわ!」
顔が火照る。何だか恥ずかしい。話を変えよう。そうだ、ずっと確認したい事が在ったじゃない。
「それよりもね、確認したかった事が有るんだけど。」
「?」
小首を傾げるヤマダ様がとても愛らしくて増々顔が火照ってしまう。
「リトル=スターの時・・・」
「?・・・うん。」
「アビスコート様と・・・キスしてたでしょ?」
「・・・」
今度は彼女の顔が真っ赤に染まった。
「し・・・してませんよ。」
あ・・・コレはやっぱりしてたな?私はそう思って鎌を掛けてみる。
「私、見えてしまったのよ。唇がくっついているのを。結構、濃厚にしていたよね。」
「嘘!?客席から見える筈が・・・」
ヤマダ様はソコまで言ってハッとなり口を噤んだ。
確定。
「・・・やっぱりしていたのね。」
「・・・」
まるで劇の演技のように彼女はドサリと膝から崩れ落ちると両手を突いて項垂れた。
コレを本気でやってるから面白い。私はどうにも笑ってしまう口を微笑みに無理矢理ねじ曲げて彼女の肩に手を置いた。
「大丈夫よ、誰にも言うつもりなんて無いから。ずっと気になってたから確認したかっただけ。スッキリしたわ。」
彼女は恨めしげに私を見上げる。
予想以上に愛らしいその顔に私はゾクゾクするモノを感じてしまい、もっと弄りたくなってしまう。
「うふふ。そんな顔もするのね。」
私様は彼女の瞼をソッと指先で撫でてみた。
「貴女、私の思った通りとても魅力的だわ。」
興奮で乾いた唇をペロリと舌で湿らせて本音を呟いた。
「私もキスに興味があるの。貴女となら・・・してみたいわ。」
「え!?」
彼女の驚く顔を見て私もハッとなる。しまった。やりすぎた。・・・けど、彼女の反応が面白くてクスクスと笑い出す。
プーッと膨れる彼女の頬を突っつきたい衝動に駆られながら、私は改めて彼女を眺めた。
「ふーん・・・」
やっぱり身体は華奢だ。身体が細いせいで身長が高く見えるけど実際に近づいてみると私と変わらない。色白の肌が黒の生地に映えていてとても綺麗だ。顔の造りもかなり整っている。
言動のせいで普段は強調されて居ないけど、こうやって見ると凄い美人だ。しかも確りと出るところは出ている。・・・こんな子が本当に男子生徒を相手に剣術で殴り倒したんだろうか?
そしてビクビクと私を不安そうに見ている姿と男勝りのイメージとのギャップが相俟って、より悪戯心をそそられてしまう。
「貴女・・・」
そう言って微笑みながら、私は両手を伸ばして彼女の両の頬に触れた。そしてそのまま首筋を撫で両肩まで感触を確かめる様に撫で下ろす。
手が彼女の細い首に差し掛かった時に、小さな喘ぎ声が漏れてゾクリとなった。
彼女は顔を紅くして叫んだ。
「な・・・なんですか!」
「・・・肌がとても綺麗ね。胸も結構ある。ソレに意外と華奢なのね。色白だしとても美人だわ。」
「・・・」
「男の子を打ち倒したって言うからもっと確りとした体つきをしているのかと思っていたわ。」
「・・・」
彼女は複雑そうな表情になる。
私は構わず続けた。
「これなら・・・」
「?」
「・・・私でも押し倒せそう。」
「!?」
ヤマダ様の顔が信じられないと言った表情に変わる。
「セーラ!さっきから言ってることが酷いわ!そんなにからかわないで!」
彼女は顔を真っ赤にして私を咎めてくる。でも、もう私は彼女の愛らしさが堪らなくて。そしてこの時間が幸せ過ぎて。思わず笑い出してしまった。
「ごめんなさい、貴女の反応がいちいち可愛くて・・・」
「もう・・・」
ヤマダ様が少し眼に涙を浮かべて私を睨む。
ああ・・・そんな顔しないで。からかい過ぎたわ。私は少し慌てた。絶対に嫌われたくない。
「ゴメンね。キライにならないで。」
私は上目使いでヤマダ様を見上げた。忽ち、彼女の顔が朱に染まる。
「セーラって男の子にもそんな目線で見上げたりするの?」
ヤマダ様が私に尋ねる。
ん?どう言う事?
「なんで?・・・する訳無いじゃない。」
「ソレこそ、何で?その視線を送れば御令息なんて一発でしょう?」
あ・・・。
私は思い出した。
以前に侍女に忠告された事。
『お嬢様。その上目使いの仕草は心に決めた方以外には決して使われぬように。』
『なんで?』
『その仕草は殿方を一発で魅了してしまう力が在ります。非常に危険です。』
正直、何が危険なのかは良く解らない。ただの「お願い」の仕草なのに。
でも、彼女の言う事はいつも正しいので私はこの学園に入ってから一度もこの仕草をした事は無い。と言うよりも誰かにお願いする様な機会が無かった。基本的に逆に私がお願いされる事の方が多かったから。
すっかり忘れてたわ。けどソレなら、今ココにその封印を解きましょう。そして私は思い出した事を彼女に告げる。
「だからよ。自分で言うのも何だけど、この上目使いってかなり可愛く見えるらしいの。侍女に指摘されたわ。『気に入った殿方以外にその上目使いは控えろ』って。・・・だから男にこの視線は絶対に送らない。」
彼女は納得した様なしてない様な表情で取り敢えずは頷いている。
「ヒナちゃん?」
呼び声に振り返ると、其処にはもう1人の興味の対象者がコチラを見て立っていた。
私は感動に両手を口に当てて息を呑んだ。
マリーベル様・・・!
・・・なんて愛らしいのでしょう。ヤマダ様と同じ衣装を身につけて此方を見る様は、まるで妖精のようだった。そして何ヶ月も焦がれた彼女が初めて私を認識してくれた。幸せで理性がどうにかなってしまいそうだ。
「マリ・・・ーベル様。もう、終わったのですか?」
ヤマダ様が問い掛けるとマリーベル様が頷く。
「え・・・ええ。終わりました。エリオット様はご不在でしたが。」
鈴のように可憐な声が届いてくる。
マリーベル様が私をチラチラと見ている。自己紹介しなくては。と思っていたらヤマダ様が紹介してくれた。
「マリーベル様、こちら伯爵家の御令嬢でセーラ=ステイ=リーズリッテ様。先ほどお友達になって頂いたんですよ。」
嬉しい。お友達と言ってくれたわ。私はマリーベル様に向かってカーテシーを披露した。
「お声掛けさせて頂くのは初めてで御座いますね。セーラ=ステイ=リーズリッテと申します。セーラと呼んで頂ければ嬉しく思います。これから宜しくお願い致しますね、アビスコート様。」
本当は初めてでは無いけれど今まで彼女が私を認識していなかったのだから、初めてと変わらない。
私の挨拶を受けてマリーベル様もカーテシーを返してくれた。
「初めまして。セーラ様。マリーベル=テスラ=アビスコートです。私の事はマリーベルとお呼び下さい。コチラこそ宜しくお願い致します。」
ああ。嬉しい。何ヶ月も間、この日が来ることを夢見ていたわ。私は感動の余り、涙が出そうになるのを慌てて堪える。
マリーベル様はトコトコとヤマダ様の下に歩み寄ると、何やら言いたげな視線をヤマダ様に投げている。
「・・・」
ソレを見て私はピンと来た。やっぱりマリーベル様はヤマダ様が好きなんだわ。もちろんライクじゃ無くてラブのほう。
それにしても御二人が並ぶとまるで仲の良い姉妹の様でとても愛らしいわ。
「マリーベル様もヤマダ様と同じ衣装をお召しになられているのですね。お二人が並び立つと姉妹の様でとても愛らしいですわ。」
私がそう言うとマリーベル様が瞬時に反応した。
「え、そうですか?」
頬を染めるマリーベル様が可愛い。私は頷いて言葉を続ける。
「はい、ソレにリトル=スターの時のお二人はとてもお似合いで・・・本当の恋人同士の様に見えました。」
「そ・・・そんな・・・恋人同士だなんて・・・」
マリーベル様の顔が真っ赤になって両手を頬に当てる。可愛い過ぎる。そしてヤマダ様も頬が紅色に染まっている。
ああ・・・やっぱり両思いかぁ・・・。少しだけ胸が「チクリ」と痛む。
その後、ヤマダ様のクラスメイトの皆さんが合流して、私も楽しく会話に混ぜて貰った。みんな気さくで本当に久しぶりに楽しい時間が過ごせた。
その中でヤマダ様の愛称が「ヒナ」である事を知った。私はドキドキしながら訊いてみる。
「・・・では私もヒナと呼んでも良いかしら?」
「ええ、どうぞ。」
ヤマダ様・・・いえヒナはアッサリと許可をくれる。
「嬉しいわ。」
本当に今日は嬉しいことがたくさん起こる。パーティーが始まるまでの憂鬱な気分がまるで嘘の様だわ。
でも、楽しい時間はやがて終わりを告げるモノ。
私を探しに来たクラスメイト達に呼ばれて私は渋々と立ち上がった。
「では、また明後日。学園で。」
全員に視線を送ってそう言う。
解ってくれたかしら?全員に言ったんだからね。忘れないでね。
その夜の私は嬉しさに身悶えて全く眠る事が出来なかった。
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
それ以降、私の生活は楽しさで大いに潤う事になった。
そのお陰か心にも余裕が生まれてくる。楽しい事に貪欲なのは変わらないけれど、ソレをクラスメイトにも広めてみようという気になってくる。
余裕が無かった頃の典型が学園祭前の私だ。
あの頃は学園生活の変化に飢えていて一種の焦りがあった。またソレを誰とも共有出来ない不満も在った。だから、あの様に1人でムキになって調べ物をしたりしていたのだと思う。でも思い返せば私のあの態度は話し掛け辛かったと思う。
誰に謝るわけでも無いが反省するべき処よね。
だからヒナ達と話をしたりして楽しそうだと思えた事を、クラスメイトの御令嬢方を誘って真似てみたりする。
例えば町へのショッピングなんかがそうだけど、彼女達は町での買い物は基本的にはしない。商人を学園に呼んだりするのが王道だ。
仮に出掛けるとしても御令嬢達だけで出掛けるような事はしない。大抵は護衛の方を雇ったり、実家から専属護衛を呼んだりして付いて来させる。
ソレを敢えて御令嬢方だけで出掛けてみたりする。最初は不安がっていたクラスメイト達も、状況に慣れてくるとその開放感からか普段と違う一面を見せてくれたりしてとても楽しい。また身分を隠して質素なワンピースなんかに身を包むのもスリルがあって楽しい。
ヒナ達と触れ合う様になってから、私は如何に自分に工夫が足りなかったかを知る事が出来た。もっともっと知りたいと思う。
ヒナの事も、マリーベル様の事も。
或る日の放課後。
私は女子寮に帰ろうと廊下を歩いていると遠くにダークレッドの髪が見えた。私はヒナに走り寄ると声を掛けた。
「ごきげんよう。ヒナ。」
ヒナがクルリと振り返る。
「ごきげんよう、セーラ。今日はもう帰り?」
「ええ。貴女も?」
「うん。」
頷くヒナを見ながら私はマリーベル様が居ない事が気になった。
「ふーん。今日はマリーベル様は居ないのね。」
「うん。先生に呼ばれてお仕事中。」
「そう・・・」
そっか。残念だな。・・・あ、でも。ソレなら。
「ねえ。これから貴女の部屋に遊びに行ってもいいかしら?」
私はヒナにお願いしてみる。一度、ヒナのとマリーベル様のお部屋に行ってみたかったのよね。
「良いわよ、別に。」
ヒナが少し微笑みながら頷く。ヒナの微笑みは妙にお姉さんぽくて好き。
「ふふふ、やったぁ。」
私は遊びに行ける嬉しさとヒナの微笑みが見れた事が嬉しくてそう言った。
「さあ、どうぞ。」
ヒナに導かれて私は憧れの部屋に足を踏み入れた。うん、変に飾り立ててなくて良い感じの部屋だ。
ん?何だアレ?
私はリビングに置かれた妙なモノを見つめた。背の低い机に見えるけど、机面の下が布団の様なモノで覆われている。下には厚手の絨毯が敷かれているけど・・・何に使う物だろう?
「コレはなあに?」
私はソレを指差して尋ねた。
ヒナはニヤリと笑った。
「絨毯は土足厳禁だから靴は脱いでね。こうやって直に座るのよ。」
彼女はそう言って絨毯に直に腰を下ろすとソレの中に脚を入れてみせる。・・・え!?床に直に座るの!?
「・・・」
とは言えよ。ヒナの真似はしてみたいのよ。
私はヒナを真似て恐る恐るとソレにに入ってみた。
「どう?」
ヒナが私に感想を聞いてくる。
「・・・」
・・・。・・・うん。何か落ち着かないけど・・・。何だろう・・・。不思議な感覚だけど・・・。アレ?・・・結構良いんじゃないかしら?コレ。
私は感じたままを口にする。
「・・・うん。床に直に座るなんて初めてだけど・・・コレ、良いわね。ソレにテーブルに布団が挟んであるのも面白い。・・・ふふふ、面白いわ!これ!」
ヒナは嬉しそうに笑う。
「はい、コレ。」
ヒナはニコニコ顔で『ドン』とオレンジの入ったお皿を私の前に置いた。
「オレンジ?」
「そう。コタツに入ってミカンを食べるのが『フウリュウ』なのよ。」
「ミカン?フウリュウ?・・・意味が良く解らないけど・・・」
ちょっと言ってる意味が解らない。フウリュウって何?けどまあ折角勧めて貰ったんだし。私はオレンジを口に運んだ。
「はい、コレ。」
ヒナはニコニコ顔で『ドン』と濃いめの紅茶の入ったカップを私の前に置いた。
「・・・」
口に運んだけどかなり渋い。
「少し渋いわ。」
私が言うと、ヒナは満足げに頷いた。
「そう。コタツに入ってミカンを食べながら渋い紅茶を飲むのが『フウリュウ』なのよ。
ちょっと言ってる意味が解らない。さっきから言ってるそのフウリュウって何なの?
「さっきから貴女の言っている意味が解らないわ・・・」
そう言って私はまた紅茶を口に運んだ。そしてホゥと息を吐く。
晩秋の夕暮れ時の空が窓から見える。妙に静かだ。
「でも・・・何か落ち着くわね。」
私は呟いた。
「でしょ?」
ヒナはニコニコ顔で私を見ている。
彼女を見つめる。彗星のように目映い光を放って私の人生に突然現れたこの美しい少女。
見た目の繊細さとは裏腹に、その言動は令嬢の常識をいつも逸脱するような溌剌さに満ち溢れている。気さくで大富豪の娘で剣も強い。本当に中身が濃くて見ているだけで楽しい。
「・・・ホント、貴女って変わっているわ。」
「そう?」
「ええ、貴女と話していると貴族の御令嬢と話している気がしないもの。」
「そうかもね。」
彼女は苦笑いする。
「他の御令嬢と話をしていても、結局は殿方のお話か、家の自慢話か、流行りの噂話になって仕舞うのよね。同じ話を何度も何度も。」
「あー・・・うん。」
ヒナの「ソレはお気の毒」みたいな表情が心地良い。
「・・・そこいくと、貴女から聞く話しは、昨日何をしたとか、コレをやってみたいとかでしょ?聴いていて楽しいのよね。・・・若干、マリーベル様のお話が多いのは気になるところだけど。」
そう言うとヒナは少し口を尖らせながら言った。・・・え?何その表情?可愛いわ。
「でもソレを言うならセーラだって最初のイメージと違うわ。」
「そう?」
そうかしら?
「うん。だってあの時の貴女、御令息2人を凄く冷めた目で見ていたし。ああ、この子は凄く冷めた子か、男を魅了する清楚系小悪魔少女なのかと思ったわ。」
「こ・・・こあくま・・・!」
は!?・・・え・・・小悪魔!?・・・悪口?・・・じゃ無さそうだけど・・・。なんか凄い表現の仕方ね。
「・・・そんな酷い言われ方をしたのは初めてだわ。」
私が呆然と呟くと
「あ、ゴメン。」
とヒナはあっさりと頭を下げて謝ってくる。
私はクスクスと笑った。・・・もう、ホントに面白い。思わず呟く。
「ホント失敗したわ・・・」
もっと早く友達になりたかった。
ヒナは私の呟きが気になったらしくて
「ねえ、セーラ。失敗って何を?前もそんな事を言ってたよね。」
って訊いてきた。
私はヒナをみつめる。
「もっと早く友達に為ってれば良かったなって。」
ヒナは小首を傾げる。
「友達に為ったでしょ?別に失敗なんて・・・」
「違うの。」
私はヒナの仕草に顔を赤らめてソッポを向く。
「な・・・何が違うの?」
「・・・」
私はヒナをチラリと見た。胸が高鳴る。ああもう。自分の感情がまどろっこしい。もういい。流れに身を任せよう。
「もっと早く友達に為れてたら・・・もっと貴女の事を知ることが出来たのにって・・・。」
「あ・・・あたしの事?」
ヒナの顔が真っ赤だ。
「好きな事とか、好きな食べ物とか・・・」
私はヒナに躙り寄った。
「・・・好きな人のタイプとか・・・」
硬直するヒナに私は更に躙り寄った。
知りたい。もし貴女が本当に女の子でも大丈夫な人なら、私の事は受け入れてくれるんだろうか?彼女の真っ白な頬の向こうに紅色の唇が見える。重ねてみたい。
「ねえ。」
私はヒナの耳元に口を寄せて囁いた。ビクリとヒナの肩が震える。
「ヒナはどんな子が好き?やっぱりマリーベル様?」
驚いて私を見たヒナの顔に、私は顔を寄せた。
「チュッ」
彼女のスベスベした頬に私は口づけを落とした。
「え・・・」
驚きの声を漏らすヒナを見ながら私はスッと離れた。
ヒヨっちゃった。本当は唇にしようと思ってたのに。つい臆病風に吹かれてホッペにしちゃった。でも・・・やっちゃった。ヒナの顔を眺めながら私は自分の唇をペロリと舐める。とてもドキドキして思わず笑みが零れてしまう。
「ふふふ。キスしちゃった。」
「セ・・・セーラ・・・さん。」
ヒナが頬を染めてくれるのが嬉しくて私はつい本音を話してしまう。
「・・・本当は唇にしたかったのだけど、ちょっと躊躇っちゃった。」
「・・・。・・・も・・・もう。」
呆然としていたヒナが頬を膨らませる。
「ゴメンね。怒った?」
「お・・・怒ってないけど・・・ビックリした。」
怒ってないって。良かった。
「ただいま、ヒナちゃん。」
ガチャリと扉が開く。
マリーベル様が帰ってきたわ。私は少し気分が高揚する。
部屋に入って来たマリーベル様は私を見て足が止まった。・・・予想通りの反応だわ。やっぱり私がヒナと2人きりで居たのは面白く無かったかしら?
私は微笑んでマリーベル様を見た。因みにヒナは固まっている。
「セーラさん・・・いらっしゃい。」
マリーベル様は少し微笑んで私に歓迎の言葉を掛けてくれる。
「お邪魔してます。マリーベル様。お帰りなさい。」
私が挨拶を返すと
「ただいま・・・。」
と言ってマリーベル様は自室に入りパタンと入って行った。
「うふふ。」
私は彼女の恋する乙女らしい愛らしい反応を見て微笑んでしまう。
さ。・・・今日の処は引き上げましょう。
私は立ち上がった。
「さてと、私も帰ろうかな。」
「え、もう?」
「うん、充分に楽しんだわ。お邪魔虫は帰ります。」
「お、お邪魔って・・・」
「マリーベル様に宜しくね。」
私は顔を赤らめるヒナにそう言うと部屋を出た。
正直なところ、私は自分の気持ちが良く解らない。
マリーベル様は好き。いいえ、大好き。お疲れ様パーティー以降、言葉を交わすようになって彼女の可憐さや愛らしさにメロメロと言ってもいい。
それにヒナと違って彼女は私の感情をある程度察している筈なのに邪険な態度を取らない。基本的に彼女は私との会話を本当に楽しんでくれている。ソレがとても嬉しい。
そして・・・彼女の唇にも触れてみたい気持ちはある。キスじゃなくてもいい。指でもいい。触れてみたいんだ。
ではヒナは?彼女も好き。大好き。でもマリーベル様への『好き』よりもかなり強い気がする。何というか・・・その・・・彼女と一緒に居るとキスに止まらずドコまでも触れ合ってみたいと言う気持ちが沸き起こってくる。
実はさっきは本当に危なかった。もしあのタイミングでマリーベル様が帰って来なかったら、私は彼女を押し倒していたかも知れない。そのぐらい私の気分は盛り上がっていた。
・・・うーん・・・。私って気が多いなぁ・・・。っていうか女の子も大丈夫だったのかぁ・・・。まさか初めて好きになった子が女の子だなんて。しかも2人。
意外な自分の一面に気付いて私は『ソッチ』方面は気を付けようと思った。
聖夜祭まであと一ヶ月といった或る休日の午後。
『コンコン』と私の部屋のドアがノックされた。
「?」
私が扉を開けると、アイナさんとフレアさんが立っていた。思わず笑みが浮かぶ。
「あら、アイナさんにフレアさん。いらっしゃい。どうしたの?」
尋ねるとアイナさんが言った。
「ロビーのところでヒナとマリさんが何かやってるんです。見に行きません?」
「そうなの!?行くわ!」
私は直ぐに部屋を出た。
ロビーに行ってみると既に御令嬢方が集まっていて2人を見上げていた。ヒナとマリーベル様はハシゴの様な物に跨がって大きな木に何か飾りを付けていた。
何アレ!?何をやってるの!?凄く楽しそうじゃない?
「コレは何?」
私達はハシゴの下から2人を見上げて尋ねた。
「うふふ。聖夜祭を祝うモニュメントよ。」
「・・・!」
モニュメント!何て素敵な事をしているのかしら!?聖夜祭では家に祝いの飾りを付けたりはするけれど、こんな象徴的な物を作ったりはしない。
本当にこの2人の発想は喜びに満ち溢れているわ。
「楽しそう!」
私達が叫ぶと
「なら、飾り付けを手伝って。上はあたしとマリ・・・ーベル様で飾るから、下の方をお願いしたいのよ。」
とヒナが飾り付けを任せてくれた。
「分かったわ!」
私達は飾りの入った箱に走っていく。コレよ。こういう共同作業をしてみたかったのよ。みんなで1つの物を作って見たかったのよ。
マリーベル様が優しげな表情で他の御令嬢にも声を掛けている。
「皆様も、もし宜しければ下の方の飾り付けをしてみませんか?」
他の御令嬢方の表情も輝く。
「宜しいのですか?」
「勿論です。こういうのは皆でするのが楽しいですよね。」
頷くマリーベル様の表情は慈愛に満ち溢れている。
その瞬間、御令嬢方がキャーキャー言いながら飾りの箱に殺到していった。
「最後はヤマダ様にお任せします。」
マリーベル様がそう言い、ヒナは天辺に金粉を塗した大きな星を飾り付けた。
「やったー!」
夕日も沈みかかった冬の空に私達の歓声が上がった。ああ、楽しい!
翌朝、ツリーの所に行ってみると、何処から持ってきたのか彼方此方にテーブルと椅子が置かれていて御令嬢方がツリーを見ながら朝のティータイムに興じていた。
これは負けていられない。私もロビー横の倉庫から小さいチェアとテーブルを引っ張り出すと窓際に置いて腰掛けた。そして聖夜ツリーを見上げる。昨日は本当に楽しかった。また、ああいう事しないのかな。
私も色々と考えてみたいけど、とてもあの2人の発想力には敵わない。
「セーラさん?」
話し掛けられて視線を上げるとフレアさんとアイナさんが私を見ていた。
「あら、お早う御座います。」
私達は挨拶を交わした。
2人も倉庫からチェアを持ってくるとテーブルを囲む。
「ヒナちゃんとマリ様は?」
「2人は今日はヒナの実家に帰ってるわよ。」
・・・そっか。出来れば5人でツリーを眺めたかったな。2人の会話を聞いて私はボンヤリとそう思った。
「昨日飾ってて思ったんだけどさ。あのツリーのさ・・・所々ぶら下がってるお爺さんの人形は何なのかしらね?」
私がそう言うとフレアさんが頷いた。
「私も思ってた。綿が雪をイメージしてるのは解ったけど。鈴とかお爺さんとか良く解らない物も在ったよね。」
「・・・あの2人の発想を予測するのは殆ど不可能よ。訊くのが一番早いわ。」
うん、アイナさんの言う通りだ。
翌日、アイナさんの言葉は正しかった事が判明する。
「昨日、鈴とかお爺さんは何だろう?って話をしたでしょう?」
「ええ。」
「ヒナちゃん達に訊いてきたんだけど・・・」
フレアさんの言葉に多分私の目は輝いた。
「そうなんだ。で、何だったの?」
「聖夜ツリーの精霊よ。」
「・・・え?」
「あのお爺さん、聖夜ツリーの精霊なんですって。」
「・・・」
「・・・あの2人のセンスって・・・解らないわ。」
アイナさんのボヤきに私の肩の震えは止まらなかった。
「マリーベル様、ヒナさん。」
翌日、私は2人を見掛けて話し掛けた。
「アイナさんとフレアさんから聞いたわ。おのお爺さんの人形、ツリーの精霊なんですって?」
「そうよ。」
「・・・」
ダメだ・・・此処で笑ったら2人に悪い。なんて言おう?とても素敵な発想ね。・・・コレだ。コレしか無い。良し言うぞ。
「何よ、マリーベル様だってツリーにはコレしか無いって言ってるんだから。」
「アッハッハ。」
ダメだった。ヒナの追撃に私は堪えきれず声を上げて笑ってしまった。マリーベル様は真っ赤な顔をしている。ああもう楽しい。
「いいわ。本当に最高。マリーベル様とヒナは本当に楽しいわ。」
2人は微妙な表情をする。
「因みに今回のツリーの飾りにもコンセプトはあるの?」
「まあ・・・」
あ、やっぱりあるの!?是非訊きたいわ!
「綿は雪をイメージしているのでしょう?鈴は?」
「精霊のお爺さんのペットに付いている鈴よ。」
「・・・」
治まった筈の笑いのスイッチが再び顔を覗かせるのを感じて、ピクリと私の肩が震えた。
「ペ・・・ペットって?」
どんな動物の名前が飛び出して来るのか私はワクワクしながら尋ねた。
「トナカイ。」
・・・トナカイ。凄くまともな動物の名前が飛び出した。へー・・・。
「へー・・・まともね。トンデモナイ名前が飛び出してくると思ったのに。」
ヒナは複雑そうな顔になる。
「じゃあ、お爺さんの服の色が赤と白なのは何で?」
ついでに尋ねるとマリーベル様が教えてくれた。
「ロンディール様がアルテナ様に贈ったガーネットのブローチの赤と、アルテナ様がロンディール様に贈ったパンジーの花冠の白をイメージしたの。」
「!」
私の胸がときめいた。ソレって私が何度も読み返したブライダル=スターのお話じゃない!素敵!なんてときめくイメージなの!?
「素敵!!」
私はこのコンセプトに夢中になってしまった。女子寮のみんなにこの話をして回る。その結果、このコンセプトは忽ち女子寮全体に伝わっていった。
聖夜パーティーも後2週間といった頃、私は気付いたことが在ってアイナさんとフレアさんにソレを話した。
「確認しましょう。」
アイナさんの一声で私達はヒナ達の部屋にお邪魔した。
「ねえ、ヒナ。」
アイナさんがヒナに詰め寄った。
「な・・・何?」
「聖夜パーティーでもマリさんと2人で何かお揃いのドレスを着るの?」
ヒナとマリーベル様の顔に驚きの表情が浮かんだ。
「何でわかるの?」
「・・・やっぱり。」
私は頷いた。
「あたし達も同じのが着たいよ、ヒナちゃん!」
フレアさんが珍しく眉根を寄せてヒナに言い寄る。
そして私達はヒナとマリーベル様が着ようとしていた衣装を作って貰う事にした。凄く楽しみ。
「・・・ところでさ。」
ヒナが尋ねてくる。
「?」
「貴女達、あたしとマリがどんな服を着ようとしてるか知らないでしょ?ソレなのに注文しちゃって良かったの?」
「え?だって・・・」
フレアさんが私を見る。・・・ホント何を言ってるんだろう。
「貴方達2人が着る物でしょう?素敵に決まってるじゃない。」
コレが全て。
その後、定期考査が在った。私は5位だった。前回が7位だったから順位が上がってる。うん、コレで聖夜パーティーも心置き無く楽しめるわ。
「衣装、届いたよ。」
ヒナのお知らせが来て私達は放課後にヒナの部屋で初衣装合わせをする事にした。
衣装は2ピースのドレスだった。上は赤を基調とした薄手の絹でしつらえ、袖や服の裾にフワフワと白の綿毛をふんだんに使って飾っている。襟下は白いセーラーカラーに赤いラインを引っ張ってアピール。前は黒の大きなボタンで閉める。下は上と同じく、赤を基調とした薄手の絹でしつらえた膝丈までの短めのスカート。裾は白の綿毛で飾り付け。そして黒い革製のロングブーツ。
少しスカートの丈が短い様な気がするけど、白いフワフワの綿毛が愛らしさを強調されていて凄く可愛い。そしてその色合い。
「コレって・・・」
私は期待に胸を膨らませる。
「赤と白ってガーネットのブローチとパンジーの花冠?」
「そう。」
マリーベル様がニッコリと笑って頷く。やっぱり!
アイナさんとフレアさんも頬を紅色に染め上げる。
「素敵・・・!」
「みんなに良い縁談があります様にってね。」
ヒナがそう付け加える。
縁談かぁ・・・。ソレよりも私は今のこの御縁を大事にしたいな。
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
「ヒナちゃん、誕生日おめでとう!」
「おめでとう!」
マリーベル様の祝辞に私達が続く。
「ありがとう。」
ヒナも笑ってお礼を言う。
「やっと最後の1人が14歳になったね。」
フレアさんの一言にヒナが怪訝な顔になる。
「え?・・・最後?」
「そうだよ。ヒナちゃんが最後。」
「・・・え?・・・フレアは?」
「私、4月。」
「セ・・・セーラは?」
「私は9月よ。」
私が答えるとヒナは愕然とした表情になった。
「あたしが一番ちびっ子だったの・・・?」
変な一言を漏らしたヒナに私達は笑い出した。
「ちびっ子って。」
「もうちょっと言い方があるでしょう?」
もう・・・ホントにちょっとした一言が面白い。
そしてみんなでプレゼントを渡す。そしてマリーベル様がガーネットのブローチを渡すのを私は見逃さなかった。成る程・・・ブレないな、マリーベル様。
一応、私の贈った銀の髪飾りにも意味は在るんだけどね。まあ、いっか。
「へへへ。ちょっと、感動しちゃった。」
照れ笑いを浮かべながら目元を拭うヒナはとても綺麗だった。
さ、そろそろ聖夜パーティーの時間だ。
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
聖夜パーティーが始まった。
私達5人は同じ格好でパーティーに臨んだ。赤と白のドレスに身を包んで私達はご機嫌だ。
開催が宣言されて、出し物が披露され始める。
「じゃあ、行ってくるね。」
「行ってらー。」
ヒナの雑な返しに微笑みを向けてマリーベル様が舞台袖に入っていく。
公爵家、侯爵家の令息・令嬢で合奏をするらしい。
舞台に出てきた人数は高等部・初等部を合わせて12人。結構居たんだな。その中でマリーベル様はフルートを担当する。銀髪の美少女が銀色のフルートを吹くって素敵だわ。
演目は『しどけなき宵闇の連環』。私も大好きな曲だ。しかも確かこの曲ってフルートのソロが無かったっけ?
そう思っていたら舞台の演者達が楽器を下ろした。マリーベル様だけがフルートを吹き続ける。
マリーベル様は双眸を閉じて、まるで聴く者を眠りに誘う様な穏やかな顔で吹き続ける。キャンドルライトの灯るやや薄暗い舞台で銀髪を輝かせてフルートに口をつける姿は美の女神のよう。
「綺麗・・・」
私は彼女の幻想的な美しさに見惚れた。
やがて演奏が終わり、マリーベル様が戻ってきた。
パーティーは平穏に過ぎていく。私達5人はお揃いのドレスでパーティーを練り歩いた。楽しい。とっても。
そんな時に限って水は差されるモノ。
「セーラ。」
私を呼ぶ声に振り向くと、クラスの御令息達が不満そうな視線を私に送っていた。
「何故、俺達と回ってくれないんだ?」
私は軽く溜息を吐いた。
「私、今日はお友達とパーティーに参加すると言った筈ですけど?」
「俺達は了承していない。」
・・・了承って何? 婚約者ならともかく、何故、只のクラスメイトの了承なんか取らないとイケないの?
私は貴方達の所有物では無いわ。
「セーラさん、この方達は?」
とマリーベル様が尋ねてくれる。
「クラスメイトです。」
「・・・婚約者とか?」
とヒナが確認してくれる。
「ないわよ。」
「じゃあ、了承なんて不要なんじゃ?」
とアイナさんが疑問を提示してくれる。
「そうね。」
「セーラさん、はっきりと言って差し上げた方が良いと思うよ。」
とフレアさんが提案してくれる。
「そうするわ。」
4人に導いて貰って私は御令息達に微笑んだ。
「皆さん、誘って下さるのは有り難いのですが、本当に本日はこの方達と回ろうとお約束していたのです。衣装も同じにして貰ったんですよ。」
事実、格好が同じだから疑いようも無いはずだ。
「・・・」
でも御令息達は更に不満げな表情を色濃くしていった。なんでよ。
「それでは俺達はどうなる。」
・・・知らんがな。
私はだんだんイライラしてきた。とは言えクラスメイト相手だし出来るだけ穏便に断りたい。どうしようかな。
と、流石に困っていたら、絶好のタイミングでリューダ様達が登場してくれた。彼らは武術祭で圧倒的な成績を残していて、男子の中で一目置かれる様になっている。
その3人の視線を受けて御令息方は居心地悪そうな表情で立ち去って行った。
ふう。助かった。
結局、私達は8人でパーティーを楽しむ事になった。
そしてヒナをリューダ様に取られて2人を見ていた時だった。
「セーラさん。」
マリーベル様が私に話し掛けてきた。
「はい?」
私がマリーベル様を見ると、彼女は頬を染めながら微笑んで囁いた。
「楽しいですね。」
私はちょっとビックリした。
マリーベル様とも良く話はするけど、こんな他愛も無い事を彼女から言ってきたのは初めてなんだ。でも・・・何だか、凄く心が温かい。私はフワリと微笑んだ。
「はい。皆さんとパーティーが過ごせてとても楽しいです。」
何だか嬉しくて私は彼女の華奢な手をキュッと握ってみた。柔らかくて温かい。ああ、やっぱり彼女も好きだな。・・・ホントに気が多いな、私。
「え?」
マリーベル様は戸惑った様子で私を見上げる。
私は彼女に精一杯の親愛を込めて囁いた。
「それに、私、マリさんとも仲良くしたいなって思ってるんです。」
彼女は恥ずかしそうに笑った。
「はい、私も仲良くしたいです。セーラ様。・・・でも、ヒナちゃんは譲れませんよ?」
お、宣戦布告ですね。
「あら、負けませんよ?」
私はそう返す。勝ち目が無いのは解ってるけどね。でも、隙あらばキスくらいはしちゃうからね?
2人で宣戦布告の微笑みを向ける。・・・まさか宣戦布告した相手に自分も狙われてるなんて思って無いんだろうな。この可憐な美少女は。
そして2人でヒナを見ると、ヒナとリューダ様が微笑み合っていた。・・・そうだった。強敵は此処にも1人居たんだった。
私達を見て、ヒナがオドオドした様な表情になる。「なんでそんな顔してるの?」って言いたげな表情だ。
やがて聖夜パーティーは、今学期の終了を告げると共にお開きになった。
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その後も、『カドマツ』と言うモノを作ったり『ユキダルマ』なるモノを作ったり『ユキガッセン』なるモノをしたり、思い出を形に残す為に『ケース入りの人形』を作ったり、私はヒナ達と一緒に散々楽しい思い出を作った。
入学して1年。最初の頃の憂鬱な気持ちはドコへやら。今や毎日が楽しくて仕方が無い。来年度も楽しくなればいいな。




