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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター1 1年生編 / 一学期
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M4 五草会



 ・・・どうやらマリーベル様は友達作りに失敗したらしい。と、言うよりは友達作りをしていなかったようだ。入学式から2週間経ったけど、あたしが見る限り話し相手がいるようには見えない。


 まあマリーベル様は侯爵令嬢でクラスではずば抜けて高貴な身分の方だから、みんな遠慮して話し掛けてこないんだろうけど。


 でもクラスが打ち解けてきているなかで、1人ポツンは少し気の毒だな。




 そんな思いもあって、あたしは時々マリーベル様と話をする様になった。と言ってもマリーベル様は余りご自身の事は話したがらないので、あたしが一方的に二言三言話してお終いなんだけど。


いつ地雷を踏むか分かんないし、本当はコレだって遠慮したい処では在るんだけどさ。


なんか放っとけないんだよな。小っちゃい子がポツンと1人で居るのって。


いや、同い年なんだけどさ。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 双星祭《ツイン・スター=フェスティバル》・・・この国の守護神、運命を司る男神ロンディール様と出会いと喜びを司る女神アルテナ様。この夫婦神が出会ったとされる5の月に、王国は国を挙げてこの2柱の神の出会いを祝福する祭りを執り行う。


 学園もこれに合わせて、初等部、高等部の新入生達を歓迎する五草会を5月初日から2日間行う。あたし達が入学する前から、高等部の2~3年生が準備に取り掛かってくれていたらしい。・・・こんなイベント在ったっけ?




 イベントのスタートは高等部、初等部の生徒全員が大講堂に集まる。1000人が集まる様子は壮観だわ。


 ここに集まっているのは、貴族子女と各分野において優秀な素養を持つ高等部の平民子女達で『未来の中心になる子供達』なのか。


あたしが妙に感心してしまうなか、高等部の生徒会執行役員達が演舞台に立ち生徒会長が厳かに開会を宣言した。




 その後は演舞台にて剣技による演舞やコーラス、劇などの出し物が続いた。まあ文化祭のノリだよね。午前の時間はそうやって新入生達の気持ちをほぐしたところで、正午からは立食パーティが開かれる。




 大講堂を出ると広い園庭や小講堂など、至る所に食べ物を乗せた丸テーブルが幾つも置かれていた。屋外の丸テーブルには色とりどりのパラソルが据え付けられている。正装姿の給仕さん達が飲み物を用意して居たりと、当に貴族の開くパーティランチの様な様相だった。




 実はこの立食パーティこそが五草会の本番らしい。要はここで友達を作れって事なんだ。




 優しい式典だけど、「さあどうぞ」と場を整えられて直ぐに行動に移せる人間なんてそうは居ないし、そう出来る人はとっくに友達なんて作ってる。




 でも、そういう動ける人達が率先して然るべき行動を取ってくれるから、他のみんなも怖ず怖ずとそれに続いて動き出す。


 前世だと『陽キャ』なんて呼ばれてある意味では蔑まれたりする類いの人達に多いけど、何でも率先して動ける人って、やっぱり女子の目から見たらかっこ良く見えるよね。まあ、あたしにしてみると実は少し苦手なタイプでは在るんだけど。




 それは置いとくとして、次第に会場からはぎこちなさが抜けていき楽し気な談笑が聞こえ始めてきた。


「ハナコ様は何をお召し上がりになりますの?」


 友達の1人、フレア=カール男爵令嬢が話し掛けてくる。黄金の髪がクルクルと巻き上がった感じの可愛いお嬢さん。


「あたしは別に・・・フレア様は?」


「私はコレです。」


 フレア様が手にしているのはサンドウィッチだった。マフィンの間にハムや卵が挟んである。他にもブルーベリーの混ざったクリームを挟んだモノやクラッシュしたチョコレートが塗してあるオレンジのマーマレードが挟んであるモノもあった。


『美味しそう』


 ゴクリと生唾を飲み込む。


「うふふ、ハナコ様。お気持ちがお顔に出ていますよ。」


 あたしを見てそう笑うのはアイナ=シルバニー子爵令嬢。フレア様と同じ金髪でもアイナ様の髪は薄い金髪でクセが1つも無いストレート。フレア様はアイナ様の髪質をいつも羨ましがっている。切れ長の瞳と厚めの唇は年相応とは言い難い色気がある。この子ホントに13歳?って最初思ったなあ。




「あ、いや・・・お腹空いたし、アハハ。・・・アイナ様は何をお召し上がりになるの?」


 苦笑いして誤魔化し気味に尋ねるあたしに、アイナ様はそのお顔に似つかわしいニヤリ顔を披露される。


いや、その美貌でそんな笑みを浮かべられたらゾクゾクするんだけど。




「私、食事よりも、このパーティで目標を立てているんです。」


「目標?」


「はい、この機会に是非、有望な殿方を見つけたいんです。」




 ――おおう。言い切ったな。




「殿方・・・と言うことは『婚約者候補』を見つけたいと?」


「そうですわ。私、家の都合による結婚なんて嫌ですの。結婚は想い合った方とにしたいのですわ。」


 ああ、この子はまともな貴族令嬢なんだな。貴族の結婚を理解はしているけど乙女心も大事にしたいと言う事よね。うん大事。


「頑張って下さいませね。応援致しますわ。」


「有り難う御座います。ですのでハナコ様も御一緒に如何ですか?」


「はあ・・・あ?あ、いや、あたしは家訓でそういった事は勝手にするなと言われておりますのでご遠慮させて下さい。」


 サラリと巻き込まれそうになったあたしは勝手にこしらえた家訓を盾にお断りさせて貰う。


「あら、そうですの・・・残念だわ。ハナコ様は見目が宜しいから殿方を釣る・・・和やかにお話するのを助けて頂けると思いましたのに。」




 うん、今『釣る』って言ったな。聞こえてんぞ。まあいい。




 あたしはそれには答えずにライラさんお墨付きの『優美な微笑み』で返す。


「では、フレア様。御一緒に参りましょう。」


「え、いや私はお食事が・・・」


「ええ、とても楽しみですわね。」


 フレア様はまさかの巻き込まれに困惑しながらアイナ様に引き摺られていく。




 よし、色々と頑張れ。




 あたしは心の中でサムズアップを2人に送る。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 さっきフレア様は何処からあのサンドウィッチを持って来たんだろ?


うーん、しまったな。連れて行かれる前にフレア様に訊いておくんだった。




 あたしのお腹はすっかりサンドウィッチを所望する気分になってしまっていたため、辺りのテーブルをキョロキョロと見回す。


 ふと、1人の御令嬢が眼に止まった。




『マリーベル様だわ』


 あたしの中で愛らしさナンバーワンの侯爵令嬢が、1つのテーブルの前で熱心に何やら食べ物を口に運んでいる。白銀の髪とコマいお姿でモグモグと口を動かすその姿は正しくウサギだった。




 小動物の様な可愛さにあたしはフラフラと引き寄せられる様に彼女に近付いた。




「アビスコート様。」


あたしの声にビックリしたのかマリーベル様の肩が跳ね上がり、無言でゆっくりとこちらを振り返る。


「・・・ハナコ様。」


 口の中の物をモグモグさせて咀嚼すると、やがてマリーベル様はあたしの名前を呟いた。


「何をお召し上がりになってるんですか?」


 あたしが尋ねるとマリーベル様は手にした皿を見せてくれた。




 クラッカーの上にチーズとトマトとハムが乗っている。


『美味しそう』


 ゴクリと生唾を飲み込む。




 給仕の人に1皿頼むとあたしは無言でそのクラッカーを口に運んだ。その様子をマリーベル様がジッと見ている。


「!」


――美味しい!


何だコレ。美味い。美味すぎるよ。


パリパリしたクラッカーとハムの薄塩味の上で濃厚なチーズと甘い芳醇なトマトがワルツを踊っているよ。


「これ、凄く美味しいね!」


思わず素の口調が出てしまったがマリーベル様は嬉しそうに笑顔を見せてくれた。


「お気に召されたようで良かったです。」


 頬を染めるな。持って帰りたくなるから。




 あたしは邪気を取っ払って気持ちを正道に返すと微笑んだ。


「アビスコート様はお1人でいらっしゃるのですか?」


問い掛けるとマリーベル様は少し気まずそうに頷いた。




 うーん、どうすっかな・・・。


侯爵令嬢と子爵令嬢が一緒に会場を回るなんて奇異の眼を引くだろうな。でもな・・・。




 あたしは決めた。


「もし、アビスコート様が宜しければ一緒に回りませんか?」


「・・・。」


 マリーベル様が驚いたように双眸をまんまるにして、あたしを見上げた。


う、しまった。出過ぎたかな。


「ぜひ、喜んで。」


 ああもう。あたしは生まれてくる性別を間違えた。




 それから、あたし達は例のサンドウィッチを求めて会場を彷徨った。


案の定、周囲の・・・特に上位貴族である伯爵令嬢の方からは奇異の視線を向けられたが知ったこっちゃ無い。あたしがマリーベル様と一緒に過ごすと決めたんだから変更は無い。


それよりも、あたしはマリーベル様とパーティの雰囲気を楽しんだ。


マリーベル様も普段とは違って口数も多く楽しんでくれているようだ。




 目当てのサンドウィッチを発見して2人で楽しんだ後、あたしはマリーベル様を誘って学園の裏に来た。


 1度、学園内を探検した時に知ったんだけど。


この学園の裏はちょっとした小高い丘になっていて、見下ろすと王都の町並みが広がっているんだ。


こんな春の陽気の中では心地良い風も吹いてくれてとても穏やかな気分になれる。




「うわあ・・・」


 感動に思わず声を漏らしたマリーベル様を見てあたしは微笑んだ。


「とても綺麗です・・・」


 彼女の嬉しそうな顔に、あたしも笑って見せる。


「座りませんか?」


 あたしの提案にマリーベル様は頷いてそのまま草むらに腰を下ろした。




 他愛も無い話をしながら、あたしはどう切り出そうかと考えていた。ここ数日、彼女と言葉を交わすことで気付いた事がある。


でも、聞きにくいことなんだよな。


まあいいか。あたしはズバリ訊くことにした。


「アビスコート様。・・・なぜ誰ともお話をされないんですか?」


「・・・。」


 マリーベル様は驚いたようにこちらを見てからゆっくりと目を伏せた。


「不躾な事を伺ってしまい申し訳在りません。・・・でも、あたしにはアビスコート様が自分から皆さんを遠ざけているように見えるので、何か理由が在るのかと思いました。」




 静寂が訪れた。風の吹く音と小鳥の囀りのみが世界を支配する。




「私は・・・」


 マリーベル様はいつもの静かな口調で話し始めた。









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