S4 マリーベルの追想 1
マリーベル視点のお話ですが今回はちょっと長めです。
宜しくお願いします。
学園祭の季節になった。
私はとても楽しみだった。前世で触れた漫画や小説で描かれる学園祭のお話はとても楽しそうだったから。
みんなと協力して1つの作品を作りあげていくのは何て楽しそうなんだろう、といつも羨んでいた。そんな学園祭を私も遂に体験出来るんだ。
「ハナコさんは何かアイデアは無い?」
マルグリット先生がヒナちゃんに案を求めた。
マルグリット先生は何か議題などが在ると決まってヒナちゃんに話しを振る。
『ハナコさんを巻き込むと物事が上手く進むのよ。』
とは、以前に私が何の気無しに尋ねた時のマルグリット先生の返事だ。
そんな事とは露知らぬヒナちゃんはムチャ振りを迷惑がっている。・・・ヒナちゃんには言わない方が良いのかな?迷ってしまう。
「では、『仮装喫茶』は如何でしょう?」
やがてヒナちゃんが提案した内容に私は胸をときめかせた。
「・・・物語の英雄とか、女神様とか、妖精とか。そう言った実際には会えない、会うことが殆ど不可能な存在に仮装してお持て成しするんです。」
素敵!色んな作品に登場した仮装喫茶!メイド喫茶とか執事喫茶とか色々あったけどドレも楽しそうだった。
何かエロル様が横からゴチャゴチャ言ってたけど私は妄想が暴走して良く聴いていなかったし、仮装喫茶に決まったから問題無い。あ、あと、なんか楽団も呼ぶみたい。あんまり興味は無いけど。
それよりも、ヒナちゃんには何に仮装して貰おうかな!・・・何て勝手に妄想してしまうのは、自分でも気が早いとは思う。
そして、そんな妄想が暴走中のわたしと、特にその辺りに希望は無さそうなヒナちゃんへ、アイナさんとフレアさんがときめく提案をしてくれた。
何と、ヒナちゃんの仮装にリトル=スターのロンディール様を推挙。私の一番好きなお話だ。・・・何て素敵な提案なの。カッコ良くて綺麗なヒナちゃんにはピッタリだ。
リトル=スターを良く知らないヒナちゃんは
「男じゃん!」
って叫んでいたけど、仮装の対象が『男』神だった事に引っ掛かっていたみたい。
でも、ロンディール様は美貌の神様としても有名な神様なんだから問題無いんだよ、ヒナちゃん。
あと私への提案はアルテナ様だったんだけど、その時に知った小さな噂。私とヒナちゃんの仲が良すぎてみんなの目からは夫婦に見えるそう。・・・嬉しすぎて鼻血出そう・・・。
――その晩。
私はヒナちゃんから凄く真面目な顔で誕生日を訊かれた。8月14日だと告げてその日にファーストキスの贈り物を貰ったよって言ったら。
「・・・でも、あたしはそのつもりでキスしなかった。」
って物言いたげな顔で私に言った。
「・・・」
高揚する何かを感じて、私はヒナちゃんを見つめた。
――だったら・・・もう一度・・・
そう思った時。
「だから、今度はそのつもりで・・・」
ヒナちゃんがそう言ってくれた。
私はもう堪らなかった。
「うん、頂戴。」
このキスはヒナちゃんから私への誕生日プレゼント。・・・私があの日に勝手に誕生日プレゼントのつもりにしていたキスじゃない。愛しい彼女がそのつもりでくれるキス。
涙が出そうになる程、嬉しかった。
だから彼女の唇が離れそうになると感じた時。
――離れないで。
私はヒナの首に腕を回してヒナをもう一度引き寄せて、更に深く深く口づけた。
一瞬驚いたように固まったヒナに私は言った。
「もっと頂戴・・・」
時間を忘れて口づけを繰り返したあと、ヒナは私に言ってくれた。
「14歳のお誕生日おめでとう、マリ。」
私は幸せだ。
・・・なんて浮かれてたら劇に変更になってしまった。でも、演目タイトルはリトル=スター。しかも私とヒナちゃんがアルテナ様役とロンディール様役だ。
ヒナちゃんは渋ってたけど、私が引き受けて主役に決まった。まあ、その夜に私はヒナちゃんからお説教を喰らうんだけど、プリプリ怒った顔のヒナちゃんも可愛い。
衣装合わせの日。私は男装の麗人というモノの持つ破壊力を目撃する事になった。
御令嬢の皆さんに衣装の着替えを手伝って貰っていると
「皆様、お待たせ致しました。ロンディール様が降臨されました。」
とメイベル様の声が聞こえてきた。
「!」
一瞬も我慢できずに私は幕の内側から顔を出した。
ソコには信じられない程に美しい赤毛の麗人が立っていた。
黒いゆったりとしたカットソーがヒナちゃんの白く靱やかな肢体を際立たせており、薄い白地のタイツとロングブーツはヒナちゃんのスラッとした脚を依り伸びやかに見せている。
真っ赤な顔で恥ずかしそうに衣装を披露するヒナちゃんが余りにも可愛くて美しくて、私は一撃でノックアウトされた。凄い破壊力・・・。
あ、ヒナちゃんと目が合った。嬉しい。と思っていたらヒナちゃんが何か慌てた様な顔をしている。
――どうしたの?
と思っていたら、着替えを手伝ってくれていた御令嬢方から小声で声が掛かった。
「マリーベル様!今、裸なんですよ!それ以上出たら見えてしまいます!」
「!」
忘れてた!私は慌てて幕の内側に引っ込んだ。
私は取り除かれた幕の向こうのヒナちゃんを見つめた。
――側に行きたい。
その思いに引き摺られる様に歩き始める。ヒナちゃんに近づく毎に胸の高鳴りが大きくなる。顔が火照って仕方が無い。
そして私は彼女の前に立った。けど、彼女が美しすぎて胸が一杯で何て言って良いのか解らない。何も話し掛けられずに黙っているとヒナちゃんがスッと手を差し出した。私はその手に自分の手を無意識に乗せて傅いた。
『・・・美しい姫君。貴女の名前を聞かせて欲しい・・・』
「!」
ソレはロンディールが初めてアルテナに出会った時の台詞。ロンディールの恋の発露となる言葉。私はその言葉がヒナちゃんから私に向けられたことが無性に嬉しくて微笑んだ。
『・・・アルテナと申します。黒き貴公子様。』
まるで夢のよう。
でも・・・伝えなきゃならない事が在る。その後、ずっとヒナちゃんばかりを目で追っていた私だけが気付いたこと。多分、他のみんなは未だ気付いていない。
「・・・あのね、ヒナちゃん。」
夜、私は意を決してヒナちゃんに話し掛ける。
「なに?」
「・・・ヒナちゃんの衣装・・・タイツが薄地だね。」
「そうだね・・・」
「あれ・・・タイツ黒地にして貰った方がいいよ?」
「?・・・何で?」
・・・よし、言うぞ。私は顔の火照りもそのままに言葉を続ける。
「・・・下着のラインが見えてる・・・」
「え?」
うー・・・首を傾げる姿が可愛いよ。・・・いや、そんな事を言ってる場合じゃ無い。私はもう少しだけ大きい声で言った。
「下着のラインが見えてる・・・」
ヒナちゃんの顔が驚きの表情に見る見る変化していく。
「うそ!?」
教室でみんなと話すヒナちゃんの後ろ姿を見ていて気付いたんだ。立っている分には解らないけど、前に屈むと下着のラインが薄らと見える。
ソレを思い出すとまた顔が熱くなってきて、私は言わなくてもいい一言を付け加える。
「・・・凄いエッチだった。」
「!」
彼女は顔を紅く染めると、私の肩に手を置いた。
「?」
え・・・何?
「マリのスカートも、もう少し丈を長くして貰った方がいいね。」
「え?」
どうしたの?急に。
「屈んだ時にパンツ見えるよ。」
「うそ!?」
今度は私が声を上げるハメになった。
ううん。ソレよりもソレをヒナちゃんが言うって事は・・・。
「・・・見た?」
「・・・少し。」
ヒナちゃんは視線を逸らして答える。
「・・・!・・・!・・・!」
私は恥ずかしさで暫く悶えた。
知らないうちに見られていたなんて!しかもヒナちゃんに!今日、どんな下着穿いてたっけ!?変な下着じゃなかったよね!?
そんな私をヒナちゃんは生暖かい微笑みで見つめていた。やめて。そんな目で私を見ないで。
学園祭の準備は想像以上に大変で楽しかった。次々起こる問題と仕事の量にヒナちゃんはウンウン言いながらそれでも処理をしていく。私も沢山の意見を求められ、解決に協力させて貰った。
「マリが居て助かるよ。」
ヒナちゃんの一言がとても嬉しい。
そんなヒナちゃんにエロル様一派が文句を付けた。本番3日前、あろう事か自分達を主役に付けろと言い出したのだ。出来る筈が無い。ヒナちゃんも断っていた。すると盛大に文句を言い出したんだ。私はムカムカしながら聴いていた。
そしてその中の一言。
『所詮は金だけのエセ貴族が。』
この一言に本当に頭に来た。ヒナちゃんだけで無く、あの素敵なご家族までも馬鹿にする発言が許せなかった。
私は忌み子であっても侯爵令嬢でこのクラスでは一番身分が高い。クラスの揉め事に積極的に口を出すのは宜しくない。・・・でも我慢できない事だってある。
「いい加減になさいませ!」
多分、学園に入って初めて私は皆の前で怒りを露わにしたと思う。
「先ほどから黙って聞いていれば、何を道理の通らない事ばかり仰っているんですか?」
「アビスコート嬢・・・」
勢いよく喚いていたエロル様一派が途端に大人しくなった。さっきまでの勢いはどうしたのよ。でもそんな態度を見せても今更私は許す気は無い。
「そもそも当日の宣伝だって大切な役割です。演者以外の皆さんは全員で行うんですよ?ソレに不満を述べる等と、貴男方は共同作業というモノを何と心得ているのですか!?」
「・・・」
動揺する彼らを私は睨み据える。
こんな私の表情、ヒナちゃんには見せたくなかった。怖がられてしまうかな?私は怒りを見せた事を少しだけ後悔した。
でもその日の夜。
部屋に戻ったヒナちゃんは笑顔でお礼を言ってくれた。
「マリ、今日は助けてくれてありがとう。カッコ良かったよ。」
「!」
まさかカッコ良いなんて言って貰えるとは思って無くて私は驚いた。
「・・・えへへ。いいのよ。」
でもとても嬉しい。そして照れ臭い。
「でも急に本気で怒り出したからビックリしたよ。」
ヒナちゃんが笑いながら言うので私は口を尖らせた。
「だって、あの人達、自分が悪いクセにヒナちゃんの事を悪く言うから・・・頭にきて・・・」
そこまで言ったらヒナちゃんはギュッと私を抱き締めてきた。
「!?」
え、どうしたの!?
「ヒナちゃん・・・!」
私が驚いて彼女の名を呼ぶと、ヒナちゃんはしっとりと私の耳元に囁いた。
「・・・ありがとう。とっても嬉しいよ。」
全身をゾクゾクと震わせながらも私は頷いた。
「・・・うん。」
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
学園祭『グラス=ベル=フェスティバル』が始まった。
あたし達は舞台を披露するべく小講堂に向かう。みんなで緊張した面持ちで「頑張ろうね。」と声を掛け合い励まし合っていると舞台袖から客席を覗いていたヒナちゃんがみんなに声を掛けてきた。
「ねえ。」
どうしたんだろう。何か声が緊張している様に聞こえる。
「どうしました?ヤマダ様?」
「・・・席が足りない。」
「「「え?」」」
私達全員の問い返す声がハモる。
「立ち見客が出ちゃってます。・・・ざっと30人くらい。」
「うそ、40席は用意してありますよ。」
「・・・あと倍くらい必要そうです。」
その後、椅子の調達にエルロア様達が走って行き、立ち見のお客様方に皆が説明をしに行った。
アクシデントがみんなを緊張させてしまったみたいだ。どうしよう。これじゃ、劇が失敗するかもしれない。みんな一気に不安な顔になってしまう。
その時。
「ふ。」
漏れる笑い声を私は隣で聴いた。
「ふふふ。」
ヒナちゃんは笑っていた。
「ヤマダ様?」
尋ねるみんなにヒナちゃんは笑顔を向けた。
「ごめんなさい。でも・・・何だか楽しくって・・・ふふふ。」
「・・・」
何が楽しいんだろう。
ヒナちゃんはキョトンとする皆に話し続ける。
「こんなハプニングが起こるからこそお祭りなんですよ。ああ・・・何だかやっと学園祭が始まるんだなって思えてきました。楽しくなってきましたね。」
・・・この人はなんて動じない人なんだろう。こんなハプニングでさえ楽しんでいるヒナちゃんの頼れる姿に私は見惚れた。
・・・そして彼女の言う意味が少し理解出来た。確かに全てが思い通り運んだら面白みが足りないかも知れない。
それにしても急に笑い出すなんて・・・。私はワクワクして来た。そしてヒナちゃんと一緒に笑ってしまった。みんなも笑い始める。
大丈夫。何が起きてもこの人が居ればきっと何とかなる。
そして開演。
既に舞台に上がっている戦神ニケイア役のエリオット様と光の神アーレ役のリューダ様は、主に女性の黄色い歓声を浴びながら演技に入っている。
流石の人気だと思う。
そしてロンディールの、ヒナちゃんの出番だ。
「ヒナちゃん、頑張って。」
私が小声で応援するとヒナちゃんは微笑んだ。
「マリ、舞台で待ってるよ。」
その自身に溢れた素敵な笑顔にキュンとなった。まさしく彼女はロンディール様だった。頬が紅くなるのがわかる。私も暫くしたらあの舞台に立つのだ。ヒナちゃんの待つあの舞台に。
ヒナちゃんが舞台に立つと、その中性的な彼女の美しさに驚いた女性客の声が響く。
そして私の出番。
『どうかされましたか?』
精一杯の声を張り、小首を傾げた。ヒナちゃんとの共演に心が跳ねる。
私が屈むとヒナちゃんの顔が朱に染まる。・・・凄い。演技に入り込んでいる。
『・・・美しい姫君。貴女の名前を聞かせて欲しい・・・』
『・・・アルテナと申します。黒き貴公子様。』
私も負けじと演技を続ける。
舞台後半。
傷つき返事をしないニケイアを前にアーレは自分の想いに気付き、泣きながら抱き締めるシーンが来た。ヒナちゃん曰く、乙女的にこの2人のクライマックスだ。リューダ様がエリオット様を抱き締めるのだ。
『ああ・・・私のニケイア・・・』
リューダ様の高めの声が小講堂に響き、横たわるエリオット様を抱き締める。
「!!」
明らかに客席から声にならない黄色い悲鳴が聞こえた。
「・・・」
そして舞台袖の女性陣は私も含めて声も無く、口をポカンと開けて魅入った。
確かに、コレ・・・ヤバいかも。私は慌てて口元を啜った。そこかしこから、同じように啜る音が聞こえる。
「・・・セリフ飛んじゃった・・・」
メイベル様が呟き、慌てて台本を取りに行く。
場面は再びロンディールとアルテナのお話。交友を重ねる2人が、その触れあいの中で甘酸っぱい感情を密かに育てていき・・・クライマックス。
ロンディールからアルテナへの告白のシーン。そして口づけのシーン。
劇だと分かっていても胸が高鳴る。顔が熱い。舞台の熱だけじゃ無いのなんて分かってる。演技とは言え、ヒナちゃんに恋心を告白されるなんて・・・。私は抑えきれない喜びを込めてヒナちゃんを見つめた。
『・・・どうか私の側に居て欲しい。君が好きだ、アルテナ。』
演技だと分かっていても嬉しい。視界が少しぼやけてしまう。
『私もお慕い申し上げます、ロンディール様。』
ヒナちゃんは私を優しく引き寄せてそのまま抱き締めた。口づける時にホントに唇と唇が触れてしまわない様に間に挟む小さな紙が・・・ヒナちゃんの手からそっと離れた。紙はあたし達の間を舞って床に落ちる。
「!」
私はソレを目で追って驚いた。だって・・・ワザと離した様に見えた。ヒナちゃんは小さく私の耳元に囁いた。
「ごめん、落とした・・・」
私はヒナちゃんの声を聴いてやっぱりワザと落としたんだと確信した。だから嬉しくて。
「いいよ、きて・・・」
私も囁き返した。
3度目のキスは舞台の上。
皆が見ている中で、私は胸を高鳴らせた。なんで彼女がそんな事をしたのか解らない。でも、だからこそ尚更、私は情熱的に彼女の唇を求めた。
「え?・・・ホントにキスしてるの?」
とざわめく声が客席から聞こえてくる。
前よりも熱く湿った彼女の唇が私から静かに離れていく。私は離れていく唇に名残惜しさを感じながらヒナちゃんを見つめた。
「・・・とても嬉しいです、ロンディール様。」
私は本心を込めて声を絞り出した。
リトル=スター公演の初回は大成功の内に幕を下ろした。
我慢できずに私はヒナちゃんに近づくと小声で尋ねた。
「ヒナちゃん、紙を落としたのはホントにうっかり?」
ヒナちゃんはそっぽを向いて答えた。
「・・・わざと。」
「そっか。」
幸せだ。
そして2日目。
着替えを終えた後、私は確認したくてヒナちゃんに近寄った。
「・・・ヒナちゃん。」
私は頬が熱くなるのを感じながらヒナちゃんを見上げた。
「・・・なに?」
「今日も紙を落としてしまいそう・・・?」
ドキドキしながら訊いてみる。
「お・・・落とさないよ。」
「・・・そっか・・・」
顔を逸らすヒナちゃんの答えにガッカリする。
そして事件発生。リューダ様の衣装が誰かの手に因ってダメにされた。みんなが青ざめるなか、アイナさんの機転でどうにか場は整えられた。・・・けど犯人は誰なんだろう。
・・・この学園祭の間、ずっとエロル様達を見ていない。・・・いや、でも幾ら何でもソレは無いだろう。とにかく舞台に集中しよう。
ハプニングが発生したにも関わらず、みんな動揺しないで順調に舞台は進行した。
そしてキスシーン。やっぱりヒナちゃんは宣言通り、紙を落とす気は無いようだった。
そっか、やっぱり落としてくれないか。折角のキスシーンなのに。あんな紙切れ一枚に邪魔されちゃうのか・・・。・・・そんなの絶対イヤ。
自分でも驚くくらいに私の中で高揚感が募った。ヒナちゃんが私の頬に手を添える振りをしながら紙を間に挟もうとする。私はその手の動きに合わせてヒナちゃんの首に回していた左腕を外し、指先で「ピン」と紙切れを弾いた。
ヒナちゃんが驚いた顔をして
「マリ・・・」
と言い掛けるより早く、私はヒナちゃんを引き寄せてその綺麗な唇に自分の唇を重ねた。柔らかな感触が私を支配する。ヒナちゃんは私の強引なキスに一瞬だけビクリと震えたけど、その後は私のキスにずっと応じてくれた。ヒナちゃんの鼓動が激しく高鳴っているのが良く分かる。多分だけど、私の鼓動もヒナちゃんは感じているんだろうな。
「え・・・ホントにしてる?」
「ホントにしてない!?」
客席のザワめきも気にせず、私達は永遠とも思える口づけを交わすとゆっくりと顔を離した。そして何食わぬ顔で演技を続ける。心臓のバクバクを懸命に押さえながら。
客席のザワめきも収まらぬ中、2回目の公演も終了を迎える。拍手は喝采だった。客席に座った生徒の半数が席を立たない。
午後の公演までは休憩時間。私はヒナちゃんが怒ってないか気になって彼女に近づいた。
「ヒナちゃん、ごめんね。怒ってる?」
私は怖くてちょっとおっかなびっくりにヒナちゃんに訊いてみた。ヒナちゃんは笑ってくれる。
「別に怒ってないよ。でも、どうして急にあんな事したの?」
私はホッとして正直に答えた。
「だって、あんな紙1枚に邪魔されるのはイヤだったんだもん。」
3回目の公演。これがラスト。
「みんな、これが最後です。頑張りましょう。」
ヒナちゃんの掛け声に私達は頷く。
ヒナちゃんが私を見てペロッと舌を出しながら笑ってみせた。私も同じ様にテヘッと笑って見せた。
実は休憩時間にキスシーンに指導が入ってしまったんだ。
最初は本当にキスしているのかとマルグリット先生に疑われていたらしい。なので、ちゃんと紙を間に挟んでいると弁解したら『まあ、女の子同士だしね、本当にする筈も無いわね。』と納得され『演技に熱が入るのは良いけど、あんまり際どい演技はしない様に。』と言われた。
まあ、最後くらいみんなで決めた通りにやろう、とヒナちゃんに言われて納得したんだ。
そして3回目・・・も、無事に終了。勿論キスシーンでは紙を間に挟んだ。残念ではあったけど。
お客さんが帰った後、私達は全員で拍手をし互いの頑張りを褒め称えた。
「ハナコ嬢。」
エリオット様が一歩踏み出してヒナちゃんに声を掛けた。
「はい?」
「今回の学園祭の成功は貴女がもたらしてくれた物だと思っている。奮闘してくれた貴女に感謝をしたい。楽しい思い出をありがとう。」
「・・・え、いや、そんな・・・。・・・みんなが頑張ったからです。あたしは切っ掛けを作っただけです・・・。」
そんな事無い。エリオット様の言う通り、ヒナちゃんが一番頑張っていた。ヒナちゃんが居なかったらこの舞台は成功しなかった。
「あたしこそ、こんなに楽しくなるとは思っていませんでした。本当に・・・有り難う御座います。」
頭を下げた途端に、ヒナちゃんの眼から涙が零れ落ちた。
その美しい涙に私は見惚れてしまう。なんて素敵な人なんだろう。私はフレアさんと左右から嗚咽を押し殺すヒナちゃんの肩と背中をポンポンと優しく叩いた。
その様子を見て、エリオット様はみんなに声を掛けた。
「さあ、明日は休日だ。確りと身体を休めてまた明後日から頑張ろう!」
「おおっ!」
陽気な声が舞台袖に響いた。
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
寮に戻った後、私はもう着ることの無い衣装を見つめた。思い出のたくさん詰まった衣装だ。そして「ポン」と置かれたヒナちゃんの衣装。
「・・・」
せめて最後にもう一回だけ2人で着たいと思った。
私はヒナちゃんの衣装を掴むと洗い場に移動して衣装を洗い始める。夕飯は間に合わなくても、寝るまでには乾いてくれる筈。その思いも込めて自室の暖炉に火を入れて衣装を干した。
そして就寝時。
私はドキドキしながらヒナちゃんに提案した。
「今日だけ、衣装を着て寝ようよ。」
「え?・・・でも」
ヒナちゃんは戸惑った様に言ったけど、
「もう、しょうがないな。いいよ。」
って笑って頷いてくれた。
やったぁ。これで今晩までは私とヒナちゃんは夫婦のままだ。
衣装をみに纏ったヒナちゃんが私のベッドに潜り込む。私も白いカットソーとミニスカートを穿いてヒナちゃんの隣に潜り込んだ。
「疲れたね。」
「うん、でも凄く楽しかった。」
本当に楽しかった。妄想していた学園祭よりも遙かに。
ヒナちゃんが私を見て微笑んだ。
「ふふふ。でも、マリはよっぽどその衣装が気に入ったんだね。コレ着て寝ようって言われるとは思わなかったよ。」
「うん、大事な思い出が詰まった衣装だもん。出来るだけたくさん着ていたいなって思うの。」
私は頷く。それに・・・夫婦で居られるから。
「それに・・・この衣装を着ている間は『夫婦』だし。」
言ってしまってから恥ずかしくなる。
「・・・」
ヒナちゃんは目を瞠って私を見た。そして何も言わずに顔を背けると視線を天井に向けてしまう。
・・・イヤ・・・だったのかな。心に氷の礫が落とされた気がした。
「明日はお休みだってさ。マリは何したい?」
「・・・」
でも・・・今更、私は諦める事なんて出来ない。ヒナちゃん、どうか私で一杯になって。
私はゴソリと上半身を起こすと両手でヒナちゃんの両手首を掴んで見下ろした。
そしてもしフラれるなら本気でフラれてしまいたい。
「・・・ヒナ。・・・明日の事より・・・『今』私が何をしたいかは訊いてくれないの?」
私は想いを込めてヒナに囁いた。
「マリ?」
ヒナは驚いた顔で私を見上げる。
「私はね・・・」
そう言って私はヒナに顔を近づけた。
コレで5回目。ヒナは私を拒絶しなかった。それどころか精一杯応えくれて、私の口づけを受け入れてくれた。
・・・私の勘違いで良かった。泣きそうになるくらい嬉しさが込み上げる。本当は今夜はこんな事をするつもりは無かった。でも、もう遅い。私は盛り上がってしまった。
ヒナの柔らかな唇がとても熱く感じる。湿った唇があたしの感情を上気させる。唇を一度離すと、私はヒナの唇をチロチロと舐めた。
「・・・うぁ・・・」
ヒナの声が漏れ、彼女の両手がピクリと動いた。
「ヒナ・・・」
私はヒナの名を囁く。
頬を紅に染めて悶える彼女が美しくて、愛しくて。私は、もうキスだけでは満足出来なかった。もっと彼女に触れてみたい。
だから言った。
「・・・もう少しだけエッチな事してもいい?」
ヒナはしどけない表情で私を見て訊いてきた。凄く艶っぽい声で。
「・・・もう少しって・・・何をするの?」
「・・・」
私は黙って片手をヒナの手首から離した。そして離した手をヒナの背中に回してそのまま下に手を移動させる。やがて手はタイツの上からお尻に触れた。
「!」
ヒナがビクリと震える。
「マ・・・マリ!」
慌てるヒナがとても可愛くて私はクスクスと笑った。
「ほら、下着のライン。」
私はそう言うと彼女の下着のラインを指でなぞった。
「そんなにハッキリと判ってたの?」
ヒナがビックリして訊いてくる。
私は首を振った。
「ううん。良く見ないと判らないよ。」
「でも、マリは気づいて・・・」
「私はヒナをずっと見てたから気づいたの。」
私は軽い口づけを何度もヒナの口に、頬に、首筋に落とした。そうしながら、もう片方の手をヒナのタイツの中に滑り込ませて彼女の太ももを撫でてみた。とてもスベスベして心地良い。
「ま・・・マリ!・・・恥ずかしい!」
ヒナに言われて私は残念に思いながらも手をタイツから抜いた。でも、これで終わらせたくない。
「・・・ヒナ。」
私はヒナの名を呼ぶと「もう少しだけエッチな事をさせてね」と笑みを浮かべて見せて、ヒナのユルユルの服に下から手を差し込んだ。
「!」
ヒナの身体がビクリと震える。
「衣装着て寝ようって言ったのはこうしたかったから?」
彼女が潤んだ瞳で尋ねてくる。
そんなつもりは無かったけど、今ヒナにしてる事を前にして「違う」なんて言葉は意味が無い。でも「そうだ」とも言えない。
だから私は黙って微笑んだ。
私は指をヒナのお腹に這わせてみる。多分、私のしたい事はヒナなら解ってると思う。でも彼女は吐息を漏らし、声を上げながらも抵抗しなかった。
・・・だから私はそのまま手を上に這わせた。
そして・・・私の手がヒナの膨らみに触れた。大きい。そして柔らかくて温かかった。ヒナがここまで私を受け入れてくれた事が嬉しい。そして触れてみたかったヒナの身体に触れられた喜びに私は今までに無い高揚感を感じた。
私は傷付けない様に優しくその手を動かす。いつもカッコ良いヒナが今は愛らしく声を上げて身を捩る。
「ヒナ・・・可愛いよ。」
私は堪らなくてヒナの耳元に囁いた。
口づけて、胸を撫で、彼女を抱き締める。
やがて私はヒナから離れて彼女の横に身を戻した。ヒナは荒い息を吐きながらグッタリとしていたけど暫くすると私を見た。その蕩けた様な表情が愛らしくて微笑んで見せる。
するとヒナは少しむくれた様な表情をして
「マリ、まさかコレで終わりじゃ無いよね?」
って言った。
「え?」
私はヒナちゃんの言った意味が解らなかった。
――・・・終わり・・・だけど?
ヒナちゃんは私に構わず、上半身を起こして私に覆い被さった。
「ヒナちゃん?」
彼女の動きに驚く私にヒナちゃんは囁いた。
「今度はあたしの番だよ、マリ?」
「ヒ・・・ヒナちゃん・・・」
私はヒナちゃんの言った意味を理解した。
私のターンは終わりで今度はヒナちゃんのターンって事だ。ソレはホントに考えて無かった・・・。
「ふふふ・・・。どうしてあげようかな?」
「・・・」
私の中に「何をされるんだろう」と言う戸惑いと「何をしてくれるんだろう」という期待の相反する感情が宿る。
ヒナちゃんは私に顔を近づけるとその唇に軽く口づけた。そして私の首筋や鎖骨の辺りへも口づけを落としていく。
私はしばらく我慢していたけど堪らずに
「あっ」
と声を漏らして口を開けた。
ソレを見たヒナちゃんは私の開いた口にキスをしてきた。・・・そして何かが私の中に入ってくる。
「!」
私の全身がビクリと震えた。コレ、ヒナちゃんの舌だ。ヒナちゃんの舌が私の口の中に入ってきている。何コレ!
最初は驚きの余り何も出来なかった。でも・・・状況に理解が追いついてくると、私は初めて経験する快感に溺れた。やがて私も恐る恐るヒナを真似て彼女の舌に自分の舌を絡めてみる。
「・・・ふ・・・う・・・」
時々漏れてしまう私の声にヒナは反応して増々激しく攻めてくる。絡む舌の感覚に恍惚となりながら私達は互いを求め合った。
やがてヒナは私から口を離した。
荒い息を吐きながらヒナを見上げる私を彼女は眺めている。やがてヒナはそのまま片手を私のスカートに伸ばして手を入れてきた。そして私の脚をそっと撫でる。
「!」
私は一瞬で覚醒した。恥ずかしい!さっきのヒナちゃんもこうだったのか!真っ赤な顔でブンブンと首を振る。
ヒナは直ぐに手を離すと、私の上着に下から手を入れてきた。
「・・・」
手をお腹に這わせてくる。直ぐにヒナのやろうとしている事が解った。期待に胸が高鳴る。
ヒナの手が私お腹を這って・・・やがて膨らみに届いた。
「!」
思わず仰け反る。ヒナはゆっくりと手を動かしてくる。初めて触れて貰った。その喜びと快楽に思わず吐息を漏らし、小さく声をあげてしまう。
「・・・ヒナ・・・」
彼女の名を呼びながら私は身を捩らせ、吐息を漏らし、ヒナの手の動きに全てを預けた。
やがてヒナはソッと手を離した。
「ハァ・・・ハァ・・・」
息が荒い。身体に力が入らない。そんな私の耳元にヒナが囁いた。
「気持ち良かった?」
そんな事訊かないで。でも、直ぐに嬉しさがソレを上回り私は照れ笑いをして頷いた。
「うん。」
ヒナも嬉しそうに微笑んでくれる。
「マリ、可愛かったよ。」
嬉しい。
「ヒナも凄く可愛かった。」
私はガバッと愛しい人に抱きついた。ヒナも私の背中に手を回す。2人で脚を絡ませて抱き合って眠る体勢に入る。
ベッドの柔らかさとヒナの温かさがあたしの身も心も満たしていってくれる。
「えへへ。」
私は笑った。
「何?」
ヒナちゃんが尋ねるので私は答える。
「ヒナちゃんのおっぱい触っちゃった。」
彼女は照れ臭そうに言った。
「・・・もう、そう言う事は言わなくていいから。」
でも。
「だって・・・美人でしっかり者のヒナちゃんが、あんなに乱れてくれたのが嬉しくって。」
私の本心だ。
そしたらヒナちゃんが酷いことを言った。
「マリってさ・・・」
「ん?」
「エッチだよね。」
「!!」
なんて事を言うの。・・・でも、そうかも。私は赤らむ顔を隠すようにヒナちゃんの胸元に顔を埋めて答えた。
「・・・そうだよ。エッチだよ。ヒナちゃん相手だけにはね。ヒナちゃんを前にすると自分が止められなくなる。何でもしたくなる。」
「!」
今度はヒナちゃんが赤くなった。
「そっか、嬉しいよ。」
ヒナちゃんはそう言って私の髪を撫でるので、私は更にギュッとヒナちゃんを抱き締めた。
あー・・・コレ明日起きたら大変だな。恥ずかしくて死んじゃうかも。




