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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター2 1年生編 / 二学期
32/105

M29 里帰り



 結局、マリは何のおまじないだったのか教えてくれなかった。何回訊いても


「ヒナちゃんは判らなくていいの。」


 と言って頑なに教えてくれなかった。まったく何なんだよ。




 翌日はアイナの『愛のキューピッド感謝デー』と、フレアの『舞い上がって報告デー』の日だった。訊いてもいないのにペラペラと昨日在った事を語ってくれた。




 それに拠ると・・・何も無かったらしい。


 如何にもな口調で話し出すから、何か在ったのかと思って聴いてみれば「話した」「笑った」「手に触れた」・・・要約すると、この3点にヒレを付け、色を付け、花を飾り、練り合わせて壮大なストーリーに組み上げて延々と話し続けてくれた。




 まあね。嬉しいやら恥ずかしいやらで黙っていられなくて誰かに聴いて貰いたい気持ちは分かるし、無碍にシャットアウトするのも可哀想なので笑顔で聴いてはいたけど。


 ループして同じ話がまた始まったときは、流石に冷や汗が流れたよ。また聴くんかい!って。




 コレ・・・告白とかキスとかしたら、もっと大騒ぎになるんだろうな。


 彼女達もこの4人の仲間内以外の相手には、貴族のしがらみに囚われる子達だから自分で婚約者候補を見つけられなければ親に相手を見繕われてしまう。


 だから自由に相手を探せる時間は実はそんなに無いんだ。せめて高等部進学くらい迄には、親にアピールして家に連れて行ったお相手を判断して貰う必要が在る。




 そう考えると大変だよな、貴族っ娘って。自分の家のために恋愛すら儘ならないって、現代では人権無視もいいところ。それがまかり通ってしまう世界なのか。しかも流れに乗り遅れたら、家にも拠るんだろうけど世間から嗤われ、家族からも疎ましがられるって・・・ハードだわ。




 その極地に居たのがマリなんだけど。よくも長い間、たった1人で堪えていたよな。尊敬するよ。




 なんて色々と感慨深い休日だったわ。






 翌日の朝の時間。


 エロル=デル=デイプールとセドリック=バトラインの2名から学園に長期の休学届けが出され、ソレを受けた学園側は届けを受理した事がマルグリット先生より告げられた。




 結局は後味の悪い結果になってしまったか。


 自業自得とは言え、彼らを阿呆な行動に駆り立てさせた一因はあたしにも在る。・・・ま、阿呆だし今回の件が無くても遠くない未来に同じ事になってたとは思うけどね。




 あたしだって危うくトラウマを作る処だったんだ。襲われた直後はホントに男子が怖かったんだけよ。リューダ様でさえ少し怖かったんだから。


 とか何とか言っても、3日ほど学園をお休みしている間にそう言う気分は吹き飛んでいたんだけど。つくづく頑丈だよな、あたしのハート。




 そして、なんやかんや在った武術祭の熱も次第に生徒達の中から抜けていく。






 ――11月も後半。




 急に冷え込み始めた。自分のクシャミで何回眼を醒ましたことか。そしてその度にマリを何回起こした事か。




「ブ・・・ブウェェェクショイッ!!」


 その深夜もあたしは盛大にクシャミの轟音を、いと静けき晩秋の女子寮に響かせた。




「ヒナひゃん?」


 寝ぼけて呂律の回らないマリがゴソリと起きて声を掛けて来る。


「あ、ゴメン。起こしちゃった?」


「いいよ、別に・・・」


 ・・・半分閉じた目で言われてもな。


「ひ・・・」


 ひ?


「ヒクチンッ!」


 ・・・おい。何だソレは。差が在りすぎんだろ・・・。




 鼻を啜るとマリが呟いた。


「なんか眼が冴えちゃった。」


「ゴメンよ、マリちゃん。」


 あたしが言うとマリはクスリと笑う。




「・・・最近さ。」


 お、何だ?


「何人かの御令嬢達が次々と学園を休学したり辞めたりしてるらしいよね。」


「ああ、そんな話在るね。」


 あたしは頷いた。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 ここ最近、話題に上る話だ。


 理由もはっきりしないままに立て続けに、数人のご令嬢達が学園を辞めたり休学届けを出したりしているらしい。学園側も理由の不明を問う事無く受理してるのが不可解な点。




 と言うのも、このグラスフィールド学園は王立の学園で、王族や貴族は言うに及ばず平民からも才気溢れる若者を受け入れて教育を施し、未来の王国を背負わせんと建てられた学舎だ。それ故に余程の理由、例えば『醜聞を立てた』とか『重大な事件を引き起こした』だとかが無い限りは退学等は認められない。




 エロル達の様に噂が広がり、隠しようも無い事態に為れば、貴族令嬢への性的暴行未遂と言う内容だけに即休学になってしまうが。




 因みにあたしの場合は、あたしが貴族の娘だったから問題になった。これが外で平民婦女に働いた暴行だったらせいぜいが謹慎程度だったそうだ。


 信じられない話だが、この国では平民婦女に貴族男性が性的暴行を行っても罪にはならない。・・・いや、正確には罪になる。が、実際は金や権力を使って周囲を黙らせる為、問題視される事が無いらしい。


 むしろその程度の事も処理できないのかと他の貴族に笑われる為、問題を起こした貴族家は意地でも事態を収束させようと躍起になる。ソレでも言う事を聞かない平民が居ると、混乱を起こす慮外者としてその命が奪われる事も多々在るそうだ。


 そして事態を収束させた貴族達は、名誉を守ったと胸を張るらしい。




 馬鹿も休み休み言いやがれ。


 腐敗と退廃と横暴と厚顔無恥が、勘違いも甚だしいプライドを掲げて服を着て歩いてる。故に他国のお偉いさん達の間では冷笑の嵐が吹き荒れており、この国の王族も上級貴族もまともに相手にされていないらしい。




『この国は斜陽の一途を辿っているよ。』


 とは以前にお父様が言った言葉である。




 そんな事情も在って、立て続けに貴族令嬢が学園を去るという不名誉な事態が騒ぎにもならずに静かに処理されているのが不思議なのである。




ま、大人の事情ってのが働いてんだろうな。イロイロと。






「イロイロ事情が有るんだと思うよ。」


 あたしは言った。


「事情?」


「大人の事情。」


「・・・オトナノジジョウ?」


 まだ難しいか。ま、あたしもよくは解んないんだけど。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 翌日曜日にあたしは日帰りで実家に戻った。


 お母様がグッとあたしを抱き締めて下さり、また少しウルっときてしまう。


――ああ、懐かしいな。


 と思う。




 あたしはこの処、事ある毎にこんな感覚に見舞われる。


 風見陽菜が転生してくる前のヤマダ=ハナコの記憶を自覚する事が増えてきている。記憶を取り戻しているのか、記憶の共有なのかは判らないけど。




 家族に「もう大丈夫だ」と伝えて笑顔を見せると、お二人は安堵したように微笑まれる。ま、テオは良くは解っていないようだったけど。逆に確りと理解されるのもイヤだ。恥ずかしい。




 ライラは激怒していた。


「おのれ、許すまじ!」


 ・・・そんな言葉を本気で使う人、初めて見たよ。




 そんなライラから、知らされた。


「先日、デイプール伯爵様が来やがったんですよ。」


 ら・・・ライラさん、言い方、言い方。


 そっか、でも親御さんが来たのか。謝罪でもしに来たのかな?


「何しに来たの?」


 と聞いてみる。




「息子の復学に同意して署名を寄越せと言ってきたそうです。伯爵の命令だと居丈高に!」


 ライラはブッチギレル寸前の表情で吐き捨てた。




「・・・」


 あたしは別に驚かなかった。あの息子の親である。然もありなん。むしろそういう輩の方がしっくりくる。


「そうなの。」


 爵位を持ち出されたら流石にお父様も従わざるを得ないだろうな。


「・・・それで、お父様は何て?」


 あたしが問うとライラは少し身を震わせた。何かに怯える表情だ。


「?・・・ライラ?」


「・・・笑っていらっしゃいました。」


「は?」


 あたしが聞き返すとライラは再度言い直す。


「笑っていらっしゃいました。大声で。」


「・・・は?」


 なんか要領を得ない。


「どうして笑ったの?」


 そして貴女は何に怯えてるの?




 ライラは話してくれた。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 デイプール伯爵は先触れも無く突然に押しかけて来たらしい。お父様はたまたま在宅で伯爵の相手をしたそうだ。


 要件を尋ねると先に話した内容を要求してきたらしい。




 曰く


『息子は未来のデイプール家と国を背負って立つ男。こんな下らない事で経歴に泥を塗っていい筈が無い。』


 曰く


『聴けばお前の娘が息子に絡んだ事が要因だという。たかだか子爵家の娘が伯爵家の嫡男を蹴落とすなど国家の根幹を揺るがせる一大事。そもそも我が息子の寵愛を受けられるなら子爵令嬢等には過ぎた温情。喜びこそすれ騒ぎ立てるなど言語道断。』


 曰く


『こちらも大事にはしないでやるから、兎に角、息子が学園に戻れる様に署名をしろ。それと、恥を掻かされた詫びとして金貨5000枚を寄越せ。』




 そこまで黙って聞いていたお父様は突然に嗤いだしたそうだ。まるで出来の悪いオモチャのマヌケな動きを嘲笑うかのように。


『何が可笑しい!!』


『アッハッハッハッハ!』


 長い間、お父様は嗤い続けたあと、お父様はポツリと呟いたそうだ。


『詫びに来たのかと思い、手心を加える事も考えていたが・・・こんな愚か者が伯爵位とは・・・話す舌も持てぬ。』


 喚くデイプール伯爵にはその後、一度も眼を合わす事は無く、お父様は側で青ざめながら控えるライラに言ったそうだ。


「客人の帰りだ。もう2度と我が家を跨ぐことも無いだろうから丁重にお見送りする様に。」


「は・・・はい。」


 ライラは直ぐに頭を下げると廊下に控えていた使用人に声を掛けて、デイプール伯爵様を有無も言わさずに追い出したそうだ。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「だ・・・大丈夫なの?そんな事をして・・・」


 あたしは余りの事にライラに尋ねてしまう。


「もう、終わりです。」


「え!?」


 あたしは愕然となる。


「デイプール伯爵家は終わりです。」


「・・・え?」


 あたしは首を傾げる。


「・・・恐らく旦那様はデイプール領にある全ての店舗を引き上げさせるでしょう。デイプール領に於ける物流の何割かはハナコ商会が握っておりましたでしょうから、デイプール領の民の金回りが悪くなるのは必至。加えて更に物が入らないように裏から手を回されると思います。」


「・・・」


「以前も旦那様の怒りを買った伯爵家がおりまして、・・・お嬢様はまだご幼少の砌でしたのでご存じないと思いますが・・・同じ手口を施されて、真綿で首を絞められるように著しく財力を落とし、数年後に他の貴族に喰われた一族が御座います。」


「ソウデスカ。」


「特に今回はお嬢様が直接被害に遭われております。・・・只でさえやると決めたら手を抜かない旦那様です。今回はどれ程の事になるのかと思うと・・・。」




 なるほど、ライラの怯える意味が解った。お父様、怒らせると怖いのね。気を付けよう。




 その後、執事のセバ・・・じゃない、リジオンさんに少しは手心を加えてあげてあげられないか訊いてみる。


「リジオンさん。」


「お嬢様、私の事は呼び捨てでお呼び下さい。」


「・・・リジオン。」


「はい、何で御座いましょうか。」


 ロマンスグレーが似合うこの初老の男性は、当主であるお父様の有能極まり無い右腕であり、また経済学の師でもあるらしい。


「デイプール伯爵様の事なんだけど・・・その・・・どの位で・・・」


 ――破滅させるの?


 おっかなくてあたしがソコまでしか言えずにモジモジしていると、リジオンはあたしの訊きたいことを察してくれたようでニッコリと笑って教えてくれた。


「はい、およそ2年を目処に計算致しております。全て旦那様とこのリジオンにお任せ下さいませ。」


「・・・はい。」


 うん、関わるのはよそう。お父様とリジオンさんに任せよう。この2人を説得出来る気がしない。アリンコ1匹が巨象2頭をどうこう出来る筈が無い。


 ただ一言だけ。


「領地の皆さんが余り困らない様にしてあげて下さい。」


 そう言って頭を下げる。


 リジオンさんは少し驚いた顔をしていたけどやがて頷いた。


「畏まりました。旦那様と相談致します。」


「有り難う御座います。」


 よし、あたしが出来ることは全部やった。そう思う事にしよう。




 残りの時間をあたしはずっとお母様と一緒に過ごした。何か甘えたい気分だったんだ。お母様も自分の周りを離れずにウロチョロしている娘にずっとニコニコと笑って下さっていた。


「今度はマリーベル様も連れて来て良いですか?」


「もちろんよ。私もマリーベル様にお会いしたいわ。」


 えっへっへ。何か嬉しいゾ。




 帰り際にあたしはお父様に告げられた。


「そうだ、ヤマダ。お前が以前に教えてくれた『コタツ』な。アレの発注が来ているよ。北の国のノーザンランドから取り敢えずの100脚を受注だ。売り上げは金貨1000枚。」


 1000枚!?コタツ1つを金貨10枚で売ったの!?日本円に換算しても1台100万円!?嘘でしょ!?


「貴族用だから豪華な造りにしてあるし、民間に普及できる様になれば金額は10分の1以下にするつもりだが、・・・利益の1部をお前の取り分に分けて置くから、今後、何か必要なモノを購入する際はソコから使っても良いよ。」


 ・・・予想外。あたし、小金持ちになりました。金貨92枚があたしの取り分らしい。920万円!マジかよ。何に使おう。幾つか考えがあるし取り敢えず今度、鍛冶ギルドに行ってみよう。




 こうしてあたしは1日中、家族との触れ合いを満喫したあと夕刻に寮に戻ってきた。






「お帰り、ヒナちゃん。ゆっくり出来た?」


 マリが笑顔で出迎えてくれる。


「うん、お陰様でね。」


 中にはアイナとフレアも居た。お、布団を掛けたコタツにINしてますね。


「お帰り、ヒナ。」


「お帰りなさい、ヒナちゃん。」


「ただいま。」




 ふふふ。いつもの4人組。あたしって幸せ者なんだなあ。思わずニヤけてしまう。











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