M27 お疲れ様パーティー
「ヒナちゃん・・・コレ・・・。」
マリはあたしに手渡された服を着て戸惑った声を上げる。・・・ああ、やっぱ思った通りに似合う。ってかマジ可愛い。
あたしが渡したのは2ピースのコスチューム。上は制服の色違いで黒、下も黒の膝丈までのフレアスカート。特徴的なのはオレンジ色の大きなエプロン。背中の部分にもコレまた大きなオレンジ色のリボンをあしらっている。
「これ・・・ハロウィン?」
「そう、ハロウィン!マリ、すっごく可愛いよ!」
あたしはニッコニコで答えた。因みにあたしも同じ衣装を着ている。
武術祭の後に服装自由のパーティが在ると聞いて、学園祭でお世話になった衣服屋さんに2週間ほど前からお願いしていたんだ。あたしとマリの分を。もちろんお代はハナコ家に回して貰った。
そんで衣装原案と配色を記載した設計図を持って説明すると
『面白い衣装ですね。』
とノリノリで引き受けてくれた。因みにあたしやマリのサイズは記録で残してあるので再寸法は不要だそう。OK。なら直ぐにでもと話を進めて貰った。
この世界にはハロウィンが無い。無いのなら知っている者だけでも秋の収穫を祝ってやろうじゃないの、と思い立っての事さ。・・・嘘です。楽しみたかっただけです。
「ヒナちゃんとお揃い。」
マリが頬を染めて嬉しそうに微笑んだ。キャーッ爆死しそう!
マリはあたしを見ながらグルリと一周する。
「ヒナちゃん、リボンが似合うね。凄く可愛い。」
「そ・・・そうかな?」
何かそう言われると恥ずかしくなってくる。
「ハロウィンなんて思いつかなかったなぁ。」
「ちょっと時期がズレちゃったけどね。」
パーティーの時間になる頃、あたし達は会場に向かった。
パーティーは大講堂と入り口とは反対側にある外の中庭にて行われた。
講堂に入ると煌びやかなグラスの数々とガラス装飾品が、至るところに焚かれた松明の炎やキャンドルの炎に乱反射して幻想的な雰囲気を醸し出していた。オレンジの光に溢れた会場には、マリのハロウィンドレスと白銀の髪が良く映えている。
「うわぁ・・・綺麗・・・。」
マリはエメラルドグリーンの瞳を輝かせて会場に魅入っている。綺麗だな、と思う。こんな可愛い子と一緒にお揃いの衣装でパーティーに参加出来るのが夢のようだ。
「マリも綺麗だよ。」
あたしが気障に言ってみるとマリはあたしを見て目を見開いた。ん?どうした?
「・・・ヒナちゃん。」
「ん?」
「・・・凄く綺麗。」
・・・。仕掛けておいて何だが、ノックアウトされそうだ。
あたし達は2人で会場を回る。
フレアはちゃっかりとエルロア様に手を引いて貰っているのをさっき見た。ので、邪魔はしない。
そしてアイナは大人気のエリオット様の所に居る。
たくさんの御令嬢に囲まれているエリオット様に話し掛け辛いのか、後ろの方からエリオット様を熱い眼差しで見つめている。何とか話せると良いんだけど。
アイナは本命が出来ると奥手になる様だ。ガンガン行くタイプだと思っていたから超意外だ。
「・・・」
あたしがアイナを見ていると、マリが言った。
「アイナさん・・・何とかしてあげたいな。」
マリも同じ事を思っていたか。じゃあ、何とかして見るか。
「エリオット様、準優勝おめでとう御座います。」
「とても素晴らしいご活躍でした。」
あたしとマリでエリオット様に挨拶をする。
足を痛めて椅子に座っているため逃げ出す事も出来ずに、御令嬢方のアピールを受け続けて少し辟易気味だったエリオット様の表情が不思議なモノを見た様な顔に変わった。
御令嬢方のほうは「何だコイツは」って顔に変わる。いやぁ、ですよね。ゴメンね。友達のためなんで許して頂戴。
「変わったドレスだね。」
お、エリオット様がハロウィンスタイルに食い付いた。
「うふふ、面白いでしょう?マリーベル様とお揃いなんです。」
「ああ、余り見ない色合いだね。何だかキュートだ。」
エリオット様が微笑む。いやあ、美少年の微笑み。頂きました。
「そう言えばアイナ様を見かけませんでしたか?見つからないので探しているんですが。」
「シルバニー嬢?えっと・・・」
エリオット様が周囲を見回したのであたしはアイナを呼ぶ。
「あ、居た居た。アイナ様!」
アイナはあたしの声に驚いた顔をして立ち竦んでいる。マリがアイナに近寄って手を引いてくる。
「マ・・・マリーベル様!」
顔を赤くしてアイナはマリに引っ張られてきた。
アイナ、メッチャめかし込んでる。薄青のフィット&フレアのドレスがアイナの大人びた風貌に良く似合ってる。アイナ、ひょっとしてリップ引いてる?唇がやたらセクシー何だけど。
「ああ、シルバニー嬢。そこに居たんだね。お二人がが探していたそうだよ・・・。」
そう言ったエリオット様の声が尻すぼみに小さくなった。
明らかに見惚れてるな、コレ。
あたしは後ろから小声でアイナに言う。
「何か言え。」
アイナはハッとなって慌てて口を開いた。
「あ・・・あの、エリオット様、準優勝おめでとう御座います。あの、と・・・とてもカッコ良かったです。」
クーッ・・・純情乙女だな、オイ。その可愛さ、普段からあたしに達にも披露してくれ。
エリオット様は暫くアイナを見つめてから微笑んだ。
「ありがとう。シルバニー嬢こそ青のドレスが良く似合うね。」
「・・・」
あれ?動かないぞ。あたしとマリが後ろからアイナを覗き込むと、彼女は固まっていた。
何、固まってんだ!アイナ=シルバニー、ここで頑張らなきゃ女が廃るぞ!
「エリオット様、大変な試合の連続でお疲れでは在りませんか?中庭は夜風がヒンヤリとしていて、とても気持ちが良いですよ?」
「そうかい?じゃあ、ちょっと行って見ようかな?」
「ではアイナ様、エリオット様は足を痛められて居りますから、手を貸してあげて下さいな。」
・・・おお、マリってばやるなぁ。
周りの御令嬢も侯爵令嬢のマリーベル様に面と向かって不平は言えないらしく悔しそうなお顔が並んでいる。
「え?」
エリオット様も一瞬だけ戸惑った表情になる。
「え、ちょっ・・・マリ・・・ーベル様!」
アイナも我に返るがエリオット様は微笑んだ。
「ああ、ソレは助かるな。シルバニー嬢がもし良ければ、手を貸して貰えるだろうか?」
「え・・・あ、はい・・・」
アイナは真っ赤な顔でエリオット様の手を取ると中庭に歩いて行く。アイナはチラッとあたし達を見て「ありがとう」と口パクでお礼を言って笑った。
よし、良い仕事した。さあ、残された御令嬢方の視線も痛い事だし、あたしらもこの辺で退散しようかな。すまん、ご令嬢方。
マリと2人で食べ物を捕食しながら会場を練り歩いている途中、リューダ様を見かけた。
リューダ様はお姉様方に囲まれて泡食っていた。すまん、リューダ様。流石にお姉様方を相手にしてまでソコから救出する程の度胸はあたし達には無い。大人しくお姉様方に捕食されてくれ。
食事と会話を楽しみながらパーティーを楽しんでいると声が掛かった。
「やあ、久しぶりだね。」
振り向くとアルフレッド=フレア=グレイバード様が立っていた。トンデモナイ数の御令嬢を引き連れて。あと、取り巻きの御令息も結構居るな。ホント君かエリオット様が王子をやれば良いのに。
まあソレは置いといて、ええと・・・五草会ぶりかしら?たまに廊下で擦れ違った時に挨拶したり軽く言葉を交わしたりはして居たけど。
「お久しぶりです、アルフレッド様。」
「ごきげんよう、アルフレッド様。」
あたし達はアルフレッド様に挨拶を交わす。
「相変わらず仲が良さそうだね。」
「ふふふ。」
アルフレッド様の言葉にあたし達は思わず顔を見合わせて笑い合ってしまう。
「それにその衣装も面白い。とてもキュートだ。」
・・・さっきもエリオット様に同じ感想を言われたけど、まさか子供っぽいって意味じゃ無いよね?
マリは嬉しそうにアルフレッド様に話す。
「これ、ヒナ・・・ヤマダ様が考えて作ったモノ何ですよ。」
「へえ、流石はハナコ商会の御令嬢だね。コンセプトは有るの?」
・・・コンセプトだと。コンセプトはハロウィンです。何て言えないので。
「秋の収穫を祝うと言うのがコンセプトです。オレンジが秋の実りで黒が大地のイメージです。」
苦し紛れにソレっぽい事を言ってみると、アルフレッド様は笑顔を引っ込めて真剣な顔つきになった。
「へえ・・・。成る程ね・・・。・・・実に面白いね。素晴らしい発想だと思うよ。」
え?そう?エヘヘ。
まあ、あたしの発想じゃないし。元々前世に在ったモノだし、素晴らしくて当たり前なんだけどね。
「あ、そうそう。」
アルフレッド様が思い出したように言う。
「マリーベル嬢に用が在ったんだ。」
「え?私ですか?」
え!?アルフレッド様がマリに御用って何!?まさか・・・愛の告白みたいな・・・。あたしの胸が不安でドキドキし始める。
するとアルフレッド様があたしの顔を見て苦笑した。
「違うよ、ヤマダ嬢が思ってるような事じゃ無いよ。大丈夫、君の大好きなマリーベル嬢を盗ったりしないから。」
「だ・・・大好きってそんな・・・!」
あたしの顔が瞬間に火照り出す。何言ってんだコイツは!
「・・・。」
マリが頬を染めてあたしを見つめる。やめて、そんな眼で見ないで。
「侯爵家の令息令嬢で武術祭のベスト8に祝いの品を渡すんだよ。ソレで彼女を呼びに来たんだ。」
・・・ああ、そう言う事。
名残惜しそうにコチラをチラチラ見ながらアルフレッド様について行くマリに、あたしは笑顔で手を振る。
さて、1人になっちまったい。どうするかな。今からメリベル様達を探すと言ってもな、何処いるか判らないし。
1人で会場をぶらぶらして居ると何やら会場の一角でざわめきが起こった。
お?何だ何だ?
そちらへ近づいていくと、どうやら誰かが揉めているようだった。
御令息が2人?何か言い争ってんな。
「彼女とは僕が一緒に回ろうと先約していたんだ。」
「知った事か。僕も彼女と回ろうと約束をしていた。」
彼女?・・・あ、何か黒髪の美人さんが居るな。あの子、お隣のクラスの子じゃ無かったっけ?確か伯爵令嬢様。しかし凄い冷めた顔で2人を見てるな。・・・何か仲の悪い兄弟の喧嘩を呆れて見つめる母親みたいだ。
「セーラ!君は一体どちらと回りたいんだい!?」
「僕だろ!?セーラ!」
しっかし・・・アレじゃ彼女が晒し者じゃ無いか。好きならもう少し気を配ってあげれば良いのに。あたしは手にしたお皿のチーズ乗せクラッカーを口に運びながらそう思った。
「決めてくれ。君はどちらと回りたいんだ?」
御令息2人のもはや詰問めいた口調に黒髪美少女は溜息を吐いた。視線が彷徨き始めて、あたしと眼が合った。お、コッチ見てる。
キャーッ!美人と視線が合うとドキドキするなぁ。と、彼女は口を開いた。
「私、別にどちらとも回るなんて言った覚えは無いのだけど。」
うわ、キッツイな。御令息お二人が呆然としてんじゃん。
「い・・・いや、一緒に回ろうと告げていたじゃないか。」
お、立ち直った。
「ええ、聞きました。でも、私、それに対して『解りました』と言った覚えは無いのですけど。」
バッサリ。
ああ、了承を得ていなかったのか。そりゃ、早とちりだね。ってか、こう言う勘違いって結構男子に多いよね。何でなんだろ。
黒髪美少女はもう話す事は無いわとばかりに、その場を離れる。あ、え、もう終わり?1人で暇だからもう少しこのコントを見ていたかったな。
残念に思っていたら、黒髪美少女がコチラに向かって歩いてくる。お、お、コッチに来るよ。すれ違い様に香りでも嗅いでやろうかな?なんてゲスな事を考えていると、ピタリとあたしの前で止まった。
は?・・・あ・・・え?
あたしは口に頬張っていたクラッカーをゴクンと飲み込む。
「お待たせ。一緒に中庭でも回りましょう?ロンディール様。」
黒髪美少女の極上の笑顔を向けられてあたしは石になった。




