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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター1 1年生編 / 一学期
3/105

M3 ガン見



 入学式初日の午後は、寮への案内と部屋の整理の時間になった。


 寮は2人1組で1部屋が割り当てられるんだよね。


『うわー・・・相方の子はどんな子だろう・・・上手くやれるかな?』


 あたしの気はズーンと重くなった。だって最低2年間はプライベートを共有する事になるし下手すりゃ5年間一緒だ。


部屋の変更依頼は何時でも受け付けているそうだけど。でも変更依頼を出したら、ソレはソレで部屋の変更が出来ても出来なくてもその子とは終始気まずい関係になる事は間違い無しだ。


『気の合う子が相方になりますように』


 どの神様に祈れば良いのかぜんぜん判んないけど、あたしはとにかく適当な神様にお願いする。




 部屋割りは女子寮の入り口に張り出されていた。


いや、貴族の御令嬢のお住まいを発表するには雑過ぎないか?・・・まあ、面倒無くて逆にいいか。




 あたしの相方はルーンデアク家という伯爵家の御令嬢だった。


『うぁっ、伯爵令嬢様だ!』


 子爵家とは雲泥の開きが在る上級貴族様だ。


『何でだよ!ついてない・・・』


 普通、子爵家以下と伯爵家以上は同部屋にならないそうだ。立場が余りにも変わり過ぎる為、学園側も配慮して故意に分けてくれるらしい。・・・なのに何故!?




 あたしは露骨に肩を落としてトボトボと割り振られた部屋へ歩き出す。と、


「貴女がヤマダ=ハナコさんかしら?」


 寮の管理人・・・と言うか寮母さんのマゼルダ婦人に呼び止められた。


「ふぁ?」


 ヤベ・・変な声が出た。


「ふぁ・・・は・・はい。しょ・・・そうですが。」




 色白の如何にも貴婦人といった様相のご婦人に話し掛けられて、あたしはシドロモドロに答える。


マゼルダ婦人は微笑んで近寄ってきた。


「実はね、貴女と同室になる予定だった御令嬢が訳あって入学出来なくてね、暫くは貴女お1人でお部屋をを使って頂く事になりそうなのよ。」


「え・・・?」


 マジで?


 あたし1人?


 本当に?


 「ウッソでーす!ねえねえ今どんな気持ち?」とかじゃ無いよね?




「ごめんなさいね。」


 固まるあたしに婦人は申し訳無さそうにお詫びしてくれてるけど・・・


「とんでも御座いません、寮母様!」


 あたしは元気よく返事した。


「そうですか!あたし1人ですか!いやぁ、残念です!同室の方と仲良くしたいと思って居りましたのに残念です!・・・そうですか・・・あたし1人で使って良いんですか・・・」


 残念です、を繰り返すあたしの表情を見てマゼルダ婦人は苦笑いを浮かべた。


「そう、特に気に掛ける必要も無さそうね。」




 おい、何だその顔は。あたしは1人は残念ですと言っているだろうが・・・


「まあ、でも早く同室の子が見つけられるように考えてみるわね。」


「いえ、お気になさらず!・・・いや・・お手を煩わせるのは申し訳ないので、ゆっくり、ゆっくりで結構です。5年くらい掛けて頂いても問題ありませんから。」


「・・・まあ貴女のような気丈な御令嬢で良かったわ。それでは、お言葉に甘えてゆっくりと考える事にしますね。」


「はい、宜しくお願い致します。」


 あたしの返事にマゼルダ婦人は苦笑いを浮かべたまま立ち去った。




「此所があたし『だけ』の部屋・・・」


 扉の前であたしは感動に打ち震える。


実は実家の子爵家でも、ライラが付き従ってくれていたため、実質的な『1人きり』の状態は夜に眠る時くらいしか成立しなかった。


 でも、此所は正真正銘のあたし1人だけの空間になるのだ。こんなの前世以来だ!素晴らしい!この思いをダイレクトに表現しよう!


 あたしは扉を開けると、ジャンプで入室を果たし片足でバレリーナよろしくクルリと回転してポーズを決めた。よし、キマッタ。


「・・・。」


 そしてあたしは、お部屋に置かれていた荷物を纏めていたメイドさんと眼が合った。突如、飛び込んできて謎の1回転と決めのポーズを取るあたしにメイドさんは声も無く驚いた表情で凝視する。


「・・・!!!」


 ポーズを決めたまま、あたしの顔は火を噴き、頭から蒸気が噴き出し、羞恥心と言う名前の火山が大爆発した。


『な・・・なんで人が居るの!?この人ダレ!?』


 パニックのあたしに気を取り直したメイドさんが話掛けてくれる。


「あ・・・あの、申し訳御座いません、お嬢様。私、ルーンデアク伯爵家でメイドをしておりますリズと申します。前以て送っていたお嬢様の荷物を引き取りに来ておりました。」


「あ。・・・ソウデシタノネ。」


 取り敢えず言葉らしきモノをメイドさんに返すとあたしは「お構いなく」と作業を促した。




『申し訳御座いませんでした』


 作業が終わり数人で荷物を運び出すとリズさんはあたしに頭を下げて部屋を辞していった。




 くそ・・・とんでもない赤っ恥を掻かされたが、まあいいや。




 あたしは部屋を見渡した。


 流石は国の貴族子弟が集う王国最高の学園だよね。其所が用意する寮の部屋も見事なものだよ。女子寮部屋って事で部屋の内装もファンシーに光り輝いているのかと思っていたけど、そんな事は無くて白と黒を基調とした外廓に落ち着きのある調度品が置かれた、まさに「ザ☆chic」な雰囲気の部屋だった。


 リビングの奥の左右には個室に通じる扉が付いており、其れを開けると勉強机一式と大きめのベッド、クローゼット、収納棚や本棚が置かれていた。奥には水回り関連の設備に通じる扉が設置されている。反対側も同じ造りになっていた。




 良く恋愛ドラマで見た主人公を含む上級独身貴族の自室を再現したような内装にあたしは見惚れる。


「いいじゃない・・・」


 予想以上の出来の良さに思わずあたしは呟いた。




 よし、あたしのメインフィールドは決まった。


基本的に学園の1日のスケジュールが終わったら速やかに帰宅してここで主な時間を過ごそう。幸いにもあたしの趣味は紙とペンが有れば出来てしまう。だから何も問題は無い。




「よーし、明日から楽しむぞ!」




 あたしの奇声が部屋中に響き渡ったが誰も咎める者はいない。控えめに言って最高じゃねーか!!




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 さて、あたしは翌日から精力的に行動した。何にって、当然、友達作りにだ。


勝負は入学式から1週間。この間に何人の御令嬢と挨拶を交わせるようになるかで、この2年間の学園生活が決まると言っても過言では無い。


 前世で小・中・高と乙女の道を歩んできた中であたしはその事を学んで知っている。


 そしてこの時期が最も同性の友人を作りやすいんだと言う事も。




 何しろみんな、知る者が殆ど居なくて不安に思っているんだ。


でも自分から話し掛けるのは怖いし、でも取り残されるのも怖いしでオロオロしてる。


だから伯爵以上の御令嬢にさえ声を掛けなければ、爽やかに話し掛けるだけで9割方どんな子でも柔やかに返事を返してくれる。


それに話し掛けられた喜びに、嬉し恥ずかしな表情で頬を赤らめる御令嬢方がマジで尊い。何しろみんな13~14歳の愛らしい少女達なのだ。




 つい先日まで、高校3年生をしていたあたしにしてみると抱きついてナデナデしたくなる程の愛らしさに満ち溢れている。・・・ヤバい、クセになりそうだ。




 そんなこんなで1週間が過ぎ、あたしは普通に挨拶を交わし行動を共に出来そうなクラスメイトを7~8人見繕うことが出来たのさ。うん、上出来。良く頑張った、あたし。




 あとは・・・席替えの提案だ。あたしのお隣に鎮座されている未来の悪役令嬢様から席を離す事が出来ればもはや憂いはない。




 しかしそれを提案するタイミングはなかなか掴めないまま、ズルズルと時間だけが過ぎていく。実はあたしは、いつお隣に絡まれるかと内心でビクビクしているんだ。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




『・・・こんな子だったっけ?』




 あたしはお隣で読書に勤しむマリーベル侯爵令嬢を観察しながら、あたしの頭上に浮かぶハテナマークを取り払うべく思考に耽っていた。




 あたしの知る彼女は取り巻き令嬢を多数侍らせ、賛辞の言葉を強要し、身分低い者達を見下しながら学園内を練り歩く、謂わば悪しき水戸○門様だった。


吊り目がちの瞳はよりつり上がり勝ち気な性格を強調させ、口の端は常に吊り上がった状態でゲーム画面に登場する彼女は良くも悪くも自信満々の侯爵令嬢様だったのだ。




 もちろん初等部の彼女なんて知らないから、ひょっとしたらこれからの2年間でそうなっていくのかも知れない。・・・でも。




 余りにも違い過ぎない?


読書をしながらも、オドオドと周囲を気にしているように見える。


・・・主にあたしを。何でだ?


それに、体格もこんなにコマい感じだったっけ?まあ、でもあたし達は成長期だしこれから伸びるのかも知れないけど。




「・・・あの・・・」


 ってあたしに話し掛けてきたよ!


「・・・何かご用でしょうか?」


 消え入りそうな声であたしを不安そうに見ながら話し掛けてくる。


「・・・その様に見つめられると恥ずかしいです。」




 え?


あたしは自分を見直した。


右肘を机につき、右拳の上に右頬を乗せている。身体は彼女の姿を正面に捕らえ、尚且つ足を組んでいた。


 ――おおぅっ、しまった!・・・ガン見してたよ、あたし。


あたしは青冷めた。


悪いクセが出てしまった。


前世からあたしは考える対象が目の前に在るとガン見するクセが在るんだ。




 しかも格好よ。貴族令嬢どころかソモソモ乙女らしからぬポーズだ。例えればヤンキーが誰かを威嚇する時に使う様な座り方だった。




 そりゃ気になるよね。




 『破滅』の二文字を脳内にチラつかせながら、それでも、あたしはゆっくりと体勢を乙女に相応しい座り方に整えると微笑んだ。


「失礼致しました。アビスコート様の佇まいが余りにもお美しいので、つい魅入ってしまいました。申し訳在りません。」


 ――・・・ど・・・どうだ?


「そ・・・そうですか。有り難う御座います。」


 侯爵令嬢様は恥じらうように目を逸らしながら俯いた。


 ――よし!


 令嬢の気性によっては「無礼だ!」と逆鱗に触れ、学園生活を暗黒の世界に塗り変えてしまう程の大失態だったが奇跡的に無事にやり過ごしたようだ。あー嫌な汗掻いたわ。




 気が抜けると、マリーベル様の様子もスンナリと視界に収められた。


あたしの発言せいだろうけど頬を染めて俯く姿が何とも言えず・・・たまらん!




『・・・ホント可愛いよな、この子』




 これが未来の悪役令嬢だもんなー。どう見てもヒロインでしょ、これ。





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