M26 武術祭
武術祭の当日がやって来た。
武術祭は学園で一番広い運動場に合計8個の舞台を用意して、5個を高等部が使用し、3個を初等部が使用して試合が消化されていく。
あたしの体調はかなり回復していて医務の先生からは、はしゃぎ過ぎなければ普通に応援に行っても良いとお許しを頂いた。
3日間、ベッドで大人しくしていた間に思い出したんだけど、このイベントは確かゲームでも在ったんだ。ま、ゲームの舞台になるのは高等部に入ってからの事なので、2年後と3年後のイベントになるんだけど。今回は初等部だから何がどうなっても関係無し。関係無いなら、あんなゲス王子と周囲の不快な連中の事などどうでも良い。
あたしはマリの手を引いて、クラス代表の3人の所へ出向いた。
「エリオット様、リューダ様、エルロア様、頑張って下さいね。」
あたしの声に3人は振り返って、驚いた顔を見せた。うーん、美少年達の驚き顔もいいなあ。
「ハナコさん、もう具合は良いのですか?」
リューダ様の問いかけにあたしは微笑んで見せた。
「はい、大丈夫です。皆様、その節はお世話になりました。本当にありがとうございます。」
あたしが頭を下げるとエリオット様が笑って見せる。
「礼など不要だよ。元気になって良かった。」
エルロア様も頷いて下さる。
「そうとも。・・・さあ、全員揃ってやる気も出てくるというものだ。」
エルロア様の快活な笑顔を見て、あたしはつくづく失敗したなと思う。
この方にも劇に出て貰いたかったと学園祭の準備中に何度思ったことか。学園では余り見ない深い蒼の髪に少し日焼けした肌が南国の王子然としていて其の明るい笑顔はマジで見惚れてしまう。
しかも剣の腕も立つなんて素敵じゃない?
それはともかく、あたし達は御三方の応援に駆け回る。
最初の出番はエリオット様だった。相手は1年生。だけど1瞬で決着が着いて仕舞った。相手の攻撃をフェイントで誘い、出鼻を潰して1本を取る。・・・うーん、強すぎる。
そしてアイナはそんなエリオット様を頬を染めて見つめていた。乙女だなあ。
2番手はエルロア様。確りと剣術を見るのは初めてだけど、戦い方はフレアにソックリだった。とにかく速い。剣術と言うよりは剣舞を見ている様だった。
相手の攻撃を殆ど剣で受けないで避ける。そして相手の周りを回って相手に落ち着いた構えを取らせない。そして隙を突いて軽く相手の頭をポコンと叩く。
「・・・カッコいい。」
フレアがポツリと呟いたので、珍しいなと思って彼女を見る。あたしと目が合ったフレアは慌てて目を逸らした。その頬が染まっている。・・・おやぁ?
3番手はリューダ様だった。
「リューダ様、頑張って下さい。」
随分強くなったと言うのに、未だあたしの剣技をリスペクトして下さるリューダ様には頑張って頂きたい。
「頑張ります。」
リューダ様が天使の笑みを浮かべる。周りの御令嬢から溜息が漏れる。
余談だけどリューダ様には隠れファンが激増中だ。特に年上のお姉様方に多いらしい。高等部のお姉様方の中にも夢中な方がいらっしゃるとか。
まあ、可愛いからね。仕方無いね。しかも彼は武術祭の立候補者だ。勇気もある事を証明した彼には『愛天使の勇者様』だったかな?・・・そんな不格好な隠れ通り名が付いている。
何でそんな通り名になったかと言えば『愛』と『天使』は外せないらしく、しかも勇気がある方なので『勇者』も加えたいと言うことで全部乗せの通り名が出来上がったそう。当然、本人は知らない。
リューダ様は相手に先に攻めさせる戦い方が基本だ。先ず相手に打ち込ませて自分より疲れさせてから、一瞬の隙を突いて反撃に出て抜き胴か、身を退きながらの面を取る戦い方だ。マリの戦い方とソックリだ。あたしがマリに教えた戦い方だし似ているのも当たり前なのかも知れないけど。
この戦いでも危なげなく抜き胴を決めていた。
夏にあたし達の部屋に尋ねて来たあの小さな男の子が・・・ホントに強くなったな。いかん、ちょっと感動して涙が出てきた。
1回戦は3人とも勝ち抜いた。結構な快挙らしいよ、コレ。
因みに初等部は、勝ち続けて6戦目が決勝戦になる。1戦目が1点、2戦目が2点・・・で、決勝戦は敗者に6点、勝者に10点が加算される。
あたしが欠場した事で不戦勝を上げた1戦を除く、初等部の計31試合が午前中で消化された。
その結果、うちのクラスは3点を確保した形。4点を確保したクラスが無い為、3点確保を果たしたクラスが最高得点保持のクラスになる。
つまり我がクラスは現段階で最高点を取っているクラスの部類だという事になる。こりゃスゲェ。
お昼を摂った後、午後から2回戦目が行われた。そして驚いた事に3人とも勝利を収めた。
いや、凄すぎないか?っつーか、本来なら、この3人に混じってあたしも出場していたのかと考えると冷や汗が流れる。はっきり言ってこの3人の強さには付いて行けない。あっぶねー、大恥を掻くところだった。
ともあれ、うちのクラスは9点を確保した形で初日の武術祭を終える形となる。1年生のクラスで9点を取っているのはウチだけだそうだ。マジでスゲェ。
3人は上機嫌のマルグリット先生から激励を受けて、顔を赤らめながら『明日も頑張ります』とクラスに宣言していた。皆も異様に盛り上がる。この3人なら、ひょっとしたら優勝も・・・なんて、みんな口にはしないけど期待している。
あたしも楽しくなってくる。始まる前は色々と在ったけど、やっぱりお祭りは楽しいな。
「ヒナちゃんだったら勝ててた?」
マリが訊いてくる。
「無理ね。」
あたしは返す。
「レベル高すぎだよ。あたしじゃどうにも為んない。」
「そっか。」
マリは何か感心したように頷く。何に感心したんだろ?
実際には今日のどの試合よりも激しい大迫力の試合を何度も見ている。前世で。
何だったら、あたし自身がそんな試合の中に身を置いていた。前世で。
でも、アレは前世の風見陽菜の鍛えた肉体が在ったから出来た事。いや、まあ鍛えたとは言っても男顔負けとかそんなんじゃ無いけど。あくまで女の子レベルでの話。
とは言え今のあたしの身体では前世みたいな事は出来ないし、やろうとしても身体が付いて来ない。下手すりゃ筋断裂くらい起こしかねない。
そう考えた時、今日の武術祭のレベルはヤマダ=ハナコから見てレベルが高い。ムリムリ。
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
武術祭2日目。
選手の数はガッツリと減って、初等部で16人。計15試合が行われる。
その16人の中に我がクラスの選手3人が入っているのだ。マルグリット先生も1年生の1クラスの選手が3人も2日目に残っているのは、武術祭が始まって以来の快挙と仰っていた。
実際、2日目に残っている選手は殆どが2年生で、1年生の選手は我がクラスの3人以外では1人残っているだけだった。
因みに残っていたのは騎士団長の息子。・・・まだ残ってたのか。相変わらず名前が分からんけど。
そして2日目の1回戦。つまり3回線目。・・・なんだけど、ここで問題が発生。何と我がクラスの3人が同時に試合をする事になってしまった。3個の舞台に3人が上がることになる。
どうする?
あたし達は応援部隊を3つに分けた。皆が誰の応援に行くと宣言する中であたしが早口でアイナとフレアに言った。
「アイナはエリオット様の応援に行って。フレアはエルロア様をお願い。あたしとマリはリューダ様を応援するから。」
「「え?」」
2人が少し驚きの表情を見せる。
「な・・・何で私がエリオット様の応援に・・・」
「そ・・・そうだよ、私は別にエルロア様の応援なんて・・・」
分かり易過ぎんゾ、オマエラ。
あたしは残念そうな顔をして見せた。
「そう・・・出来れば3人の戦いの様子を知りたかったんだけど・・・ソレならあたしとマリで分かれてお二方の試合を見るから、2人にはリューダ様をお願いして良いかしら?」
「「ま・・・待って!」」
2人がハモった。
可愛い過ぎんゾ、オマエラ。
「そ・・・そう言う事なら仕方が無いから私が見て来るわ。」
「う・・・うん、私もヒナちゃんの為にエルロア様を応援してくるよ。」
顔が真っ赤だゾ、オマエラ。
「そう、ではお願いね。」
あたしはヒラヒラと手を振って走り出す2人を笑顔で見送った。
黙って事の経緯を見ていたマリがクスクスと笑い出す。
「ヒナちゃんって・・・素敵ね。」
え!?ど・・・どう言う意味で!?・・・意外な言葉にあたしはドギマギしてしまった。
さて、リューダ様だ。リューダ様のお相手は2年生の方だった。お相手はリューダ様より頭1つ分ほど大きかった。体格差を考えても流石に厳しい。
頭は狙い辛い。必然敵に狙いは胴に絞られる訳だけど、相手も当然ソレを警戒している。しかも、1日目を勝ち抜いた相手に油断はしないだろう。
やりようは無くは無いけど、ソレに気づけるかはリューダ様次第。
試合開始。リューダ様は果敢に攻めに入る。うん、ソレで良い。体力に差が在りすぎる以上、攻めさせるのは悪手だ。リューダ様は相手の胴を中心に攻撃を組み立てている。相手の剣が次第に下がる。
「!」
リューダ様の剣の軌跡が上がり、頭に振り下ろされた。
「ガツンッ」
お相手はやっぱり読んでいた。確りとリューダ様の剣は受け止められてしまった。
「ああ・・・」
マリから声が漏れる。
ソコだ!チャンスは1回だけ。気づいてるか!?リューダ様!!
リューダ様が後ろに退いた。相手が前に出る。同時に身を退きながらリューダ様の剣が下がり胴を打った。
「え?」
お相手も含めて、見ていた全員がポカンとして声を上げる。
「勝者リューダ=ゼフロンド!」
審判係の生徒が勝敗を宣告する。
よし!あたしは心の中でガッツポーズをした。夏の特訓中にあたしがやって見せたこと、よく覚えていた!流石はリューダ様!
「ハナコさんのお陰です。」
汗を輝かせて笑顔を見せるリューダ様がホントに尊い・・・。周りの御令嬢方もウットリだ。
エルロア様は残念ながら負けてしまったみたい。相手の剣を躱し損ねたとか。フレアは残念そうに話してはいるけど、何か頬が紅潮してない?何かあった?
エリオット様は2年生相手に互角の戦いを演じて見せて見事に勝利されたとか。アイナが、こちらは明らかに頬を紅潮させて報告してきた。
3回線目が終わり、これでウチのクラスは6点追加の計15点。騎士団長の息子は何か負けたらしい。これで初等部のベスト8が選出された。そしてこのベスト8の中には1年生が2人混ざっている。しかも2人ともあたし達のクラス。
否が応でもクラスが盛り上がる。負けてしまったエルロア様もあたし達と一緒に応援に回ってくれるらしい。
4回戦目。残念ながら此処でリューダ様は敗退してしまう。完全に体力負けだった。
最初こそ3回戦目の様に良い出だしを切れたのだけど身を退きながらの胴にもお相手は対処してきた。リューダ様を研究していたのは明らか。流石は上位者だな。抜かりが無い。その後は相手の猛攻に防戦一方に追い込まれてしまい、頭を打たれてしまっていた。
少し悔しそうな表情で舞台から降りてくるリューダ様にみんなが拍手で出迎えた。
「リューダ様、素敵です!」
「リューダ君、良く頑張った!」
その声にリューダ様は嬉しそうに微笑み、ペコリと頭を下げた。
そして・・・エリオット様は見事に勝利した。凄い。ベスト4進出だよ。
1年生がベスト4に残ったのは10年ぶりだそうで、みんなお祭り騒ぎだ。ヤバい、このクラス楽しいな。
ともあれ4回戦を終えて我がクラスは19点を獲得。エリオット様なら優勝するんじゃ無いか・・・なんて、みんな口にはしないけど期待値がうなぎ登りしている。
そして5回戦目、ベスト4の2戦目がエリオット様の出番だ。我がクラスは全員でエリオット様に声援を送る。流石のエリオット様も緊張していていつもの余裕が無さそう。
その時、リューダ様が叫んだ。
「エリオ!」
その声にエリオット様がリューダ様を見る。
「君なら大丈夫!リラックスして行こう!」
エリオット様が笑った。肩の力が抜けたのが舞台下からでも判った。コレが男の子同士の友情って奴なのかな?・・・カッコいい。
「始め!」
審判の合図で試合が始まる。
お相手が2年生と言う事もあって、目下のエリオット様から先に仕掛けた。フェイントを織り交ぜた攻撃にお相手も本気になったみたい。正攻法の打ち合いが続き、勝負が決まらない。長引くな・・・と思った矢先に気が付いた。エリオット様の頭の防御への反応が甘い。いや遅い。
――マズい、エリオット様が疲れている。
お相手も・・・いや戦っている本人なのだから尚更はっきりとソレに気が付いている筈。
「勝てるよね、エリオット様・・・。」
アイナがあたしに訊いてくるけどあたしは答えられない。互角に打ち合っているように見えるけど、ハッキリ言って形勢は悪い。
「・・・」
「どうなのよ・・・。」
「判んないよ。」
涙目にすら為っているアイナには、あたしの感想は言えない。
お相手が鋭く踏み込んだ。
「!」
あたしは息を呑む。エリオット様は疲れからか、一瞬だけど頭が無防備になっている。お相手の狙いは当然に頭。
瞬間、エリオット様が更に強く前へ踏み込んだ。
「スパンッ」
小気味の良い音が響き、エリオット様の抜き胴が決まった。
「勝者、エリオット=カイハンズ!」
勝敗が宣告された。
「やったあっ!」
歓声が上がる。
エリオット様がリューダ様を見て笑った。リューダ様も笑顔を返す。うん、やっぱカッコいいな、この2人は。
何はともあれ、これでエリオット様は決勝進出だ。・・・の筈だったが、実はエリオット様はこの戦いで足を痛めていた。次の戦いにはとても出られそうに無い。
従って、次の決勝戦は不戦敗が決まってしまった。
結果、ウチのクラスは1回戦目に3点、2回戦目に6点、3回戦目に6点、4回戦目に4点、5回戦目に5点、決勝戦で不戦敗の6点が加算されて30点となった。
初等部1年生では今まで29点が最高記録だったそうだ。30点という高得点をマークしたのは初めての事だそう。凄いなあ。
高等部の試合も終了したらしく、生徒達の興奮も覚めやらぬなか正午を以て武術祭は幕を下ろした。あたし達のクラスは総合得点で2位の快挙。そして初等部の個人賞発表の中で、特別賞と敢闘賞がエリオット様に贈られた。
武術祭も終わったこの後は、夕方の5:00から選手達の労を労うお疲れパーティーが在る。選手は出席を求められるけど、その他の生徒は参加自由だ。参加時間も自由なら、服装も自由。制服じゃ無くてドレス参加もアリらしい。
「ヒナちゃんはどうするの?」
マリが訊いてくる。
「出るよ。でも一回帰って着替えてくる。・・・マリも着替えるよ。」
「え・・・私も?」
マリがキョトンとした顔で聞き返してくる。
「そう、マリも。」
そう言ってあたしはマリの手を引っ張ると寮に向かって走り出した。




