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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター2 1年生編 / 二学期
26/105

M23 武術祭に向けて



 翌日は爽やかな秋晴れだった。




 ・・・あー、言うまでも無いけど。


 朝、目が覚めるとあたしとマリはユデダコでした。眼が合った瞬間にお互い真っ赤になって暫くは無言でした、ハイ。


 手に残る昨夜のマリの感覚を思い出して手の平を見つめたり。


 其れをマリに見咎められて


『ヒナちゃん、何を思い出してるの!』って突っ込まれたり。


 自分だって物欲しそうにあたしの胸の辺りをチラチラ見てるくせに。




 取り敢えずこの衣装が良くない。肩とか丸出しで色っぽいのもあるけど、なまじ強烈に昨夜のことを思い出しちゃうのがマズい。このままじゃ、抑えきれなくなって朝っぱらからその気になりかねない。


「とにかく着替えよっか。」


「うん。」


 あたしの提案にマリは頷くとベッドを出た。


 ・・・おい。


「マリ。」


「何?」


「スカート捲れてるよ。パンツ丸出し。」


「!・・・キャァァァッ!!」


 あたしの突っ込みにマリは自分の出で立ちを見直して悲鳴を上げると、湯浴み場に駆け込んで逃げてった。


 ・・・何も悲鳴上げて逃げなくても。そう思いながらあたしもヨッコラセとベッドから這い出る。


「あ。」


 あたしもタイツが摺り下ろされたまんまだった。・・・うん、これは恥ずかしい。




 結局、その日は眼が合う度に照れっ照れで視線を外す1日だったとさ。






 翌日の登校時。


 何だか、あたしはやたらと視線を感じていた。隣のマリに小声で聞いてみる。


「ねえ、・・・何かあたし・・・注目されてる?」


「・・・ヒナちゃんは注目を集めやすいから。」


 どう言う事!?




 クラスに入るとアイナがツカツカと歩み寄ってきて、腕を掴みグリンッて廊下にUターンで掴み出された。


「ヒナ、ちょっと良い?」


「イタタ・・・。?」


 あたしはアイナに引っ張り出されるが儘に廊下に移動する。ってか声掛けるタイミングがおかしく無い?普通は声掛けてから引っ張り出すよねぇ。


「なあに?」


 あたしが尋ねると、アイナは言い辛そうに「・・・うん・・・。」と言葉を濁す。




 呼んでおいて何だよ。あたしが首を傾げると、アイナは意を決したようにあたしの耳に口を寄せて囁いた。・・・ちょっと。ゾクゾクするんだけど。


「あのね、見間違いだったらごめんなさい。・・・その・・・一昨日の劇の午前の部でさ、ヒナとマリさん、本当にキスして無かった?」


「!」


 何ですと!?見られてた!?いやいや、角度的に舞台袖からは絶対見られてないって。


「し、してないけど。・・・なんで?」


 しまった、ちょっと動揺が声に出た。




 アイナはそんなあたしの動揺に気づいたのか、気づいてないのか。話を続ける。


「実はさ、舞台に紙が落ちたのを見ちゃったんだよね。でも、初回公演の時と変わらないくらいの勢いでキスシーンを演じてたから、ひょっとして、と思って。・・・まあ、最初に気づいたのはフレアなんだけど。」


 おのれフレア。目聡い奴。あたしは目が泳がない様に気をつけながら誤魔化す。


「あー・・・見つかってたか。実はあたしが落としちゃってね。マリがギリギリまで近づいて良いよって言ってくれたんで、あんな感じになった。でも、キスはしてないよ。」


「・・・」


 ど・・・どう?


「何だ、そっか。じゃあ仕方無いわね。」


 何で残念そうなんだよ。でも、まあよし。


「でも、他のみんなはキスしたと思ってるから誤解は解いておいた方が良いわよ。」


「うん。・・・え?」


 何ですと!?


「み・・・みんなって?」


「ご令嬢方は粗方そう思ってるんじゃ無いかしら?」


 嘘でしょ!?


「今日来るときに、やたら注目されてる様な気はしてたけど・・・」


「ソレは貴女達2人が注目されていたのね。」


 ソウデスカ。




 それから数日、あたしとマリはアイナとフレアにも手伝って貰って火消し活動に奔走した。そしてマリは最初は不満げだった。


「私は別にキスしてたって思われても良いのに。」


 このおバカ。色々と面倒臭くなるでしょ。


「マリ、解ってるの?もしコレが広まったら一緒の部屋では居られなくなるのよ?」


「!!」


 ソコからは超真剣に火消し活動に勤しんでくれたけど。




 そんなこんなで何とかあたしとマリへの注目は次第にだけど沈静化していった。やっぱリスクは冒すもんじゃ無いね。


 そう言えばリューダ様の衣装をダメにした奴って誰だったんだろ?・・・疑わしい奴は居るけど証拠も無しに決めつけるのは良くないよな。事件は迷宮入りって奴か・・・。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 さて、学園祭が終わって1週間も経つと、・・・つまりあたし達の噂が沈静化して来た頃になると、来月の武術祭の話題が上ってくる。




 とは言えこの武術祭は、推薦&エントリー方式の為、あたし達ご令嬢方は応援に回るから殆ど関係が無い。




 武術祭は各学年8クラスから4名ずつが選出されて、計160名が選手として参戦する。対戦は高等部と初等部に分かれて行う。あたし達の初等部は1年生と2年生がシャッフルされて64名がトーナメント戦を勝ち抜く方式。その成績によって2学年16クラスに加点が成され、その総計でクラス優勝も決めるらしい。まあ、名誉にもなるので男子には目の色が変わる人もいる。




「と言う訳で、立候補及び推薦は明日までですから、皆さん決めておいて下さいね。」


 マルグリット先生の言葉に男子の気合いが入った感じだ。


「それと・・・」


 先生はあたしの顔を見た。ん?何だ?


「女子の立候補もアリですからね。」


 コラッ!!


 何であたしを見るんだ。止めてくれマジで。本気にする子が若干名いるんだよ。




 ――夜。




「ヒナちゃんは出ないの?」


 ほら、ココに。その綺麗な銀髪をクシャクシャにするぞ。


「ヒナなら何だかんだとブツクサ言いながら勝ち上がりそう。」


 アイナ、お前もか。


「ヒナちゃんが立候補するなら私も応援するよ。」


 フレア!あんたはもう!


「あんたが出れば良いでしょうが。」


「イヤだよ、勝てないモン。」


 くぉらっ!あんたが勝てないならあたしだって勝てないでしょうが!




 あたしは溜息を吐く。


「あのね、みんなあたしにどんな幻想を抱いているか知らないけど、絶対に無理だから。」


「そうかなあ。」


 3人の首を傾げる姿にあたしはガックリする。


「男子に混じるのよ。1年生のみで半年前なら確かに1勝くらい出来たかも知れないけど、もう今はムリ。体格も体重も違い過ぎるよ。」


「そうかなあ。」


 君らは普段、男子を見ていないのか。日増しにどんどんデカくなっていってんじゃねーか。


 ・・・駄目だ。説得は諦めよう。


「とにかく、あたしは出ないから。推薦とか絶対に止めてよね。」


 あたしが怒り顔をして見せると3人は渋々と言った感じで頷いた。そしてあたしは彼女達の表情を見て冷や汗を流した。あっぶねぇー、コイツらマジで推薦する気だったんだ。




 翌日のホームルーム。・・・この世界ではクラス会議の時間と呼んでいるけど、その時間に我がクラスの武術祭代表選手の選出が行われた。


「では、まず立候補者はいますか?」


 マルグリット先生の問いかけに隣のマリが物言いたげにあたしを見る。いや、だからムリだって。


「いませんか?」


 重ねて先生が訊いた時、手が1本スッと挙がった。




 リューダ様が顔を赤らめながら手を挙げている。おお!リューダ様、出るんですか!流石はあたしが認める男の子です!頑張って下さい!!


「はい、リューダ君は参加希望ですか?」


「はい。」


 リューダ様が頷くとマルグリット先生は満足げに頷く。先生としては立候補者が居ることが嬉しいらしい。


 よし、これは応援せねばなるまい。




 そして推薦タイム。1人1枚ずつ用紙を渡されて「推薦したい人の名前を4人」書く。匿名で。ただ、今回はリューダ様が立候補して出場が決定したので3人名前を書けばOK。


『誰にしようか。』


 1人は決まっている。エリオット様だ。このクラスで1番強いらしい。だったら書かざるを得まい。あと2人。1人は細身ながら力持ちのエルロア=スタンジール様にしよう。この方は学園祭の大道具チームでも中心になって大活躍してくれていたしね。それに剣術も得意らしい。もう1人は体格の良さそうなセドリック=バトライン様にしとくか。エロル君一派の人だけど、まあ強そうな人に出て貰った方がいいしね。




 投票終了。先生が名前を読み上げる。有効投票35枚。うん、全員の投票が有効と判断されました。その結果。


 1位はエリオット様。ぶっちぎりの1位。獲得票数は27枚。


 2位はエルロア様。獲得票数は18枚。


 まあ、この辺まではみんな目の付け所は同じよね。


 3位はエロル様。獲得票数は13枚。まあ、エロル君一派の組織票だろうね。流石に夏休み前のまんまって事も無いだろうからソレなりに強くはなってるんだろうな。




「では、リューダ君とこの3名で異存は在りませんね?」


 マルグリット先生の問いかけに誰も異存を唱えない。


「では、この4名に決定します。」




 あたしは胸を撫で下ろした。実はあたしの名前が挙がってたんだ。しかも12票。おい、実質の4位じゃねーか。おのれ誰だ。もし異存が在って誰かが外れた場合は、あたしが出ることになってたんだぞ。




「ふん、リューダ、足を引っ張るなよ。」


 エロル君の馬鹿にした様な言葉にカチンと来る。リューダ様はなぁ、日々頑張ってるんだ。お前なんかに馬鹿にされる様な人じゃ無いんだよ。


 でも、言われたリューダ様は困った様に笑う。


「そうだね、立候補したんだし頑張るよ。」


 その愛らしい笑顔と大人な対応のリューダ様にご令嬢方が見惚れる。お嬢様方、今キュンってしたでしょ?したよね?




「リューダ様。」


 廊下であたしが呼び掛けるとリューダ様はクルリと振り向いた。


「ハナコさん。」


 相変わらず可愛いお顔だ。でも、身長はもうあたしと変わらん。


「頑張って下さいね。」


 あたしがそう言うとリューダ様は頬を染めて笑う。あーかわええ。


「はい、頑張ります。貴女から教わった事を全て出し切って勝ち抜いて見せます。」


 その笑顔を見てあたしは思う。


 やっぱり前とは違う。ただ可愛いだけの男の子じゃ無くなった。精悍って言うのかしら?そんなのが滲み出ている。彼は自分の目標を見据えて前に進もうとしている男の子だ。ホントにカッコいいじゃない。


「ふふふ、応援しますね。」


「有り難う御座います。」


 クゥーッ・・・何か良いじゃない、こう言うの。青春してるっぽい。




 そんな感じで、みんな武術祭を話題にして平凡な日常を乗り越えていく。そして武術祭開催の4日前に事件発生。っていうか発覚。




 その主役はエロル君。・・・またお前か。大概にしろや。主役張るなら学園祭ででも張っとけ。まあ、あたしが拒否ったんだけど。




 で何かと言えば、実は今回はエロル君は何もしていない。そう、『今回は』していない。前回に仕出かしてた。学園祭で。


 リューダ様の衣装をズタズタにしたのがエロル君一派だった。やっぱりお前等か。


 話の発端はリューダ様の衣装が2日目に変わった事。アイナのドレスを着たリューダ様の評判が女子の間で好評で。


 でも何で衣装が変わったんだろうね?


 初日に着てた衣装が誰かにダメにされたらしいよ。


 マジで?怖いねー、誰がやったんだろ?


 あ、そう言えば小講堂に入っていく数人を私見たよー。




 こんな流れがもっと上品な言葉でやり取りされて噂は広がっていき、その『小講堂に入っていく数人』がエロル君一派だったって事が判明。


 しかも見たのが2年生の伯爵令嬢で、お得意の家の権力も使えずに、問い詰められたエロル君一派は散々抵抗したあげくに敢え無く白旗。




 馬鹿だねー。やる事がホントにお子様。あたしは呆れて言葉も無い。ただ、マルグリット先生の怒りは半端じゃ無かった。先生は言ったんだ。


「エロル君の武術祭選手登録は取り消しとします。選手は繰り上がって獲得票数4位の人にします。」




 うわぁ・・・可哀想。とんだとばっちりだよね。こんな本番の間際、4日前に急遽変更なんて只の罰ゲームだよ。あたしはその可哀想な人の為に拝んであげた。




 ご愁傷様。







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