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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター2 1年生編 / 二学期
21/105

M18 セカンド



 2学期が始まった。




 エロル君一派は相変わらずあたしを睨み付けてくるし、伯爵令嬢一派は相変わらずマリーベルを疎ましそうに見て来るけど気にしない。エロル君一派以外のご令息はあたしに余り関わりたく無いらしく敵意は見せないけど近づいても来ない。だけどあたしは気にしない。




 そもそも大人だって出来ない『皆仲良く』なんてモノ、子供が出来るはず無いしね。そんなのは幻想。其れこそ幻を想うファンタジーだよ。


 それに下級貴族のご令嬢達は仲良くしてくれるし、リューダ様は視線が合う度に愛らしく微笑んでくれる。頬を染める姿がメチャ愛でたい。それだけで充分よ。




 もはや定番の席となったクラス右端最前列のあたしの席と隣のマリの席には、アイナやフレア、下級貴族のご令嬢方が集まってきている。


 「お久しぶり」の挨拶を皆で交わし終えると、メイベル男爵令嬢が瞳を輝かせて言った。


「今学期はイベントが目白押しですね。10月に学園祭、11月に武術祭、12月は聖夜祭。楽しみです。」


 おおぅ・・・武術祭なんて在るのか。学園祭は10月に在るのか・・・。・・・ん?聖夜祭って一体誰を、そして何を祝ってるんだ?ま、いっか。




 しかし学園祭か。こっちの世界では何をするんだろ?


 前世であたしがやった中では、中学でやったゴシック喫茶、高校でやったお化け屋敷、男女逆転劇なんかが面白かったな。でも、こっちは貴族様達のやる事だからねぇ。あんまりハメは外せないんだろうな。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「皆さん、やりたいモノを提案してくれないと学園祭は不参加になってしまいますよ。」


 担任のマルグリット先生が困り顔でそう仰った。




 新学期も一週間が経過した頃、クラス会議の時間で我がクラスの出し物を決める流れになっていた。




 けど、みんな初めての催しにどんな提案をしたら良いのか解らずに沈黙を貫いていた。貴族は面子が大事。頓珍漢な提案をして恥を掻きたく無いのだ。


「・・・」


 マルグリット先生の視線がこちらに向いた。


「ハナコさんは何かアイデアは無い?」




 おい、何でいつも面倒事が起きるとあたしに来るんだ。




 うーん・・・とは言えこのままだと帰宅時間が遅くなる。かと言って、品はそこそこ在って面白い出し物かあ。・・・前世の2番煎じだけどアレを提案して見るか。




 やがてあたしは立ち上がった。


「では、『仮装喫茶』は如何でしょう?」


「仮装喫茶?」


 マルグリット先生が首を傾げた。


「はい、基本的には喫茶店でお客様をお持て成し致します。ただ、そのもてなす私達は物語などの登場人物などに仮装してお持て成しするのです。例えば・・・」


 あたしは考えた。


 王子様?いやこの世界では身近に居るし。そもそもクズだし。じゃあ、お姫様?それも似たり寄ったりね。執事?メイド?騎士?駄目ね。みんな居るわ。・・・意外と難しいな。ファンタジーの世界から見てもファンタジーな存在か。


「・・・物語の英雄とか、女神様とか、妖精とか。そう言った実際には会えない、会うことが殆ど不可能な存在に仮装してお持て成しするんです。」


 チラリと横目で隣のマリを見ると彼女は瞳をキラッキラと輝かせていた。彼女的にはOKらしい。




「喫茶店は今まで普通に在ったけど・・・成る程ね。」


 マルグリット先生は頷いていたがクラスを見渡した。


「ハナコさんの提案した仮装喫茶はどうでしょう。」




「賛成です!ヤマダ様の案はとても面白そうです。」


 フレアが真っ先に賛成してくれた。


「私も賛成です。」


 アイナも賛同してくれる。


 メイベル様を始め、その他の下級貴族のご令嬢方も賛同の意を表してくれた。




「反対。」


 またお前か。


 あたしはウンザリした。エロル君が眉間に皺を寄せながら立ち上がった。


「仮装だなどと、貴族としての品性が問われる由々しき提案です。所詮は下級貴族、上流社会の常識には疎い様ですね。」


「エロル君、言葉には注意なさい。」


 先生の注意にエロル君は聞こえないフリをして顔を逸らす。




「でもエロル君、では他に案があるの?」


 マルグリット先生の問いにエロル君は宣った。


「案?そんなモノ何だって良いじゃ無いですか。そうだ、楽団を呼びましょう。そしてフルオーケストラでも演奏させましょう。きっと我がクラスの評判はうなぎ登りでしょう。」


「おお、素晴らしい。」


「さすがはエロル君。」


 取り巻き男子が持ち上げる。




「でも、ソレではあたし達自身は何をするんですか?」


「何だと?」


 取り巻きの持ち上げに気分良さげなエロル君はあたしの問いかけに眉を顰めて睨み付けて来た。


「その出し物ではあたし達自身は何もしないじゃ無いですか。当日は何もしないで他のクラスの皆さんが出し物しているのをただボーッと見ているだけですか?」


「貴様!」




 もうコイツは単純にあたしの提案が通るのが気に入らないだけなんだ。だからこんな面倒臭い事を言ってくる。だったらあたしも遠慮なんかしない。とことん応戦してやろうじゃないの。




「そもそも品に拘るのなら、こんな学園祭の催しそのものがエロル様の仰る『品性』を問われるのでは?で、あれば学園にその事を訴えて学園祭の中止でも提案なさったら如何でしょうか?」


「何だと!子爵風情が偉そうに!」


「ならばその子爵風情が驚嘆するような優れた提案をなさって下さいませ。」


「貴様!」




 お前、ソレしか言ってないな。


 エロル君は先生を見た。


「先生、先生はどうお考えですか。伯爵家の僕と子爵家の娘の意見、どちらを優先させるべきかお分かりですよね。」


「エロル君。」


 マルグリット先生の表情が厳しくなる。


「この学園に於いて身分の優劣は問題になりません。王族の方々は別となりますが、それ以外は例え公爵家の方でも特別扱いはされません。入学時に説明を受けている筈です。」


 マルグリット先生の身分は確か伯爵家の夫人でいらっしゃった筈。先生が同格の家柄で在る以上、エロル君の脅し、いや論法は通用しない。


 エロル君は奥歯を噛み締めて怨みがましい視線をあたしに投げつけた。あたしは知らん顔を決め込んだ。


「とにかく俺は反対です。」


「理由は?」


「コイツの提案だからです!!」


 ワガママ大爆発である。お前、ホントに13歳か?いや14歳かも知れんけど。誕生日知らんし知る気も無いからどうでも良いけど。・・・ん?・・・誕生日?




 あ!!!




 あたしは今更トンデモナイ事に気がついた。


 もう、こんな茶番はどうでも良い。サッサと終わらせよう。




「先生、出し物って1つしか駄目なんですか?」


「え?いえ、そんな事は無いけれど・・・」


「では、今の2つの提案をどっちも出し物にしましょう。プロの演奏をお客様に提供し、仮装喫茶でお客様の眼と舌を楽しませる。なかなか良いと思いますが。」


 あたしの提案を先生は思案されていた。




 でも、答えは出ている。受け入れざるを得ない。爵位を出しやがった馬鹿野郎がいる時点で、あたしの案を引っ込めるか両方立てるかしか無いんだよな。


「・・・判りました。そうしましょう。」


 先生はそう言うと、黒板に「仮装喫茶」「オーケストラ」と書いて枠組みを作った。


「では、誰がどちらに参加するのかは皆さんで決めて下さい。そして決めた方に名前を書いて帰るように。後日の変更は何時でも受け付けていますからね。」


 先生は酷く不安そうな表情でそう言い、教室を出て行った。




 結果、仮装喫茶に書かれた名前はマリーベル様の御名と下級貴族のご令嬢達の名前だけで見事に埋まった。・・・とはならなかった。ご令嬢達の名前の下にはリューダ様を始めとする少数のご令息達のお名前も書かれていたんだ。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




『僕は仮装喫茶に参加させて貰うよ。』 


 上級貴族の令嬢令息達がオーケストラに名前を書く中、リューダ様がそう言って仮装喫茶に名前を書いたんだ。


『え!?』


 あたしも含め、全員が驚きの視線を向ける中でリューダ様は淡々とお名前を書かれた。


『おい、リューダ!裏切る気か!!』


 エロル君の怒声にリューダ様は苦笑を返した。


『裏切るなんて程の事かな?僕は仮装喫茶の方が楽しそうだと思ったから此方に参加するだけだよ?』


『・・・いい度胸だ。後で後悔しても・・・』


『僕もリューダ君に続いて、仮装喫茶に参加させて貰うよ。』


 エロル君の言葉に被せて参加を表明してきたのはエリオット=ルナル=カイハンズ様。黒髪の美丈夫で女子生徒からの偶像的支持率は密かに高い。


 家柄ではエロル君のデイプール伯爵家と同じ伯爵位の方だけどカイハンズ家は豊かな領地を持っていて伯爵家の中でも大きな力を持った存在だ。


『な!?』


 エロル君の驚愕は無視された。


『宜しくな。リューダ君。』


『あ、うん。宜しくね。』


 エリオット様の差し出された手をリューダ様は頬を染めて笑顔で握り返す。うーん、美少年2人の爽やかなシェイクハンドは尊すぎるだろ。


『アビスコート様。ハナコ嬢、それに皆さんも宜しく。』


 黒髪イケメンの挨拶に皆が見惚れながら挨拶を返す。


『あ、はい。宜しくお願いします。』




 結局、その後も何人かの男子が参加を表明してくれた。あたしは少しホッとしていた。準備段階ではどうしても力仕事が出てくる。女子だけでは不安だったんだ。




 何だかんだと波乱のクラス会議が終了してあたし達が帰路に就く事が出来たのは、もう日も傾き始めた頃だった。




 あー疲れた。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「みんなは何に仮装したい?」


 フレアが瞳をキラッキラに輝かせて尋ねてきた。




 いつものあたし達の自室に4人で集まって来月の仮装喫茶について話をしていた。




「フレアはその名の通りで火の女神の『フレア様』で良いんじゃない?」


「じゃあ、アイナは静寂の女神『ディアナ様』で。」


 2人がマリとあたしを見る。


「な・・・何でしょう?」


「な・・・何?」


 何か妙な威圧感を感じてあたしとマリはドモリながら尋ねた。


「私ね、2人には推薦したいモノがあるの。」


「私も。」


 ・・・ソレは?


「マリ様は出会いと喜びを司るアルテナ様。」


「ヒナは運命を司るロンディール様。」


 アイナとフレアが息を合わせたように宣った。




「え!?」


 マリがポッと頬を染める。


「男じゃん!!」


 あたしが叫ぶ。




 マリはgood!ベストチョイスだよ!アルテナ様って確か『美』も司っているし、格好もかなり薄地の絹服を纏っていてエロい格好をしてるから見てみたい。仮装した姿を想像しただけで鼻血出そうだ!




 で、何であたしは男なの!?何なの!?あたしは『男っぽい』から遂に『漢』に認定されてしまったの!?


 ・・・ああ・・・あたしの中の『乙女』が全然仕事をしてくれない・・・。




 ガックリとコタツに突っ伏すあたしに2人のフォローが入る。


「あのねヒナちゃん、ロンディール様って美貌の神としても有名なんだよ?中性的な青年の姿で描かれてるの。」


「そうそう、別にヒナが漢っぽいなんて理由から選んでいる訳じゃないのよ?」


「そうそう。」


「それに・・・」


 ・・・それに?


「この神様達は夫婦だし。」




「?・・・ソレが何の理由に?」


「え?・・・だって・・・ねえ。」


 あたしの問いにアイナが意味ありげな視線をフレアに送る。


「・・・2人見てると何か夫婦みたいって思うとき在るんだもん。」




「ハァッ!?」


「えっ!?」


 あたしとマリは瞬時にユデダコになって問い返す。


「いや、みんな言ってるよ?凄く仲が良くて夫婦みたいだって。」


「・・・」


 あたしとマリは顔を見合わせる。


「因みに・・・どっちがどっち?」


「・・・訊きたい?」


「・・・いや、いいや。」


 訊くまでも無いよな、そんな解りきった事。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




 夜、ベッドの中であたしは溜息を吐いた。


「どうしたの?」


 マリが隣で尋ねて来る。


「あたし、そんなに男っぽいかなあ?」


「そんな事無いよ。ヒナちゃんは凄く美人だよ?」


「・・・」


「ただ・・・」


「ただ・・・何?」


「時々、凄くかっこいい。」


 ・・・それをどう受け取れば良いんだろう?


「かっこいいかあ・・・。」


「嫌?」


「乙女としてはどう受け取ったら良いんだろう?」


「素直に喜んで。」


「そう?」


「うん。」


 そっかあ。じゃあ、素直に褒め言葉として受け取っとこう。




 マリがキュッと手を握ってきた。


「?」


「夫婦だって。」


「あたしが夫でマリが妻?」


 マリがあんまり嬉しそうに笑うもんだからあたしも思わず微笑む




 まったく人の気も知らないで。




「そうだ。」


 あたしはクラス会議の時に気がついた重要案件について思い出した。


「なあに?」


「今更だけど、マリの誕生日っていつ?」


「・・・8月14日。」


 うわああああ!過ぎちゃってるよ!


「ゴ・・・ゴメン、過ぎちゃってるね。」


「ううん、謝らないで。あたしもヒナちゃんの誕生日知らなかったんだし。・・・いつ?」


 ちょい照れ臭いけど言っとくか。


「12月24日。」


「クリスマス!」


「アハハ。でもこの世界には無いでしょ?」


 あたしは苦笑いしながら頬を掻く。


「クリスマスって呼び名は無いけど、聖夜の日って言う殆どそのまんまの意味の日が12月24日にあるよ。」


「さすが日本のゲーム。」


「うふふ。」


 マリの笑顔は相変わらず見惚れてしまう。


「それにね。もう、誕生日プレゼントならもう貰ってるよ。」


「え?」


 マリの言葉の意味が分からずにあたしは彼女を見た。




 キラキラと銀月の光に輝く瞳があたしを見つめている。


「8月14日・・・何か思い出さない?」


「?」


 うーん・・・何かあったけ?


「思い出せない?」


 あたしの表情を楽しむようにマリは悪戯っぽい笑顔であたしを見ている。


「うーん・・・」


 あたしはマリの顔にドキドキしながらも考え続ける。


「うふふ。じゃあ、ヒント。」


「うん。」


「ヒナの実家から帰ってきた日の次の日だよ。」




 あたしの頭の中であの日の事が画像の早送りの様に思い浮かび・・・。


「!」


 あたしはマリの顔を見た。


「・・・あの・・・」


 あたしの赤くなった顔を見てマリは嬉しそうに微笑んだ。


「そうだよ。あたし、あの日にヒナから『ファーストキス』って言う贈り物を貰ったんだよ。」


 マリの色んな想いが籠もった様な瞳から眼が離せない。もう一度・・・。


「・・・でも、あたしはそのつもりでキスしなかった。」


「・・・。」


 マリが無言であたしを見つめる。


「だから、今度はそのつもりで・・・」


 あたしがそう言うと彼女の綺麗なエメラルドグリーンの双眸が潤む。


「うん、頂戴。」




 あたしはマリの薄紅色の唇にソッと唇を重ねた。あの日以来の2回目の口づけ。あったかい・・・。




 あたしが唇を離そうとするとマリはあたしの首に両手を回して離さないようにしながら、更にあたしに深く口づけた。


「もっと頂戴・・・」

 マリの囁きにあたしの心も微睡みに包まれた様に無抵抗になり、マリで一色になる。


 どのくらい、そうしてたのかな。


 やがて、マリはあたしから唇を離した。




 夢心地の時間を終えて、あたしはマリに告げた。


「14歳のお誕生日おめでとう、マリ。」


「ありがとう、ヒナ。」


 あたし達は微笑み合った。





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