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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター1 1年生編 / 一学期
16/105

M14 帰省



 夏休みに入って1週間が経過した。


あたしはリューダ様の稽古に付き合ったり、マリと町に遊びに行ったり、アイナ様とフレア様の強襲を出迎えたりと、それなりに楽しく過ごしていた。


 程なくアイナ様とフレア様は実家に帰省された。勿論、学園に戻る日は3人で示し合わせている。




 そして、あたしの帰省日。


「さあ、あたし達も帰省しましょう。マリ、準備出来てる?」


 マリはコクリと頷いたが不安気な表情だ。


「本当に私もお邪魔して良いの?」


「まだ言うか。何度も良いって言ってるでしょ。ここに1週間もマリを1人置いておけるわけ無いでしょ?只でさえ人が少ないんだから。」


「・・・うん。」


 まあ、確かに友人の、とは言え家族に会うのは緊張するよね。


それにマリは前世も含めて家族から酷い扱いを受けている事もあり少々人見知りの傾向がある。


「大丈夫よ。あたしもそんなに長く一緒に居た訳じゃ無いけど悪い人達では無かったわ。」


「うん。」


 あたしが微笑むとマリも漸く笑顔を見せた。




 帰省期間は1週間の予定。ハナコ家は学園から馬車で1時間ほどと結構近い場所に在るから移動を始めれば帰省は直ぐだ。




 あたし達がヒイヒイ言いながら、学園の正門に荷物を引っ張って行くとハナコ家の馬車が止まっており下男の方々が仰天した表情で走り寄って来た。


「お嬢様、我々が運びますからお荷物は置いておいて下さい」


「あ・・・そうですか?じゃあ、お願いします。」


 あたしとマリはお任せする事にした。


 あんだけ2人でヒイヒイ言いながら運んできた荷物をヒョイヒョイと担いでスタコラと歩いて行く。


何かズルくない?




 久しぶりの我が家である。


実質は1週間ちょっとしか居なかった実家ではあるが我が家は我が家である。


「お帰りなさいませ、お嬢様。ようこそいらっしゃいました、アビスコート様。」


 家令の・・・セバスチャン?・・・いや、違う・・・。家令のダンディーなオジサマが出迎えてくれる。


「お嬢様!お帰りをお待ち致して居りました!」


 ライラさんが抱きついて来た。


「た・・・ただいま戻りました、ライラ。」


 あたしはマリの手前、恥ずかしさも在って引きつった笑顔でライラさんを引き剥がした。


「・・・」


 マリはビックリ顔であたし達を見ている。




「お帰り、ヤマダ。」


「お帰りなさい、ヤマダ。」


「ただいま戻りました。お父様、お母様。」


 父母ことサミュエル様とシルヴィア様のご登場である。相も変わらずお美しい。


 2人はマリに視線を向ける。


「アビスコート様もようこそいらっしゃいました。」


「我が家だと思っておくつろぎ下さいませね。」


 マリは慌てて頭を下げた。


「は・・・はい。マリーベル=テスラ=アビスコートと申します。この度はお招き頂きまして有り難う御座います。ヤマダ様にはいつも・・・」


 ――ん?どうした?挨拶の言葉を忘れちゃった?




 マリは顔を上げる。


 其処にはあたしを1発KOしたあの天使の微笑みが浮かんでいた。


「・・・本当にいつも助けて頂いております。ヤマダ様と出会えて・・・私は本当に幸せです。」


「・・・」


 どうやら両親を含め、その場に居た全員がノックアウトされた様だった。


 シルヴィア様が頬を染めてマリの手を握る。


「娘をそんな風に言って頂けてとても嬉しいですわ、アビスコート様。」


「その通りです、アビスコート嬢。貴女に楽しんで頂ける様、精一杯のお持て成しをさせて頂きますよ。」


「有り難う御座います、子爵様。皆さん、私の事はマリーベルとお呼び下さい。」


 マリは微笑む。




 うん、どうやらウチの人達、マリに心を鷲掴みにされた様だった。口には出さないけど表情見れば分かる。よしよし、遠巻きにされなくて良かった。




「さあ、マリーベル様。あたしの部屋に参りましょう。」


「!・・・はい!」


 瞳を輝かせるマリに思わずギューッてしてみたくなってしまう。




「マリ、暫く部屋で寛いでいてね。」


 のんびりとした一時を部屋で過ごした後、あたしは立ち上がってマリにそう言った。


「?、うん。お出かけ?」


「いえ、お父様と少しお話をしてくるわ。」


「ああ、はい。分かったわ。」


 マリの笑顔に見送られて、あたしはお父様の書斎に足を向けた。




「お父様、今、お時間は宜しいでしょうか?」


 書斎をノックして中に入るとあたしは執務中のサミュエルさんに話しかけた。


「ああ、ヤマダ。どうしたんだい?」


 サミュエルさんは娘の来訪が嬉しいのか顔を綻ばせて尋ねてきた。


「少しお話が在りまして・・・」


「ああ、そうなのか。では、そこに腰掛けて少し待っていなさい。」


 あたしは指定されたソファに腰掛けて書斎を見渡した。




 サミュエルさんの・・・お父様の書斎に置いてある物は、本が半分に色々な道具が半分。


道具はまだこの国では流通していない他国の産品だ。売れるかどうかの検証をしているんだろう。




 そう、ハナコ家は子爵という爵位を持ちながらも商いに拠って身を立てている商家の一族なんだ。


元々はお父様のお祖父様のお祖父様が店を開き、其処からお祖父様・・・つまりあたしの曾祖父様の代までで、大きな商会に引き上げた。




 曾祖父様は商会本体を、余り流通事情に明るく無かったこの国に置いて、物とお金と人を商会を通して大量に呼び込んだ。とにかくスンゴイ儲かったらしい。


 で、当時の王様は、王国に新しい流通基盤を作り上げた曾祖父様を手放したく無くて、男爵位を与えて国に縛りつけたそうだ。


 曾祖父様はブウブウ言いながらも貴族相手の商売がやり易くなったので、受け入れたとの事。




 代が代わってお祖父様の代では商会の規模も膨らみ、税金対策として民間に学舎を建てたり、孤児院を設立したりと国家事業の一部を商会のお金で引き受けたりしていた為に子爵へ陞爵された。




 で、お父様の代に至ると。


 だから民間からの成り上がり貴族とは言え、お父様は生まれた時からの生粋の貴族。


でもお祖父様と曾祖父様の影響をモロに受けていて考え方は民間人の其れそのもの。地位や名誉に興味が無く、商売の邪魔になる様なら爵位は捨てると考えておいでらしい。




 新しい物や珍しい物が大好きで、気になる物は何でも取り寄せるのだとか。その結果がこの書斎に乱雑に積まれた品々なのである。




 そういう人はあたしの好みだ。だからお父様と話しをするのは楽しい。




「やあ、待たせたね、ヤマダ。」


 お父様はニコニコ顔であたしの向かいに座った。


「うふふ、お父様とこうしてお話するのも久々ですね。」


「ああ、そうだね。学園は楽しいかい?」


「はい、お父様。とっても。」


 あたしが答えるとお父様は満足そうに頷いた。


 それから暫くはお父様に求められるが儘に学園の話で花を咲かせる。




 さて、そろそろ本題へ。


「それでお父様、あたし学園でちょっと面白そうな物を作ってみたんです。」


「ほう?」


 お父様が興味深そうに視線で話の続きを促す。




 あたしは以前に自作したコタツの設計図をお父様の前に広げた。


「これは?」


「暖房用の机です。」


「・・・」


 お父様はピンと来なかったらしく、設計図から正体を読み解こうとしている。


「脚が短いな・・・。机の裏面にある出っ張りは・・・何か投入した物の受け皿か。・・・ほう、温石を入れるのか・・・。間に布団を挟んで熱を逃がさない様にすると・・・成る程・・・」


 お父様は設計図から目を離すとあたしを見た。


「面白い物を考えたね。しかし、これでは床に直に座ることにならないかね?」


「はい。ですから、これの下に『土足禁止』のフカフカ絨毯は必須です。」


「土足禁止・・・」


 お父様はあたしの伝えようとしているイメージを掴んでいる様だった。


 それだけに意外な気持ちが大きいんだろうな。




 この国ではベッドで眠る時以外は、基本的に靴を履いて生活する。


ましてや貴族ともなると床に直に座るといった行為はあり得ない。芝生の上でも拒否する人が居るだろう。


日本人の感覚に置き換えれば泥沼の中に腰を下ろすようなモノだ。普通に受け入れ難いだろうな。




「・・・そこに敢えて腰を下ろして寛ぐ可笑しさを『洒落』と楽しめる物好きな人なら、気に入るんじゃ無いかと思いまして。それに実際は綺麗な絨毯の上に座る訳ですから、不潔ではありません。・・・まあ、温石に関しては火事が怖いですから再考の余地は在りそうですけど。」


「ふむ・・・」


 お父様は考え込んだ。男盛りなお父様の端正なお顔が美しいわ。


「・・・何にせよ面白い・・・」


 お父様は呟くとあたしを見た。


「面白そうだね。一度、試作品を作ってみよう。上手く出来れば買いそうな顧客に宛てはあるから。」


「うふふ、商会のお役に立てそうで嬉しいですわ。」


 あたしが笑うとお父様も微笑んだ。


「それとお父様、最近のご商売は如何ですか?」


 あたしが尋ねるとお父様の表情が少し曇る。


「相変わらずだよ。上位貴族ほど金にケチる。・・・以前もお前に言った様に本気で考えなければならないな。このままの状態でテオに商会を継がせる訳には行かない。」




 お父様は実はこの国に本店を・・・つまりハナコ家を置く必要性を感じていらっしゃらない。


貴族との取引に於ける最大のメリットは、金に糸目をつけない買い物っぷりと広い人脈を生かした紹介にある。


 だけど、この国の貴族は自分の威光で物の値段を下げさせようとするわ、他者に紹介せずに自分の処だけで新商品を囲おうとするわで、こと物流に関する開拓意識が極めて低い。


 だったらこんな所に本店など置かず他国に移して伸び伸びと商売した方が良い。爵位?そんなモノ返すさ・・・とお父様は考えてるんだ。




 入学前にその事をやんわりと告げられた時は驚いたけど、今となっては好都合だ。


「お父様。あたし、お父様のお考えに反対する気は御座いません。あたしが就学中だからと言って遠慮なんか要りませんわ。どんどんやって下さいまし。」


 お父様はビックリ顔だ。


「いいのかい?・・・友達も出来たんだろう?」


「ええ・・・離れるのは寂しいですけど、それで交友が途絶える訳では在りませんわ。・・・お父様なら繋いで下さいますでしょう?」


 あたしが理解を示した事が嬉しかったのかお父様は力強く頷いた。


「ああ、勿論だ。その子が上級貴族なら難しいが、男爵・子爵の子なら国を移った後でも繋いであげられるよ。」




 良かった。それならアイナ様やフレア様ともお友達付き合いは続けられそうだ。

うん、元気出た。




 そしてあたしは今日の一番の目的について話しを始めようと口を開いた。







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