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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
ファイナル・チャプター 高等部
103/105

M88 伝えよう



 床に伸びた王子を2人の神様・・・どう見ても役人にしか見えないけど・・・とにかく2人が引き摺って広間から引っ張り出して行く。




 煩いのが居なくなって急に広間が静かになった。


「・・・。」


 あたし達はユラ様を見た。


「・・・。」


 ユラ様もあたし達を見つめる。




 ・・・いや。なんか話せよ。貴女まで呆気に取られていたらどうして良いか解んねーよ。




「あの・・・ユラ様?」


 あたしが声を掛けるとユラ様はハッとなった様に表情を改めると軽く咳払いをした。


「ごめんなさい。ちょっと驚いてしまいました。」




 素直で可愛いな、この人。




「じゃあ、あたし達はこのまま帰っても良いんですかね?」


 そう尋ねるとユラ様は頷いた。


「え、ええ。勿論です。送らせて頂きますね。・・・その前に・・・。」


 そう言いながらユラ様はあたしを見つめた。




「?」


 あたしが首を傾げるとユラ様が口を開いた。


「言おうかどうしようかと悩んでいたんですが・・・。」


「はあ。」




 ユラ様は何だか本当に躊躇うような表情だった。




 待って。なんか凄ぇ嫌な予感がする。


 この上何なんだよ。まだ何か在るのか?




「・・・落ち着いて聴いて頂きたいのですが・・・。」


「はあ・・・。」




 ゴクリ。


 こう言う時、人間ってホントに生唾って奴を呑むんだな。




「・・・貴女は肉体と魂が一致していません。」


「?」




 は?


 あたしは首を傾げた。




「そのせいで貴女の生活にも色々と不都合が出ているはずです。」




 いや、そう言われてもさ。


 つまりはどう言う事?




「あの・・・。」


 耐えきれずにあたしは尋ねた。


「つまり、どう言う事なんでしょうか? 良く解らないのですが。」




 ユラ様は一瞬だけ辛そうな表情をしたけど直ぐに取り直して言った。


「すみません。解りやすく言うと・・・。」




 言うと・・・?




「貴女の魂は男性の魂です。」




 ・・・。


 ・・・ん?


 ・・・は?




 はぁーーー!?!?!?!?!?!?!?!?




 男!?


 あたしが!?


 漢!?




 何言ってんだコイツ!




「あたしが漢!?」


「はい。」




 はい、じゃねぇ!!


 あっさり言うな!




「あたしは女だ!」


 あたしは叫んだ。


「はい勿論。肉体は立派に女性のモノです。」


「断じて益荒男じゃねぇ!」


「いえ、魂は男性です。」


「ウガ-----ーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」




 あたしは髪を掻き毟る。




「ヒナちゃん、落ち着いて。」


 マリが興奮し過ぎて爆熱するあたしの右腕を掴んで背中をポンポンと叩いた。




「ユラ様。」


 あたしの代わりにマリが話し掛けてくれる。


「その・・・ヒナちゃんの魂が男性のモノだったとして、どんな不都合が有ると仰るのでしょうか?」




 ・・・確かにソレは気になる。




 ユラ様は頷いて答えてくれる。


「魂が男性だと先ず男性から恋愛の対象に見られ辛い筈です。」




 ・・・え。




「そして逆に女性からは好意を受け易くなると思います。この場合の好意とは恋愛対象に見られ易いと言う事です。」




 ・・・そうなん?




「ただ、貴女自身は身体が女性ですから男性からのラブコールがまったく無い事に不満を感じていた筈です。逆に女性からのラブコールを1度ならず受けたことが有ると思います。そしてその事に不快感を感じてはいなかったんじゃ無いでしょうか?」




 あたしはアヤを思い浮かべる。


 そしてマリを見た。


 マリは顔を真っ赤にして視線を逸らす。なにその仕草。可愛い。




「そうなってしまうのは貴女の肉体と魂の性別が一致していないからです。」




 魂と体の性別が違う・・・。




「風見陽菜とヤマダ=ハナコ。貴女の生活を少し覗いてみましたが貴女自身はとても魅力的で素敵な女の子です。にも関わらず男性から恋愛対象として見られないのは男性側が本能的に貴女の男性の魂を感じ取ってしまい、恋人ではなく友人として意識してしまうからなんです。」




 ・・・そういう事なん?




「そして女性側は逆に貴女の男性の魂を本能的に感じ取ってしまうから、ちょっとした事で貴女を恋人にしてみたいと意識してしまう。」




 そうだったんか・・・。




 静かになったあたしを見てユラ様は落ち込んでいると思ったのか言葉を続けた。




「でも悲観する事はありません。貴女自身のこれまでの振る舞いもあったお陰で貴女をちゃんと女性として意識できそうな男性が周囲に何人か居ますから。これからのアプローチ次第でどうにでも変化させる事は出来ます。」




 ・・・誰だろう?


 リューダ様? それともセシル様?




「それに貴女が望むなら貴女の魂を女性のモノに変えて戻す事も可能です。」


「え?」


「元々、今の貴女の状態は天界のミスですから私の責任に於いて正常な状態に治させて頂く事も出来るという事です。」


「・・・え・・・。」




 あたしはユラ様を見た。


 マジで?


 治せるの?


 治したらどうなるの?




「魂を変えたらどうなるんですか?」


 訊いてみる。




「周囲の貴女に対する反応が正常なモノになります。男性は貴女を恋愛の対象として見る様になるでしょうし、女性が貴女を恋愛対象としては見なくなるでしょう。」


「記憶とかは・・・?」


「真っ新な女性の魂に今の貴女の記憶と経験を封入しますから大きな違和感は感じない筈です。ただ、人の記憶や感情と言うモノは非常に繊細なモノですから、1部の記憶が抜け落ちたり感情に変化が有ったりはするかも知れません。」




 記憶と感情が・・・。


 ソレはつまり今まで積み上げてきたマリとの思い出と彼女への気持ちが変化してしまうかも知れないって事?




 ・・・痛い。


 あたしの右腕を掴んでいたマリの右手にギュウッと力が入って、あたしの右腕を痛いくらいに握り締めていた。


 マリを見ると、彼女は真っ青な表情で思い詰めた様に床を見つめていた。




「・・・。」




 マリはきっと。


 『そんな事はしないで』と叫びたい気持ちなんだろう。でも、あたしの幸せを思ってギュッと自分の心を押し殺して我慢してくれてる。


 そう、この子はそんな子だ。


『駄目!』


 と、そう一言叫べばあたしはその言葉に従うのに彼女はその言葉を決してあげない。


 あたしの気持ちを最優先に考えてしまう子。




 その優しさを愛おしく思う。けど同時にもどかしさも感じてしまう。


 もっと我儘を言って良いのよ、貴女は。自分を押さえ込み過ぎるわ。もっと貴女の我儘であたしを振り回してくれて良いのよ。




 でも今はマリの優しさを嬉しく思いつつあたしは彼女の手を握った。




「!」


 マリはハッとなってあたしを見る。


 あたしは微笑むとユラ様を見た。




「ユラ様。やっぱり、あたしはこのままで良いです。このチグハグな存在だからこそ今の友人関係を築けたんだと思えば、この状態を変えたくはありません。」


「・・・。」


 ユラ様はじっとあたしを見つめ、それからマリを見た。


 美しい女神様はそっと目を閉じてから頷いた。


「解りました。」




 ああ、この人が女神様になってくれて良かったな。




「ではこのまま貴女方を戻すとしましょう。・・・もし変更を望む様なら何時でもアリスさんを通じて連絡して下さいね。」


「はい。」


 あたしが頷くとユラ様はニッコリと微笑んで、今度はアリスを見た。


「アリスさん、この度は本当にお疲れ様でした。貴女が居なければきっとこの天界は崩壊していたでしょう。天界を代表してお礼を申し上げます。」


「いえ・・・私は殆ど何もしてなかったです・・・。」


 アリスが真っ赤な顔でモゴモゴとそう言った。


 ユラ様は首を振った。


「いえ。そんな事はありませんよ。貴女の変えようとする強い気持ちが私に決意をさせて大きな変化に繋がったのです。貴女は天界とA-7エリアに住まう人々全員の恩人ですよ。」


「有り難う御座いまウ・・・。」




 噛んだ。


 噛んだぞ。


 今コイツ噛んだ。




 なんとも締まらないやり取りにあたしは思わず笑ってしまう。




 ユラ様はあたし達を見渡すと言った。


「さあ、では貴方達を元の世界に戻しましょう。その前に1つ。この天界と神々の仕組みに関する記憶だけは戻す際に消させて頂きます。」




 全員が頷く。




「・・・願わくば貴方達が幸せな人生を歩んで再び『此処』に戻ってきますように。」




 ユラ様があたし達に向かって手を伸ばすと、その手が光り輝き・・・視界を焼き尽くすような凄い光があたし達を包み込んで・・・。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「・・・。」




 ボーッと突っ立ってたあたし達はビューっと吹いた寒風に我を取り戻した。


「寒・・・!」


 呟きながら周囲を見回すと其処はテラスだった。




 アリスがあたし達を飛ばしたテラスに戻ってきたみたいだ。




 マリが居る。アリスが居る。アルフレッド様が居る。変態王子が・・・居ない。


「・・・。」


 みんなもソレには気付いてるみたいだけど誰もソレに触れない。




「随分と貴重な経験をさせて貰ったみたいだね。」


 アルフレッド様がやや呆然とした表情で呟いたのであたしが同意した。


「・・・ですね。」




 いや、ホントに凄い経験をしたわ。




 朝起きてからマリとヒロインを確認をしに行って、ヒロインが実は転生者で、変態王子も転生者で、アルフレッド様まで転生者だった。


 そして神様ん家に連れてって貰って・・・あたしの前世の死因がとても酷いモノだったという事が判った。で、その首謀者の一番悪い奴が何処かに連れて行かれて・・・一番偉い女神様が王子に向かって『元の世界に戻せない』と言っていた。


 そんで本日2度目の衝撃。あたしの魂が実は男だった。




 もうゴチャゴチャし過ぎて色々と整理が追いつかないけど。


 まあ、大変だったわ。




「まあでも『全員』無事に戻って来られて良かったわ。」


 あたしは敢えてそう言った。




「全くだ。」


 アルフレッド様が間髪入れずに同意してくれる。


「僕達『4人』は間違い無く無事に戻って来られた。コレが今日起きた現実だ。それ以外には何も無かった。」


「ええ。」


「はい。」


 マリとアリスが頷く。




 要は他言無用と言う事だ。




 アルフレッド様は頷くと手を上げた。


「じゃあ、僕は生徒会の方に呼ばれているからもう行くよ。」




 あ、そうだ。アルフレッド様に訊きたい事があった。




「アルフレッド様。」


「ん?」


「あの、前世では・・・グラスフィールドストーリーをプレイしてたんですか?」


 アルフレッド様は苦笑した。


「ああ。『彼女』がね。2作目の大ファンだったんだ。僕はその横でプレイを見たり攻略を調べたりしてただけだったんだけどね。」




 ああ、なるほどね。




「じゃあまた始業式で。」


 アルフレッド様は立ち去って行った。




「アリスはどうするの?」


 あたしが尋ねるとアリスは疲れた様な顔で笑った。


「今日はもう帰るわ。何だか色々と疲れちゃった。」


「解った。」




 アリスは帰る間際に此方を向いて笑顔を見せた。


「貴女達と知り合えて良かったわ。コレから宜しくね。」


 あたし達も笑顔で返す。


「うん、コッチこそ。」


「はい。」




 1人が戻って来ず、2人が立ち去った。




 あたしはマリを見た。


「帰ろうか。」


 マリはあたしの手を握って答えた。


「うん。」


 あたしはマリの手を強く握り返した。




 ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆




「戻って来たね-・・・。」


 自室に戻って来てからあたしはそう言ってみたけど・・・この部屋、実は一昨日移動したばかりだから言葉ほどは実感が無い。




 あれ?


 返事が無いな。




 あたしは後ろにいるマリを振り返ると彼女は呆けてあたしを見ていた。


「マリ?」


「!」


 あたしが声を掛けるとマリはハッとなった様に表情を変えると真っ赤になって顔を逸らした。


「?」




 どうした?




「マリ、どうかした?」


 尋ねるとマリはシドロモドロになって返事をしてくる。


「あ・・・いや・・・あの・・・ヒナちゃん・・・。」




 おいおい、どうしたよ。




 尋常じゃ無い彼女の反応に少し心配になったあたしは彼女に近寄る。




「マリ?」


 彼女の顔を覗き込むと彼女は引き攣った様な表情になった。そして慌てて両手で顔を覆って隠してしまう。


 そんでボソリと言った。


「・・・男・・・。」




 は? 男?




「ヒナちゃん・・・男の子だって・・・。」


「!?」




 マリちゃん!?


 引っ掛かってる!?




「やっぱり・・・イヤ?」


 あたしは怖々とマリに訊いてみる。




 そりゃそうよね。


 同居してる人間が女だと思ってたら、魂?が実は男でした。・・・なんて欺されてた気分になるかもね。




 マリは覆ってた両手をゆっくり外した。


 ソコから現れたマリの表情を見てあたしの心臓が跳ね上がった。




 なんて顔をしてんのよ。




 頬が紅色に染まっていて、双眸がウルウルと濡れていて、小さな唇が桃色に輝いていて。


 めっちゃエロい表情になってた。




 その唇が動いて掠れた声が漏れてくる。


「イヤな訳ないよ。」




 ・・・なんだ、この色気タップリな美少女は。




 あたしは堪らずマリを抱き締めた。


 この感情もあたしの中の『魂・type 漢 ver.』が悪さをしてるんだろうか。




 ・・・あたしもさ。


 あの変態王子の事を散々「キモい」だの「変態」だの言ってたけどさ。実はあたしも人の事は言えないんだよね。


 だってさ、マリに「これでもか」ってくらいにイカガワシイ事をしてきてるんだから。


 現に今も。


 寧ろ同性の女の子にしてる分だけあの王子よりもタチが悪いまである。




 彼女の首筋に顔を埋めながら思わず大きく息を吐き出すとマリの身体がピクリと震える。




「ヒ・・・ヒナちゃん、くすぐったいよ。」




 やべ。


 あたしの息がマリの耳と首筋に盛大に吹き掛かっちまった。




「ごめん。」


 あたしが呟くとマリがあたしの顔を覗き込んだ。




「ヒナちゃん? どうしたの?」


 声と表情であたしが少しテンションダウンしてるのがバレたっぽい。




「なんでもない。」


 そう言って誤魔化そうとしたけどマリは誤魔化されてはくれなかった。


「ウソ。なんかあったでしょ? 話して。」




 ・・・そうだな。言うか。




「あたしもさ・・・。」


「うん。」


「あの変態王子の事を言えないなって思ってさ。」


「? ・・・どういう事?」


 マリが訝しげに首を傾げる。


 あたしは続けた。


「だってさ。あたしだってマリに散々いかがわしい事をしてきてさ・・・。」


「ヒナちゃん!!」


 突然マリが吠えた。


 あたしはビックリして言葉を止めてしまう。




「バカなこと言わないで!」


 マリは怒った顔であたしの両頬を両手でブニッと押し潰して来た。


 あたしの唇がタコの口みたいになる。




「全然違うわ! ヒナちゃんはあんな奴とは全然違う!」


「でも・・・。」


「でもじゃないの!」




 圧が凄い。


 あたしは二の句が告げられずに黙った。




「ヒナちゃんは本気で私を見てくれたわ。あんな性欲だけの男なんかと一緒にしないで。少なくとも私はいつだって凄く嬉しかったし今でもその気持ちは変わらない。ヒナちゃんはそう言う幸せを私にくれたんだよ。」




 せ・・・性欲って・・・。マリちゃん、そんな言葉を覚える年頃になっていたのね。まあ咄嗟に口走っただけだと思うけど。


 でも後半の言葉は嬉しかった。




 あたしは更に強くマリを抱き締めて耳元に囁いた。


「ありがとう、マリ。あたしも幸せだよ。」




 そうだな。


 やっぱり伝えよう。


 今まで言えなかった想いを。


 今まで伝えてなかった言葉を。




「マリ。」


「?」


 マリがあたしを見つめる。


 あたしは微笑んだ。






「マリ。恋人同士になろうか。」







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