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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
ファイナル・チャプター 高等部
101/105

M86 エクスキューショナー



 あたしは何だか全部の事に空しさを感じて酷い徒労感に襲われていた。




 だってそうでしょ?


 どんなに懸命に生きていても、こんな訳の解らない場所に居る神だか人だか解んない、クソガキが何の成長もせずに無駄に年食っただけの様なジジイの「間違えちゃった、テヘッ。」で人生全ロスさせられちゃうんじゃ堪ったモンじゃ無い。


 しかも殺った本人は「転生させてやったんだし良いじゃん」ってまるで悪びれた様子がない。




 なんかもういい。


 全部どうでもいい。




 こんな気持ちになったのは何時くらいだろう?




 小学生の時に好きだった男の子が引っ越してしまった時?


 父ちゃんと進路について話し合って口論になった時?


 部活の公式試合で舐めてた相手に言い訳も出来ない程のフルボッコに遇って完敗した時?




 ・・・違う。どれも違う。どれもやる気を失ったのはその時だけで、その後は楽しく生活していた。




 でも何か今回は違う。


 やる気云々って言うより、もう何か心が抜け落ちていく様な・・・取り戻せない様な・・・どうしようもない奈落感に包まれていた。




 あたしは自分で思うよりもずっと前世の生活を大事に想っていたんだな。




 あたしの心に黒い雫が落ちていく。雫はどんどんあたしの心に染みていく。雫は次から次へと落ちて来て、あたしの心を黒く濡らしていく。




「ハハハ! 良い様だな!」


 後ろからあたしを嘲笑う変態ロリコン野郎の声が聞こえてくる。


「さっきまで随分と威勢の良い態度をとっていたクセに、転生の真実を知ったくらいでその様かよ。」




 黒く、黒く・・・。




「俺など下らない前世から解放されてこの世界に転生出来た事に喜びすら感じていると言うのに。」


「そうだろう。そうだろう。流石は儂が見込んだヒーローだ。度量の器が違う。」




 黒く・・・黒く・・・。




「所詮はモブキャラ程度にしか転生させて貰えない奴なんだよ、お前は。」




 黒・・く・・・。






「黙れ!!!!」




 一帯を震わせるような、突然の大声が響いた。


 その声にビクリと身体が震えてあたしはハッとなった。一瞬で黒い染みが退いていく。




 顔を上げようとした瞬間に「フワリ」と温かくて良い香りの彼女があたしを包み込んでくれた。


「・・・マリ・・・。」


 言葉にして呟いてあたしは急速に我を取り戻した。




 ああ、そうだ。


 あたしにはマリが居るじゃん。


 じゃあ大丈夫じゃん。




 あたしなんて単純なモンだ。


 好きな人が1人側に居てくれると再認識しただけでさっきまでの絶望感が吹き飛んでしまう。




「なんじゃ騒々しい。だから悪役令嬢と言う奴は・・・。」


「お前も黙れ!!!!」




 爺さんの声を遮る。マリが。


 いつもの穏やかな彼女からは想像が付かないけどさっきから怒鳴っているのはマリだ。




「き・・・貴様・・・。」


「神に対してお前とはなんだ!」


 変態王子と爺さんが異口同音に怒りの言葉をマリに向ける。




「俺に向かって黙れだと!? 平民女出涸らし・・・。」


「悪役令嬢の分際で消されたい・・・。」


「黙って!!」




「マリ・・・?」


 マリが何かおかしいと不安になってあたしは彼女の名前を呼ぶ。


 するとマリはあたしを見て微笑んだ。




 ・・・。


 ・・・良かった。いつものマリだ。


 じゃあ何でこんな言い方してるんだろう。




 マリは後ろの王子を見て言い捨てた。


「もはや貴男となんて話すことは1つも無いので黙っていて下さい。」


「な・・・。」


 いつも大人しくて反論などしてこないと見下していた少女から辛辣な言葉を投げつけられて変態野郎は口を震わせて絶句している。そして何かを言い返したいけど、マリから感じる凄まじい圧のせいでそれ以上何も言えずに黙ってしまう。




 簡単に王子を黙らせたマリは続けて主神を見遣った。




「私が悪役令嬢ですか?」


「・・・。」


 マリは静かに主神に尋ねる。


「そんな事、誰が決めたんです?」


「決まっている。儂がそう決め・・・。」


 主神の返答を最後まで言わせずにマリは更に尋ねた。


「貴方は一体誰なんです?」


「・・・あ?」


 爺さんはポカンと口を開ける。


「誰じゃと? さっきから言ってるだろうが。話を聞いとらんかったのか。儂はこのエリアを管轄する主神・・・。」


「主神・・・? 神? 貴方が?」


 マリは鼻で嗤った。


「何が可笑しいか!」


 銀髪の少女の態度に激昂した主神が怒鳴るとマリは笑いを収めてスッと冷えた視線を送る。


「神様を名乗る者がこんなにも低俗だとは思いませんでした。」


「低俗だと・・・!?」


「・・・神様は万物に於いて平等で、時には人間にも厳しい態度を採られるけど基本的には慈愛に満ちた尊敬すべき方だと、私は本で教わりました。」


「そうだ。儂が正に其の・・・。」


「・・・決して私欲を以て世界を改造したりはしない、正に『公』の精神を以て事に当たる方だと。」


「・・・おのれ・・・。」


 爺さんは漸くマリが自分を揶揄しているのだと気付いたらしい。




 しかもさっきからマリは爺さんに最後まで話をさせずに途中でぶった切っている。


 其れがコントを見せられているみたいで、何だか笑いが込み上げてくる。




 よし。




「・・・ホントだね。」


 あたしも立ち上がってマリの加勢に入る事にした。


「こんなのが神様だなんて信じたくないわ。人の人生を間違えて台無しにしておいて『謝りもせず』に違う人生を与えたから良いじゃん、なんてさ。只のガキの言い訳じゃんか。」


「ガキ・・・。」


 余りの侮辱に爺さんの顔が青ざめていく。


 そしてその後にトンデモナイ勢いで真っ赤になった。




 おい、血圧大丈夫か?


 まあ知ったこっちゃ無いけど。




「お前ら・・・。」


 爺さんがプルプルと震え出す。




 ヤベ・・・怒らせ過ぎたか・・・?


 でも大丈夫だと思う。


 コイツ、なんかグラスフィールドストーリーの世界にやたら拘っている気がする。だって何百年も前から状況を作っていたなんて尋常な執着じゃない。




「・・・いいだろう。神をも怖れぬ言動とは正にこの事。」


 爺さんがボソリと呟く。




 あれ? ヤバい?




「・・・まあ良い。」




 ・・・ホッ。




「・・・悪役なんぞ誰にでもやらせられる。モブなんぞは更にどうでも良い・・・。」


 爺さんの目に冷酷さが宿った。




 あれ・・・。




「神を侮辱したら天罰が下る・・・昔からそう相場が決まっているな。」




 爺さんが手をあたしとマリに向けた。




 ヤバい・・・ヤバいヤバいヤバい!


 あたしはマリを抱き抱えた。マリもあたしを抱き抱えてくる。




 どうしよう!


 冷静さを失っていたのは認める。相手が誰かをちょっと忘れて・・・は居ないけど、コイツが何だかガキんちょ過ぎて舐めてた。


 でも冷静になって見ればコイツ神様だったわ。




 出来る事・・・ある?


 ひょっとして、もうダメ・・・?




 あたしはマリを抱き締める腕に力を込めた。




「さて、じゃあお前達は消えろ。」


 爺さんの指に嵌められた指輪がピカリと光った。




 終わった・・・。


 あたしとマリは眼を瞑った。




 ・・・。


 ・・・けど何も起こらない・・・?




「・・・?」




 あれ・・・?




 光るだけ・・・?


 え、光るだけが天罰なの?


 何それ。




 あたしはゆっくりと眼を開けて爺さんを見た。




 当の爺さんも驚いた様に自分の手を見つめていた。


 いや、何でお前が驚いてんだよ。


 ・・・って言うか不発だったのか? そんな事ってある? だとしたらコイツとんだポンコツじゃねーか。




 あたしはマリを見た。


「大丈夫? マリ。」


「うん。」


 マリがあたしを見上げて少し微笑みながら頷いた。


「あのポンコツ、しくじったみたい。」


「・・・ポン・・・。フフッ。」


 マリが小さく吹き出す。




「な・・・なんでじゃ!?」


 爺さんが再びあたし達に手を向けるけど今度は光りもしない。




「何故何も起きない!?」


 叫ぶ爺さんの横で女神様が静かに溜息を吐いた。


「理由は決まっています。貴方が主神の地位を剥奪されたからです。」


「・・・は?」


 爺さんが呆気に取られた様に隣りに立つ女神様を見上げる。


「剥奪・・・? なんでじゃ・・・?」


 呆然となって吐き出された爺さんの疑問に別の声が答えた。




「ソレについては我々から説明しましょう。」




 あたし達は声のした入り口の方向を振り返る。




 ・・・宇宙人?


 其処には何か変な格好をした5~6人が立って居た。


 ・・・宇宙服・・・じゃ無いな。なんつーか全身を銀色の分厚いテカテカタイツの様なモノで包んでいる。頭には銀色のサークレットみたいな奴を付けて居るけど・・・妙に人外感がする。




 いや・・・誰や。




「え・・・。」




 爺さんが呻き声を上げる。




「エクスキューショナー・・・!?」




 エクスキューショナー? ・・・って何?




 宇宙人擬き達が広間にズカズカと入ってくる。ソレを見て、先程からあたし達と爺さんのやり取りを遠くから見ていた周りの神様達が慌てて広間から出て行った。




 え、何? その慌てっぷり。何かヤバい事でも起こるの?




「ユラ=レーン=シルト様。この度のご報告、感謝致します。」


 宇宙人擬きの1人が女神様に頭を下げる。


 ソレに対して女神様も頭を下げた。


「いえ、此方こそ迅速に対応して下さった評議会の皆様に感謝致します。」




 へぇ、あの女神様ってユラ様って言うんだ。で、あの宇宙人擬きの人達がエクスキューショナーって人達なのか。


 ・・・っつーか何がどうなってんの?




 あたしとマリは顔を見合わせて首を傾げる。




「おい!どう言う事なんだ!?」


 爺さんの声が響き、皆が爺さんに注目する。




 エクスキューショナーの人が口を開いた。


「A-7エリア管轄、天界主座ムフバルト=ガンマ=ベスタブール殿。評議会は貴方の振る舞いに疑問を感じ『主座の資格無し』の判断を下しました。以降は我々の指示に従って頂きます。」


 爺さんは愕然とした表情になる。


「資格無し・・・? な、なんでだ・・・。」


「評議会は貴方と・・・。」


 エクスキューショナーの人があたしとマリを見た。


「彼女達とのやり取りを評議会本部から見ておりました。」


「バカな・・・!」


 爺さんが声を上げて否定する。


「見られる筈が無いだろうが。此処から本部までどれだけ離れていると思っている!」




 するとユラ様が「ハァー・・・」と溜息を吐いた。


「マスターシステムを使えば距離は関係無いでしょう? まさかそんな事も忘れてしまったんですか?」


「お前!!」


 爺さんがユラ様を睨み付けた。


「お前が何かを仕掛けたんだな!?」


 そしてそのままエクスキューショナーの人達に振り返って訴えかけた。


「評議会に伝えてくれ! コレは謀反だ! この女が何かを仕掛けて儂を追い落とそうと企んだんだ。儂は全うに主神としての役割を果たしていると言うのに!」




 ・・・良く言うわ。


 散々、あたし達を人形か何かの様に扱おうとしていたクセに。




「ムフバルト殿。弁明は評議会本部にてお願いします。」


「ほ・・・本部!? ソレでは査問では無いか!」


「その通りです。本部は査問会の準備をして貴方の到着を待っています。」


「・・・。」


 呆然とした後、爺さんはユラ様に怨嗟の籠もった視線を投げつけた。


「一体、何をした・・・。」




 ユラ様は平然と答える。


「特に大した事はしておりません。私は『聖女が見ていた光景』を、評議会本部に断りを入れて『転送していた』だけです。その後の判断は評議会の皆様にお任せして。」


「何故そんな事を!」


「何故・・・?」


 初めてユラ様の声に感情が籠もった。


「言うまでも無いでしょう? 貴方は主座に就いてからの、この数百年間で何を成されましたか? 任務のほぼ全てを私を含めた他の方々に押し付け、自分は本部への報告しか行わない。ミスは下に擦り付けて手柄は自分主導で行ったと勝手に報告する。挙げ句の果てには下界の娯楽に興じて、仕事ソッチのけで世界改竄までやり始める始末。・・・「こんな人間を上司と仰ぎ続けるのは皆の心が限界だ」と主神補佐である私が判断しました。」


 今や美貌の女神様は激しい怒りの視線で爺さんを真正面から睨み返している。




「・・・!」


 思い掛けない強い視線に爺さんがたじろぐとエクスキューショナーの人が間に入る。




「御二人とも其処までに。」


「・・・失礼致しました。」


 エクスキューショナーの制止にユラ様は澄まし顔に戻って一礼する。




 エクスキューショナーの人は頷くと今度は爺さんを見て宣告した。




「では改めて通達する。A-7エリア管轄、天界主座ムフバルト=ガンマ=ベスタブール殿。貴殿は主座の地位に在りながら長たるの自覚を持たず、部下の模範となる言動を放棄した。また私利私欲の為に秘密裏に世界の改竄を行い、別の星の『浄化も行っていない人間の魂』を転送させた点は看過し得ない。最後に罪無き魂を引き抜いてしまったミスを本部に報告しなかった点は厳格な検分を要する事案で在ると判断する処である。拠って評議会本部はムフバルト=ガンマ=ベスタブールに対して査問会を開く用意が在る。当人は速やかにこの要請に応じて評議会本部に出頭するよう求める。」




「・・・。」


 『元』主神の爺さんはヨロヨロと立ち上がりかけ・・・力無く崩れ落ちた。




 豪奢な神様の椅子が最早滑稽に見えるほどに覇気を無くした老人は・・・今や哀れに思えるくらいに小さく見えた。









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