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憂愁のヤマダハナコ  作者: ジョニー
チャプター1 1年生編 / 一学期
1/105

M1 あたしの名前・・・

1人称スタイルで書いてみました。

残酷な描写ありは保険です。



『満を持して世に送る今世紀最高の乙女ゲームを貴女の手に』


――――今世紀も始まって未だ二割ほどしか消化されていないが、ビッグマウスと課金が売りの悪徳企業が遂にあたしの聖域『乙女ゲー』に踏み込んで来やがった。


 会社がビッグネームなのを良い事に、これまで様々なジャンルのゲームに参入してはプレイヤーの財布を食い散らかして怒りを買い続けてきた自称ゲームメーカーが、空前絶後の乙女ゲーブームに目を付けて参入して来たのだ。


『ついに来たか』

『いつかは来ると思っていたが』

『どうする?』

『初週購入の勇者達の評価を待ってから決める』

 ネット界隈でも、フルプライスの上、後に課金地獄が待っているのを見越して様子見を選択する同士達の声が溢れた。



 因みに『あたし』こと風見陽菜は、ネットの会話を知らなかった。ゲームのサイトは乙女ゲーのところしか見ないし、その企業が悪名高い会社だなんて知らなかったから。

 ただ単にビッグネームの会社が乙女ゲーを出してくれると知って浮かれていた。


『絶対、面白いに違いない!凄いボリュームで、やり込み要素てんこ盛りで、きっとてんてこ舞いだ!』


 そして初日にDL!

 そしてあたしの眼から光りは失われた。


攻略対象は3人。王子様と宰相の息子と騎士団長の息子。「え・・・少な・・・」

ヒロインは誰得の甘えキャラ。「語尾を伸ばすな。このヒロイン気持ち悪いんだけど・・・」

スチルは全部集めて12枚。隠しスチルも無く普通にクリアするだけで全部集まる。「・・・舐めてんのか。」

その他諸々。

だが何よりストーリーが酷い。簡単に言えば


 とある王国の貴族学園に平民ヒロインが入学してきて攻略対象を虜にしていく。


である。それ以外に書くことが無い。薄っぺらいにも程がある。

虜という言い方に悪意が有る様に感じるだろうけど、そうとしか思えない。


例えば、王子様の場合

王子『俺は時期国王としての重圧に日々耐えているんだ。』

ヒロイン『次のぉ王様だからといってぇ殿下がぁ自分の思いをぉ殺す必要なんかぁ無いと思うんですぅ。私がぁお側でぇ支えてあげますぅ!』

王子『お前は何て優しいんだ。俺はお前を妃に迎える!』

ヒロイン『きゃー殿下ぁ!嬉しいですぅ!』


「・・・お前は何で今の会話でこのヒロインを嫁にしようと思ったんだ?何かキメてんのか?」

画面を流れるお馬鹿な会話に自分の目が死んでいくのを察知せずに居られない瞬間である。

まさか大好きな乙女ゲーで眼が滑る事態が発生するなんて夢にも思わなかった。


 そしてプレイ開始から3時間後・・・プレイは終了した。


『Fin』

『Thank you for playing』


「・・・ふざけんな」

あたしはコントローラーを放り投げる。


 そしてネットを立ち上げた。

『グラスフィールド ストーリー ~黄昏の魔女~』『評価』で打ち込む。


『クソゲー』

『前代未聞』

『ライターは素人か』

『スチルが尊くない』

『ヒロインがギャルゲーキャラでキモい』

『ギャルゲっつーかエロゲキャラじゃね?』

『さすが金さえ儲かれば中身なんてどうでも良いですか・・・そうですか・・・』

『結局魔女って何だったんだ』

『あたしが黄昏れたわ』

『値下がりする前にちょっと売ってくる』


次にメーカーの評価を検索して・・・

「はぁ、騙された。・・・DLだから売りにも行けない・・・」


 あたしは晩秋の寒風を身に受けながらコンビニ目指してチャリを走らせた。

「ああ・・無駄金使ったな・・・。」



  ☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆     



「・・・お嬢様!気付かれましたか!」


眠い・・・なんか誰かが叫んでいる。

うっすらと眼を開けると、お仕着せ姿の見知らぬ金髪外人女性が涙目であたしを覗き込んでいた。

頭が痛いな・・・。頭のてっぺんがズキズキする。


「お嬢様!ヤマダ様!お気を確かに!」


ヤマダ?山田って誰だ?あたしは風見陽菜と申します。


この人、あたしを誰かと間違えてんなー


・・・その前にここは何処だ?

あたしはやたらファンシーな見知らぬ部屋でベッドに寝かされていた。

色々と聞きたい事はあったが取り敢えずの疑問を口にした。

「あの・・・ここは何処で貴方は誰ですか?」

「!」

 金髪外人女性は声にならない悲鳴を上げると部屋を飛び出して行った。

「・・・何か変な事を聞いたかな?」


 そして身体を起こして何気なく自分と部屋を見渡す。高級そうなネグリジェに着替えさせられている。

うーん・・・今、自分はどんな顔をしてんだろ?これでも乙女である。事態が把握出来ないならせめて自分の姿くらいは確認しておきたい。・・・お、姿見発見。


 ノロノロとベッドを降りて姿見に近づいて見る。

そして、絶句。

「・・・なんだと。」

変な感想が口から零れる。


――誰だこれは?

顔立ちは確かにあたしだ。でも赤毛のショートボブ。瞳はダークレッド。肌は真っ白で明らかに日本人では無い。


あたしの知っている風見陽菜はこんな奴じゃない。

夢?・・・いや、さっきから頭のてっぺん痛いし。多分、現実。・・・なのか?


 念のため、小学校の時に覚えたあたしの地元に伝わる珍妙な踊りを踊ってみる。姿見の赤毛もネグリジェスタイルで同じ様に踊っている。・・・シュールだな。

「うん、あたしだ。」

確信する。

「・・・何がどうなった・・・」

 あたしは両手をついて疑問を吐露した。


 やがてバタバタと複数の足音が聞こえてきて、扉がバンッと開かれた。

先程の女性の他、見目の整った赤毛の紳士とその奥さんらしき人が入ってくる。

「ヤマダ!眼を覚ましたか!」

紳士が叫ぶ。

「ああ・・ヤマダ・・・目が覚めて良かったわ・・・」

婦人が泣き崩れる。


だからあたしは山田じゃないって。


「あの・・・あなた方はどなたでしょうか?」

取り敢えずの疑問を口にする。


「ああ・・・本当に記憶を失ってしまったんだね。」

「ヤマダ・・・貴女は私達の娘なのよ。」


 ああ・・・誰か、誰でも良いので今の状況を解りやすく100文字であたしに説明plz・・・



 この後、あたしは遅れてやって来た医師も交えて説明を受けた。


 ここはハナコ子爵家。あたしはそこの令嬢のヤマダ。赤毛の紳士はサミュエル=ハナコ子爵で現当主。婦人はシルビア=ハナコで紳士の奥方。・・・いやいや、もうそこから既に色々おかしい。

 とにかく、あたしは昨日の昼に庭を散歩してたら、二階の窓際から落下してきた鉢に脳天を直撃されて無言で昏倒したらしい。・・・何だソレは。もうちょっとマシな展開は無かったのか?

 そして丸一日、惰眠を貪り眼を覚ましたそうだ。


ん?・・・ヤマダ?・・・ハナコ?


 何か引っ掛かる。つい最近、それで爆笑した記憶がある。

なんだっけ?


 思い出そうと考えに耽るあたしを横目にシルビアさんがサミュエルさんに話掛ける。

「あなた・・・来週の学園への入学式はどうしましょう?」

「うーん・・・様子を見て決めよう。この子の為にも入学式は出た方が良いに決まっているが、体調が芳しく無ければ事情を話し欠席するしか無かろう。」

 端で聞いていた2人の会話。


「!」

 頭に閃光が走った。

 おずおずと聞いてみる。

「あの・・・お父・・・様・・・・」

で良いんだよね?

「なんだ、ヤマダ。」

・・・クッ・・・馬鹿にされているようにしか聞こえない。

が、サミュエルさんの表情は至って真面目でこちらを心配そうに見ている。

ええい、この際それはもういい。それよりも・・・

「学園とは・・・グラスフィールド学園でしょうか?」

あたしの言葉を聞いて2人の表情に喜色が浮かんだ。

「おお!そうだよ!記憶が戻ったんだな!?」

「ヤマダ!良かったわ!」

「い・・・いえ、それしか解りません・・・」

 絶望の暗焔に包まれたあたしには、そう返すのが精一杯だった。


『転生だ・・・。あたし転生しやがった・・・寄りにも寄ってこのクソゲーに・・・』

 最近、フリー小説で読み漁っていた転生もの。それが今あたしの身に起きた。


 なんで!?あたしは何してたっけ?このクソゲーに憤慨してコントローラー投げ出して、チャリでコンビニに向かってた筈だ。・・・そこからが思い出せない。

とにかくあたしは転生した。寄りにも寄ってこのクソゲーの世界に。


 その現実の波が

『ねえねえ、今どんな気分?』

と感想を伺いながらあたしの周りを踊っている。


・・・そしてヤマダハナコ。これの謎も一気に解けた。


 どんなゲームにもモブキャラが存在する。世界と画面を賑やかす為だけに存在する、名も無い有象無象のキャラクター達。そしてそれ依りはマシな名前は有るけど出番の無いモブキャラ達。


あたしが転生したのは名有りのモブだった。


ただマシかどうかは別だ。


 本編であたしが登場したのは2回。学園イベントで2回発生した校内定期テスト。その順位発表。

1位・・ライアス=グランフィールド(王子様)

2位・・ヒロイン

3位・・ケニス=アドウィン(宰相の息子)

4位・・ヤマダ=ハナコ

5位・・マリーベル=アビスコート(悪役令嬢)

 これである。名前だけの登場である。姿なんか出やしねぇ。


本当に()以外はそっくりこのままが貴重な12枚のスチルの1枚として登場したのである。


これを画面で拝見した際には怒りを通り越してあたしは爆笑していた。

「なんだこれ、ヤマダ=ハナコって適当にも程があんだろ。大体これじゃハナコ家のヤマダお嬢さんじゃないか!せめてハナコ=ヤマダだろ!」


『・・・ハナコ家のヤマダお嬢さんじゃないか・・・』


 そして此処に居るのが・・・ハナコ家のヤマダお嬢さんである。


ふざけんな。


おい製作スタッフ!土下座で詫びに来イヤァ。

お前等の手抜きのせいで世にも悲惨な令嬢がここに爆誕してるんだ!


逆なら良い!ヤマダ家のハナコお嬢さん。何も文句は無い。むしろ下手に飾った名前よりもよほど至極真っ当な名前である。日本女性の名前を代表するワールドワイドな名前である。何処に出しても恥ずかしくない胸を張れる名前である。


それが・・・ハナコ家のヤマダお嬢さん・・・。


おい製作スタッフ!あたしの心の慟哭がお前等に聞こえているか!

お前等の手抜きのせいで、あたしはこの世界で、下手したら一生ハナコ家のヤマダお嬢さんとして生きてくんだぞ。


 ハラハラと涙を流し始めたあたしを見て、周囲の人達はあたしにもう休むように言って部屋を出て行った。

『言われなくても寝るわい』

 あたしはふて腐れながら再びベッドに潜り込んだ。



願わくば次に眼を覚ましたら元の世界に、風見陽菜に戻っていますように。





お読み頂いて有り難う御座います。

気に入って頂けたらブックマークして頂けると嬉しいです。

宜しくお願いします。


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