表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫かぶり魔王、聖女のフリをして世界を手中に収める ~いいえ、破滅フラグを回避しながらテイムでモフモフ王国を作りたいだけの転生ゲーマーです~  作者: タック
第三章 隕石! 阻止! ラン!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/29

聖魔法2

 修道院の奥に行くと物々しいベッドがあった。

 現代の洗練されたものではない、中世の手術器具が横に置かれている。

 処置したばかりなのかハサミなどに血が付着しているのが見えた。


「……ッ」


 ランは小さく呻くような声を出してしまう。

 ゲーム画面を通してなら平気なのだが、現実では血の臭いなどが鼻を通して体内に入ってくる気持ち悪さや、周囲の人間の雰囲気に飲まれてしまうからだ。


「フリン! どうしたのフリン!!」


「……あれ? フリン、どうして喋らないの?」


 母親のヴィジーは半狂乱でベッドに横たわっている我が子――フリンに近付こうとするも止められ、双子の姉のフリアは状況を把握できていないようだ。

 一歩離れたところにいるからこそ、ランは現状がどうなっているのか理解できた。


「……酷い」


 そのベッドに横たわっている小さな女の子は、フリアとうり二つだった。

 ただ、ショックからか両手で顔を覆ってしまい、隙間から涙が溢れ出ている。

 太股から足の先まで血の滲んだ包帯が硬く巻き付けられていた。

 足に大けがを負ったのだろう。


「ヴィジーさん、よく聞いてください。このままでは脚が腐ってフリンちゃんは死んでしまいます。助けるためにはすぐにでも切断するしか……」


「切断……!? もう二度と歩けなくなるってことですか!? そんな……どうして神は試練ばかりをお与えになるのですか……」


 医者からの無慈悲な通達にヴィジーは崩れ落ちてしまう。

 フリアもようやくわかってきたのか、表情を動かせずに震えている。


「うそ……フリン、歩けなくなっちゃうの? 一緒に、世界中を回る行商人をするっていう約束したのに……」


 この世界では医療は現代ほど進歩していない。

 いや、現代の医療でも脚をグチャグチャにされてからの処置で、元に戻すというのは難しいだろう。

 命だけでも助けられる選択肢があるというのは、修道院に優秀な医療知識を持った者がいたという証左でもあるのかもしれない。


「薬草! そうだ、薬草はないんですか!? 高級な薬草ならどんな重傷でも治るって聞いたことが! お金ならなんとか――」


「すみませんヴィジーさん……ストックもないし、今から王都まで探しに行くのにも時間が……」


 ファンタジー世界なので薬草というものは存在している。

 しかし、一般的な薬草は現実と同じで消毒作用などの補助として使われる程度だ。

 高級な薬草は傷を強制的に癒やす物もあるとされているのだが、希少価値から伝説のような扱いになっている。

 庶民にどうなるものでもない。

 残る手段は――


「あ、あああ……魔法……なら……」


「……それは……」


 魔法と口に発したヴィジーですら、無理だとわかっていた。

 当然、周囲の人間も押し黙ってしまう。

 その沈黙が続くかと思ったが――場に呑まれかけて思考停止してしまっていたランはハッとして口を開いた。


「あ、私、聖魔法使えます」


「せ、聖魔法が使えるだって!?」


 その一言に全員の注目が集まった。


「ママ、聖魔法ってなに……?」


「それは――」


 そもそも、この世界で人間が使える魔法は四属性である。

 火、水、風、土。

 この四属性を魔法使い――あまり数多くない魔法適性がある者たちが行使することができる。

 大抵の効果は攻撃系、補助系といった単調なものだ。

 そこに人体の再構成を促すような高度な魔法は存在しない。

 高度な魔力を扱えるエルフが改良を重ねて、より効果を高めたり、応用して生活魔法にしたりが限界だ。

 だが――そこには例外の属性があった。

 聖女が扱える聖属性、魔王が使える闇属性だ。

 他の属性とは明らかに効力の高さが異なる、特別な属性。


「お願い……治って……ホーリー・ヒール!」


 ここまでの重傷に使ったことのなかったランは緊張の面持ちだ。

 痛々しい幹部に手を当てて、力ある言葉をトリガーにして聖魔法を発動させた。

 優しく温かな光が広がり、幹部を照らしていく。

 周囲が緊張の面持ちで見守る中、治療が終了した。


「どう……かな?」


「……も、もう痛くない」


 驚いたような声を発しているフリン。

 顔を覆っていた手を取って、見えたのは泣きはらした目。

 医者が包帯を慎重に取り去っていくと――そこには傷一つ残っていない脚が見えていた。


「動く、自由に動くよ!!」


「し、信じられない……肉が裂けて、十箇所以上の骨が折れていたんだぞ……!?」


 きちんと膝や足の指の関節も動いている。

 どうやら聖魔法は成功したようだ。


「うん、大丈夫そうですね。ただ、数日間は違和感が残っていて歩くのに苦労すると思うので、少しずつ慣らしていってください」


 ランはホッと一安心した。

 一応、身体は元に戻せても、精神的な部分ですぐに歩くことができないかもしれないので、そこだけは注意しておいた。

 そういうメンタルケアはランではなく、側にいる家族が行ってくれるだろうと安心している。


「フリン……よかった、フリン!!」


「フリンが治ったー!!」


「ママ!! フリアお姉ちゃん!!」


 家族三人で抱き締め合っているのを満足そうに見届けたあと、ランは何も言わずに立ち去ろうとした。

 ランが好き勝手にやったことなので、称賛も報酬もいらないのだ。


「ま、待ってください! ランさん……あなたは……もしかして本当に……」


「だから言ったじゃないですか。私は通りすがりの聖女です」


 誰からも見えない角度で聖女っぽくないニッとした微笑みを浮かべ、これまた聖女っぽくないラフな仕草で背後へ手を振った。


「ランちゃん……カッコイイ……」


 フリアの尊敬するような声が聞こえたが、実際は照れ隠しでそちらを向けないだけだった。

 ――その後、遅れてやってきたフィナンジェが、ヴィジーの息子で、フリアとフリンの自慢の兄だというのを知った。

面白い!

続きが気になる……。

作者がんばれー。

などと感じて頂けましたら、下の方でポチッと評価をもらえますと作者が喜びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍情報】
j0jdiq0hi0dkci8b0ekeecm4sga_101e_xc_1df_
『伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~』カドカワBOOKS様書籍紹介ページ
エルムたちの海でのバカンスや、可愛いひなワイバーン、勇者の隠された過去など7万字くらい大幅加筆修正されています。
二巻、発売中です。
ガンガンONLINEで連載中のコミカライズは、単行本一巻が5月12日発売予定です。
よろしくお願いします。

【新作始めました!】
『【連載版】追放後の悪役令嬢ですが、暇だったので身体を鍛えて最強になりました』
あらすじ
第二王子トリスに婚約破棄された、悪役令嬢のジョセフィーヌ。 彼女は人里離れた山の中に追放されるが、メチャクチャ暇を持て余していた。 「ま~、これからは自分のために生きてみますわ~」 やる気を無くしていたジョセフィーヌが見つけたのは、落ちていた20kgの鉄球だった。 暇だったので瀕死になるレベルで筋トレすることにした。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ