表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

小人

作者: アイスクリーム

ソウタといとこのタクトが懸命に巨人の蔓延る世界で生きる物語。最後まで読んでもらえると幸いです。

夢であってほしい。目の前で見るも無残に下半身を岩石に潰された父を前にして反射的に思った。受け止め切れるわけなかった。呆然と佇む僕に構わず大声で誰かが呼びかけてくる。「ソウタ!おい、何ぼうっとしてんだよ‼︎早くしないとお前まで土砂の下敷きだぞ!」タクトは無理に僕の手を引っ張り光の漏れる方へかけてゆく。もっと早く僕が逃げていたら。悔し涙で頬を濡らしながら走る足に力を込めた。

何気ない初夏の朝だった。目蓋を閉じ、僕は夏にしては少しひんやりした風を肌で感じていた。気持ちいい。僕は風が好きだった。季節や天気、気温、場所によって自由気ままに姿を変えどこへでも流れてゆく。来世は風になりたいなぁ。そんな僕の想像を断ち切るように脇腹をど突かれた。「痛!誰だよってまたタクトか…」振り返るとニヤニヤと笑みを浮かべながら僕を見下ろす少年が立っていた。彼はタクト、いとこだ。小さいときから共に過ごしてきたのでいとこというより兄弟に近い。タクトは悪戯好きの少年で隙あらばど突いてくる。「親から人に暴力を振るっちゃいかんと教えてもらわなかったのかお前は。」そんな僕の言葉に一層ニヤつきながら、「だって仕方ないだろ。一度ソウタが妄想を始めたら、止まらないだから。それにぽけーっとしてたら巨人に見つかるぞ。油断するなよ」と言った。「わかってるよ、ていうか僕は自然に癒されていたんだ。無頓着なお前には一生わかんないだろうな」と言い返した。巨人とは別に冗談で言ってるわけじゃない。文字どうり巨人は巨大な人だ。もちろん性格は温厚というわけもなくとても危険で近くで沢山の仲間が殺されたこともある。住処ごと破壊できるほど怪力なので特に家に帰る際には絶対にバレないように細心の注意を払わなければならない。僕に興味なさげにタクトは「ふーん、そうね〜」と言って歩き出した。「おい、どこいくんだよ」「朝飯の時間だろ。家に戻るぞ。」そうかもうそんな時間か。そう思いつつタクトの後を追った。僕らは小さな洞窟に住んでいる。2ヶ月前住んでいた家が豪雨で半壊してしまったので、僕たちの家族と同じような家を失ったタクトの家族と共同で生活をしている。今の家は夏でもひんやりとしていて快適だから気に入っている。そして、こんな風に僕たちは朝早くに近くの原っぱに行くのが習慣だ。これはただ遊びに行っているわけではなく僕たちの縄張りにしている管轄で異変がないか見回っているのだ。僕らの世界では沢山のコロニーと言う部族のような集まりがいて僕たちは中でもケルト族と呼ばれている。周辺のコロニーとは付き合いがいいことで有名だ。しかし他のコロニーが襲ってこない保証はないのでこうやって見回りが必要だ。そんなこんなで家に着いた。入り口に僕の母さんが立っていた。僕らの帰りを待っていたのだろう。「お疲れ様。日差しが強くなってきたわねー。二人とも肌焼けたんじゃないの?」と母さんが声を掛けてきた。「冗談をよしてくださいよ。みんな元から黒い肌だから関係ないですよ。」微笑みながらタクトが言う。僕をど突いたときとは大違いだ。それはさておき僕らは皆生まれたときから黒い肌をしている。白い肌を持つコロニーもあるそうだが噂程度にしか聞いたことがない。僕らは洞窟の中に入ったその足で食卓についた。テーブルには細かく刻まれたミルワームが並んでいた。僕たちの主食は虫だ。虫を食べるのは珍しいことではない。その他にも木のみなども食べることもある。ここ最近はミルワームばかり口にしている。そろそろ飽き飽きしてきている。「また、これかよ。他になんかとれなかったの?」と僕が先に席についていた父さんに言うと「仕方がないだろ、これしかないんだから我慢してくれ。」と父さんは言った。僕は渋々うなづき、口に運んだ。独特のブチブチとした食感が気持ち悪い。栄養価は高いけれど苦手だ。タクトもあまり気が進まないようだった。僕たちがミルワームをなんとか食べ終えると徐に父さんが口を開いた。「最近、周りが騒がしい。地響きがよく立つ。外に出る時はくれぐれも見つかるなよ。」もちろん巨人のことだろう。巨人はその巨体故に移動の際には地響きが立つ。確かに最近ここらをうろついていると思っていた。父さんがそう言って席を立とうとした時、遠くで地響きが鳴り響いた。緊張が走る。「気を付けろ。」父さんが呼びかける。みんな息を飲んで地響きの行方を探る。地響きはこちらへ近づいてきているようだ。「あなた、逃げなくていいの?」と不安げにいう母さんに父が「下手に逃げれば巨人の餌食だ。まだバレたと決まったわけじゃない。とりあえず息を潜めとけ。様子を見てくるから。」そう言って入り口へ駆け出していった。僕たちはお互いの強張った顔を見合わせながら耳を澄ます。ドーン、ドーン。まるで和太鼓のように腹に響いてくる。地響きは近づいてきている。このままじゃここまでくる…そう確信した瞬間。住処の目の前までやってきた地響きが突如止んだ。どうしたんだ?そう思った刹那「逃げろ‼︎」と父さんの大声が空気を裂いた。バーンと頭上で衝撃があったと思うと濁流の流れる音が聞こえ始めた。天井がみるみる湿って行く。突然のことで思考が追いつかない。「ソウタ、逃げるぞ!」立ちすくんでいる僕より先に逃げ始めていたタクトと母さんがこっちへ呼んでいる。自分も逃げようと足を踏み出した瞬間、天井が落ちた。巨大な岩石と土砂が降り注ぐ。間に合わない!目をつむり覚悟した時、「逃げろって言っただろうが!」父さんが僕を突き飛ばした。僕は壁に強く背中をぶつけた。父さん!咄嗟にそう思って見てみるとすでに土砂と岩石で下半身がみるも無残な姿になった父さんが横たわっている。消え入りそうな声で「もたもたすんな。お前らだけでも逃げろ…」と父さんが呟いた。嘘だろ。地響きと水の流れる音が遠くなる。呆然とへたり込んでいる僕の腕を強く引っ張り「ソウタ!おい、お前なにぼうっとしてんだよ!お前まで土砂の下敷きになるぞ‼︎」タクトが大声で叫ぶ。ふと我に帰った。「助けてくれたお父さんの分まで生きなければお父さん、報われないわよ!さぁ、早く立ち上がって!」母さんが背中を支えながら言った。そうだ、今は悲しんでいる暇はない。絶対に生きなければ。母さんとタクトと共に裏口へ走る。僕たちは地中に沢山の穴を掘って出口を複数作ってある。外の光が漏れるそのうちの一つへ必死にかけて行く。まだこの出口は無事なようだ。絶対に許さない。いつか仇は取ってやる。涙でぐしょぐしょになりながら強く心に誓った。僕たちは勢いよく外へ飛び出した。





晴れ渡った空を見上げながら息子を追いかけて歩いて行く。もう夏か。そう思いながら「康太、どこ行くのー」と昨日5歳になったばかりの息子に呼びかける。ホースを片手に楽しそうにちょこちょこと走って行く。「ママ〜、こっちきて〜」息子の声に応じて向かう。見てみると。アリの巣を見つけたみたいだった。ホースのから出る水を楽しそうにアリの巣目掛けて注いでいる。「ダメよ、アリさんいじめちゃ。生きものは大切にね」私の声は上の空なのか聞く耳を持っていないようだ。一寸の虫にも五分の魂ということわざが通じるのはまだ先のようだ。息子が作った水たまりに苦しそうに悶える3匹のアリと無邪気に笑う息子を眺めながらそう思った。

勢いだけで初めて執筆したので至らない点も多くあると思いますが最後まで読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ