一話
ここは森のなか人工の光はほとんどなく、近くにあったたくさんの視界を遮る木々はほとんど倒れている。
ああ、夜空の星がよく見える、僕が初めて見た光景とよく似ているのは何かの運命なのだろうか。
僕の体は綺麗に光の槍に貫かれていて、下を見れば視界一面に広がる真っ赤な水溜まりが僕の命がそう長くないことを示している。痛みはもうあまり感じない、ただただ自分が無力だったことを強く感じさせる。
『所詮は人の造った神、貴様らが私に勝てる道理などないのだよ。人という種は実に愚かだ、おとなしく我を信仰しておけばおけば良かっただろうに...』
誰かが僕に話しかけてくる。その声は中性的でとても聴きやすく心の中にすっと入って来てしまいそうだった。
顔を上げその声の主の容姿を確認しようとするが目に映るのは僕を取り囲む魔族だけだ。どうやら壊れかけの僕の目ではそれさえ許されないようだ。
「信、仰?ソンナ、物、ハ、人類ニハ、モウ、必要ナイ」
僕の口はもうちゃんと音が出なくなっていたが、かろうじて言葉として伝わったようだ。
『何を言う、その結果がこれだろう?国は滅び、町は焼かれ、村は焦土となっている、それに頼みの綱の貴様もこのとおり。これを見てもまだそんな事が言えるのか?』
「ソ、レハ、オ、マエ、ガ...」
『もういい、貴様と喋るのも飽きたこれでお別れだ。』
僕を取り囲む魔族の内の一人鉈を持った奴がゆっくりと近づいて来て僕の首を切り落とした。頭と体の機能の繋がりが分断される。これから死ヌというのに何モ感じない。シ考機能モ可笑シク、なっテ来タカ。ボクハ、ボク、ハ...
「今、信託がくだった邪神は死んだぁ、我々は勝ったのだぁ!!!」
神官のような服装の魔族が叫んだ。その声は直ぐに他の者たちの伝わった。
「「「「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉおおおおお!!!!」」」」
長い戦いから解放された事による安堵や戦争に勝った達成感などその他様々なものが入り雑じった雄叫びが辺り一体を支配する。
「人の時代は終わった!これからは、魔族の時代だぁ!!!」
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魔族と人の戦争が終わりその後、数千年の時が流れた。かつての人の文明は失われてしまったが生き残った人類は、その命を繋ぎ長い時を経て再び世界を支配しするに至った。
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走る、走る、走る、走らないと殺される。喉が水を求め、肺は酸素を求めている。心臓は破裂してしまうのではないかと不安になるほど激しく鼓動する。
私が学園の課外授業で訪れていた町は魔族に襲れ、壊され、火を放たれた。暗い夜の闇が町に放たれた火によって、照らされていたあの時の光景が目に焼き付いて忘れられない。
名前も知らない冒険者が私を庇ってくれなかったら今頃、私はあの町と共に灰になっていただろう。
あの冒険者の助けもあって、なんとか町から逃げ出す事は出来たがここから先は森になっている。ろくに準備もしていない状態で入るのはとても危険だ。そう思い一瞬足が止まってしまった。
ヒュッっという鋭い音と共に矢が頬を掠める。
「チッ、外したか。こっちだ!こっちに一人見つけたぞぉ!!」
魔族だ!弓を持った魔族が私に向かって矢を放ったのだ。迷っている時間はない、その森に足を踏み入れる。森の中に入れば多少は矢を凌げるだろう。もっと早く走らないと、もっと奥に逃げないと、殺される。
怖い、恐らく私ごときあの魔族達の手にかかれば一瞬で殺されてしまうのだろう。恐怖心に煽られながら、私は無我夢中で走り続けた。
どれだけ、走ったのだろうもう辺りはすっかり明るくなっていた。気がつけばもう町は見えず虐殺の音も聞こえなくなっていた。それに気がついた私はピンと張っていた糸が切れた様にその場に座り込んだ。
ここに来るまでに魔物や野生動物に襲われなかったのは運が良い。森の中には魔物といった魔力を持っていて、普通の生き物とは比べ物にならないほどの力を持つ生き物が存在する。
「はあ、はあ、はあ、」
しばらく休んで居ると体が水を求め喉の渇きを訴えてきた。どこかに川がないか周りを見回してみるがそれらしき物は見当たらない。しかし川の音が聞こえるので近くにはあるだろう。水を探しに私は立ち上がった。川の音がする方へ歩みを進めていく。
「...あった。思ってたよりも近くにあって良かった」
その川の水はとても綺麗で透き通っていた。
「飲んでも大丈夫そう」
両手で水をすくって喉に流し込む。先程から感じていた渇きが潤い水の冷たさが体に染み渡る。
「はあ、これからどうしよう」
川のに映る自分の姿が目に映る。長い水色の髪は所々焦げていて翠色の目からは力強さが感じられない。
「持ち物、何あったかな」
肩からかけていたカバンの中を漁ってみる。中に入っていたのは魔工具と呼ばれる物はだけだった。そこにはフィナと私の名前が彫ってある。
この魔工具は、魔道具と呼ばれる魔法で動く道具を作ったり直したりする物である。
「ああ、これ学園で配られていた...使い方は学園で習ったけど、こんなのここじゃあ使い物にならないよ。そういえば皆、どうなったのかな。」
私に友達と呼べるような人はいなかったが、顔と名前が一致する相手だ。別に私が彼らを心配するのはおかしくはない。
木に寄りかかり一息つくと急に眠気が襲ってきた。
「こんなところで寝たら危ない何処かに身を隠せそうな所は...」
辺りを見回すと私の体がギリギリ入りそうな洞窟を見つけた。そこなら身を隠せそうだと思いゆっくりと立ち上がり近づいていく。
「ん、よいしょ。中は思ったより広いな」
床はゴツゴツしていて寝心地が悪い、でも今はそんなことより疲れていて眠い。もう今日は寝よう、これからのことは起きてから考えればいい、そう思ってから眠りについた。
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