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メイドさんとの会話。若しくは俺が気を失った後について

「カシオカ様が倒れたことで、場は騒然となりました。

 慌てて治療師を呼び、診断された結果〝魔力欠乏症〟だということがわかります」


 あれ、この話長くなるのかな。長くなるならアンジェラさんに座ってくださいっていえば良かったかな……。その辺どうなんだろう?メイドさんは座っちゃいけない、とか決まりはあるのだろうか?……分からない。こういう疑問だとスキルはうんともすんとも言わないしなあ。

 本当はその話すら要らないんだが、俺はこのメイドさんのことよく分からないし、能力のことを全て話すわけにもいかない。

 とりあえず知らないふりをしよう。


「あの、魔力欠乏症……?ってなんですか?」


 アンジェラさんはキョトンとした後、あ、あぁ、と頷いた。


「失礼しました。異世界には魔力が存在しないんでしたね。魔力欠乏症というのは、魔力を限界まで消費してしまった時になる症状のことです。

 倦怠感から始まり、頭痛、立ちくらみ……様々な症状を引き起こし、最悪の場合は気絶してしまいます」


 うん。知ってる。


「異世界から来たばかりの貴方が何故、魔力を扱えるのか、不思議ではあるのですが……」


 アンジェラさんは不思議そうな顔をする。ええと、どう誤魔化そうか。消費魔力がそこそこ多くて、俺の能力と似たようなスキルはないだろうか……。

 とか思ってたら文字が出てきた。便利すぎかよ。


 スキル〝鑑定〟か。

 消費魔力は……才能による?なんじゃそれ。

 あーでもこのスキル凄く良い。対人には使えないってところが特に。

 鑑定魔法よりも魔力量は少なくて済むらしい。鑑定魔法なんてものがあるのか。

 まあ、これでいいだろう。……多分。

 クラスメイトに職業聞かれた時の対策はそのうち考えるとして……。


「鑑定というスキルを使ったんです」

「なるほど。鑑定なら、この世界に召喚されてばかりで不安だったカシオカ様が何度も使用してしまうのも理解できます。けれど、今度からはくれぐれも無理はなさらないでくださいね」


 心配そうにこちらを見るアンジェラさん。

 心の底から心配してくれているようだ。まだ信用は出来ないけど、悪い人ではないのかもしれない。


「然し、異世界に来たばかりだと言うのに、スキルを使いこなせるとは……。流石、勇者様ですね。」

 感心したように頷く。

 てっきりスキルって生まれつき持っている物だと思っていたけど、違うのか……?いや、そもそもスキルってなんなんだ?わりと重要なことを聞くのを忘れていた気がする。まあ、後で読んでおこう。


「その後、カシオカ様はここのベッドに運ばれました。魔力欠乏症を治す一番の方法は、安静にすること、ですからね」

「他の皆はどうしたんですか?」

「他の勇者の皆様は引き続き能力検査を行うこととなりました。その結果、カミヤ様は勇者、シライ様は聖女であると推測されました」


 ああ、その結果には納得できる。神谷は見るからに主人公という感じだし、白井さんは控えめな性格の美少女だ。優しい性格らしくよく笑顔を男どもに向けては虜にしているんだとかなんとか。男人気があるからと言って女から嫌われているという訳でもないらしい。誰からも愛されるキャラってことだな。

 ただ……。


「何故その二人だけ、名指しで説明を……?」

「……それはこのお二人の能力がずば抜けていたからです。それだけではなく、勇者や聖女という職業はとても珍しく強力なものだと伝承に残されています」

「なるほど。そういうことでしたか」


 アンジェラさんは俺の淡白な反応に不満を持ったらしく、眉をピクリと動かした。そんな顔をされても、興味がないから、大きなリアクションは出来ない。寧ろ自分よりも恵まれた者の話を聞くと何とも言えない気持ちになる。人間皆平等なんて言葉、嘘だよな……。

 まあ、一つ、ついでに聞いておく。


「他に強力な能力を持ってる人はいませんでしたか」

「ミヨシ様、チュウゼンジ様の力が強かったようです」

「なるほど……。ありがとうございます」


 過ぎた力は身を滅ぼすという。

 自分の身を滅ぼす分には別に構わない。いや構わなくはないけど、どうにもできないし、巻き込まれてポックリ逝きましたなんてシャレにならない。だから極力拘わらないほうがいいだろう。

 まあ、力の強い人に限らず、クラスメイト全員に言えることかもしれないが。


「それから、各自部屋と専属のメイドが与えられました。その後は自由行動です」

「自由行動って……多分それ私の所為ですよね……なんかすいません」

 多分、他にやりたいことや説明したいこともあっただろう。然し俺が倒れてしまったせいで、出来なくなってしまったのだ。大変、申し訳ない……。


 俺が謝るとアンジェラさんは意外そうな顔をした後、クスリと笑った。

「いえ、すいません。

 自由行動はカシオカ様の所為ではないと思いますよ?この世界に来たばかりで取り乱している方も少なくなかったですから、落ち着く為にも勇者様全員に必要な時間だったかと。あまり急いでもいいことはありませんし」


 それは……。言われてみれば確かにそうだ。

 今まで感じていた罪悪感が嘘のようになくなっていく。

 うーん。このメイド、出来るメイドだ。手のひらで転がされてる気がしなくもないけど。

 なんとなくもやもやした気分の中、ふと気になったことを口に出してみる。


「影井はどうなったんですか?」

 一人職業がないと称されてしまった彼ははっきり言って足手まといだろう。そんな人間を世話をする余裕がこの国にあるかは不明だ。流石に殺されはしないと思うが、ひどい扱いをされている可能性がなくもない。


「他の皆様と同じように、部屋とメイドがついております」


 良かった。一人だけひどい扱いを受けているわけではなさそうだ。そもそも彼は能力がない訳じゃないし、これで扱いが変わっていたら可哀想所の話ではない。

 アンジェラさんは俺の顔をじっと見つめている。

 何かを考えているようだ。何を考えているのだろう?

 そう疑問に思うと、文字が現れた。


 〝国王陛下はカゲイ様をあまりよく思っていなかったようだけど、これ言った方がいいのかしら?カシオカ様の様子を見るにカゲイ様と親しいように見えるし……ああ、でも無暗にこちらに不信感を与えるのもよくないわ。やっぱり黙っておいた方がいいかしら……?別に言わなくても不審に思われないでしょうし……〟


 やはり、王様は影井のことをよく思ってなかったらしい。それでも他の勇者達と同じ扱いになった理由は何となく想像できる。先生をはじめとした勇者たちが反対したのだろう。

 もしかしたら、ルイーザ姫も反対したのかもしれない。


 よくよく考えてみると、影井を雑に扱うのは得策とは言えない。

 役に立たない人間はひどい扱いをされてしまうという前例を作ってしまうと、他の非戦闘系職業を持った人間に〝次は自分かもしれない〟という不安を与えてしまう。戦闘力の高い勇者も友人がそういう扱いをされる可能性だってある訳だ。こうなってくると勇者たちの反乱とか脱走とかを誘発してしまうかもしれない。

 この国だって力を持っている勇者達に逃げられたり、敵対されたくはないだろうし、勇者から不信感は持たれたくない筈だ。

 だからこそ、影井は差別されずに済んだのだろう。


「これで私からの説明は終わりでございます。他に質問はありますか?」

「いえ、特には……」

「では、次はカシオカ様の能力検査を行いたいと思います」

 ああ、そういえばまだ俺の検査だけは終わっていないのか、と移動すべく立ち上がる。


「あ、いえ、カシオカ様が移動する必要はありませんよ。鑑定石を持ってきましたので」

 アンジェラさんはワゴンの下の段から、布に包まれた石を取り出した。

 まるで三分クッキングですでに完成したものを取り出すかのような手軽さだ。


「それ、持ち出していいんですか……?」

 確か国宝とか言って王様も大事そうにしていた筈だが……。これで割れてしまったらどうするつもりなんだろう?

「大丈夫ですよ。国王陛下からは許可を戴いておりますので」

 そうなのか。なら、大丈夫。大丈夫なのか……?

 まあ、割らなければいい話なのだ。細心の注意を払おう。


「では鑑定石に触れてください」


 俺は透明な石に触れようとして、動きを止める。

 もしも、仮に、俺の能力が覗き魔のようなものだった、とバレたら……?

 その時は、王様に相談してクラスメイトには秘密にしてもらう……とかできないだろうか?いやそもそも王様にばれた時点で面倒なことになる気がしてきた。ここでアンジェラさんの口を封じる必要がある……?

 いやいや何を考えているんだ俺は。

 多分大丈夫。この鑑定石のポンコツさを信じよう。

 大きく息を吸って、石に触れる。


 すると、石は白く輝いた。ただし、石全体が輝いたわけではなく、小さな光が所々灯っているだけで、全体としては白く眩い輝きというよりは、透明と言った方がいいのかもしれない。

 アンジェラさんは、じっとその光を見つめている。

 俺の喉がごくりと音を鳴らした。


「やはり、探知系の職業をお持ちのようですね。総合戦闘力は勇者様の中では平均的なようです。空間魔法に適性があるようです」


 その言葉を聞いてほっと息を吐く。

 やはりポンコツはポンコツだった。これなら何とか誤魔化せそうである。

 それよりも……気になる単語が聞こえた。

「空間魔法……ですか?」

 ミューさんからは空間魔法が得意、なんてことは言われなかったが……。ミューさんの伝え忘れなのか、この鑑定石がおかしいのか。どちらなのかは使ってみれば分かる……か。


 空間魔法……なんだか強そうな響きである。

 無限に物を収納……とか、空間を切断する……とか、が出来るのだろうか?

 少し期待してしまう。

 まあ、どうせいくら強くても、世界に干渉できないとか言う能力の所為で、なにも出来ないんだろうけど。


「はい、私もよくは知らないのですが、確か……空間を広げたり、縮めたり出来るらしいですよ」

 空間を広げる……?いまいちピンとこない。

 仮に、胃の中の空間を広げたとすると、無限にものが食べられるようになるのか……?それとも胃が破裂するのか……?

 いや、まあ、そんなことはしないけどね。後者はグロすぎて攻撃手段としても極力使いたくはないし、前者だとしても使用するメリットがあるとは思えない。使える場面なんて大食い選手権ぐらいだろ。


 鑑定石を片づけていたアンジェラさんはすっと立ち上がる。

「では、私はこれからカシオカ様の結果を報告しに行かなくてはなりませんので、暫く離席させていただきます。何かありましたら、このベルを鳴らしてください。すぐに駆けつけますので。くれぐれも無茶はなさいませんように」


 そういって、机の上にハンドベルを置き、俺に背を向けた。

「あの」

 そう声を掛けると、アンジェラさんは振り返る。

 鑑定石の話のとき、俺にはある映像が見えた。

 王様に〝鑑定石を持ち出させてください、それが能力検査は明日に……〟と訴えていた。


 別に俺は移動しても全然構わなかったんだけど。

 何故彼女がそこまでここに来たばかりの異世界人の心配をするのか分からないけど。

 そんなことはどうでもいい。大事なのは、彼女が俺の為に動いてくれていたということだ。

 本当は俺の為なんかじゃなくて他に狙いがあったのかもしれないけど。

 でも、嬉しかった。だから……。

「いろいろとありがとうございました」

 俺は頭を下げた。


 アンジェラさんは驚いたような顔をした後、

「いえ、気にしないでください。これが仕事ですから」

 そう言って、微笑んだ。


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