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見知らぬ天井

「知らない、天井だ……」

「お目覚めですか?」


 目に映るは、見知らぬ天井……ではない。

 女の人の顔面、どアップだ。深い紫の瞳がじっとこちらを見ている。すうっと通った鼻筋に、真っ赤な唇。

 絶世の美女というわけではない。が、ちょこんと、されど上品な花を咲かせる白い梅。その梅を思わせるような女性である。


 彼女は黒いシンプルなドレスの上に真っ白なエプロンをしていた。頭に白いふりふりのカチューシャ?こそつけてなかったものの、その服装は本格的な方のメイドそっくりだ。

 いや、〝ようだ〟ではなくメイドなのか。

 俺の世話を任命されたらしい彼女……アンジェラさんはタオルを持ったまま心配そうにこちらを見ている。

 タオルを俺の額に置こうとしたら、俺の目が覚めた、という状況らしい。


 とりあえず、体を起こそうと腕に力を入れようとした。しかし、上手く力が入らない。結果、中途半端に起き上がった体重を支えきれずにベットに落下……しそうだったところをアンジェラさんに支えてもらう。


「無理をなさらないでください」

 決して軽くはないだろう俺の体を危なげなく持ち上げ、ゆっくりとベットに下した。体に似合わずかなりの力持ちのようだ。家事は結構筋肉を使うと言うし、下手すると俺よりも筋肉があるのかもしれない。

 確かめようと思えば比べられそうだが、そんなことはしない。

 もしも俺の方が筋力が弱かったら、情けなく思うだろう。逆に彼女より強かったからといってまあそうだろうなと思うぐらい。つまりハイリスク、ノーリターンなのだ。

 好奇心からそんな賭けはしたくない。

 間違って数値が出てくる、なんてことがないように、必要ないぞと念じておく。

 この能力、ふと疑問に思っただけで答えがでてくる。それが便利な時ももちろんあるんだけども、今回はよろしくない。

 文章だと読まないと分からないけど、数値だと一瞬見えただけで内容が把握できてしまうから特に気を付ける必要があるわけだ。


 それにしても、ぽふり、と体が沈み込むような感覚が心地よい。

 正直、我が家のベッドよりもいいベッドなんじゃないか?これ。全員の部屋のベッドがこんな感じなんだろうか?

 だとすると、かなりの高待遇だ。


「すいません。ありがとうございます。ここは……?」

 真上の天井を見つづけるのも失礼なので首を精一杯曲げ彼女の方を見る。この体勢、結構きつい。


「その質問には、カシオカ様が倒れた後の事を説明する時に答えさせていただきます。

 その前に……自己紹介を。今回、カシオカ様のお世話をさせて頂くことになりました。アンジェラ・レグロッタリエと申します」

「あ、ああ。よろしくお願いします。私は、柏岡孝輔です」

 名前を呼ばれたにも拘らず、名乗られとっさに名乗りかえしてしまう。これが日本人のサガというやつか?


「このままでは話しにくそうなので、ベッドを傾けたいと思うのですが……。よろしいでしょうか?」

 こちらの様子を見て察してくれたらしい。出来るメイドさんだ。

 ありがたい申し出だったので、頷いておく。


 アンジェラさんは、こちらに近寄り、ベッドの頭上部分に設置されている板に手を翳した。

 上を睨むようにしてみる……必要はない。

 視界の一部に、上からこの部屋を見下ろすような形の視界が現れたのだ。

 テレビっぽい。というかこれ、千里眼のようなことまで出来るのか。

 ますます覗き魔度が増した。


 アンジェラさんの手は淡い紫色を放っている。

 ……なんだあれ。

 魔力、と出てくるが、だろうな!という感想しか思い浮かばない。

 まあ、魔法が存在することは認識していたが、実際に見せられると混乱する。

 どういう原理であんな光が体から発生するんだ?

 文字がずらずらと出てきたが、読むのに時間かかりそうだから、今は読まない。


 そういえば、俺の魔力量は大丈夫なのかと心配になる。

 すると、左端の方にゲージが現れた。

 そのゲージはほんの少しずつだが減っているのがわかる。これがゼロになれば先ほどのように倒れてしまう……ということらしい。

 千里眼?はそんなに魔力は使わないらしい。情報を見るのに関しては魔力は使わないようだ。これなら当分は大丈夫だろう。また倒れたくはないからその点は気を付けなければならないが。


「では動かしますね」

 ギギギ……。

 油のさしていない機械を動かした時のような音を上げながら、ゆっくりとベットの角度が変わる。まるで病院のベッドのようだ。

 丁度いい角度になるとベッドは停止した。

 このベッドは魔力を注ぐと、角度を変えることが出来るようだ。

 騎士やら姫やらが出てきたから、てっきり中世ぐらいの発展度合なのかと思っていたが、そうでもないらしい。


「凄い……ですね」

「勇者様たちを泊める部屋ですからね。最新鋭、最高級の設備が備えられているのですよ」

 アンジェラさんは誇らしげにふっと微笑む。


「飲み物を用意いたしましょうか?」

 聞かれて気が付く。喉がカラカラだ。

「そうですね、お願いします」


 どこからか運んできたのか、ワゴンの傍まで行くアンジェラさん。

 そのワゴンの上にはティーカップやらティーポットやらお洒落なものが並んでいた。

 本格的だ。流石中世。


「コーヒーとお茶どちらがよろしいでしょうか?」

 飲み物の名称は元の世界と同じなのか。

 いや、翻訳機能が勝手に似たような単語を見つけ出してくれただけかもしれない。

 お茶って紅茶のことだよな……?まさか緑茶が出てくるとは思えない。

 うーん。


「コーヒーでお願いします」

 日和った。

 いやだって、変な味のお茶が出てきたら嫌だもの。

 その点コーヒーなら、きっとそんなに変わらないだろう。

 たまたま俺たちの世界にあるコーヒーと同じ名前だったが、実はまったく違うものだった。ということでなければ。

 その可能性もなくはないが、まあ、そうだったら運が悪かったと思うしかない。


 アンジェラさんは、台のようなものの上に、口が細長くなっているヤカンのようなものを置く。

 台のようなものに手を触れると、またもや魔力を込めた。ぼうっと火がつく。

 あの台みたいなのはコンロのような役割を果たすらしい。

 それから、あれなんて言うんだろう、ええと、ドリッパー?に紙を敷き、コーヒーの粉をスプーンで入れ始めた。

 テレビで少しだけ見た事がある。

 インスタントじゃない本格的なコーヒーの入れ方に、似てる……気がする。

 粉の色はピンクとかオレンジとかではなく、普通に焦げ茶っぽい。

 やはり、この世界のコーヒーも元の世界のコーヒーも同じものなんじゃないか?


 もう少し観察してみる。

 ヤカン?を持ち上げ、ドリッパー?にお湯を注ぎはじめた。回しながら入れる様は……おお……!これよくテレビとかで見るやつだ。


「砂糖とミルクはお付けしますか?」

「いえ、なしでお願いします」

 畏まりました。とカップに注がれる液体は、予想通り真っ黒だ。

 いや、まだ、まだ油断してはならない。油断した時に、


「どうぞ」

 手渡した彼女の表情は自信に溢れているように見える。

 どうやら俺の挙動不審な様子を見て、コーヒーが苦手だけど、大人ぶってコーヒーを飲もうとしている。と受け取ってしまったらしい。

 然し、そんなコーヒーが苦手(実際は苦手ではない)な俺でも私のコーヒーなら飲めるぞ、と彼女は思っているようだ。

 別にコーヒー自体は特に苦手ではない。まあ好きでもないから徹夜する時に飲む程度なんだけど、大人ぶって飲めないものを飲もうとしている、と思われるのは極めて心外だ。心外だけども説明するのは面倒くさいので放置。


 それよりも、匂いは……?

 別に異臭がする、とかそんなことはない。寧ろいい香りだ。

 ゴクリ、と唾を飲み込んだ後、手に持ったカップを傾けた。


 ……美味しい。

 これは良い意味でいつも飲んでるコーヒーとは別物だ。思ったよりも苦味が少なく、仄かな甘みが口のなかに広がる。コーヒーがフルーティとかいう奴は舌がおかしいのかと思っていたが、そんなことは無かった。なるほど、確かにフルーティだ。


 アンジェラは俺が飲む様子を見て、満足そうに頷くと口を開いた。


「それでは、カシオカ様が倒られた後のことを説明させていただきます」


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