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能力公表会

 そう声を上げたのは、中禅寺さん。切れ長な目は王様をとらえていた。王族相手にも、物怖じしないのは流石である。


「なにかね?何でも言うがよい」

 睨んでいるように見える冷たい目にも動じることはない。こちらも流石王様である。


「帰還方法はあるのかしら?」

「……」


 ピシリと空気が固まった気がした。聞いてはいけないことを聞いてしまったような……。

 然し俺たちにとって避けて通れない話題でもある。聞きにくいが、聞かななくてはならないことを聞ける。

 流石、中禅寺さんだ。流石としか言いようがない。

 一部の女子がお姉様呼びしているという噂があるのも頷ける。


「ないことはないのだが……」

 重い口を漸く開くも、内容は要領を得ない。


「あーなるほど。これは帰る方法がない、もしくは帰るのはとんでもなく難しいパターンですね!!」


 やや食い気味で興奮している様子の山田。この雰囲気で口を挟めるとは、今までとは別の意味で流石である。

 何かと偏見の目で見られやすいのがオタクという人種だ。特に女子からの視線は厳しい。だからこそオタクを表に出すには、メンタルが強くないとやっていけないのかもしれない。

 いや、多分関係ないと思うけど。


「な、何故わかったのか……。

 そうじゃ。おぬしらが帰還するには大量の魔力が必要といわれている」

「言われているというのは?」

「ふむ。というのも、帰還の魔法ははるか昔に失われてしまった技術。その詳しい方法は今では解明されていないのじゃ……」


 ふうん。と腕を組む中禅寺さん。

 細められた目は果たして何を考えているのか。

 知ろうと思えば分かるんだけどもあえて謎のままにしておく。

 ないと思うけど、もし、万が一にも、変なことを考えていたら、なんか嫌じゃん?

 知らないままの方がいいことって世の中にはあるんだよ。


 クラスメイト達の間には、白いシーツに一滴の黒い絵の具を垂らしたような、僅かな不安が漂っていた。

 帰ることが出来ないわけではない。

 しかし、方法はわからない。

 絶望するわけでもなく、かといって安心できるわけでもない。

 何とも反応に困る状況だった。


 俺の能力でも分からないらしい。

 世界を超える、ということに少しでも抵触すると、駄目なようだ。

 そもそも、分かったからと言って、その方法を皆に伝えるのは良いことなのか?下手すると全員世界に関与出来なくなり、一生帰れなくなる……とか、あるのかもしれない。

 かと言って1人だけ分かっても大量の魔力を使うらしいし、どう帰るのか、という問題がある。

 その辺は、今後調べていく必要があるのかもしれないなあ。俺はどういうルールに縛られているのか、と。

 うーん。面倒くさい。誰かが帰る方法見つけてくれた方が簡単な気がする。


「そう悲観せずとも良い。この城にいる限りはお主らのことを無下に扱いはしないからのう。帰還の魔法を探す旅に出るのも良いじゃろう。儂らも全力でバックアップしよう。然しそれは力をつけてからじゃ。今はそれよりも……」


 王様は生徒たちを現実に引き戻すかのように、パンパンと手を鳴らした。

 その合図とともに、周りにいた騎士の一人が何かを持ってくる。

 紫色の布を丁寧に剥がす。

 現れたのは透明な水晶だった。

 騎士は水晶をクッションを挟んで、机の上に置く。


「この水晶は、触れたものの能力を知ることが出来る、鑑定石というものじゃ。これから勇者様方にはこれで能力を見てもらいたいと思う」


 王様は水晶玉を見た。その視線はどこか誇らしげだ。

 どうもあの鑑定石とやら、なかなかの代物らしい。

 値段を見ると、ゼロが羅列している。

 この国の通貨の価値は分からないが、余程ものすごいインフレでも起きてない限りとても高価なものなのだろう。

 布に包まれて、大事そうに扱われていたし。


「あの……」

 神谷がおずおずと手を上げる。


「なにかね?この鑑定石の素晴らしさに心でも打たれたかの?」


 冗談めいた口調ではあるが、顔が冗談ではない。

 対する神谷は、眉を顰め、困ったような、申し訳ないような表情へと変化していく。

 鑑定石の正確な価値は分からないが、王様の態度でなんとなく察したのだろう。


「大変言いにくいのですが……。俺達、ここに来る前に、自分の能力を教えてもらったので……それは必要ないかな……と……」

 神谷の声が空しく部屋に響いた。


 ・


 結果的にいうなれば、鑑定石を用いた能力公表会は実施されることとなった。

 訓練を行う際に個々の能力が把握できないと効率が悪い……だけでなく、最悪の場合命を落とす危険があるからだそうだ。

 自己申告でも問題はなさそうだがそうもいかないようで……。

 勇者を疑うのもどうかと思うが、嘘を吐く可能性があるため確実な証拠が欲しいらしい。


 ……というのは建前だ。

 反論をする王様の口調は畳み掛けるようだった。

 周りの騎士たちは血走った眼で合いの手を入れていた。

 鑑定石を無価値にはしたくなかったのだろう。

 我が王家の秘宝の内の一つをやっと、使える時が来たというのに……とかなんとか書かれていたし。


 一人一人、みんなの前で鑑定石に触れていく。

 順番は勿論出席番号順だ。出席番号順って便利だな、とつくづく思う。

 便利だからこそ、多用されるわけで……。

 そうなると、毎回一番初めに何かをすることになる相原さんは凄いと思う。例え、指示されていなかったとしても一番に動く。つまり察知する能力に優れてないと一番は務まらないのだ。

 逆か?

 出席番号一番になれば、察知する能力が自ずと身につくのだ。……多分。


「おお!貴方の職業は動物や魔物に関係するものですね。弱体化魔法が得意なようです。総合戦闘力もかなり高い!!」


 嬉々として語るは王様の周りにいた騎士のうちの一人。相原さんの触った水晶は淡いオレンジになったり透明になったり、と忙しそうだ。

 その光をぱっと見だけではどんな能力を持っているか分からない。読み取るための知識が必要なようだ。

 というか、髙い金を出して、知識をつけ、やっと得られた情報にしてはしょぼい気がするのは俺の気のせいか?

 正確な職業がわからない。まあ、テイムする=動物に弱体化魔法をかけると言えなくはないが。微妙だ。

 総合戦闘力とやらも何を基準に計っているのか。本当に微妙だ。


 まあ、俺は自分の能力が、完全にこの石の上位互換である所為で、幻滅の度合いが大きいのかもしれないが……。


 いや、そんなことはないようだ。

「一人目からこれほどまでの力を持っているとは……。今後も期待されますな……」

 などと興奮している騎士たちを横目に、冷めた表情をしている相原さんの姿が映った。


 それもそうか。

 ミューさんの分かりやすく、要点を得た説明を聞いた後ではどうしても鑑定石はしょぼく見えてしまうだろう。

 あ、俺の場合はまた別だ。とても分かりにくい説明だったな。


「では次の方、どうぞ」

 声を掛けた騎士は何らかのメモを取っている。

 これを機に、皆の能力を覚える……、何てことはしない。

 それよりも精密な情報を何時でも覗ける能力を俺はもっている。他の生徒は多少興味があるようだが、俺にとってはどうでもいい。

 ただこのしょぼさには助かったかもしれない。


 俺の〝眼〟の能力が知られてしまうと気持ち悪がられてしまう可能性がある。

 なんでも見えてしまうということは、俺が見ようとしている、していないに関係なく、見られたくないことが見られてしまうかもしれない、という懸念が常に纏わりつく。

 ここで重要になるのは普段の行いだ。

 例えばこの能力を持っているのが、神谷や、先生、中禅寺さんなら、〝凄い能力を持っているのねー〟で終わるだろうが、山田なんかが持っていると、〝覗き魔マジキモいんですけど……〟とか言われ虐められるのは目に見えている。

 いや、山田も悪い奴じゃないんだけどね……。うん。例えに出してごめんな。


 俺自身、クラスでどう思われているかは微妙なところだと思う。

 特別好かれているわけでもないが、気持ち悪がられてもいない(と思いたい)ので、受け入れられるか、排斥されるかは分からない。

 分からないが、そんな賭けは出来る限りしたくない。

 俺の能力は出来る限り人に知られないほうがいいのだろう。特に気の強い女子にはばれないようにしなくては。

 上手いこといくかは分からないが、とても精密で正確に力を計る道具よりは希望がある。

 この点、俺にはどうすることも出来ないから、なるようになれ、って感じだがな。

 バレたらバレたで、まあ、なんとかなるだろう……多分。



 そんな感じで大半の結果を聞き流していた俺だが、大きな声に反応し、ついつい耳を傾ける。

「こ、これは……」


 鑑定石を覗き込んでいた騎士は一歩、また一歩と後ずさりをした。

 鑑定石に手を当てているのは影井だ。もうそこまで行ったのか……。次は俺の番だ。こっそりと立ち上がってそろりそろりと移動をする。

 が、待てど暮らせど、一向に俺の番は来ない。騎士が固まったまま動かないのだ。

 何があったのかと鑑定石を見ると、何の光も発していなかった。


「おい、彼の能力はなんじゃ」

 痺れを切らしたらしい王様からは期待が半分。残りの半分は不安が目にとれる。

 ただ、一切光を放っていないということは……。






「ありません」

 やはりそうか。


「なんじゃと……」

「それどころか、ほかの力も一般人と何ら変わりがないようです」

「……鑑定石が壊れている可能性は……?」

「それも極めて低いかと」

「ふむ……」


 王様は今後どう影井を扱うか、決めかねているようだ。

 だがおかしい。ミューさんが言っていたではないか。お詫びに全員に能力を与える、と。彼だけ嫌がらせのように何もなし、というのはミューさんの人柄を知っているだけに、考え難い。

 そう思い、影井のステータスを見てみると……。

 天職は、あった。イレギュラー、というらしい。

 ……イレギュラーって職業なのか?

 日本語だと不規則だとか通常ではない、という意味になるんだろうが……。

 ふむ、何が通常ではないのだろうか?

 ええと、未来を変えるかもしれない素質を持っている、と。

 へー。然し当の本人は未来が見れないんだよな?だというのにどう未来を変えろと言うのか。

 これまた何とも言えない職業だなあ。


 能力……というか、体力やら魔力、筋肉量なんかは低めらしい。

 多分彼の持っているスキル〝大器晩成〟というのが関係しているのだろう。初めのうちは能力が低いが、レベルが上がるにつれて、能力が伸びるんだそうだ。

 というか、職業あるじゃないか。あの鑑定石、やはりパチモンなのではなかろうか?

 再度鑑賞石をよく見る。


 すると今まで見えていた文字が揺れ、消えたかと思うと、ほかの文字が浮かび上がってきた。

 状……。態……:……。

 ここまで読んだところで、頭がくらりとした。立っていられないほどの倦怠感が襲い掛かってくる。

 なんだ、これは。

 その疑問に答えるかのように次々と文字が浮かんでくる。

 どうやら、この〝眼〟を使うのには魔力が必要らしい。魔力を使いすぎると魔力欠乏症になるとかなんとか。


「え?ちょっと、どうしたの……?」

 すぐそばにいる筈の女子生徒の声が遠くにいるように聞こえた。


 どうやら俺は今、その魔力欠乏症になってしまったらしい。

 このスキル、やはり使い勝手が悪い。

 俺が見ようと意識しなければ、何も見えないのだ。

 重要なことは先に教えてくれたっていいじゃないか!

 デメリットにメリットが伴っていない!


 気分の悪さからか、謎のテンションで心の中で叫びながら、俺は意識を手放した。


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