買い物1
まあ、そんなこんなで、数日が経過した。
進歩があったかどうか、の二択で表すなら、なかった。と言わざるを得ない日々だ。
俺に関しては、まあ。
自分のことが、押しが弱い人間ではない、とは、思っているものの、そりゃ、誰に対するか、で態度も変わってくるわけで。友達になったばかりの影井に、『お前、そんなんだから、友達出来ないんだよ』とは、流石に言えない。
それでも、やんわり、『そういうのはやめた方がいいんじゃないかなー』とは伝えている。が、影井が思ったよりも頑固、と言うか、気が利かない、というか、察してくれない人間で、ことごとくスルーされているのが現状だ。
八束は八束で手こずっているようで、特に進展はない。どうも大人しい人種とは相性が悪いらしい。
まあ、相手からしたら、キラキラオーラまとった陽キャイケメンが急に話しかけて来る訳で、そりゃ警戒するよなあ。
まだ、素で話してくれれば、友達になれる可能性もあると思うのだが、あの、例のチャラチャラスタイルで突撃するもんだから、結果は惨敗だ。
あんなの、俺だって友達になりたくない。
それに八束も気付いているんだろうけど、態度を変えないって事は、まあ、他の人に素を出すのが、嫌だから、なんだろうな。
そう考えると、俺と八束が今友達やってるのも、運命的な何かを感じないわけではない。あんまりこういう事を言うのは、好きじゃないけど、奇跡だなあ、とは思う。
目標を難易度マックスの状態で、クリアしなくてはならない。
そんな状態にも拘らず、毎日突撃している八束を見ると、尊敬の念が沸く。……と同時に俺も頑張らねばなあ、という気持ちになる。なるのだが、そうは上手くいかないよなあ。
俺が回りくどく、頑張っても、何の意味もなくて、正面からぶつかってた八束の方が、問題を解決しそうな気がするから、不思議だ。
まあ、そんなことを思っているからと言って、手を抜くことは有り得ないんだけど。
そんな行き詰った状況。
アンジェラさんが、お金を渡してきた。そう、お金だ。
「あの、これは?」
俺は唐突に渡された、袋を掴む。中身がジャラジャラ、と音を立てた。
「お金ですね」
いや、そんなことは分かっている。
「え?なんで……いや、これをどうしろと?」
「この城を出てまっすぐ進むと、城下町があります。そこで使うのがよろしいかと」
ん?いや、だから何なんだ。
全く話が見えない。
「えっと、つまり、お小遣い、とか、そういう話?」
「そうですね」
え。それで終わり?なんか、もうちょっと、説明してくれよ……。聞いたら答えてくれるんだろうけど、如何せん、何をどう聞けばいいのかが、分からない。俺は、助けを求めるように、八束の方を見た。
八束は、作業していた手を止め、ふう、と呆れたように息を吐く。
その態度に若干イラっとしたが、仕方がない。この反応をされることは、予想通りだったが、呆れられてでも、この訳分らん状況を打破したかったのだ。苛つきと言う感情は、必要経費だったと言える。
「つまり、気分転換しろって事だろ」
八束がこちらにやってきて、ヒョイ、と袋を取り上げてきた。
ふむ。成程。
対価を支払った甲斐はあり、なんて言うと大袈裟だが、八束は簡潔にわかりやすく状況を教えてくれた。流石に、これだけ言われれば、何となくわかる。
要は俺が落ち込んでますよー。雰囲気をバンバン放ってて、それを、アンジェラさんが心配した。と。
なんと言うか、しくじった、と言うか、やらかした、と言うか、そんな感情がふと湧いた。
実際そうだろう。周りの人が気にするくらい、落ち込んでるって、情けないじゃん。
別に、他の人がやってる分には、何とも思わない。いや寧ろ、そこまで何かに必死になれるって凄いなあ、と好意的にすらとらえるかもしれない。
ただ、自分がそうなるのは、なんか違う。そりゃ人間だから、落ち込む事くらいはあるだろうけど、それを人に見せるのは、違う、って言うか。
うーん。これもプライドの一種なのかな。
「落ち込むのも、まあ、しゃーないとは思うわ」
黙り込んでしまった俺に何かを感じたのか、八束が言う。
俺はその声に驚いて、パッと、八束の方を見た。
彼はこちらをチラリとも見ず、袋の中の物を取り出した。中から出てきたのは、硬貨だ。細かいところまでは良く見えないが、八束が手を動かすたびに、オレンジの光がキラキラと輝いた。
「そもそも、人の為に何かしよう、ってのが珍しいもんな」
「その言い方だと、俺が血も涙もない人間みたいじゃないか」
「いや、そう言う訳ではない」
硬貨を眺めるのに飽きたのか、地面に置いた。かと思うと、袋を逆さまにして、中身を地面にぶちまける。ってかこいつ、何やってるんだ。これ俺の金じゃないのか?人のを勝手に……。
いや、そもそもこれ、俺の金と言えるのか?だって俺、生産的な事は、何にもしてないぞ?
王から支給された、と言われれば、まあ、納得できるけども、それなら、八束だって貰えるはずじゃないか?




